第六話 私の奢りよ!
「いよいよこの時が来ました。火鍼さん、お願いします」
部屋の窓を外から見えないようにカーテンでしっかり隠し、部屋明かりを光魔法の「ライト」で明るく灯した。菫はマントを脱ぎ、今にも、はち切れそうで一向にはち切れてくれない、このビキニアーマーに引導を渡すべく、解呪の秘薬『ドライアドの涙』を生成した。
作り方は、朝露を集めた水に聖なる祈りをささげた微小聖水とドライアドの白百合のような花の花びらをハーブと一緒に煮詰めて、冷やしたもの。その冷やす過程で全体的に薄桃色になれば完成だ。薬液からはかすかに、心を落ち着かせる清らかなハーブの香りが漂っている。
完成したドライアドの涙を火鍼に掛けてもらう。
「菫、いきますよ!」
火鍼の力強い宣言を受け、いざ、解呪の儀開始。
「このホックのところと前の二つのカバー部分に一滴ずつ掛けてゆくね」
最初の一滴をホックに掛けた途端、カチリと軽い金属音が響き、ぼとりと胸パーツが床に落ちた。これまで菫を苦しめていた圧迫感が一気に吹き飛んでいく。
「離れた……離れたよ火鍼さぁん……やったぁ……」
菫は溢れんばかりの涙をこぼしながら喜びの声をこぼす。
「念のため、これは私のアイテムボックスに封印を施して入れておきますね。……では、次、下に行きます!」
封印は護符を貼り付けることで効力が得られる。
そして、下パーツの結び目に一滴掛けただけでするりとほどけ、床にぼとりと落ちた。長かった呪縛からの解放に、全身の力が抜けていくようだった。
菫は丸裸のまま火鍼に抱きついて、顔を涙でぐしゃぐしゃにして喜んだ。
「火鍼さん、ありがとう!取れたよぉ〜、うわ~ん!ありがとう!取れたよぉ〜」
「もう菫ったら、ふぐっ、嬉しいのは、分かったから、いつまでも、ぬおっ、全裸で抱きついてないで、ほら、着たかった服に着替えたらどうです?」
火鍼は肉厚に抗いながら苦笑いを浮かべつつ、菫の頭をよしよししながら喜びを受け止めた。
「うん!これで魔法使いらしい可愛い格好になれる!」
そう宣言する菫のすぐ横に落ちているビキニアーマーの片割れを、先ほどと同様に封印を施して火鍼はアイテムボックスへとしまった。これで二度と勝手に装着されることもないはずだ。
「これでようやく解決と。砌さんにもう一度お礼を言いましょう」
と言って菫に目をやると、菫曰く、魔法少女コスチュームという、可愛さに全振りしたかのような衣装を身に着けていた。それでもやはりと言うべきか、隠しきれない豊満さは健在である。
つばの広い先の折れた紫色のとんがり帽子、胸元でボタン止めされた肩出しへそ出しの白色の衣服と、同じく白色で丈の短いスカートに膝上まである可動性の高い紫色のブーツ。ベルトは赤茶色で黒色のバックル仕様。そして、前開きで袖通しのある紫色のマント。内側は白色、外側は紫で統一され、金色の刺繍で縁取ってあるのが特徴的だ。布地からは新品特有の心地よい香りがしている。
「よく似合っているわ。かわいいですよ、菫!」
「うん、ありがとう。……感動だよぉ……」
また、嬉し泣きしそうなのをなだめて、砌へのお披露目兼解呪のお祝い兼私たちの出会いに祝杯をあげるため、二人は一階へと降りていった。
二人が一階の食堂へ降りてくると皆の視線は菫へと注がれた。一瞬の静寂の後、爆発的な大歓声ならぬ大絶望の叫びが上がる。
「嘘だろ!」
「なんてことだ!」
「どうしてなんだ〜!」
「俺たちのビキニアーマーがぁ〜!」
「俺たちは何を糧に明日から生きていけばいいんだぁぁ〜!」
「あぁぁ〜!」
店中に野郎どもの腹の底からの嘆きがこだました。
その異様な光景の中、菫はそんな野郎たちの視線を集めたままカウンターへと向かい、何もないところから大詰めの袋を取り出しカウンターに置いた。ドシャンという硬貨同士の当たる重々しい音を響かせ、声高らかに宣言した。
「今夜は私の奢りよ!めいいっぱい飲んで食べて楽しんでちょうだい!(言ってみたかったやつが言えたー!どやぁ!)」
ビキニアーマーの菫を見れないと嘆いていた野郎どもが嘘のように元気を取り戻し、飲めや歌えやの大宴会へと様変わりした。
「菫、かっこよかったですよ」
火鍼が駆け寄り笑い合い、辺りをきょろきょろと見て回りだした。
「おーい、ここだ、ここっ!」
二人に分かるように立ち上がって手を振って見せたら、向こうも分かったようで俺の真向かいの空いている席へと腰を落とした。テーブルの上の料理や酒の香りが、宴の熱気をさらに高めている。
「いい場所が取れましたね。流石です」
火鍼はレッドシザークラブを倒してから完全に心を開いてくれたのか、褒めてくれることが増えたように思う。
「あ、あの、砌さん、この衣装はどうでしょうか?」
菫は頬をほんのり赤らめ、上目遣いで俺に服装の感想を求めてくるが、こういうときなんて言えばよいのだろうか。ちらっと火鍼に助け舟の合図を送るが、首を横に振って「ご自分の言葉で答えてください」という具合に断られてしまった。こうなれば見たまま、思ったことを言うしかない。腹をくくれ、砌。
「ああ、その……、ビキニアーマーの時より、自信に満ち溢れていて……うん、菫の奥に潜んていた明るさが前面に出てきたように華やかで、それでいて……よく似合って……いると、おもうぞ……」
「……まずまずです。及第点を差し上げましょう!」
火鍼からは合格をもらえたようだが、当の本人からはどうなんだ……と心配そうに顔を覗き込むと、菫は帽子を目深にかぶり直して顔を隠してしまった。しかし、その耳元が真っ赤に染まっているのは隠しきれておらず、胸元でぎゅっと握りしめられた手が、彼女の溢れんばかりの歓喜と照れくささを物語っていた。




