リリーから荷物が届いた…戦争準備…明石から万が一の為に遺書を書いておけと言われ、俺の手は震えた。
「リリー、いつ頃作戦開始なんだ?」
「四郎、作戦立案と警察庁と打ち合わせ調整が済み次第にやる予定だけど。
人間の組織が絡むと時間が掛かる物なのよ。
早くても数日は猶予は有るわ。」
「リリー、俺達ワイバーンも出せる戦力を出すよ。」
俺が答えて、皆の顔を見回した。
全員が俺の顔を見返して小さく頷いた。
「ありがとう、彩斗助かるわ。
今回奴らの本丸はね今判る範囲まで調べた資料を持って来たわ。
私達は本丸に乗り込むわよ、現場の地形を頭に入れておいてね。
攻撃部署や作戦内容の詳細は判り次第伝えるわ。
あなた達以外で共同作戦の経験がある同盟チームは少ないのよ頼りにしてるね。」
リリーに次いで榊が話した。
「今回ワイバーンには自動火器の供与をする事にしたんだ。
スコルピオなど、うちの直属部隊と共通の装備だ。
使い慣れた武器が良いとは思うけど用心の為に。
あと数十分で荷物が届くよ。
よろしく頼む。」
リリーがため息をついた。
「本当はあなた達がノーマルピストルに習熟してから渡そうと思っていた装備なんだけどね。
後、ピストルにつけるレーザーサイト、ガンライト等も入っているわ。
レーザーサイトは取り付けて調整しても映画の様にレーザーが当たった所に当たる事は特定の距離以外は無いからね。
あまり過信しないで頂戴。
取付と調整マニュアルを入れておいたから喜朗おじなら簡単にできると思うわ。
それと、スコルピオでも使っている防護スーツ、見た目は普通の戦闘服だけど刃物や銃撃に対する抗靭力ははるかに高いわ。
まあ、気休め程度だけど。
あなた達が生き残る様に出来るだけの事はするわ。」
「うむ、助かるなリリー。
ところで奴らの本丸はどのあたりなんだ?」
「四郎、樹海って知ってる?」
「樹海?」
「四郎、富士山のふもとにある自殺の名所だよ。」
「あそこか…」
「そう、他のいくつかの拠点も洗い出したわ。
他の所はオフィス街や倉庫街、人口密集地に有ってね、タイムラグ無しで同時に襲撃する手はずだけど警察がどう付近を怪しまれずに封鎖するか頭を抱えてると思うわ。
まぁ、何か適当な犯罪をでっちあげると思うけどね。
と言う訳で私達も手薄になっていてね、人手が欲しいのよ。
岩井テレサは世界に散っている特別な幾つかの隊を呼ぶとか言ってたけどね。
間に合うかな?」
「…。」
「…。」
「…。」
「あ、言い忘れていたわ。
万が一の用心で作戦期間中、岩井テレサが司と忍に護衛を付けるって。
学校の行き帰りなど奴らの襲撃があるかも知れないと心配していたのよ。
子供は未来への宝と言ってた。
テレサらしいわ、私も同感だけどね。
9月1日の早朝に私か榊が景行のマンションに護衛を連れてくるわ。
奴らも私達同様にこちらに探りを入れているかも知れないから用心に越した事は無いわね。
じゃ、彩斗、出撃する人選は任せるわよ。
大忙しだから他にも行かなきゃ。
皆、じゃね。」
リリー達は風の様に去った。
明石は司と忍に声を掛けた。
「お前達、もう寝なさい。
明日30分で残りの宿題を終わらせるぞ。
そしたら遊び放題だからな。」
司と忍がお休みなさいと言って護衛だってさ!かっこ良いね!と言いながら2階に引き上げた。
俺達は新しいコーヒーを淹れてタバコに火を点けた。
「やれやれ、やはりかなり大事らしいな。」
「何か大きな戦いに巻き込まれた感じがしないでもないけど…これは仕方ないわね~。」
真鈴が呟き、ジンコも頷いた。
なるほど、確かに今の俺達は大国に挟まれた小国のような物だった。
