海賊退治
活発に動き回れる陸上と違って、猫人間は船の上は苦手。
優位一、泳ぎの得意なウルフが応戦しようと身構える。
「どうする、戦うか?」
大雅に指示を仰ぐが、
「ここで戦っては、乗客が巻き添えに遭って犠牲者が出る。この場は、様子見といこう」
その場でジッとして海賊の行動を見ていた。
「大人しく金を渡せば、危害は加えない」
海賊は乗客を品定めするように見て回り、裕福そうな客の前で止まり脅しを掛ける。
痛い目に遭ってはかなわないとばかりに金を渡した。
よくあることなのか、巻き添えに遭うのを恐れて船員達は見て見ぬふり。
客船は予定通り進んで行く。
「悪そうな連中には見えないんだけどな。きっと、何か理由があるんじゃないか」
大雅が小声で言うと、
「バカ言え、相手は海賊だぞ、情けは無用だ」
タワンが言い返す。
盗賊に恨みを持つタワンにとって、どんな者でも許されざる敵である。
大金をせしめた海賊は満足そうに、手際良く乗って来た小船で消えて行った。
「あれ、良い舟があるじゃないか」
大雅が指差して言った。
沈没に備えての、脱出用の救命ボート。
「小さいけど、イカダよりマシだな。漕ぐためのオールもあるし」
「まさか、あの海賊を追って…」
「乗客を拉致して、奴隷などの人身売買が目的じゃなく、奴らの目的は、僅かばかりの金。だから、クルー達も慌てていないんだ」
「だったら、首を突っ込むようなマネはするんじゃねえよ」
とタワンが忠告するも、
「このまま海賊をのさらばしておけないだろ。大事な金を取られて困っているヒトもいるんだから。俺は困っている人をほおってはおけない、困っている人を見捨てたりは出来ないんだ」
海賊退治を提案する。
「おいおい、冗談じゃねえぞ! 第一、危険を冒して助けても、俺達にはなんの得にもならないんだからな」
「これは損得の問題じゃない。俺の祖父、最後の忍者が言っていたんだ。困っている人がいれば助けよと。それが我が家の家訓なんだと」
「また、ニンジャの話か」
とタワンが呆れる。
「人助けは俺の使命みたいなもんだ。ほおっておくわけにはいかない。俺一人でもやるぞ」
「私も手伝うわ」
とフランが言って、
「俺も」「僕も」
とロッチやシングも協力すると言った。
「ひと暴れするぞぉ!」
暴れることを禁じられていたウルフが日頃の鬱憤を晴らそうと吠える。
「……分かったよ」
根負けしたタワンが溜息交じりに言った。
舟を下ろして、勇んで海賊を追うが、
「……この舟、流されてないか?」
流れの速い海流に、漕いでも前に進まず、海賊を追うどころか、どんどん放されて行く。
「これ、ヤバくないか?」
「僕達、遭難したんじゃ……」
不安がる仲間達に、
「テレビで観ていた、無人島を脱出するやつみたいに上手くいかないな……」
「他人事みたいに言うな! これから、どうすんだよ!」
無計画な行動にタワンがキレた。
小舟は海流に流される。
厳しい自然の猛威が小舟を襲った。
「オレはどこまでも泳いで、どこかの島にたどり着けるがな」
獣人のウルフは動じていないが、
「俺、聞いたことあるぞ。海の中には、山のように大きな魚がいるということを」
「俺も。ヒト食いザメの話」
皆、見えない海中生物に怯え出した。
「まあ、慌てても仕方ない。海の流れる方へ、いつか島に着くだろう」
「何を、呑気な……」
大海をさ迷っていると、一艘の船を発見。
「た、助かったぁー!」
近くで漁をする漁船が大雅の舟に気付いて近寄って来た。
「どうしたんだ? こんな場所で」
皆を見ながら若い漁師が言った。
獣人が、猿人が居て仙人が居る怪しげな集団。
「……あんた達は、一体?」
「しがない旅人ですよ」
怪しい者ではないですよと言わんばかりに大雅は愛想笑いした。
