加奈の雷は凄い…死霊屋敷への移転の準備は進む…そして、紛争の、いや戦争の波が近づいてきた。
「君ら、見たかあれ…ただ木の幹がへし折れたのとは訳が違うぞ。」
物凄い視力を持つ四郎が呟いた。
「うん、俺も見たぞ。
ただ単に木の幹を弾が貫通して木が重さを支えきれずに倒れたのではないな…。」
「四郎、景行、どういう事?」
真鈴が尋ねると喜朗おじが代わりに答えた。
「みんな、あれはな、弾丸が木を貫いたんじゃない。
弾が当たった部分の木の幹がごっそり吹き飛ばされたんだよ。
そして弾が当たった所から上がほんの一瞬宙に浮いた状態から木の切断面に落ちて倒れたんだ。」
俺達は『加奈・アゼネトレシュ』の威力に呆然とした。
「ひゃ~!
リリーが練習用に使ったエレファントガンより少し重く作ってくれたから反動が逃がしやすいですぅ!
大木さん、ごめんなさい!ありがとう!」
加奈が倒れた大木に頭を下げながら嬉しそうに言った。
「でも、それ…本当に凄いわねぇ…私も練習すれば撃てるかしら。」
「圭子さん、止めておいた方が良いですよ~!
加奈は慣れるまで練習中に3回も肩を外しましたですよ~!」
加奈の負けん気、不屈の根性には恐れ入った。
「でも、これであのアイツも一撃で殺せると思いますぅ~!
本当はもっと苦しめて殺してやりたいですけど~!」
笑顔で加奈が言った。
内緒で加奈の事を聞いた俺達はきっと加奈の家族を殺した悪鬼の事を言っているのだろうなと思った。
「もう一回、後3発撃って良いですか?」
「ああ、良いよ。」
「じゃあ、大木さんが可哀想だからあの大きな岩に撃ちますぅ!」
加奈が150メートルくらいのところにある草原から突き出ている大きな岩を指差した。
そしてポケットから大きなエレファントガンの弾を2つ出して左手の指を大きく開いて指の間に挟み込んだ。
ダブルバレルのエレファントガンの中にはまだ1発の弾丸が残っている。
「みんな耳を塞いでいてくださいね~!
続けて3発撃ちます~!
岩さんごめんなさい!」
加奈が1発大きな岩に撃ち込んだ。
岩の先端、人の頭以上の大きさの部分が消し飛んだ。
奇妙な舞いを踊って反動を逃がした加奈がラッチを指で弾いてエレファントガンの銃身を折り、空薬きょうがはじき出されるのとほぼ同時に左手の弾を2発込めて銃身を元に戻すと今度は2発立て続けに撃った。
岩の上半分が吹き飛ばされて宙に消えた。
「おお!凄い!」
「加奈凄い!」
俺達が口々に言うと、銃身を折って空薬きょうをはじき出した『加奈・アゼネトレシュ』を安全の為に2つ折りの状態で加奈が肩に担いだ。
「このライフルは2発しか入らないから素早く装弾するのも練習しました!」
「加奈、リリーが言っていたアーマーピアシングと炸裂弾を組み合わせた弾の威力はどうなんだろうな?」
明石が尋ねると加奈が笑顔でポケットに手を入れて先端が紅い弾丸を一つ取り出した。
「えへへ!
加奈も試したくて1発持って来ましたよ~!