だが、守り守られると言う同盟を組んだからには仕方ない。
そして、岩井テレサの組織と対立する組織では俺たちの価値観は圧倒的に岩井テレサ側なのだ。
人類との共存共栄を目指す岩井テレサとは違う対立する組織に与して悪鬼が人間を支配して生殺与奪の権利を持つ世界にする気はさらさらなかった。
今回襲撃してきた奴らはどういう考えでいるのか判らないが、問答無用で襲撃する武力で物事を解決する奴らとはやはり俺達は相いれない存在だ。
四郎がリリーが持ってきた資料を開き、俺達は覗き込んだ。
衛星写真に写っている樹海の光景が広がっている。
所々にぽつぽつと印があり、粗末なプレハブ小屋があった。
その他に自然の洞窟から入るらしい入り口の場所も示されている。
「ふん、地下で繋がっているらしいな。
どうやって整えたのか、攻めにくい構造だぞ。」
明石が写真を指で弾いた。
「これは、ここだけでも相当な人数が必要だな。
他にも数か所拠点があると言っていたが。」
「喜朗おじ、他の所は建物だと思うから大体は中の見取り図など手に入れてはいるだろうな。
しかし、この本丸は今の所どこかの入り口から中に入って見ないと全貌が見えないと言う事か…。」
「景行、それはかなりの覚悟が必要と言う事かしら?」
ジンコが明石に尋ねた。
明石は暫く黙って写真を見ていた。
「君ら、万が一、これはあくまでも万が一だがな…思いを伝えたい人がいたら遺書を書いておいた方が良いぞ。」
「…。」
「…。」
「…。」
「…。」
「この前話した自分が死を免れない時にどうするかは君ら全員から答えを貰っている。
口外はしないがな。
今から変更したい者がいたら今のうちに言って置いてくれ。」
明石が言ったこの前の事。
死を免れない時に人間として死を迎えるか、悪鬼として蘇るか。
その事を改めて明石が確かめた事、そして万が一と言いつつも遺書を書いておけと言った事。
俺の胸にずしんと響いた。
「景行ならどう作戦を立てる?」
四郎が尋ねると明石はう~んと言って黙り込んだ。
「いかんせん内部の様子が判らんからな催涙ガスなどで燻りだすところを殲滅か…でもそれでは時間が掛かり過ぎるな。
俺なら判っている出入り口付近を見張りで固めて奴らが大量に出てきたらすぐ応援に動ける機動性がある隊を用意しておくな。
そして1つか2つ進入路を限定して中に主力の殲滅部隊を送り込むと言う所かな?」
「確かにあまり多くの所から侵入したら状況把握が難しくなって同士討ちなど混乱が起こる可能性もあるわよね。
私が景行でもそうするかな?」
「おお!ジンコは将の素質があるな!
内部に入り込むところは多くても2つ程度が理想だな。
どうせ中が迷路のようになっていればどんどん勢力を分割してゆかなくてはならなくなるからな。」
「めんどくさいじゃの。
わらわが中心をぶっ潰して残党狩りをすれば良かろうに。」
「うん、確かにはなちゃんのやり方だとこちらも楽だが…やっぱり樹海にでかいクレータが出来たら政府はどう説明するか困るだろうな。」
「そうか、景行が言う通り、今回はかなり大っぴらに作戦を行うと言っても国民に真相がばれると相当やばいからね~。」
真鈴がぼやいている所に、2トントラックがゲートに来ていた。
モニターを見るとあほ兄弟が手を振っている。
俺達が玄関で出迎えるとリリーのスコルピオのあほ兄弟ともう1人、リリーのスマホで見たスコルピオメンバーの覚えがある女性が降りて来た。
「あ~!
奈々パート2!
あれはナナツ―ですぅ!
きゃ~久しぶりぃ~!」
加奈が声を上げて飛び跳ねるとナナツ―と呼んだ女性に駆け寄り2人が笑顔で両手を上げてハイタッチした。
「皆この人が奈々パート2!
