勇者、見参
「どうすんだ? あの化け物。大規模な軍隊でなきゃ、倒せないだろう」
お手上げだとタワンが言う。
「そうだな……。空を飛べて、手裏剣も弾く鎧のような硬い鱗。オマケに火は吐くし……」
と大雅も諦めモード。
さすがに生身の人間では手も足も出ない。
「でも、一つだけ分かったことがある」
と大雅があることに気付く。
「なんだ?」
「火だよ。ゴォーっと吐く炎。種明かしは、ガスだ」
「ガス?」
「そう、地下に眠る天然ガスを吸収しているんだ。俺達の世界は、その化石燃料を利用して発展したんだから」
「……それが分かったところで、何が出来る。空からの攻撃に手も足も出なかっただろ。こっちも、空に飛べれば、勝機はあるんだがな……」
「超人的な仙人じゃあるまいし」
ロッチが言うと、一斉に仙人、センチャの方を見る。
「わしゃ、飛ぶんじゃなく、浮いているだけじゃがの」
「……」
笑えず、突っ込みようがない。
「師匠! 俺に飛ぶ、いや、浮く術を教えてくれ」
と大雅が懇願するが、
「馬鹿いえ、会得するのに何十年掛ると思っとるんじゃ」
無理だと拒否される。
「そんな……」
「諦めろ、俺達にもかなわない強敵はいくらでもいるんだよ」
厄介なことに関わるなとタワンが忠告するも、
「ある! 飛ぶ方法が」
力強く大雅は答える。
「本当か!」
「ああ」
「どうやって飛ぶんだよ」
「飛ぶんじゃなく、乗るんだ」
「また、意味の分かんねえこと言って」
「エイだよ、空飛ぶエイを手懐けるんだ」
「手懐けるって、そんなうまくいくかぁ」
想像すら出来ない。
エイの生息地である砂漠に戻る。
「このどこかにエイが潜んでいるんだが、探すのに苦労するな」
「いるよ、あそこに」
とシングが指差す。
何もないただの砂漠。
「どこ? なんにも見えないぞ」
「ほら、あそこの砂の下。群れで潜んでいるよ」
オッドアイのシングには見えるようで、住人から貰った、エイの好物である干し肉を投げ付けた途端、
『バサッ、バサッ』
と、エイの群れが姿を現した。
大雅がエイを挑発すると、何匹かの凶暴なエイ(アカエイ)が襲って来た。
「ちょっと、俺に付き合ってくれよ」
そう言って大雅がエイに飛び乗った。
「――おい!」
皆の驚きをよそに、
エイの上に乗った大雅が、エイの二本の触角を持ち、絶妙なバランス感覚で振り落とされないように乗りこなしている。
飛行するのではなく、ゆらゆらと浮いている感覚。
「ちっちゃい頃からスケボーに乗ってたから、平衡感覚は誰よりも得意なんだよな」
隠れた身体能力を自慢する。が、
「――危ない! 後ろ」
鋭いエイの尻尾が大雅を襲う。
「おっと。平気、平気」
間一髪、ひょいとよける。
「尻尾には毒の棘があるぞ」
仙人が注意すると、
「サソリのように、毒があるんだな」
言って、
「えい、えい」
とエイの触角を強く引っ張る。
すると、急に大人しくなった。
思った通りだ。どんな生物も、神経の集中する触角は弱点なんだな。
乗っている大雅を振り落とそうとエイは暴れるが、その都度、触角を引っ張り、大人しくさせる。
すっかり危険生物を手懐けている。
「今度は、あのデカイの」
一匹の大きなエイに狙いを定めると、大雅がそのエイに飛び乗った。
人が乗ってもびくともせずに空中に浮かんでいる。
思った通り浮力があり、大雅が乗っても空を飛ぶ、馬力のあるエイだった。
こいつ、凶暴なエイじゃなく大人しいマンタ。遊び相手として、喜んで尻尾を振っているんだ。確か、マンタには毒はなかったよな。
アカエイよりも大きなマンタ(オニイトマキエイ)だった。
大雅が乗馬の手綱のように二本の触角を操り、自由に飛び回る。
まるで空飛ぶ絨毯のよう。
「相変わらず、器用な奴、呆れた奴だ」
空を飛ぶ大雅を見上げながらタワンが言った。
勇者、見参!
