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08 綿毛、後に狼

 本日もまだまだ幌馬車での移動が続いている。

 周囲は木々ばかりが過ぎ去る。時折森の獣達や、魔物の姿を見かけた。今の季節に見かける魔物は、小さな魔物が多いらしいが、だからと近づくと魔物によっては大怪我どころでは済まなくなるとルイスは語った。

 先ほど見かけたのは可愛らしい兎のような魔物だったが、額には角を持っていた。あの角は幻覚を生み出すとか。ただし薬としても重宝されるものらしく、見かけた者はこぞって狙い、そして幻覚によって木にぶつかったりすることが多々あるらしい。

 ちょっとばかり見てみたい、と静は話を聞きながらこっそりと思った。


「冷たい!」

「見て。あそこ、魚いる」

「本当だ!」


 小川が流れる少し開けた場所で、本日二度目の休憩だ。ヴィンセントは幌馬車から降りず、中から小川で遊ぶ伊織と静を眺めている。どうやらあまり寝付けなかったらしい。

 対して伊織は今日も元気いっぱいだ。やはりヨカゼと共に眠ったのが良かったのだろう。どうでも良いことだが静は当然のように、気付けばルイスの腕の中で寝ていた。とてもぐっすりだった。

 なので二人して、きゃっきゃと声をあげて小川の中で泳ぐ魚を追いかけまわしたりと、幼い子供のように遊んでいた。素足になり、濡れにようにとスカートの裾を少し上に結んで遊んでいるためか、男達は一切近づいてこない。まだまだ幼いリオンもロバートの隣から動かないほどだった。

 ほんの少しの寂しさを抱きつつ、静は転ばないように注意しつつ、ぱしゃり、と水をまき散らす。ふと、その場から動かない伊織に気付いた静は、どうしたのかと小さく首を傾げた。


「伊織、何見てるの?」


 伊織は空を見上げている、ように見えた。ただ、その黄金の瞳はせわしなく左右上下に動いており、何かを目で追っているかのように見えた。


「えっとねえ……たくさんいるなぁって」

「何が?」


 静の問いに、伊織は説明が難しいのか、顔をしかめて大きく頭を傾けた。そして、あっと何かを思いついたのか、水しぶきをあげて静へと詰め寄り、両手を握ってきた。


「ね、静。ちょっと祈って」

「ええ?」

「お願い!」

「……仕方が無いなぁ。範囲は?」

「えっとね……よく分かんない」

「あの幌馬車が入るぐらいね」


 どうやら伊織は、見た方が早いと結論付けたらしい。

 静は仕方が無いなと思い、伊織の手と絡めるように重ね、そのまま祈るように握りしめた。互いの前髪が触れるほどの近い距離。ふっと互いの目線があい、どちらともなく笑みを零し、そうして瞼を閉じた。

 静は自分の身の内に宿る冷たい息吹を周囲へと広げる。穏やかな日差しの中、凍えるほどの風が黒髪を揺らし、水にぬれた足をすり抜ける。その中、淡く冷たい雪がふわりと舞いおり、二人が握る手に落ちて溶けた。

 それが合図のように静と伊織は瞼を開け、青空に雪が舞う、静が盾の力で作り出した空間を見上げた。


「……うっわ」


 そして思わず、静はあってはならない声をあげてしまった。

 何せそこには舞う雪だけではなく、白いふわふわとした綿毛のような光が大量に集まってきていたからだ。まるで埋め尽くさんばかりである。

 小川の側で控えていたリーリアとクレアはそろって目を丸くして見上げ、エリカは何を思ったのか、その場で祈りを捧げ始めた。

 クレアの側に置いていた籠の中から、ウーロがのそりと頭を出して、食べようとしているのか、ぱかり、と口を開く。しかし上からヨカゼが器用にその頭を遠慮なく踏みつけ、籠の中へと引っ込ませた。


