第八話 冒険者ギルド
「なあ、昨日の金を出したときといい、いったいどこから取り出しているんだ?それが魔法というやつなのか?」
「気になりますか? ふふん。これはですね……ストレージボックスと言って常態保存ができるスキルなんです。容量は魔力量に比例するので個人差があります……ちなみに、砌さんも使えますよ」
聞き間違いじゃなければ、菫はにっこりとした笑顔で俺にも使えると言っているように聞こえた。
菫は声に出していなかったが、ステータスオープンの時と同じように声に出して試してみる。
「ストレージボッ……」
ストレージといったところで透明な画面が現れた。そこには昨日報酬でもらった金がいつの間にか入っていた。
「金が入ってるぞ! どうなってんだ……確か懐の結び布の間に入れておいたんだが……」
「それは受け取ったという行動がストレージボックスへの収納を承認したことになったんです」
「……そうなのか? ……ああでも、菫が言うからにはそうなのだろうな。それと、声に出さずともこの画面は出せるのだな。便利なものだ」
「はい、お水」
菫と話している間に、火鍼が一階から水をもらってきてくれたようだ。
「すまない。恩に着る。……酒は当分控えねばな」
「ふふ。呑んだっていいと思いますよ。ただし、呑む量は控えてくださいね」
「めんぼくない……」
砌は、しょんぼり肩を落とした “反省してます感” を全身に漂わせながら水を一息に飲みほし、これからの予定を相談することにした。
「ふぅ、うめえ。水がこんなにおいしく感じるとはなあ……。ああ、そうだ今日の予定なんだけどよ、俺はまず、登録だったな。……冒険者ギルドっていう仕事の斡旋や依頼、情報の収集ができる場所に行く」
「はい、そうです。ですけど……そんな二日酔い状態で大丈夫なんですか?」
火鍼が訝しそうに心配してくる。
「この水のおかげで頭はもうすっきりしたから大丈夫だ。あとは、腹ごしらえしたら万全でござる!」
「ぷっ、ござるって顔じゃないですよ砌さん」
菫に笑われてしまった。顔と言動の不一致がおもしろいらしい。
「本当に大丈夫かなあ……まあ、でも、ギルドへの案内は先輩冒険者の私たちにまかせてください」
「そのあとは、町を見て回りましょう。とくに、服装や装備を整えないとですね!」
「ええ! 買い叩きの火鍼の腕の見せどころです!」
なにやら不穏な二つ名を豪語する火鍼。店に迷惑をかけなきゃいいが……。
「俺の好みってのも考慮してくれよ? 刀に関しては火鍼なら目利きもできると思うが」
このあとの予定も決まり、砌は腹ごしらえにおにぎり一つを食度で済ませ、冒険者ギルドへと案内してもらった。
「ここが冒険者ギルドです。立派たたずまいですよね? 異国のって感じがして新鮮でしょう?」
菫が上目遣いで俺に顔を近づけて聞いてくる。この子はこんな感じのおなごであったのか? ビキニアーマー時代の照れはいったいどこへ?
「ああ! 菫が色目使ってるぅー! 贔屓だ、贔屓だ。私にも使えー!」
「色目なんて使ってません! これが本来の私なんです!」
「ふーん。パーティ内の和を乱す行為は厳重な処罰が待っていることをお忘れではないかな? 菫さん?」
火鍼はそう言うと菫に向かって両の手の指をわなわなとさせて、何かを揉みしだくかのような手つきで迫ろうとする。その仕草を見せただけで実際にするつもりはなさそうだが、菫には効果覿面。
「ひっ! そ、それだけは、それだけは辞めて、ね? 火鍼さん! ふ、普通にしますからぁ!」
「二言はなしですよ。いいですね」
「……はい、……わかりました……」
「本当におぬしらは仲が良いのだな。見ていて微笑ましいくらいだ」
二人はそろって「でへへへ」と頭の後ろを掻く仕草で照れて見せた。
「さあ、入りましょう。砌さんお先にどうぞ」
菫に促されるままに扉を押し開き中へと入ってゆく。
ギルド内は横に広く、入って8歩ほどで近づける距離に受付と札のついたカウンターが目の前に見える。他に周りを見渡してみると、入口の左右の壁にはなにやら紙が大量に貼られていた。何人かがその貼り紙に見入っていた、というよりかは選り好みをしているように見えた。
「私は手ごろなクエストがないか見てきますね」
そう言って菫は壁をにいっぱいに貼られた貼り紙の方へと近づいていった。
「砌さん、こちらのカウンターで冒険者登録ができるんですよ」
壁一面の貼り紙に気を取られていたら火鍼が催促するように呼びかけてくる。
火鍼がいる受付カウンターは一番右端で、獣の耳を頭につけた女性のギルド職員の前にたどり着く。
そう言えば、勝手に透明な画面が出るときと出ないときがあるなと思いながら獣耳の職員に声をかける。
「冒険者登録を頼む」
「はい、かしこまりました。こちらの用紙に名前を書いて、その書いた名前の上に利き手とは違う方の親指で血判を押してください。たったそれだけでギルドカードが作成できます」
砌は言われた通りに名前を書いて、刀の鯉口で左親指を切り血判を押した。すると、紙全体が赤く光り次の瞬間、金属物の板に変化した。
「どうぞこちらの軟膏を傷口にお塗りください。では、これから登録版に登録致しますので、そのままでお待ちください」
「不思議ですよね?あれ、今見てもどういう仕組みでああなるのか皆目見当もつきません」
「異世界ならでは、ということなのだろうな」
分からないものは、そういうものだと無理やりにでも納得するのが早い。それより、実力を見定めたりはしないのだろうか、ランク付けはどうするのだろうと疑問に思ったが、案の定、すぐさま考えるのをやめた。砌はそういう男である。




