第二話 菫と火鍼
「星樹の森へ行ける前衛の方を募集していまーす!一名の募集でーす!ご飯は提供するので腕に自信のある方いませんかー?」
白鬼に近くの町を聞いて来てみたら、どこもかしこも人集めの呼び子の声が賑やかに響きわたっていた。
「あのおなごの、腕に自信のある方って響きがいいねぇ。それに飯つきたあ豪勢だ。わるくない」
砌はすっかり気に入り、声のするほうへと迷わず足を進めた。
「よお、ねぇちゃん、一人と言わないで俺たち二人を雇ってくれねえかな? 腕には自信あるぜ?」
にたにた気色の悪い笑みをこぼしながら、下品な二人の男がおなごの体を舐め回すように見ている。
砌がおなごの姿をとらえると、目の前の視界に突如として透明な画面が浮かび上がった。
「なんだあこりゃあ?」
驚きつつもよくよく見てみると、どうやらあのおなごの情報のようだ。
「なになに、あのほぼ裸のような出で立ちなのはビキニアーマーといい、強固な恥かしめの呪いが付与されている……なんでそんなもん身につけているんだか……。で、職業は魔法使い、マントは全状態異常無効化が付与されている高級品。……金持ちの臭いはせんがのぉ」
そう独り言をつぶやき、砌は透明な画面を消すにはどうするのか思案した。試しに指先でそっと触れてみると、画面は瞬時に消えてくれたので胸をなでおろした。
「星樹の森のトレントや星樹の森に生息するモンスターの討伐記録を見せてください。記録があればお二人を雇わせていただきましょう」
「ギルドカードは宿に置いてきちまったよ。見せてやるから一緒に来てくれねえか」
二人の男が調子に乗っておなごの肩や背中に触れようとした、その時だった。
「不埒な輩に天誅!」
どこからともなく凛とした声が響いたかと思うと、おなごの脇を固めていた二人の男はその場に膝から崩れ落ちた。
「遅くなってすみません。菫、場所を変えましょう」
「助かったわ。火鍼さん。ありがとう。今日もはずれかしらね」
男どもを鮮やかに気絶させたおなごを見ると、また勝手にあの透明な画面が浮かび上がった。
「職業、忍。ほお、こいつは俺と同じ世界の住人かもしれねえな。でも、忍び装束ではないんだな、あれは夜着るやつだったか……まあ、いいか。この町に溶け込むための服装ってことなんだろう」
砌は思考を切り替えて指で画面を消すと、すたすたと二人のおなごのところへと近づいていった。
「止まりなさい!見るからに貧乏浪人って格好ねあなた! ここへは来たばかりかしら?」
火鍼が鋭い警戒の色を濃くし、腰を落とした低い姿勢のまま素早く身構える。
「いやぁ、透き通るように涼しげで聞き心地のいい呼び子だったもんでなぁ。そちらさんの声に見事につられたって訳よ」
そうカラカラと笑って言うと、はち切れそうなビキニアーマーを着用したマント姿の菫は、照れたような表情をかすかに見せた。
「それに飯つきたあ、心惹かれるねえ……、いや待てよ。そういや万年空腹腹泣かせだってのに、ここに来てから一度も腹が鳴りもしねぇ。どうなってんだ俺の体?」
砌は初対面の二人の前で、素朴な疑問をそのままぶちまけた。
「それはですね、転生ギフト、……ええと、神様からの贈り物と言えばわかるかしら?」
菫が少し困り顔で言葉を選びながら教えてくれた。
「神様にはあったことねえんで分からんが……。うーん?こうか……、ったぁ、画面がこういう時には浮かび上がらないんだな」
「……ステータスオープンと言えばいいですよ」
火鍼がまだ警戒を解かないまま、手短に言い方を教えてくれる。
「すてえたすおおぷん?」
砌のつぶやきに反応して、あの透明な画面がふわりと浮かび上がる。
「ふむ。俺の職業は特殊魔法剣士。砌流という我流の剣術を使う。この剣術に切れないものこの世界になし。前衛、中衛の両方をこなせる。大気中の魔素を呼吸により取り入れることで、空腹による体力消費を補える体質となった。とあるな」
細かな箇条書きの詳細を省き一息に読み上げると、二人の表情は目に見えて驚きへと変わっていた。
「あなたどこの時代の浪人ですか? 砌流? 聞いたことありませんね。私の時代ではなさそうです。それより、なんでも切れるというのは間違いないんですね?」
火鍼がすっと警戒を解き、食い気味で顔をぐっと近づけて尋ねてくる。
「こっちじゃあまだ何も斬ってねえが、修行んときは小山や城の石垣、空の雲、寺の鐘、束にした刀……罪人であったが人もそれなりに斬ってきたぞ」
「空の雲……ですか?」
罪人を斬ってきたという物騒な話よりも、菫は信じられないと言わんばかりの様子で呟いた。
「菫、空の雲は案外切れるのですよ。流派によると思いますが、いくつか方法はあります」
「そうなんですね。驚きです」
「それで、何だったか、とれんと? だったか、俺はまだ切ったことねぇんだが、斬るとこを見てから決めてもらって構わないぜ」
「わかりました。その腕、確かめさせていただきます」
そう、菫が納得の返事をしたすぐ後、地べたに転がって寝ていた二人の男がうめき声を上げ、目を覚まし始めた。
「面倒だし、場所を変えてくれ」
「また眠らせてやればいいだけ……。けれど、そうですね。ガラの悪いのに絡まれるのも不快ですし、行きましょう」
砌は二人の黒髪美少女の後につき騒がしい雑踏を抜け、静かな場所を目指して町の町の入口へと歩き出した。