「ねぇ、静。驚き方たぶん違うと思う」

「ねぇ、伊織。これ、眷属だよね? え? なんでこんなにいるの?」

「集まって来ただけだよ」

「集まって……」


 何故、という問いをしたところで答えなんて分かるはずもない。

 静は伊織の手を離し、片手を上へと伸ばす。すると、その手にいくつもの綿毛が近寄ってきた。見えてはいるが、不思議と触れられているような感覚は無かった。けども、ほんのりと温かいものは感じられた。


「……伊織は、いつもこういうのを見ているの?」

「今日は特別かも。いつもはもっと少ないよ」

「そっかぁ」


 無邪気に答えた伊織は手を広げ、くるりと回った。綿毛達は踊るかのように一緒に伊織と共に回った。足元にいた綿毛は跳ねた水に驚いてか、大きく上へと移動した。

 伊織はそれに驚き、あ、と目と口を丸くし、体が大きく傾いた。静がすぐに手を伸ばす。が、それよりも先に、小川から氷が姿を現し、伊織の体を受け止めた。

 静はすぐに幌馬車へと目を向ける。

 そこにはヴィンセントが呆れた様子でこちらを見ていた。


「……ねぇ、伊織。あれ、怒ってる?」

「怒ってないよ」


 怒ってないなら問題ないな、と静は楽観的にとらえるのだった。

 そして後でヴィンセント、ルイスからお小言をもらったのは言うまでもない。



 -*-*-*-*-*-*-*-*-*-



 さらにその翌日。

 ようやく墓守がいる神殿がある森の手前に到着した。静が知るのは雪深く、とても穏やかな森だった。休むのにはちょうど良く、しかし急ぐのには後ろ髪を引かれてしまうほど。

 そして改めて雪のない季節へ訪れた森は、光が溢れているかのように見えた。


「わぁ、すごい」

「何がすごいんだ」

「えっとね……うん。たくさん、本当にたくさんいる」


 同じ幌馬車に乗っている伊織は外を見つめたまま周囲を興味深そうに周囲を見渡していた。それをヴィンセントは器用に片眉をあげた。


「美しいか?」

「うん!」

「……そうか」


 ヴィンセントのただ一言の問いに、伊織は大きく頷いた。ヴィンセントはゆるり、と薄く微笑みを浮かべ、同じように外へと視線を向けた。



 何一つ変わっていない石造りの古びた神殿。ただ、今は暖かな季節ということもあり、枯れていた壁を這う蔦は青々とした姿へと変わり、性懲りもなく神殿を覆い隠そうとしていた。

 固く閉ざされたような扉。一見すれば誰もいないように見える神殿であるが、ヘクターは何も気にせずに大きく腕を振り上げて扉を叩いた。


「おーい! 生きてるかぁ!」


 墓守は老人だ。だからこそ生存確認というのは必要であるが、いきなりその呼びかけはいかがなものかと静はついつい呆れてしまった。

 ヘクターは大きく首を傾げ、もう一度腕を振り上げようとし、腕を下ろした。そしてすぐ、扉は大きく開かれた。


「生きとるわ! 馬鹿者が!」

「お、元気そうじゃん」


 開けられると同時、白髪が目立つ老人。この古びた神殿と裏手の墓を管理している墓守が大きな声を張り上げながら姿を現した。

 ヘクターはそんな様子の墓守の姿を見て喜びの声をあげ、すぐに横へと退いた。墓守はいぶかし気にヘクターを見上げていたが、すぐにその後ろにいた静の姿を見て大きく目を見開いた。


