13 二度目の冬至
冬至の儀式。
それは冬至の夜に、静寂の山のおおよそ二合目くらいの場所にある祭壇にて行われる一年に一度の儀式だ。ちなみに静寂の山はなかなかに大きい。
聞けば祭壇がある場所というのは、一合目の半分にすら満たない場所だったらしい。
時間は夜に行われる。魔物が多く生息するという場所だが、何故か冬至の儀式がある日だけはずいぶんと大人しく、おかげで問題なく儀式が行われるのだ。
この国では冬至が一年の終わりであり、始まりになる。派手なお祝いはない。ただ、家族等々で集まり、静かに、そして厳かに夜が更けるのを待つらしい。
今更ながら知ったことだが、彼らは誕生日を祝うと文化が無い。ただひたすらにこの凍土を生きる為に我らが神に祈り続けたのもあるせいか、祝うという文化が根付かなかったとかどうとか。
ではどうやって年を数えるのかというと、この冬至を迎えることで歳を一つ重ねると言う。確かにルイスは、よく十七になる歳だと言い、はっきりと自分の年齢を言い切ることはなかった。
なんとも分かりやすいなと、静はルイスから聞いた時、素直に思った。それと同時、全員が一緒に歳を重ねるのだと思うと、なんだかくすぐったいようなものを感じてしまった。
と、静は少しだけ現実逃避をしていた。ルイスに抱えられながら。
「……くやしい」
「転んだというのに何を言っているんですか」
「一回だけだった」
「どうせ続けて転ぶでしょうに。そしたらまた襲われますよ」
ルイスはいつものように軽々と静を抱えながら山を登る。ルイスの後ろには狼達が律儀に後をついてきており、その中の若い一頭の狼の上にはアラレがちゃんと乗っている。もちろんヨカゼの上にはスズカもいた。
そして先ほど、見事に転んだ静はこの狼達に突撃された。怪我がないかの確認らしいが、逆に怪我をしそうになるほどの勢いがあったと静は思い出す。
静はぐっと顔をしかめて言い返せず、しかし我慢できずにルイスの肩めがけて小さく頭突きをした。
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今回の儀式には数多くの者が参加する。
大神官であるヴィンセントはもちろん、大神殿内から選ばれた二人の神官。そして加護持ちのルイス、リーリア。聖女である静達四人。それと王太子のランスロット。
そして、眷属達を共にいる者達、エヴァンハイン家からジェラルドとヴィートである。ヨカゼや他の動物達は当然のようについてきているが、コユキとコテツはレオナと一緒にお留守番だ。当然ながらウーロがいる籠は伊織が持ち運んでいる。
ユアンとカルロスは当然のことながら資格がないため、麓で待機。他の騎士達はもちろん、レイメイの騎士達も今回ばかりは同じく待機してもらっていた。
「……何故、私が」
「まぁた言っているのかよ、ロバート」
「そうそう、諦めなって。シルドラに選ばれたんだからさ」
後ろの方では未だにロバートが泣き言に近いことを言っており、両脇からヘクターとノーマンが宥めている。けれども仕方が無い。ノーマンの言う通り、その首元から頭だけを出しているシルドラに選ばれた人間なのだから儀式に出ないという選択は出来ないのだ。
なんとも災難な人間だが、自ら飛び込んできたのはロバートだ。だから静は欠片ほど同情の念は抱かなかった。
「……やっぱり、そうだよなぁ」
そんな声に静は耳を傾けつつ、目の前の広がる光景に小さく肩を落としながら呟いた。
おおよそ一年前の今日。もう二度と名を呼ぶことのない、彼の神を相手に戦った。
神は死ぬことが無い。眠るか、もしくは存在自体を変えるかのどちらかだ。その結果、彼の神は名を変え、砂の神としてシルドラへと姿を変えた。
