第十話 禁じ手
ほぼ同時にホースと砌は打ち込んだ。どちらも打ち込みの衝撃に押されることなくその場にとどまる。
硬直状態を嫌ったホースが木刀を左腕で合わせたまま体だけを反転させて砌の背後、後頭部めがけて右拳の裏拳をお見舞いしようとする。それを砌は前かがみになり自信が持つ木刀を右肩に担ぐようにして裏拳を防ぎ、身を低くした状態から背中をホースの方へ向け、左足による後ろ蹴りをホースの腹部へお見舞いする。
ホースは避けきれないと分かっていたようで腹に力を入れてその蹴りの衝撃を全身で耐えたが、体ごと後方へ一歩半ほど飛んだ。
「お見事」
ホースは短い言葉で称賛を送る。
「どういたしまして」
と言った次の瞬間、ホースが耐えた状態のままでいる姿勢の懐に一足飛びで飛び込み、蹴りを入れた同じ場所に木刀の切っ先で突き、続けざま、米の字を描くように✕の字から+の字をなぞる剣戟を繰り出した。
菫と火鍼の目には打突の後は一瞬の出来事で木刀が何回振られたのか、目で追えないほどの速さだった。
「ふう」
一息ついて砌が集中を切ると、立ったまま気を失っているホースが前のめりに倒れた。
「これでBランク以上は確定でいいんだよな?」
「Bランク確定おめでとうございます!」
菫と火鍼が満面の笑みでこちらに近づいてくるが、俺はそれを手で制した。
「そりゃあまだやるよな?」
立ち上がったホースは気を失っているにもかかわらず、目に見えるほどの闘気による湯気を体表から立ち上らせている。
「隔離閉鎖重力……目標……眼前の敵」
ホースがそう呟くと、砌はその場で身動きが取れなくなった。
(ほお、影縛りよりも強力だあこりゃあ……)
声も出せず、瞼も閉じられない状態となった砌は、うろたえることなくホースの様子を伺っている。
「菫! これまずいよね?」
「ええ、ホースさんきっと意識飛んでるわ!」
そう言うと二人は他のギルド職員を呼びに上階へと駆け上がっていった。
(あの二人にはこの技は見せたくなかったんでちょうどいいや。心配しなくても命は奪わねーよ。砌流剣術見切開眼)と唱えると、目を見開いたままの砌の両目は黒目と白目が反転しているかのように、瞳孔が白く、眼球は赤黒く染まっていった。
その目の先に、木刀を見るからに強化させたのがわかる色合いに変えて、ホースが木刀を上段に構えて今まさに振り下ろそうとしていた。
(ギルドカードと同じ色ということは、ありゃあ相当な硬さだろう)
心の内で軽口をたたきつつ、砌はホースの左肩を凝視した。すると振り下ろされた木刀は砌の頭ではなく左肩を叩いた。片手ならと受けてみたものの、凄まじい激痛が脳天から爪先にまで走り、見事に折られてしまったことを痛感した。
(くっそ!頭だったら死んでたじゃあねーか!いってぇ!こっちは腱を斬っただけなのによお!くっそ!くそくそくそくそ!くそいてえ!)
ちょうどそこに、体格のよい男が俺とホースの間に割って入りホースに当身を食らわせていた。
完全にホースが沈黙すると術が解けたのか、体が動かせるようになった。痛みを堪えながら、砌は瞼を閉じて開眼の解除をつぶやき、大きく息を吐いた。
「砌さん!大丈夫ですか!」
菫と火鍼の二人はその場にしゃがんだままの俺に駆け寄りケガの有無を確認する。
「左の鎖骨が折れて、肩甲骨の上部にヒビが入っています」
菫が一目見て俺の状態を把握しポーションの栓を開けて、半分を左肩へ掛けて、もう半分を口に当てられ飲むように促された。
途端に痛みが消えて、左腕が動かせるようになった。
「驚いた。こんな効き目の早い薬ははじめてだ。普通は動かせるまで早くても一月半、後遺症も考慮するとなると……とんでもねぇ代物だ」
「驚きますよね。これポーションと言って、普通に低価格で売ってるんですよ」
菫も最初は驚いたのだろう。この世界において一般的な薬らしい。
先ほどホースを止めてくれた体格のいい男が一緒に来たギルド職員に指示を出し、ホースを医務室へと運ばせたあと、俺に向き直った。
「砌と言ったか、すまない! 実技試験で負傷を負わすことはこちらの落ち度だ!」
そう言って深々と頭を下げた彼は冒険者ギルドの長を任されている者のようだ。
「俺はここのギルドを任されているバーンズだ。ホースがああなったのは初めて見たが、あんたよほどの腕前なんだな。ちょうどギルド会議が終わって帰ってきたところに彼女たちが血相を変えて受付に来たから何事かと思えばこの有様だ。肝が冷えたぜ」
「ほんとにちょうどよい時に居てくれました!ありがとうございます!」
火鍼が興奮気味に礼を言う。
「ところで、俺のランクはどうなるんだ?」
「ランク付けは今この場で、Aランク魔法剣士ホースの代わりにギルド長バーンズの名において言い渡す」
砌、菫、火鍼の三人は黙ってバーンズの言葉を待つ。
「ホースを術なしで気絶させた挙句、ホースの禁術を破ったことも高く評価し、新人冒険者の最初の確定ランクとしては異例の、Aランクとする!」