これ、撃っても良いですか~?」
「おお!見たい見たい!」
「大物で厄介な奴じゃないともったいないと言っていた弾の威力を見てみたいな!」
「じゃ!もう1発撃ちますよ~。」
加奈が弾を装弾すると上半分が消し飛んだ大岩に照準を合わせた。
まだ、牛くらいの大きさは残っている。
物凄い轟音。
思わず目をつぶった俺が再び目を開けると、大岩が無くなっていた。
「え…あの岩は?」
俺が呟くと真鈴もジンコも圭子さんも司も忍も目をつぶってしまったらしく、大岩の辺りを見て首をかしげていた。
「もったいないな、君達見なかったのか?」
「うむ、あれは見ものだったな。」
「固い弾頭で亀裂が入って内部に侵入した所で所に後部が炸裂か…凄いな…。」
四郎と明石と喜朗おじが興奮した口調で話していた。
「加奈もこれほど威力があるとは思わなかったですぅ~。
あの大岩は跡形もなく吹き飛びました~。」
銃身を折って空薬きょうを排出して折れたままのエレファントガンを担いだ加奈が言った。
その後、俺達は加奈が標的にした大岩と大木に向かってハイキングを再開した。
確かに大岩があった所を中心に岩の破片が散乱していたし、折れた、いや、幹が吹き飛んだ大木の跡を見て『加奈・アゼネトレシュ』の威力を再確認した。
「これは加奈と圭子があの鐘楼に居れば近づく悪鬼は恐ろしい目に遭うな。
俺は圭子に脳みそを吹き飛ばされるのも、加奈のあれに狙われて体を吹き飛ばされて跡形もなくなるのも御免だな。」
明石が呟いて俺達は頷いて同意の意を示した。
その後俺達はハイキングを続けながら、『ひだまり』の移転先候補の店に出かける事と、不規則に動く標的造りの材料の買い込み、そして、喜朗おじが考えている新兵器の製作材料の買い出しをする事に決めて屋敷に戻った。
今日は8月25日。
『ひだまり』はこのまま閉めておくわけにも行かないし司や忍の学校も始まるので9月1日に営業再開する事に決め、明石夫婦たちは8月31日まで死霊屋敷に滞在する事にした。
敷地内に明石家族と喜朗と加奈の家を建てる事に決めた。
勿論それぞれの家は防備を固めて小要塞化して互いに援護できる配置に建てる事となった。
明石達はそれぞれの家を自分達の貯金で建てると言ったが、俺達は四郎の金貨の袋をもう一つ処分して、明石と喜朗おじや加奈の家を建て、新しい『ひだまり』を開店させるための資金に充てる事に決めた。
そしてプール。
やはり作る事にして冬でも泳げるようにガラスとアクリルを組み合わせた材質で外の風景も見える温室のような造りにすることも決まった。
水泳の練習も出来るように25メートルプールにして、プールに繋がる所に温室の菜園を作る事も決まり、圭子さんや司、忍が大喜びで踊り狂った。
その喜びは俺達にも伝染して暖炉の間で皆がはしゃいで踊り狂い歌った。
何も知らない人が見たら集団発狂しているような騒ぎだったが俺は全然構わなかった。
ふと気が付くと屋敷にいる死霊達も騒ぎに加わって歌い踊っていた。
四郎と眼が合うと四郎は苦笑いを浮かべておれにウィンクした。
なるほど、かっこ良いウィンクってああするんだ。
こんど四郎に習おうと俺は思った。
その後数日は忙しかった。
司と忍は圭子さんとはなちゃんに監視されて宿題をこなし、温室を待ちきれない圭子さん達が屋敷のそばに畑を作り、俺達は四郎の金貨の処分の手配を岩井テレサに頼み、新しい家の建築準備と新しい『ひだまり』の移転先の店の契約と開店準備の改装の手配。そして喜朗おじは持て余している大量の手榴弾と擲弾を使った新兵器の開発と不規則に動く標的の試作などに忙殺されていた。
勿論その間俺達はトレーニングを欠かさず行い、ガレージ地下で射撃練習も入念に行った。
8月29日の夜。
夜のトレーニングを終えた暖炉の間で寛いでいる俺達。
明日の夜は死霊屋敷の最終日と言う事でキャンプファイヤーを焚いてパーティーをすることで話が弾んでいた時に客が来た。
大型バイクに乗ったリリーと榊、そして護衛の二人のライダーが死霊屋敷に来た。
「皆、奴らの本丸を突き止めたわ。
その他の数か所の拠点もね。
近いうちに殲滅作戦をやるわよ。
今作戦立案中なの。
これは世間には絶対に漏らせないから警察の方でも全面協力する事になったわ。
あなた達ワイバーンはスコルピオの指揮下で出来たら全力出動、全員で殲滅作戦に参加して欲しいんだけど。」
暖炉の間に入ってきたリリーがヘルメットを脱ぐのももどかしい様子で言った。
続く




