第三話 砌流剣術
火鍼と菫に連れられ、賑やかな町を出た。来た道を戻るのではなくさらに奥の道を歩き、やがて鬱蒼とした近場の森へとたどり着いた。
「ここは星樹の森のはずれ。ここから少し森に入るとトレントが密集するエリア、つまり討伐危険区域があります。私たちはそこで採取できる、ドライアドの涙の元となる花を採取したいの」
道中、菫がかいつまんで今回の目的を話してくれた。
「鬱蒼としてはいるが、しっかり日の光も届く。これなら充分役に立てると思うぞ」
砌は自信ありといった風に、腰に携えた刀の柄にそっと手を触れてみせる。
「とはいっても、良い刀は借金の形に取り上げられちまったから、いま持っているのは刃毀れだらけで錆びついた刀なんだよなぁこれが。締まらねえ、まったく締まらねえ。わはははははは」
「それじゃ切れないんじゃないですか? 謀りましたね!」
火鍼が即座に反応し、カチャリと音を立てて忍刀を抜いた。いつでも砌を斬り伏せられるよう間合いを詰める。
「案ずるな。地面の影に刺さりさえすれば、木の枝でも充分なんだ。なんせ俺は影鬼だからな」
いたずらっ子のような笑みを浮かべる砌に、火鍼は訝しそうな表情を崩さぬまま問い返した。
「影鬼とは幼子の遊びに出てくる、あの影鬼のことではあるまいな?……影を踏まれたものが次の鬼になるという決まりの元、鬼になった回数の多いものが罰を受ける、みたいな内容だった気がするが?」
「ああ、その内容であってはいるが、遊びの影鬼ではなくてな。性質上あまりに似ていることから、周りからそう呼ばれるようになった渾名のようなもんさ」
「待って……この先にトレントの反応が2体」
菫がピタリと足を止め、森の奥を見つめた。
「菫は索敵ができるのかい? こりゃあ頼もしい、重宝するぜ」
「感心してないで、あなたの腕の見せどころよ」
菫もどこか不安そうな眼差しで促してくる。
「へへへ、まあ、とくとご覧あれ」
指示された隣り合う巨木がトレントという名の木の化け物らしい。砌は2体の巨木の影が重なる位置へと静かに移動し、腰を落として居合の構えをとる。
「砌流剣術踏切」
小声で技名を唱えたかと思うと、一閃。目の前まで伸びるトレントの影が、横一文字に切断された。
「影を斬った」
菫と火鍼は同時に声を揃えて驚愕した。
その影の主であるトレント本体の巨木も、影と全く同じように横一文字に真っ二つにされ消滅していった。それはつまり、木々の奥深くにあるトレントの核を正確に斬り壊したことを意味する。跡にはドロップ品であるトレントの枝20本束が二組、静かに転がっていた。
「す、すごい!これなら絶対に目的を達成できるわ」
「ええ!この方は思わぬ掘り出し物ですよ」
曲芸のような奇妙な剣術と笑われるかと思ったが、砌は、菫と火鍼の期待に弾む声を聞いておおいに満足した。
目的のドライアドの涙を採取するために、星樹の森の真ん中にある星樹の湖までの道中、砌という名前であることをあらためて伝え、二人がどうしてドライアドの涙を欲しいのかをかいつまんで話してもらった。
「それは、……このビキニアーマーの呪いを解くためなんです」
菫が実に困り果てたような顔で答えてくれた。
「それはどのように呪われていると?」
「脱げないんです。ずらすことはできるのですが、肌身から一切離れないんです」
「それはまた難儀な装備よのお」
砌は顎に手をやり、ひげをさすりながら深い同情の意を示しつつ、まじまじとじっくり眺めるのをやめた。
「事の発端は、二人で砂漠の民の依頼を受けたのがきっかけで、とにかく暑さをしのぐため、でも防御力は捨てられない。そんなときに出合ったのがこのビキニアーマーだったんです」
火鍼が当時のもどかしさを思い出したように熱く語り出す。
「私は忍びの訓練で暑さ耐性がありますから着なくて済んだのですが、当時の菫はこちらに転生してきたばかりで鑑定スキルは持ってなかったんだよね?」
「うん。それで着てみたら暑さは凌げたんですけど、無駄に男に絡まれるようになり、あげく着替えようとしても肌から離れず脱げなくなって二年近く……今に至ります」
「他のクエスト報酬でもらったマントを身に着けてからは男に絡まれる回数は減ったものの、大衆浴場に入るときもこの姿でいなくてはならなくて……お湯に浸かるときのあの周りからの視線には未だに慣れません」
「風呂は裸で入るところてすから……あははは」
二人そろって顔を見合わせ、苦笑いを浮かべた。
それから少し言い淀むように、菫が言葉を小さくつづける。
「解呪方法はもうひとつあるのですが、それにはあまり自信がなくて……」
「ほう。それはどのような方法なんだ?」
砌は菫が半分諦めたようなもうひとつの解呪方法が気になった。
「鑑定のスキルを獲得してビキニアーマーを鑑定してみたんです。そこに解呪の説明もあって……、それは、このビキニアーマーがきつくなるほどの成長を遂げること、というものでした……」
自信がないと言うのは、今現在でも充分すぎるほどパツパツできついのに、一向に解呪される気配がないことから来るものなのだろう。
「なるほどのお、それで別の方法に必要な、ドライアドの涙と言われる花の採取を選んだというわけだな。相わかった。そのドライアドとやらも斬ればいいのか?」
「いえ、意思疎通のできる精霊種に近い存在なので危害さえ加えなければ良好な関係を築けるそうです。ただし、特別なクエストの依頼をしてくるので、その依頼を達成した成功報酬でもらえるという話でした」




