オワタ俺を皆が慰め励ましてくれた、こんな事は生まれて初めてだ…そしてあほ兄弟の戦闘レベルの凄さに俺達人間メンバーは絶句した。
真鈴達は床でのたうち回りながら笑い転げ、階段からは四郎達が降りてくる足音が聞こえた。
そして笑い転げる真鈴達と床に両膝をついて両手で顔を覆っている俺を見てしばし躊躇した後で俺に足音が近づいてきた。
「彩斗、いや、ワイバーンリーダー彩斗、彩斗警視正。
われ達ははなちゃんからすべて聞いてしまった。
お前にも色々と…プッ!…辛い過去があったのだな。
しかしわれ達は最早家族以上、いや、共に死線を潜り抜けた家族以上の存在だ。
だから…鯨女に顔面を鷲…プッ!鷲掴みにされた事などわれ達は気にせんよ。」
四郎が所々吹き出しながらも俺の肩に手を掛けて優しく言った。
笑いの発作が収まった真鈴も俺の肩に手を掛けた。
「そうだよリーダー彩斗警視正。
ごめんね、私達、彩斗には内緒にしようとするプレッシャーで笑いが出そうになって余計ツボにはまっちゃっただけなのよ。
あなたは過去に鯨女に顔面を鷲掴みにされてキスを拒否されても…ププッ!今は私達の立派なリーダーよ。」
加奈もやって来て俺に声を掛けた。
「彩斗リーダー、加奈は今度こそ絶対に『みーちゃん』のユキちゃんには秘密にしますぅ!
この事は…顔面鷲掴みの事は…ワイバーン全体の秘密ですぅ!
…プッ!」
明石の声も聞こえた。
「そうだよ彩斗リーダー、過去に何があっても…お前がまだ10回野郎でなくとも鯨女顔面鷲掴みキス拒否られ野郎でもプッ…そんな事は俺達の活動に一切の障害にはならないんだ。
お前はかけがえのない俺達のリーダーなんだよ。
気をしっかり持て。」
「そうだよ!そもそも彩斗がいなければこのチームは出来なかったんだから!」
「今でも彩斗君は私達の立派なリーダーだよ!」
「元気出して!ワイバーンリーダー彩斗警視正!」
「俺達は家族以上だぞ!
大丈夫だ!」
「わらわは言ってしまったが、変に秘密にしておくと皆にばれた時に不都合があると思ったじゃの!
彩斗リ―ダー!頑張るじゃの!」
皆が俺の事を心配して口々に慰め、励ましてくれた。
これは俺今までの経験で初めての事だった。
小学校の頃いたずら小僧共に掴まりパンツを降ろされておちんちんを箸でつままれて引っ張られてマジックでらせん状のいたずら書きをされてお尻のほっぺにマジックでバカボンのほっぺの様なぐるぐる線のいたずら書きをされておでこに『肉』とマジックで書かれてお尻の穴に花火の持ち手を差し込まれて火を点けられてケツから火花を吹き出しながら足に絡みついたズボンとパンツを引きずりながら悲鳴を上げて校庭を走り回ったあの時でさえ、幸いやけどはしなかったが火花を浴びたパンツとズボンに大きな穴が開いたが、その時、仲が良かった友達も他のクラスメートも俺を遠巻きにして眺めていただけで、その後誰も俺を慰めたりしてくれなかった。
ただ無視しただけだった。
あの頃に比べれば今の俺はなんて恵まれているんだろう。
俺の目からは先ほどの絶望と違う種類の涙が溢れた。
四郎がハンカチで俺の涙を拭いてくれて立たせてくれた。
「彩斗、もう泣くな。
もはやここでお前を笑う者など1人もおらんぞ。
われらワイバーンは一蓮托生のチームでお前はその立派なリーダーなのだからな。」
「うん、判ったよ四郎、みんなも心配してくれてありがとう。
おれ、色々恥ずかしい事が有ったけど…また頑張るよ。
だって今の俺にはこんな良い仲間がいるんだから。」
俺の言葉に皆がほっとした雰囲気が流れた。
「なんて良いチームなんだろうね!