「まあ、俺達は悪いことが大嫌い。海賊をこのままのさばらしてはいけないと、海賊を追っていたんだけれど、見失ってしまって」
「見失ったじゃないだろ! 遭難だぞ」
とタワンが突っ込む。
「海賊、退治か……」
漁師は大雅達を見ながら、まんざら嘘を言っているようには思えず、彼らならやってくれるんじゃないかとさえ思えてくる。
「俺達漁師も漁場を荒らす海賊には困っているんだが、金を渡さなければ漁が出来なくなる。海賊に金を納めないと生活していけないんだ」
「上納金ってやつか。つまり、脅されているってことだな」
「でも、海賊は三百人はいるらしい。乱暴な海賊を相手にどうすることも出来ない。ほとほと困り果てているんだ」
「三百か……」
「何人だろうがオレがやっつけてやる」
ウルフ一人息巻くが、
「まあ、落ち着けって。頭を使うんだよ、敵の情報を知れば、おのずと勝利が見えてくるもんさ」
鼻をすすり、自慢げに大雅は言った。
漁船に引っ張られ、漁師の住む島に着いた。
天然の港のような入り江の船着き場に船を着け、桟橋を渡って島に上陸した。
桟橋から海の中を覗き込むと、海面ぎりぎりにサンゴ礁が迫っていて、珍しい古代魚がうようよと泳いでいる。
真っ白な砂浜に、透き通ったエメラルドグリーンの海。まるでリゾートに来たような美しさだ。
島の地面から煙のようなものが出ているのが見えた。
「ここは、火山の噴火で出来た島だな」
火山活動によって誕生した島。
「土地が痩せていて農作物が育たない。だから、漁で生活していかなければならないんだ」
「火山灰の土では、農作物も育たないよな。でも、火山といえば……」
大雅が言って辺りを見渡した。
微かに硫黄の匂いがする。
「ひょっとして、温泉が湧いているんじゃないのかな」
「この辺りの砂を掘れば、必ず温泉が出る。俺達の唯一の娯楽だな。今日はここで、ゆっくりしていくといいよ」
と漁師が親切に言ってくれた。
アンダマン海を見渡す絶景の露天風呂。
久しぶりに、温かいお湯に浸かれて、長旅の疲れが癒される。
日が沈むに連れ、一面、夕日のオレンジ色に染まった。
息をのむほどの美しい夕日。
将来の俺、こんな雰囲気のある場所でプロポーズするんだろうな。
勝手に想像していると、フランと目が合った。
「ん?」
フランが首を傾げる。
慌てて大雅は目を逸らした。
まだ、まだ先の話。でも、そうなって欲しい。
夕食には漁師飯がもてなされた。
川魚とは違って海の魚は臭みがなく、塩味が効いていて美味しい。
素晴らしい景色にご馳走。まるで観光気分だ。
一方のタワンは、すっかり戦闘モード。
海賊退治を前に、鞘から抜いた聖剣の輝きを見ながら、
「やっと、この剣で活躍出来る」
静かに、タワンが闘志をかき立てる。
「いくら悪者でも、殺してしまっては悪党と同じだぞ」
熱の上がったタワンを大雅が諌める。
「真剣の使用は、あくまでも脅しのみ」
「そうか、立派な剣を見れば、国が派遣した討伐軍だと勘違いして投降するかもな」
ロッチが言った。
「漁師の道具と言ったら、あれだな」
大雅が思い浮かべ、
「一網打尽に出来る」
言って勝利を確信した。
若い漁師が、海賊がアジトにしている島の地図を見せた。
三日月のような形をしている島。背後は崖。まん中の海賊のアジトを囲むように伸びている。
「まるで、要塞だな」
島の地図を見て大雅が頷く。そして、
「島の裏から上陸して、背後から一気に叩く」
渾身の策を告げた。
「そんな簡単にいくのか? 相手は大人数だぞ」
納得のいかないタワンに、
「誰が、まともに戦うと言ったんだよ。まともに戦ったんじゃ、勝ち目がないだろう」
「じやあ」