あの戦いは激しく、強烈なものだった。それこそ、目の前の大地を荒地に変えてしまい、あったはずの祭壇の姿さえなくなってしまうほどに。
ただ、不思議だったのは周りは白雪が積もっているというのに、儀式が行われるこの場には乾いて割れた大地がむき出しだったことだろうか。
それでも、そんなものすら気にすることが出来ない程に誰もが口を閉ざす中、奈緒の小さな声が星が満ちる冬空によく響いた。
「あ、ねぇ、静。私の力使えない?」
「……ああ、そっか。うん、そうだね」
突然の提案に、静は一瞬反応が遅れたがすぐに頷く。
やり方は変わらない。静と奈緒は向かい合うように立ち、互いの手を重ねつつ、祈りを捧げるように両手を握りしめる。
銀と紫の瞳が交わり、同時に瞼を閉じる。
そうして、晴れている夜空に雪、ではなくみぞれが振り始めた。やがてそれは完全な雨になるが、誰の身を濡らすことはなかった。
その代わりに、雨は乾いた大地を湿らせる。吐く息は瞬時に真っ白になるほどの寒さの中、潤いを得た大地にやがて緑が生い茂る。やがて蕾が膨らみ、そして色鮮やかな美しい紫の花が一面に満ちた。
周囲のざわめきに、静と奈緒はそっと瞼をあげながら手を離す。雨は祈りを止めたことで次第に止み始める。その中、静は奈緒の後ろにいる存在を見て、銀の瞳を見開いた。
『ばぁ』
「ひっ……! って、もう! メルヴェアータ! 驚くじゃないの!」
『うふふっ、ごめんなさいねぇ』
奈緒の後ろにいたのは、メルヴェアータだった。
かわいらしい見目同様の少女らしい微笑みを浮かべ、素足のまま紫の花畑に足を踏み入れる。とても機嫌が良いらしく、その場で一度くるりと周り、白いワンピースのような服の裾が小さくひるがえった。
そして咲いた花と同じ紫の瞳をゆるりと細め、奈緒を見つめた。
『すっかり元気ねぇ』
「ええ、もちろんよ。それよりあの猫達なんだけど」
『ええ、かわいいでしょう?』
「……はいはい。説明する気がないのね」
メルヴェアータは連れてきた猫達について、全く説明する気がないらしい。自由気まま。まさしく猫のようだった。
『ちゃあんと見守っているから安心してねぇ、奈緒』
「そう言いながらお昼寝してそうだけど」
『お昼寝って良いわよねぇ』
どうやらメルヴェアータはいつもどこかで昼寝をしているようだ。
本当は昼寝の必要がない。だが眠るという行為をどうやらメルヴェアータは気に入ったらしい。
『それじゃあ、またねぇ』
「ええ、待っているわ」
『うふふっ……ふふっ……』
一体何が面白いのか。メルヴェアータは両手を口元に当て、小さく肩を揺らしながらすぅ、と姿を薄め、消え去った。
本当に、何のために来たのか。様子を見に来たにしてもずいぶんとあっさりだと静は思った。だがすぐにいや、とそれを否定する。
メルヴェアータを示すもの。それは冬至のこの日にしか咲かないとされる、奈緒の力によって蘇った紫の花だ。美しく咲かせてくれたから、やってきたのだろう。
けどもそれにしたって、やはりあっさりし過ぎているように思えてならなかった。
「我らが愛娘達は自由だな」
「そのようだね。ところで神官達が固まっているけど」
「……面倒な。しかし、祭壇をどうするか……」
大きくため息をつくヴィンセントに、ランスロットは苦笑をこぼした。
祈るだけならば、別に無くても良いのだろう。しかし大神官であるヴィンセントが必要だと言うのであれば、用意しなくてはならない。
静は少し考え、そう言えばあれは石で作られていたものだと思い出す。であれば、だ。
「フィル、ゴズ。祭壇って作れる?」
「静様、そんな無茶振り……じゃ、ないっぽいです。ちょっと待ってください」
フィルは渋い顔を見せたが、すぐに手の中にいたゴズが両腕を振り回して是、と答えた。