小次郎小三郎、彩斗リーダーの…プッ!鯨女顔面鷲掴みキス拒否られ事件に関しては他言厳禁だぞ!」
「ええ~!凄い面白いネタに出来そうなんですが…。」
「しかもいい話の落ちが付いて笑いあり感動ありで…。」
リリーがぎょろりと目を剝いて小次郎小三郎を睨んだ。
「話したら地獄特訓2ラウンドだよ。」
「ひぃ!すみません絶対話しません!」
「必ず他言無用に!」
「よし!
さぁ、これで問題は片付いてワイバーンの結束も一層固くなったと言う事で射撃練習を始めましょう。」
そして俺達は45口径の大型ピストルの射撃練習を開始した。
南部小型拳銃での射撃は経験があるがけた違いの反動を押さえて思い通りの場所に弾を当てるのに俺達は苦労した。
イヤーマフ越しにも牛の野太い声の様な轟音が聞こえてくる。
2時間ほどみっちり撃ち込んで、なんとか皆は10メートル先のマンターゲットの心臓の辺りに弾着を集められるようにはなったが、やはり広い範囲の着弾でまだまだだった。
そしてマンターゲットはさらに遠くに地下射撃場ぎりぎり30メートル先に移されると俺達の弾丸はまぁまぁ人間の上半身の胸の辺りに当たるかどうかと言う感じになった。
「ふぅ、初日はこんな物かしら?
そして45口径はね、距離が開くと弾がお辞儀、つまり下の方に着弾するのよ。
だから私達が今もっぱら使っているのは弾道がフラットでお辞儀しにくい40口径か10ミリを使っているのよ。
こっちも何丁か置いて行くわ。
勿論弾と予備のマガジンとホルスターもね。
しっかり練習して頂戴。」
「リリー、弾の威力ならばリボルバーのマグナムなどの方が威力が強いと思うがどうなんだろうか?」
「あら、景行、確かにそうだけどね、確かにマグナムリボルバーは一発当たりの威力は有るんだけど、装弾数が6発だし、大体別物、悪鬼じゃないと中々制御がしにくいのよ。
それに威力があると言っても44マグナムでさえ別物の頭や心臓を粉々に吹き飛ばすのは容易じゃないわ。
せめて私が時々使う454カスールマグナム、これは44マグマムの3倍の威力が有るけどね。
これ位じゃないと実戦的じゃないしこれを実戦で扱える人間はとても限られてくるわ。
四郎が持っているパーカッションリボルバー。
あれは特注で作られていて454カスール並みの物凄い威力が有るけど常人では撃てないでしょ?」
「うむ、確かにあれを人間が撃つのは無理だな。」
「そうなのよ四郎。
私達は人間メンバーも別物、悪鬼に対抗できるようなピストルの扱い方を練習しているのよ。
40口径でも10ミリでも人間よりはるかに耐久力と敏捷性が勝って再生能力を持った相手では完全に殺すのにピストルだけでは頼りないのよね。
私達はショットガンにも着剣装置を付けて銃撃後の銃剣での刺突訓練も行うわよ。
そこで場所を移して私達の人間メンバーがどういう練習をしているのかお見せするわ。
あほ兄弟、出番だよ。」
「はい!」
「はい!」
俺達はガレージの地下を出て、屋敷から少し歩いた土手になっている所にべニアで出来たマンターゲット二つ並んで立てた。
「これで良いかな?
弾着でターゲットが倒れないようにしっかり深く突き刺して置いたわね?」
「はい!いつもの訓練通りです!」
「よし、それでは小次郎と小三郎にデモンストレーションを披露させるわ。
お前ら位置につけ!
はなちゃん、音の壁よろしくね。」
小次郎と小三郎がホルスターにピストルと予備のマガジン、そして刃が分厚いマチェットを腰につけて両手を頭に当て、ターゲットから30メートルの所にターゲットに背を向けて立った。
リリーがアメリカの射撃練習に使用するシューティングタイマーを両手に持った。
小次郎小三郎のにこやかな丸顔から笑顔が消えた。
リリーが手を前に出して左右同時にシューティングタイマーのボタンを押した。
ピッ!と言う音と共に小次郎小三郎が振り向きざまにピストルを抜きターゲットに射撃を始めたが、それはピストルの射撃音と言うよりもマシンガンのフルオート射撃の様な連続音だった。
マンターゲットの胸に空いた穴が見る見る大きくなって行く。
そして全弾打ち尽くしたピストルのマガジンをターゲットから目を離さずに交換してターゲットの方に走りながら今度は別の手にピストルを構えて頭部に向かってまた凄まじい連射を加えながら走って行き、全弾撃ち終わったと同時にマチェットを抜いて一閃、ターゲットの大きな穴が開いた頭部を斬り飛ばし、更に上段でマチェットを振り下ろしてターゲットの上半身を縦に切り裂いた。
四郎や景行、喜朗おじは笑顔で拍手したが、俺達は人間メンバーは声も出なかった。
とても人間業には見えなかった。
「小次郎5・87秒!