「小人数で勝つには、奇襲が一番だ。こんな場所から攻めて来るわけがないと考えるような断崖絶壁を駆け下り、背後から海賊に奇襲を仕掛ける。正面と背後から敵を挟み撃ちにすれば、海賊は混乱するだろう」
「そんな作戦が、実際にあったのか?」
「ああ。一の谷合戦のひよどり越えの逆落とし。奇襲戦法の代名詞だよ」
これなら勝てる、と思ったロッチが、
「犠牲者は最小限で、一気に勝負を決めよう」
力強く皆に言った。
早朝から出港していた大雅達を乗せた漁船が、海賊が拠点としている海城を発見。
計画通り、正面と背後から海賊を襲う。
奇襲――。
「敵だぁー!」
三十人の漁師が正面の海岸線から攻める。
船の櫂を高々に掲げて、日頃の不満を晴らすかのように暴れまくる。
同時に、後方の崖から大雅達が攻めた。
「獣人だぁ! なんでこんな島に居るんだ」
「もちろん、お前達を倒すために来たんだよ」
ウルフが破壊力のある長薙刀を振り回しながら海賊の背後から襲った。
「ワーーー!」
「こっちは猿人だぁ!」
白いシルクの頭巾を外し、猿人であることを見せ付けるように堂々と。
「消えるぞぉー!」
と大雅が叫びながら突進した。
大雅が掌を広げて力を込める。
すると、海賊が空気銃に打たれたように後退りした。
フランも掌に力を込め、海賊の持つ剣を吸引の力で奪い取る。
どちらも殺傷能力はないが、驚かせるには十分だ。
海賊の反撃に遭い無数の矢が飛んで来るが、ウルフが頑丈な体で矢を受け止める。
『ウォーーー!』と雄叫びを上げながら、刺さった矢を吹き飛ばした。
シングはその場にしゃがみ込んで頑丈な甲羅で防ぐ。
体は弱いが頭脳明晰。
混乱する海賊達に、漁に使う大きな魚網を投げ付けた。
「な、なんだ! 動けねぇ」
網に絡まり身動きが取れない。
文字通り、海賊達を一網打尽にした。
とどめがが、弟の持つ聖剣。
立派な刀剣を見て海賊達が動揺する。
「水軍だぁ!」
本国が派遣した討伐軍。
正式な国の軍隊が討伐に来たのかと勘違いしたのだ。
海賊達は戦意喪失。
奇襲は成功し、あっという間に勝負がついた。
「ま、待ってくれぇ! これには訳が、訳があるんだよ」
お頭がたまらず命乞いをする。
「訳って、なんだよ」
「ワシらは、出稼ぎのために町に出て来たんだが、都会の生活に馴染めなくての。家族の仕送りも途絶えて、手っ取り早い金儲けが海賊だったわけさ」
「故郷に錦を飾るためか」
大雅が同情する。
「そ、そうだ、それよ!」
調子良くお頭が相槌を打つ。
「貧しい故郷のために、か。あんた、良い奴じゃないか」
「おめーだって、異人のくせに、関係のないヒトの助けをしているじゃねーか。ガ、ハハハハー。気に入った」
「たく……。どこまでお人好しなんだよ、お前は」
すっかりお頭に丸め込まれ、呆れ顔のタワン。
外見こそ悪そうな海賊だが、根は良いヒトばかり。
海賊達と意気投合。先ほどまで争っていた漁師とも仲良くなり、豪快な海賊料理が振舞われた。
アワビやサザエ、エビに真鯛。どれも、猫人間の好物ばかり。
お頭に酒を勧められるも、皆未成年。仙人だけは勧められるまま酒を酌み交わす。
「あの爺さん、底なしだな」
お頭が驚いたように言うと、
「まあ、師匠はヒトの限界を超えた修行をしたと言っていたからな」
若者に交じって酒を酌み交わす仙人を見て大雅は言う。
「なにが限界を超えた修行だ。単に、浮くだけだろ」
タワンが突っ込みを入れた。
「猿人のおめぇも、故郷が恋しくなったんじゃねえのか? 帰りたいんじゃ」
お頭の問いに、大雅は言葉に詰まった。
「……俺は……。いいんだよ、どうせ帰れないんだし」
家族のことを思い出すも、もう会えないんだと無理して笑顔で答える。
「タイガ、君……」
諦めムードの大雅に、フランは寂しい目を向けた。