「お久しぶりです。お元気でしたか、墓守さん」

「お、おお……! これは、ああ……! ……ええ、はい。お久しぶりでございます、静様」


 目を細め、墓守はええ、ええ、と言葉を繰り返す。

 墓守もまた、静が魔力という毒に蝕まれていた時の姿を見ているから、尚更の反応であった。

 まるで好々爺のように静へと笑いかける墓守は少し遅れ、静のさらに後ろの集合へと目を向けた。


「しかし、これは一体どういう……。ああ、お前もいるのか。全く変わっていないなぁ」


 ヨカゼは機嫌良さげに尾を大きく揺らし、挨拶するかのようにぐぅ、と小さく答えた。やはり今回も言葉を交わすことはしないらしい。

 静は隣にいるヨカゼの頭を軽く撫でつつ、困ったように笑みを浮かべた。


「ええっとですね? 目的は特にないようなもので。ただ墓守さんに会いに来ただけなんですけども」

「それは光栄でございますが……」

「それで、その」


 困惑する墓守に静は申し訳なさを感じつつ、一先ずはと後ろへ軽く顔を向けた。


「あそこの……、すっごく良い笑顔を浮かべているのが金の聖女の伊織。後、隣にいるのが大神官のヴィンセントです」


 満面の笑顔を浮かべる伊織に、まっすぐに静を見てくるヴィンセント。その二人を先に紹介すれば、墓守はまた目を見開いた。

 そしてすぐ、墓守は声を張り上げた。


「ヘクター! 一体どういうことだ、これは!」

「オレに怒鳴るなよぉ!」


 最もな文句を言いながらもヘクターは墓守へ、すごく簡単な説明をし始める。そこにすぐ、ルイスも加わり、さらにはヴィンセントがいきなり入り込んだ。

静寂に満ちていた場所が一気に騒がしくなる。静はどうしたものかと思いつつ、きゅう、と鳴いたヨカゼの鼻先を指先で軽く突いた。



 ヴィンセントは墓守と話があるらしい。何やら大事な話だそうで、エドヴィンも連れて神殿の奥へと行ってしまった。

 その間、静達は思い思いに過ごしていた。


「何だか懐かしねぇ」

「そうですね」


 神殿から少し離れた森の奥。静とルイスは二人きりで森の中を歩いていた。

 ちょうど、今はノーマンと共にいるフーリュと初めて出会った場所だ。そしてユフィアータの眷属である鳥達の姿も見える。

 確かあの時、あの鳥達に襲われたんだよな、という記憶が蘇り、静は思わず顔をしかめた。

 動物やああいったものに好かれやすいのは、静が神に好かれやすいからという理由だからだそうだ。だが、それにしたって半分襲いにかかってくるようなのは勘弁してほしいものだった。

 ルイスのおかげで今回の旅は無事に終えられそうだが、もしいなかったら馬は静の元に集まるだろうし、途中に出くわす鳥達は容赦なく静の髪をついばんでいただろう。ヘクター曰く、魔物が多いような気がする、なんて言われたがそれについて静は全く自分のせいではない、と思い込んだ。


「ヴィンセントってどれくらい強いんだろうね」

「不明です。ただ、あのような魔術を相手にしなければならないので、戦い方を考えなければなりません」

「すごかったねぇ、あの氷。あんなの出来る人って、他にいるの?」

「聞いた話になりますが、アウグスト陛下は氷の魔術を得意としているそうです。また魔力に関しても、普段は抑えているとのことで、長く使えてきた者以外は実力が分からないというのが現状ですが相当の実力を持っていると推測されます」

「じゃあ、ランスロット殿下は?」

「殿下もまた魔力を多く持っていますが、ロビンが言うにはアルベルト隊長と同等。魔術は広く浅く。剣技を好んでいるそうです」

「そうなんだ」


 ルイスから聞くに、ヴィンセントは本当にアウグストによく似ているようだった。ランスロットは少しばかり異なるようだが、おそらくは今は亡き正妃、アレクシアに似ているのではないか、と静は勝手に想像した。

 しかし、と静は思考する。

 相当の実力を持っているであろうアウグストが、未だに姿が分からない敵の呪術によって操られていた。例え戦う上で強者であろうとも、呪術相手にそれは無関係に近いと考えても良いのだろう。呪術には呪術に対しての、正しい対応方法を確立しなければまたいつ、どうなるか不明だ。

