第十六話 決め手
砌は腰から抜いておいた二振りの刀を左手でつかみながら口を開く。
「おお、そうだった。この店は使い古しを真新しく元通りにしてくれるんだってな?いったいどうやるんだい?俺のこの二振りと、この着ているものでみせてくれねえか?」
そう矢継ぎ早に質問を投げかけると、腰に差していた刃毀れのひどい大太刀と刀身全体に錆びが目立つ脇差を鞘から抜いてカウンターへと置いた。着ているものについては脱がなくてもよいとのことだった。
「ひどい有様だろ?借金の形に出した代わりによ、渡されたのがこれでなぁ。俺の術ならこれでも問題ないんだが、戦いの幅を広げるためには良い刀を使いたいと思ってたところなんだ」
店主の一式直継はおもむろに刃毀れのひどい大太刀を手に取り「時間遡行」と呟くと次の瞬間、刃毀れがなくなり美しい輝きを取り戻していた。
「一瞬で!見るからに切れ味が凄そうなのがわかる美しさです!これって元は名刀だったんじゃないですか!?」
火鍼が店主直継のスキルに興奮を隠せないように、砌も驚いていた。
そんな火鍼と砌の反応を見て、直継の隣でさゆみは小さな胸を張って御満悦な表情を浮かべている。
「こりゃあ凄い。名刀とは聞いていたが、これほどとは思わなかったぜ。そしたら、こっちも頼む!」
直継は同じように手に取り時間遡行を施して脇差の錆びも完全に消えてしまっていた。
「美しい……。砌さん、名刀には名前がつけられると聞いたことがあります。この二本の刀に名前はあるんですか?」
「菫は鑑定でわかるんじゃないのか?」
「それが、Unknown……詳細不明と表示されて名前も特性も分からないんです。こんなことは初めてで、それで聞いてみました」
「そういうこともあるんだな。大太刀は日輪春風、脇差は枯山水って名前だ。春風は太陽光に当てると光を集め拡散する性質があるそうだ。枯山水はどんなに振っても風切音がしないって聞いたな」
「つまり、どちらも妖刀という訳ではないものの……、なんだか忍向きな刀に思えますね」
「これをもらったときの話では、なんだが、元忍の者が刀鍛冶になって打ったとか……。それはそうとして、お代を払うよ。おっと、火鍼への迷惑料とかで無料はなしだぜ」
「……わかりました。お代はこちらになります。ですが、着ていらっしゃるものについてはサービスさせてください」
そう言うと店主の直継は砌の着ているものをまた一瞬で真新しい衣類へと変えたあと、修理内容とともに金額が書かれた表を指差し、「刀大小二点で五千円でございます」と知らせてくれた。
支払いについて砌がこっちの貨幣に区別がつかずまごついていると、菫が見かねて横から教えてくれた。
「こちらの紙幣一枚でちょうどの金額になりますから、この五千円札で支払ってください」
「お、恩に着る」
「この世界の通貨単位なんですけど、私のいた世界とまったく一緒なんですよ。わかりやすくて助かりました」
そう言うと、一式直継は興味を抱いた。
「お、お嬢さんは昭和?それとも平成かな?私は昭和生まれだけど平成の時代に入って2000年の夏、この家ごとここに転移してしまったんです」
おそらく同じ世界線の転移者同士なのだろう。菫にだけわかる言葉を話しているようだ。
「私は平成生まれで、平成の次の年号、令和の時代から転移してきました」
「おお、なんと!次の年号に移ったんですか……」
直継は遠い記憶を探すような目をすると、隣に座る娘の頭を優しくなでた。
「な、なんすか? 人前で頭をなでないで欲しいっす」
さゆみは照れくさそうに抗議はするものの父の手をどかそうとはしない。
「ただいま。あらお客さんかい?ちょっと奥へ行くから横を通らせてもらうよ」
切符の良さそうな口調で店内に入ってきたのは一式直継の奥さんだった。菫と火鍼はその顔を見て驚いた。
「え!商業ギルドのギルド長、ロザーナさん!?」
「お母さん、おかえり。夕飯の支度できてるよ」
「そうかい。さゆみ、ありがとね、いつも助かるよ」
「いいのいいの。えっと……、それでねお母さん、こちらの砌さん、火鍼さん、菫さんからね、パーティに誘われたの。入ってもいい?」
「……あんたたちはレッドシザークラブのキング級を討伐したっていう話題の冒険者たちだろ?どうして内のさゆみを仲間に入れたいんだい?」
ロザーナはカウンターの内側を通り抜けたところで、さゆみのお願いを聞き、砌たち三人に向き直った。
「私たちには盾役が必要なんです。高い俊敏性を持つ火鍼さんに避ける間もなくダメージを与えた攻撃力、いえ、防衛力に私たちは惹かれました。どうかお願いします。さゆみさんを私たちの仲間に入れさせてください」
盾役が入ることで、砌と火鍼がより攻撃に集中できるようになるためにも、さゆみのパーティ入りは必要だと菫は熱弁を振るった。
「なるほどね。さゆみは攻守を兼ね備えた動く要塞だからね。あんたたちの見る目が確かなことは分かったよ。それで、さゆみ、この人たちとパーティを組むでいいんだね?」
「そうっす!」
「そうかい、分かったよ。……そのかわり、砌さんとやら、さゆみを傷物にしたら、許さないよ」
ロザーナは砌に鋭い視線を向ける。
「はあ!? 何言ってんだ、あったり前じゃねえか! 仲間に手は出さねえよ!」
砌は思いもしない言葉に全力で否定をした。
「心配しないでくださいロザーナさん、私たちがさゆみちゃんを一人にはしませんから」
火鍼と菫はロザーナに決意に満ちた表情でこたえる。
「それなら心配はいらないね。ロザーナさんも納得してくれたかな」
最初から賛成する気でいた直継が、ロザーナに改めて確認を取ってくれる。
「ええ、いいわ」
「やったー!お母さんありがとうっす!」
こうして、砌たちのパーティに強力な盾役、一式さゆみが仲間に加わった。