ゴズが出来るというのであれば問題ない。
フィルはすぐに前に出て、ヴィンセントに話を聞く。大きく肩を跳ねさせたフィルは、咲き誇る紫の花の花畑へと目を向けていた。
あの中央に作れ、と言われたのだろう。何せ聖域そのものだ。フィルがひどく怯えてしまうのも無理がない。
するとフーリュがフィルの肩に乗り、飛び立つ。足にはゴズと、捕まえられたのかシルドラを持って。
そのままフーリュは中央に折り立つ。少しして、砂埃が舞いはじめ、一体どうやったのか祭壇が生えてきた。それはもう、にょきり、と。
形やらはまた少し異なるし、色もどことなく黒いが祭壇であることに変わらなかった。
「やるな。ほら、行くぞ」
ヴィンセントは満足げに頷き、そそくさと遠慮なく聖域に足を踏み入れた。
祭壇の上に、儀式の為に用意された一対の黄金の燭台。そこに灯された火は風もないのに僅かに揺れている。
さらにそこに黄金の天秤に、小さな杖。あれらはリディアータを示すものだ。
見上げる夜空には月と星。見下ろせば雪と紫の花々。
メルヴェアータは花。ラウディアータは今は隠れている太陽と星。そしてユフィアータは月と雪。
我らが神は天であると同時、煌々と紅く輝く原初の星でもあった。
「我らが神よ」
その祭壇の前に、ヴィンセントが跪く。後ろにいる静達はもちろん、この場にいる全員も膝をつき、祈りを捧ぐ。
「凍土に生きる我ら人をお見守りくださり感謝いたします」
ヴィンセントの淀みのない我らが神への感謝や賛辞の言葉が耳を撫でる。が、静はその並べられる言葉には耳を傾けることはなかった。
何か、不思議な気配を感じたのだ。別に嫌なものではない。妙にくすぐったく感じる何かが、横を通り過ぎる。しかも一度だけではなく、何度も。
静はその気配に釣られ、つい瞼を僅かに開き、すぐに銀の瞳を丸くした。
「え……?」
思わず、祈りの最中だと言うのに静は声を漏らす。その声に釣られて伊織や奈緒、真咲も顔を上げてそして、周囲を見渡し、最後には上空を見上げる。静の後ろもざわつき、ヴィンセントもまたようやく頭をあげ、ぐっと上を見上げた。
誰もが最後に上空を見上げる理由なんて簡単だった。
淡く、白い光。それらがふわりと大地から溢れ出し、上空へと昇っていくのだから。
伊織の力によって見た、あの眷属の光とは違うもののように感じた。
触れずともにこの光を目にしただけで胸の内に春が訪れたかのような温もりを感じる。穏やかな日差し。母の温もり。そんなものが詰め込まれたかのような光だった。
ジェイク達四人、それとロバートにリーリアは早々に聖域から外へと出ていってしまった。恐れ多いと言わんばかりの様子だった。けども聖域の外の大地からも光が溢れているのを前にして、四人は本当に変わらずに身を寄せ合い、ロバートはずっと祈っている様子だった。そんな五人の姿にリーリアは楽しげに微笑んでいた。
ヴィンセントが連れてきた二人の神官達はしきりに祈りを捧げている。片方は涙を流しているほどだ。
ランスロットはもちろん、ジェラルド、ヴィートもまた聖域の外へと出ているが、この光景を目に焼き付けるかのようにずっと見つめていた。
「……この儀式は元は弔いを意味していた、らしい」
「らしい?」
「ああ。いつからか弔いの意味が消え、我らが神へ感謝を伝える冬至の儀式となっていった。いつからそうなったのかはまだ明確には分かっていないが、そうとう古い記録にしか残されていなかったのが現状だ」
「……けど、魂じゃないよ。よくは……分かんないけど」
「そうか。しかし、昔の人間はこれを魂だと思ったのだろうな」
横で、ヴィンセントと伊織の会話が聞こえる。