加奈はナナツ―と呼んでる人ですぅ!」
「ワイバーンの皆さん初めまして!
ナナツ―こと、奈々パート2です!
あほ兄弟はおっちょこちょいなので私がついて来ました!」
「ひでぇな…。」
「うん、ひでぇな…。」
「あほ兄弟文句言わずに荷物降ろして!」
「へいへい。」
あほ兄弟がトラックから大きな木箱を降ろしてガレージに運んでもらった。
ナナツ―がボードを手に木箱の中身をチェックしていた。
「これで全部です。
これが目録です。
必要になりそうな説明書は付いていますけど、判らないところは問い合わせしてくださいね。
それでは!」
ナナツ―とあほ兄弟は挨拶もそこそこに死霊屋敷を出て行った。
余程忙しいのだろう。
俺達は木箱の中を点検してため息をついた。
主に自動火器、40口径のUMPサブマシンガンとリリーが置いて行ったピストルに取り付けるレーザーサイトなどのアクセサリー、先ほどリリーが言っていた防御力が高い戦闘服等々。
俺達は早速、新しい戦闘服にワイバーンのワッペンと識別用に背中につける布を縫い付けたり、ピストルにつけるアクセサリーを取り付け動作を確認したり、そして、サブマシンガンの試射をしたりした。
地下と言う事もあり、狭い所でも取り回しが良い事と破壊力はまあまあ合格点を付けられてサウンドサプレッサーが付いていると言う事で俺達は40口径のUMPサブマシンガンも装備に加える事になった。
ピストルにレーザーサイトを付けて試射したが、弾道とレーザー光線の射線が違うので狭い範囲でないとレーザーと弾着が一致しないとの事でガンライトを付ける事にした。
なるべく軽くしたいとの事でドットサイトも俺達はつけなかった。
ピストルサブマシンガン以外にも刃物などの武器を持つ俺達はなるべく装備を軽くしたかったし嵩張らせたくなかった。
『加奈・アゼネトレシュ』は地下で発射した際の轟音で耳が聞こえなくなるかもと言う事で持って行くか議論になったが、喜朗おじが脇に抱えて行き、いざとなった時に加奈に渡して射撃する事になった。
「撃つ時は警告するからみんな耳に気を付けてね。」
加奈が言った。
そして地下が主戦場と言う事で木箱に入っていたスタングレネードもいくつか持って行く事にした。
その後俺達は殲滅作戦に参加するワイバーンメンバーの人選をした。
結局圭子さんが作戦開始と共に司と忍を連れて死霊屋敷に待機し、護衛に守ってもらう事にし、残りの俺達が出撃する事になった。
護衛がいるからと圭子さんも行きたがったが今回の作戦の都合上あまり長距離射撃の機会は無いと言う事で圭子さんは死霊屋敷を固める事になった。
もし屋敷に攻撃があったとしても護衛と圭子さんのライフルがあれば司や忍も安全だろうと言う事になった。
圭子さんは木箱の中に一丁入っていたSR-25と言う狙撃ライフルを手に取って撫でていた。
「こいつの使い方に慣れておかなきゃね。」
M16に似た形のライフルには20発の箱型弾倉が付いていた。
オートなので連射に使いやすく300メートル以内なら下手な狙撃銃より精度が高いと言う人もいる。
7・62ミリの大口径の弾丸なので悪鬼にもかなり有効だろう。
死霊屋敷の守りは圭子さんに任せる事で全員一致した。
作業に追われて、いつの間にか東の空が明るくなっていた。
俺達はそれぞれの部屋に戻り仮眠をとる事になった。
部屋に戻った俺は万が一の為に親に対してとユキに対して遺書を書いておいた。
親に対してはごく普通の言葉を並べて適当に書いたが、ユキに対しての遺書を書く時は何度も書き直し、そしてペンを持つ手が少し震えていた。
そして木箱の一番奥に入っていたガスマスクを手に取って説明書を読んだ。
続く




