第十三話 居眠り娘からの洗礼
ギルドを出た俺たちは通りの一番端にある武器屋へとと談笑しながら向かった。
「これで、念願の楔帷子制作にまた一歩近づけました。あいつの素材なら、今度こそ軽くて丈夫な楔帷子が完成するはず!菫、砌さん、二人に出会えて本当に良かった!」
なぜかもう感極待っている火鍼を菫が優しくなだめる。
「火鍼さんまだ気が早いです。感謝は楔帷子を身に着けてからでも遅くありません」
「ふむ。前いた世界からは持ってこれなかったのか?」
砌が素朴な疑問を火鍼へと向ける。
「はい。私は密命を遂行中に追っ手との戦闘で楔帷子ごと斬られ、蹴り飛ばされた先の石壁に衝突するはずが、それがどうやら次元の裂け目だったらしく、気づけば目の前に菫がいて体の傷を魔法で治してくれていたんです。これが私と菫の出会いなんですが、楔帷子は身に着けていなかったんです。次元の狭間に落ちたのかもしれません。それでこの世界で新調しようとしていた訳です」
「楔帷子を作れる職人なんているのか? 素材探しよりも難しそうだ……」
砌は想像したことをそのまま口にした。
「職人は意外とすぐ見つかりまして、それで今は、どの素材が適しているかで色々試しているところなんです」
「ふむ。それで、今回のクエストで目的の素材が得られる、可能性があると踏んでいるんだな?」
「はい。聞くところによると、双頭のギガントタートルは低ランク冒険者が単独で倒せる岩亀がライトクリスタルとミスリルを食べて存在進化したモンスターらしい、ということなんです」
火鍼が歯切れ悪く答える。
「らしいというのが、研究者たちの推測なんですけど、採取した核がライトクリスタルとミスリルが混ざった核 “レアメタルコア” だったからだそうです」
菫が火鍼のあとを継いで説明してくれた。
「つまり、核を壊さず倒す必要があるわけだが、俺だと壊しちまうだろうから、片方の頭の気をそらす役回りで頑張るぞ」
「ふふ。砌さんは話が早くて助かります。って話してたら着きましたね。ここが武器屋ですよ。ここには初めて来たので親方がどんな人物かは分からないんですけど、評判はすこぶるいいですよ!」
火鍼が看板を指差して元気よく伝えてくる。看板には『元通り一式』と書かれていた。赤いレンガ造りの壁に入口は明けっ広げ。中から人の気配は感じられないほど静かだった。
「あれ? 誰もいない?」
火鍼が気配を探る。
「ごめんくださーーーい!」
菫がよく通る声で声かけをするが奥からは一切反応がない。一応営業中の札が入口に掛けてあるのを確認すると、砌たち三人は店の奥へと足を踏み入れた。
店内は綺麗に手入れされた多種多様な武器や防具が所狭しと陳列されている。
三人は店内を見渡しながらカウンターのある奥まで進んでいく。そこには、気持ちよさそうに眠りこけている女の子が店番をしていた。
「気持ちよさそうに寝ているな……これを起こすのか?」
「心が痛みますよねえ……」
「二人とも甘いです。ここは癇癪玉を床にお見舞いして起こすんですよ!」
砌は、無慈悲な火鍼を、菫と二人で手と足を押さえて防ぐ。
「馬鹿!売り物に傷がついたらどうすんだ!」
「そうですよ!どれも良い品って鑑定に出てますからやめてください!」
菫はすでに泣きが入っている。
「うにゅ?……お客さま、店内で騒ぐのは、おやめください……それでは……寝るっす」
砌は、店番の女の子が起きたと思ったらすぐに寝に入るのを見て笑い始めた。
「ははははは! わりいわりい! また明日来るよ。よく寝るといいぜ」
「帰るんですか? 私がたたき起こします!」
そう言って忍刀を構えた瞬間、大槌が火鍼の目の前に現れ、火鍼は店の外まで弾き飛ばされた。
「が、はっ、」
後方に一回転二回転宙返りをして、なんとか受け身は取ったようだ。だが着地した直後、火鍼は血を吐いた。どうやら内臓を損傷するほどの衝撃があったみえる。
火鍼はすぐに立ち上がろうとしたが立ち上がれず、店番の女の子を睨みつけたあと、白目を剥いてその場に突っ伏した。
一瞬の出来事に体が固まっていた菫が我に戻り、入口へ振り返ると火鍼の元へ駆け寄った。
「火鍼さん!」
「こりゃあたまげたねえ……あー、なになに、『敵意には敏感なのでお気をつけください(店主)』。……なるほど、これは気をつけないと俺も殺られかねないな」
店番の女の子の後ろの貼り紙に赤字で注意書きされていることに今頃気づいた砌は、店を出て応急処置の済んだ火鍼を背負って宿へと戻った。
宿に着いてから二人分の部屋を借りることができ、火鍼をベッドに寝かした。菫がポーションを火鍼の腹部に掛けたり飲ませたりする必要があると言うので、砌は隣の一人部屋で武器屋での出来事を思い返すことにした。