大雅達は再びドラゴンと相まみえる。
ドラゴンが天敵なのか、マンタは酷く怯えているが、
「大丈夫、大丈夫だよ」
とマンタの頭を撫でる。
マンタに乗って飛び立つ大雅に、
「タイガぁー!」
とタワンが叫ぶ。
「ドラゴンは鉄のような鱗に覆われているんだろ。並大抵の剣では斬れない。これを!」
言ってタワンが聖剣を投げた。
飛んで来た聖剣を大雅はしっかりと受け止める。
「悔しいが、剣の腕はお前の方が上だ」
初めてタワンがノロマではなく名前で呼んでくれた。
彼の期待に応えなければと大雅は強く思った。
「どんな生き物にも弱点がある。重たい頭を支える首は弱いはず。首根っこを衝くんじゃ」
仙人がドラゴンの弱点を告げる。
「そこが弱点なんだな」
ドラゴンの首の辺りを確認した。
マンタに乗った大雅がドラゴンの見下ろす位置まで高く舞い上がると、聖剣の握りを確かめる。
宝石で装飾された聖剣は重いが、その分、良く切れそうだ。
剣先に力を込め、「ワぁーー!」
雄叫びを上げ、マンタから飛び降りた。
「――あの、バカ!」
高い位置から飛び降りた大雅。
まるで自殺行為。
大雅には目の前のことしか見えていなかった。
例え無謀な行為でも、勝利のために行動する。それは頭で考えるのではなく体が勝手に動き出した行動だった。
大きく振りかぶってドラゴンの首を一刀両断する。
『ザクッ』
落ちて行く大雅を、まるで阿吽の呼吸のような動きでマンタが受け止めた。
「よしよし、良い子だ」
言って、マンタの頭を撫でる。
マンタの好物、干し肉を大雅は褒美として与えた。
『ドサッ』『ドサッ』
地上で見守る仲間達の前に、二つ大きな物体が落ちて来た。
首と胴に切断されたドラゴン。
絶命していたものの、まだピクピクと動いている。
「――あれは」
降りて来た大雅と一緒に見る。
「これは――」
ドラゴンのお腹から小さいミミズのような物が出て来た。
「赤ちゃんを宿していたのか」
「どうすんだ? 殺すか。いや、殺すべきだよな、こんな危険生物」
「ま、待ってよ! 僕が育てる。タイガ君のサスケのように、一緒に暮らしたいんだぁ」
シングが嘆願する。
「バカ言うな。手に負えない凶暴な生き物だぞ。殺されるのがオチだ」
「でも、それでも育てたい。しっかりと面倒みるからさぁ」
「いいんじゃないのか。世界で一匹しかいない、貴重な生き物なんだろう。何万種の生物を絶滅させた人間の代表として、生かしてやりたいよ」
殺すべきではないと大雅も言う。
「……やれやれ。ノロマに感化されやがって」
呆れるタワン。
「大将が言ったんだ。手に負えなくなれば、オレが面倒みてやるよ」
とウルフが尻拭いを引き受けた。
殺されずにすみホッとしたシングが、にょろにょろと這うドラゴンの子供を手に取り、大事そうに胸ポケットの中に入れた。
新しい仲間が出来たとシングは喜んだ。
町を恐怖に陥れていたドラゴンが退治され、建物の中に身を潜めていた住人達が近寄って来た。
「旅の者よ、見事、怪物を退治してくれた。皆の活躍でこの国は救われたのだ」
大雅達に感謝の気持ちを言って、皆喜んでくれた。
住人達の中に、立派な服を着た、異国の者が大雅達の前に出た。
「今、王国は分裂状態にあり、間もなく戦争が始まろうとしている」
戦争に備えて、世界中を回って勇者を探し求めているムガル王国の使者。
目の前で怪物を倒した大雅を、間違いなく勇者だと使者は認めたのである。