静達はまだ聖域に残り、思い思いにこの光を眺めている。真咲と奈緒はきゃあ、と小さく声を上げつつ顔を寄せ合って話をしている姿があった。静と言えば、ぼうっと立って眺めていたらルイスが後ろから外套の中へとしまい込んできた。おかげでとても暖かい。
そして伊織とヴィンセントは横に並び、同じように光が昇る夜空を見上げていた。
「ただの幻か何かだとばかり思っていたし、一年前のあの時は伊織達が見せてくれたものだから、今後はもう見ることが出来ないものだとばかりに思っていたが……」
ヴィンセントは吐息を漏らすように、僅かに声を震わせ感嘆する。
「ああ……、なんと美しい光景だろうか」
伊織は一度、ヴィンセントを見やる。そして何も言わず、また同じように見上げた。
一体伊織はヴィンセントの何を見たのだろうか。しかし聞くのも野暮というものだと静は二人の背中を見るのを止め、昇る光と白い息を見つめ続けた。
光は、少しずつ少なくなっていく。そんな時だった。
「ねぇ、真咲。もしかして起こしたの?」
「歌ってないんだから起こしているはずないでしょ?」
奈緒の問いに、真咲は素早く否定する。というのもだ、いつの間にか聖域の外に淡く光る一人の騎士が立っていたのだ。気づいた時、誰もが驚き、若干の恐怖を滲ませて悲鳴をあげてしまったのは仕方がないと言いたい。何せ静もそのうちの一人だからだ。
騎士は聖域の中には入らず、しかし真っ直ぐに静、ではなくルイスを見ていた。試しにルイスの外套からそっと外へと出てみるが、視線は動かなかったので間違いはない。
「なんか、ルイスを見てない?」
「気の所為では?」
「ねぇ。剣抜いたし、切っ先向けてきたよ」
「……何故……」
光の騎士はずいぶんと好戦的なようで、腰から下げていた鞘から長剣を抜き、ルイスへと向けた。
「ルイス様と手合わせをしたいのでしょうか……?」
「絶対にそれだろ。あれは」
外にいるリーリアが頬に手を当てる横で、ようやく四人の塊から出てきたジェイクが今度はリーリアの隣に居座り頷いた。さり気なくジェイクは先ほどのルイス同様に、自分の外套へとリーリアを入れ込んでいた。
「こんな事ならユフィアータの剣を持ってくるべきだったかな」
「なぁ、ジェラルド。俺、全く分かんねぇんだけど」
「この地に眠られる騎士だよ、ヴィート」
「……まじかぁ」
エヴァンハイン家が所有している本物のユフィアータの剣は大事にしまわれているらしい。それは良いことだから是非とも持ち出さず、しまっておいて欲しいと静は思った。
「せっかくなら手合わせしたらどうだ、ルイス」
「そうだね。こんな機会はないだろうから良いんじゃないかな?」
そしてヴィンセントは当然のことながら、この状況を愉快だと言わんばかりに笑みを浮かべている。ランスロットはそこまで分かりやすい笑みを浮かべているわけではないが、声の調子がまさしくそれだった。
やはり二人は兄弟である。
誰も彼も、間に入ろうとも止めようともしないのを確認したルイスは目元を抑え、大きく息をついた。
「……面倒な」
「剣どうする? 作るけど」
「不要です。自分で用意しますので」
覚悟が決まったらしいルイスは聖域の外へ出ながら、白銀に鈍く光る長剣を魔力で編み上げ、片手で握りしめる。その動作には一切に無駄な動きがないのを見るに、見えない所で練習でもしていたのだろう。
ルイスはとても器用だが、鍛錬は決して怠らなかった。
ほぼ毎日のようにジェイクには投げられているし、近頃はエドヴィンとも木剣での鍛錬もしている。少し楽しそうだな、なんて静は思いながらいつもその様子を執務室の窓から覗き見ていた。
だからそう簡単に負けることはない、はずだと静は光の騎士に向かい合って立つルイスを見やる。
