表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
偽Aランクの兄さんは嫌われ者です  作者: 風深 紫雲
11/21

魔導技術の授業 Ⅰ

このページを開いてくださった方に、最大の感謝を。

 ポチャン、ポチャンと、人工的とも思える規則的なリズムで雫が落ちる。その微かな音が不自然なほどに大音量で響いているのは、そこに音を漏らさないための風魔術が張り巡らされているからだ。

 その場所を照らすのは、たった一つの灯りのみ。一〇人掛けの広い円卓の中心に置かれたそれは、魔鉱石の一種、吸収した魔力に応じて光を放つ鉱石、『輝石ルーチェ』である。


「おや、あなたが来たということは、ついに彼女が見つかりましたか」


 何の前触れもなく、突然に声が木霊する。その声を発したのは、唯一机に腰掛ける一人の男であった。その空間に、その男以外の人間は見当たらない。だが、男の声に応えるように、男の影のすぐ隣に人影のみが現れる。


「はい。どうやらヴェレリア魔術学園に入学したようです」


 影の報告に、男はにやりと口角を釣り上げた。


「ほう……。なかなか姿を見せないと思ったら……首都ではなく水の方でしたか」


「首都より安全と判断したのかと」


「首都はまだまだ南の方々の勢力圏内ですからねぇ」


 男はどこか楽しそうにそう言った。


「それで、いかが致しますか?」


 影の問いに、男はフッと頬を緩めると。


「もちろん頂きますよ、シャルル・サンドレアお嬢様を。私たちの、正義の名の下にね」


 やはりとても楽しそうに、そう言った。






――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――



「あ、アイリス、おはよう」


 翌日、教室へと足を踏み入れたアイリスに真っ先に声を掛けたのは、数日ですっかりお馴染みとなったスカーレットの髪、レミナスである。


「おはようございます、レミ」


 アイリスは挨拶を返しながら、レミナスの隣の席へと腰を下ろした。

 教室は扇型の講義室の形をしており、席は自由席となっている。生徒数の割には座席が広いため、生徒達はおおよそ自分の座りたい席に座っていた。


 優秀な生徒のみが入学を許されたこの学園では、ほとんどの生徒が学習意欲は高く、席は前詰めで埋まり、例外は三人のみである。

 その三人に共通しているのは、ケープに金色の家紋が輝いていること。つまり、貴族であることだ。

 その内の一人、シャルル・サンドレアは、レミナスに目を向けていたが、それに気付いたレミナスが視線を動かした瞬間に目を逸らした。


「レミ、どうかしましたか?」


 なんだったんだろうと首を傾げるレミナスにアイリスがそう聞くと、レミナスは首を横に振る。


「ううん、なんでもない。それよりアイリス、今日は遅かったけど、どうしたの?」


 入学してから今日で五日目であるが、アイリスは毎日登校時間の三十分前には登校していた。レミナスが来る頃にはいつも本を読んでいるところなのだが、今日はレミナスが先に着くばかりか、登校時間まではあと二分ほどしかない。