小三郎5・90秒!
お前達少し練習さぼっていないか?
動いていない的だぞ!6・5秒以上で落第再教育だからな!」
リリーの檄を聞いて俺達人間メンバーはますます黙ってしまった。
リリーが振り返り、笑顔を浮かべた。
「でもあのあほ兄弟は人間メンバーでは良い成績の方なんだ。
スコルピオでは左右に不規則に動く複数の的で複数同時のメンバーがあの訓練をするんだよ。
勿論同士討ちの危険は有るけど実戦ではそんな状況は当たり前にあるからね。
そのあたり、同士討ちを防ぐ状況判断も含めた訓練をしてるの。」
「…」
「今見た通り、ピストルだけで完結しない訓練をしているのよ。
別物、悪鬼の場合は再生能力が有るから撃たれて倒れて動かなくなっても完全に始末したと考えるのは危険でしょ?
完全に致命的に体を破壊するまでして初めて訓練完了なのよ。」
「うむ、複数の動く的に複数同時訓練と言うのは極めて実戦的だな。」
「そして確実に体を破壊すると言う事も非常に重要だ。」
「確実に仕留めないと後ろからまた襲われる危険があるからな。」
四郎と景行と喜朗おじが深く頷いた。
小次郎小三郎が斬り飛ばされた頭部と上半身をほぼ真っ二つに割られたターゲットを持って歩いてきた。
ターゲット胸の心臓部分と頭部中央には大きな一つ穴が開いていた。
「よし、一つ穴でなっているな。
まぁ合格レベルだぞ。」
「えへへ、響兄いの特訓のおかげですよ。」
小次郎が頭を掻いた。
「響き兄いのレベルにはまだ及びませんけどね。」
小三郎も言い、俯いた。
響とは今年戦死したスコルピオの人間メンバーで真鈴達の人気投票第一位の男だった。
小次郎小三郎のピストルとマチェットの腕でも俺達人間メンバーが絶句するほどなのに響の腕はどれほど凄いのか想像できなかった。
「小次郎小三郎腕を磨いて響に追いつけ。
きっと彼もそれを天から見守っているぞ。
そして、生き残れよ。
絶対に死ぬな。」
「はい!」
「はい!」
そうなのだ、小次郎小三郎を遥かに凌ぐ響でさえ悪鬼との戦いで戦死した。
質の悪い悪鬼との戦いは苛烈極まりない。
そんな中でまだ一人の戦死者も出していない俺達ワイバーンは非常に幸運だと思うと同時に俺達ももっと戦いのスキルを上げなければと強く思った。
屋敷に帰る途中、はなちゃんが抱っこを求めて来た。
おやおやと思いながら抱き上げたはなちゃんが小声で言った。
「彩斗、さっきはわらわが悪かったとても反省してるじゃの許せ。」
「判ったよはなちゃん、水に流そう。」
「それは良かった。」
そしてはなちゃんが俺の顔に自分の顔を近づけて小声で言った。
「彩斗のパンツ降ろされおちんちんとおでことお尻にマジックで落書きされケツから花火の火花吹き出しながら校庭泣き喚き駆け回り事件の事はわらわは今度こそ絶対に誰にも言わんのじゃの。」
俺の歩みが一瞬止まった。
これからは嫌な思い出は絶対に思い出さないようにしようと心に決めた。
まだはなちゃんが知らない、あの事やこの事やあの事やましてやあんな事は絶対に具体的に思い出さないようにしなければ、何回オワタ状態になるか想像もつかないのだから…。
続く