互いに剣を構える。そこで静は、そう簡単に勝てる相手ではないと理解した。けどもこれは手合わせのようなもの、だと思われる。であれば逃げる必要がなければ、是非とも相手をしなければいけないと言うものだった。
掛け声も何もなく、一斉に二人が前へと出る。どれほどルイスは健闘するだろうか。静は黙って行く末を見続けた。
光がほとんど消えかける頃。ルイスの手にあった白銀に鈍く光る剣は雪原に突き立てられていた。
「……参りました」
苦々しく、ルイスは自身の黒星を口にした。
光の騎士はそれを聞いてすぐ、ルイスの首筋へとそわしていた剣を引き、鞘へとしまう。そして騎士の礼をしっかりと行い、瞬く間に姿を消し去ってしまった。
なんとも身勝手な光の騎士だろうかと、静はこっそりと思いつつ、その場に立ったままのルイスへと駆け寄った。途中、うっかりつまづきそうになったのは御愛嬌である。
「……ルイス?」
「何でしょうか、静様」
「いや、うん。何でもないよ」
いつも通りのルイスだった。あくまでも、周囲から見れば、だ。
ルイスは雪原に突き刺さったままの剣を抜き、編んだ魔力の剣を解く。そのまま手は口元を覆い、僅かに視線を落とした。
「右……。いや、むしろ前に……、しかし……」
ぶつぶつ、とルイスは一人で先ほどの手合わせの検討をし始める。こうなったら長いのを静はもちろん、とくにジェイクは知っていた。
ルイスはとても勤勉だ。鍛錬の後はいつもこうして振り返り、場合によっては検討を始める。今までは隠れてしていたらしいが、近頃は堂々とその場でやるようになった。さらにジェイクに投げられて地面に寝転がったまま検討を始める時もあり、その度にジェイクがルイスを無理やりに起こしては邪魔にならないところにまた投げているほどだ。
そして今は何と言っても狼達がいるのだ。
突っ立ったままのルイスに遠慮することなく狼達は集まり出す。中には後ろ足で器用に立ってルイスの背中に乗ろうとしている狼もいた。もちろんヨカゼも含まれている。
「……何だ」
「遊んでほしいんじゃない?」
「静様相手ではなく?」
ルイスは全く分からないと言わんばかりに顔をしかめる。静は内心呆れつつ、ルイスの手を取った。
「手、握ってて」
「承知しました」
何の為に、という理由を聞かずに当然のように頷いたルイスは検討を再開する。
静はそのルイスを放置することに決め、下山はまだだろうかと周囲をゆっくりと見渡した。
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無事に冬至の儀式を終え、麓へと戻ってきた、わけであるが様子がずいぶんと異なり、誰もが焦りの顔を浮かべていた。
その中、静達が戻ってきたことに気づき、エリカが真っ直ぐに駆け寄ってきたのだ。とても、泣きそうな顔をして。
「ルイスっ……、リオンがっ……!」
滅多に声を出すことがないエリカが、縋るようにルイスを呼んだ。それほどまでに事態が緊迫していた。そして続く名前に、ルイスはぐるりと周囲を見渡し大きく口を開いた。
「ジル!」
ルイスは静を下ろす。その間に、ジルがすぐさまにルイスの元へと駆け寄ってきた。
「師匠、リオンがいない! たぶん森の中だけど、だいぶ奥に行ってるかもしれねぇ!」
森に一人。しかも奥にいる可能性がある。
このあまりにも危険すぎる行為に、さっとルイスは顔色を変えた。
「静様はここでお待ちを」
「うん。待ってる」
ルイスの視線はもうすでに暗い森へと向けられている。翠玉の瞳に映る光が慌ただしく瞬き始めていた。
「ノーマン、ヘクター。行くぞ」
「分かっているよ」
「おう!」
呼ばれたノーマンはすぐさま空へフーリュを飛ばす。そして呼ばれたヘクターと共にルイスの後ろについた。
二人がいることを確認したルイスは迷いなく森の中へと姿を消した。