「少し睡眠不足でして。いつもより起きるのが遅かったのです」


「寝不足ねぇ……、それにしては元気な顔に見えるけど」


 レミナスはアイリスの顔を覗き込み、そしてなにかに気付いたようにはっとした様子を見せる。


「あ、もしかしてその寝不足ってお兄さんが原因だったり?」


「ち、違いますっ」


 そっぽを向いて答えるアイリス。急変したその態度は、レミナスの発言を肯定しているも同然であった。


「ふーん……」


 レミナスが含みのある言い方でニヤリと笑う。


「なっ、なんですか!?」


「いや、会場にいたみんなからお兄さんが責められてる中で、自分が妹だなんて普通言えないなーと思っただけ」


「そ、そんなの普通です! 実際に私の兄なのですからっ」


 顔を真っ赤にして反論するアイリス。しかし、レミナスはすぐには食い下がらなかった。


「そう? 私はてっきり、私がお兄さんの凄さに気が付いたから、嬉しくなって言ってくれたんだと思ったんだけど……」


「違います! そんな言い方したら、私が兄さんを……、その、す、好きみたいじゃないですか!」


「そこまでは言うつもりはないけど……。ただ、自慢のお兄さんなんだろうなって。……あれ、もしかして、本当に好きなの? お兄さんのこと」


「だから違います!」


 アイリスは声を大きくして否定するが、周囲からの視線を受け俯いた。


「そもそも兄さんは人としてダメなんです。私が起こさないと朝は起きませんし、私が料理しないとご飯もちゃんと食べませんし、私が言わないと学園にだって……」


 アイリスがまくしたてるように話すが、レミナスはそれを遮るように、両手を上げた。


「まーまー、分かった分かった」


「そうですか。分かればいいんです」


「よーく分かったよ……、アイリスはお兄さんのことが大好きってことが」


「全く分かっていないじゃないですか!」


「いやいや、もうそうとしか聞こえなかったよ。普段はクールなのに、お兄さんのこととなると人が変わるね、アイリスは」


「それはレミが変なことを言うからです。……大体、兄妹で恋愛なんて……」


 レミナスに全く聞き入れてもらえないアイリスは、未だに頬を赤らめながらも、それまでとは全く違った声音で小さく呟いた。


 そのタイミングで、『時告鐘オロロージョ』の鐘の音が校内外に響き渡る。

 なにか思うことがあったのか、レミナスはそれ以上なにも言ってこなかった。

 すぐに、担任教師であるキールが教室に入って来る。キールは簡単に挨拶を済ませると、徐に教科書を取り出した。


「今日は特に連絡はありません。……そして、大変申し訳ないのですが、今日の一時間目の授業は今から始めさせていただきます」


 キールは頭を下げながらも、生徒達にニコッと笑いかける。多くの生徒、特に女子生徒は、それで納得したようだったが、当然の疑問を口にする生徒もいた。


「なんで今日に限って、いつもより一〇分も早く授業なんだ?」


 シャルルと同じ貴族、ダニエレ・マグノリアである。教師に対するような言い方ではなく、貴族らしいと言えば貴族らしい態度であったが、キールは顔色一つ変えることなく理由を語り出した。


「昨日までは、みなさんの魔術の実力を見せていただくことを目的とした授業でした。私はまだ教師になったばかりですから、この学園に入学なさったみなさんがどのくらいの力を持っているのかを知りたかったのです」


 キールのこの言葉を、生徒達はすんなりと受け入れる。教師になったばかりというのは聞かされていたし、昨日までは実際に魔術を使った授業ばかりだったからだ。しかし、続くキールの言葉に納得した者は、ほとんどいなかった。


「本来なら実際に魔術を使った実習の時間を多く取りたいところなのですが、この数日間のみなさんの魔術を見る限り、その方が有効的と言える生徒は……残念ながら、アイリスさん。あなただけのようです」


 キールがアイリスの方に目を向けて言うと、クラス中からの視線が集まる。

 その視線には、困惑が滲み出ていた。クラスメイト達の中には皆同じ疑問が浮かんでいたのだ。

 そう、クラスメイト達からしてみれば、一番魔術が使えていたのはアイリスではなく。


「おい、どうして俺じゃねぇんだよ」


 そうキールに言い返した、ダニエレだったのだ。ダニエレは、このクラスに二人しかいないアイリスと同じBランク魔術師であり、これまでの授業でその腕を見せつけ、早くも一目置かれる存在となっていた。


「ダニエレ君は、大きな勘違いをしているようです。いえ、彼だけではなくアイリスさん以外の全員でしょうか。あなた達は、魔力量によって変化する威力こそが、魔術の強さだと思っていますね?」


 クラスの誰も言葉を返さなかったが、キールの言ったことは正しかった。ほとんどの生徒がそうではないのかと疑問符を浮かべる。


「まず初めに言っておきましょう。その認識は間違っています」


 穏やかながらもきっぱりと否定したキールに、生徒達は反感を覚えることなく驚いた。ここ数日目にしていたキールとはまるで別人のように強い物言いだったからだ。


「魔術師のランクが魔力保有量と魔導技術、五〇パーセントずつで決定されるのは、それだけ魔導技術が重要だということです」


 張り詰める空気の中、生徒の中から力のない手が挙がる。前から三列目に座る、おとなしい印象の女子生徒であった。


「キール先生、あの、魔導技術ってそもそもなんなのでしょうか……?」


 彼女の質問は、多くのクラスメイトの心の声の代弁であっただろう。

 魔術師であっても、生徒達には魔術に関しての知識がほとんどない。一般的に、魔術を使えるようになるのは十歳を超えてからで、魔術に関する知識は魔術師学校に入ってから教わるもの、というのが魔術師の共通認識である。

 魔術を使うには感覚を掴まなければならず、ヴェレリア魔術学園に入学するような優秀な子供でさえも、学園に入学するまでは数種類の初級魔術を覚え、それを使えるようにするので精一杯なのだ。


「基礎中の基礎ですが、いい質問です。ですが、魔導技術の説明をしても今の皆さんには正しく理解出来ないでしょう。今日はまず、魔導技術がどういったものなのかを理解することを目標に、授業を進めていきましょう」


 厳しい口調から一転、声も表情も和らげてキールは言った。

 キールの自然と人を引き込む話術に、アイリスは感心した。初めから今の会話の流れを予測していたに違いない。自分たちが無知であることに気付かせながらも生徒に反感を抱かせない。ものを教える立場の人間としてはほぼ完璧と言っていいだろう。


(全く、兄さんには絶対に真似出来ないことですね。……って、今兄さんは関係ないでしょう⁉ なにを考えているんですか私は!)


 顔を赤くしてブルブル頭を横に振るアイリス。レミナスはそんなアイリスを不思議に思いながらも、教壇に立つキールに目を向けた。

 話の流れから、これからキールの語る内容が重要であることはレミナスにも分かっている。なにより、アイリスが唯一このクラスで正しく理解しているということが、レミナスの意欲を引き出していた。

読んでくださりありがとうございます。

ブックマークが数件増えました、ありがとうございます。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