「これでやっと、この聖剣が使えるんだ。ワクワクするな」
高揚したタワンの態度に大雅は違和感を覚える。
「……な、なんで、そんなに戦争をしたがるんだよ」
「そりゃあ、手柄をあげられるからな。実力次第でどんどん出世し、貧しい暮らしからおさらば出来るんだ。しかも、みんなの期待に応えられ、感謝されるんだぞ。これほど嬉しいことはないだろ」
「でも…でも、一歩間違えれば、死ぬんだぞ」
「争いに、犠牲はつきものだ」
他人事のようにタワンは言う。
「簡単に、戦うって言うなよ!」
「な、なんだよ、急に……」
「なんにも分かっちゃいないからだよ」
そう言った大雅は続ける。
「俺の住む世界は、豊かさと引き換えに瀕死状態。環境破壊が問題で、世界がSDGs『持続可能な開発目標』、つまり、地球規模の問題を、世界のみんなで解決していこうと決めたんだ。SDGの名の下、国を越えて一つになろうとしていたのに、戦争が始まったんだ。ちっちゃい子供から、みんなでSDGに取り組んでいるのに、だいの大人が、しかも、世界をリードしてきた先進国の大国が、道を外れて戦争を始めるなんて。呆れるよな、全てを破壊尽くす戦争こそ、究極の環境破壊だっていうのに」
「お前の世界も、進んだ世界でも戦争があるんだな」
「ああ。古の時代から、飽きずに繰り返されている」
「そうか……」
「狂気の指導者によって始まった戦争。いったん戦争が始まれば、誰にも止められない。その間、犠牲になるのは、なんの罪のない市民なんだ。当然、家族を殺されたら、敵を恨み、やり返してやろうと殺意を抱く、それが何年、何百年続くんだぞ」
あれ、なんで俺、泣いてるんだ?
自分でも分からず、涙が出てくる。
「なんで泣いてんだ? お前」
タワンに言われて、気まずそうに大雅は顔を隠す。
「きっと、悲しい出来事があったのよね……」
とフランが言って、一緒に涙を流してくれている。
悲惨な光景を、テレビ越しで嫌というほど見せられたウクライナ侵攻という現実。
テレビ越しに見えてくる戦争の悲惨な光景を思い出し、自然と涙が出てくる。
「だから、簡単に戦争に参加するって言うなよ」
「私も、同じ思い。だから、簡単に引き受けてはいけないの」
とフランも嘆願した。
大雅の熱意に押され、
「お前の世界にも、野蛮な戦争があるのか……。分かったよ。で、お前はどうしたいんだ?」
「同じ過ちを繰り返さないためにも、是が非でも争いを止めたいんだ」
「止めるって、俺達だけでか?」
「ああ。で、なんで争ってるんだ?」
「そこからかよ、たくぅ。あんだけ熱く語っていたのに……」
拍子抜けするタワン。
「戦争って、物騒だな。なんで、戦争にまで発展したんですか?」
ロッチが使者に聞いた。
「王子同士の争いだ」
「はぁ、兄弟喧嘩だってぇ。そんなことで争いに巻き込まれたんじゃ、国民が可哀想だろう。
タワンが同情し、
「ようは、兄弟喧嘩か」
元凶である二人の兄弟に大雅は興味を示した。
「失敬な! 単なる兄弟喧嘩じゃない。複雑な思惑が絡んだ、事情があるのだ」
国の名誉のために使者が言い直させた。
「王様は、兄であるナーラ王子に王位を継がそうと手元に置き、教養を与えて愛情を注いでいた。当然、ナーラ王子が王になると誰もが思っていたのだが、突如、王様は弟のラング王子を後継者に選んだのだ」
青天の霹靂。
王宮内は混乱し、王位を巡る骨肉の争いに国は大いに揺れた。
その争いに、大雅達は乗り込んで行こうと決意するのだった。