 また、忌まわしきもの、と呼ばれる呪術とはまた同じようで異なる力も存在している。

 いい加減にはっきりとした手がかりを掴みたいところだが、今はまだそのための準備をしっかりと整えるところから始めなければならなかった。

 知らないことが多すぎる。しかし、異世界の人間である静は下手に触れることが出来ない。どうにかして、この世界の人間であるルイス達に解決してもらわねばならないものだった。

 厄介な理だ。しかしこの理こそが正しきことである以上、異物である静達が異世界の価値観で間違っていると認識しようと関係のないものだった。もし、それがまかり通るならば、この世界の基準となる法も容易く変えても良いということだ。自分達の都合の良いように。

 この世界を否定するかのような、下劣な行為そのものだと静は考えている。だから、理がそうである以上、静は大人しく従うつもりだ。ただ、可能であれば、この理を決めた相手に拳を一発だけ入れたいというのは変わらなかった。


「静様」


 ルイスが足を止め、静の手を軽く引いた。静は一歩遅れて止まり、ルイスの視線の先を置い、僅かに銀の瞳を丸くした。


「あ、狼」

「……どうやら、普通の狼ですね」


 木々の間から、銀色の狼達が覗き込むように頭を出していた。全体の姿は見えないが、体躯はずいぶんとヨカゼよりも大きく見えた。一体何頭いるのかと注意深く見ていると、大きな銀色の狼達の足元からころころとした小さな銀の塊が姿を見せ、駆け出してきた。


「わ、ちっちゃいのが……」


 それはまだまだ小さな子狼達だった。数は四頭。まっすぐに静の足元に駆け寄り、まるで遊べと言わんばかりにじゃれついてきた。

 大変可愛い。

 静はルイスの手を離し、その場にしゃがんでわしゃわしゃと遠慮なく撫で回す。とふと、ルイスの影が少し遠のいたことに気づき、静は顔を上げ、口元を引きつらせた。


「え、あれ、ねぇ、ルイス?」

「威嚇はされていないようですよ」


 ルイスは一切問題ないように落ち着いて言うが、静は背筋に冷や汗が流れていた。

 何せ先程まで木々の合間にいたはずの大きな狼達が静に迫ってきていたからだ。数は六頭。いや、八頭。なんて数であろうか。

 静は自分に落ち着け、と言い聞かせる。問題ない、今静の足元には小狼達がいるのだ。だからそう、きっと変なことはしてこない。何せ威嚇をしている素振りはなく、尾を穏やかに揺らしているのを見る限り、とても友好的なはず。


「あ、えっと。こ、こんにち」


 だから静は挨拶をしてみようと試みた。結果、途中で手前にいた大きな狼二頭に突撃された。見ように寄っては襲われたと言っても間違いないだろう。

 遠慮なく大きな体を静にぶつけ、後ろに押し倒し、遠慮なく頭をこすりつけたり、舐めてくるのだ。とても生臭かった。


「おも、重いです……! ねぇ、ちょっと!」

「本当に襲われるんですね」

「関心しないで助けろよ、おい! うぶっ……!」


 そしてルイスといえば、そんな静を放置して眺めている始末。思わず口調が荒くなる静だが、仕方がないことである。

 静は顔に覆いかぶさってきた狼の体を必死に押し返し、抵抗している最中、二つの声が耳に入り込んだ。


「何してるの?」

『あら。楽しそうね』


 声からしてリオンとヨカゼだった。

 探しにでも来てくれたのだろうかは不明だが、静は何故来たのかと聞く前に反射的にヨカゼに言い換えした。


「静さん全く楽しくない!」


 思い切り銀の狼の体をようやく押し返しながら、静はぎゃあ、と大きく吠えた。



 神殿に戻ってきた静の姿はなかなかにひどい状態だった。服は土や草に銀の毛まみれ。結われていた髪は、今は解かれているような状態だ。

 その姿を見たリーリアが慌てて駆け寄り、ルイスに詰め寄る。ルイスはしっかりと聞く姿勢を取りながら、視線は明後日の方向へと向けていた。


「ど、どうしたの? それに……」


 伊織はルイスとリーリアを横目に、静にすぐに駆け寄った。少し遅れてクレアも駆け寄ろうとするが、少し手前で躊躇するように踏み留まった。

 理由は簡単だった。なにせ静の周りには、あの銀の狼達がうろうろと集まり、好きあらばじゃれつくもとい、襲い掛かろうとしてくるのだから。


「遊ばないぃ……。静さん、遊ばないぃ……」


 静はルイスの手、というより腕にしっかりと抱き着き、必死に狼達の猛攻に耐えていた。

 何故いつものように抱きかかえられていないのかと言うと、今度はルイスにのしかかろうとしてきたのだ。しかも相手はルイスだからという理由だからか、牙をむきだす始末。

 すぐにヨカゼとリオンが防いでくれたが、そういうこともあり、一先ず静はルイスの腕にすがるくらいしか出来なかった。


「……おい。何がどうしてそうなっているんだ。そして何遊んでいるんだ、静」

「どこをどう見れば遊んでいるって?! 襲われてるんだけど?!」

「元気だな」


 古びた神殿の扉が開かれたと思えば、どうやら話を終えたらしいヴィンセントの姿があった。

 後ろから墓守とエドヴィンが顔をのぞかせ、二人そろって目を丸くしているというのに、ヴィンセントは呆れた様子で額を抑えていた。


「ルイス、説明しろ」

「見ての通りです」

「説明という意味が分かっていないのか? 伊織、何故、狼達が集まっているんだ」


 見るにしても限度があるだろうに、ヴィンセントは迷わずに伊織に問いかけた。伊織は小さく首を傾げる仕草をした後、たぶん、と言葉をつけて答えた。


「一緒にいたいみたいだよ?」


 せめて一時的な遊び相手として見てくれていたならともかく、一緒にいたいだなんて。なんと恐ろしい事だろうか。

 ヴィンセントは顔をしかめつつ、琥珀の瞳をくるりと回し、小さく頷いた。


「おい、ヨカゼ。こいつらをまとめられるな?」

 ぐぅ。

「良し」


 一体何が良し、なのだろうか。

 エドヴィンが伊織と、そしてヴィンセントを見やり大きく顔を強張らせた。


「ヴィンセント様……」

「我が大神殿の番犬になるぞ?」

「しかし他の者達が……」

「そこはヨカゼがどうにかする」


 こうなっては何を言っても無駄だと分かっているのだろう。エドヴィンはついに何も言わず、黙って目元を抑えた。


「……待って。ねぇ、つまりさ? え、わたし、また襲われる?」


 今のやり取りでまるで死刑宣告でも受けた気分になっていた静は、はっと気づいた。

 ヨカゼがまとめるということはレイメイの隊舎付近に、この狼達が住み着くと言うことに他ならない。つまり、行くたびにこの狼達に襲われかねない危険が発生したということだ。


「諦めましょう、静様」


 ルイスが潔く言うが、静は泣きたくなったし抗いたくなった。


「やだ! わたし聖女だよ! 聖女が駄目って言ったら駄目だと思うんだけど!」

「おそらくついてきますよ、この様子だと」

「けどぉ……!」

「王都近くで見られたら、深紅の討伐対象になりかねません」


 冷静に、遠い目をしながらもルイスは丁寧に答えてくれた。結果、完全に詰みであることを悟った静は、せめてもの抵抗で服を噛む一頭の狼の鼻先を少し強めに押した。

 狼はぐぅ、と小さく唸り、静の手を甘噛みしてきた。

 ちょっとかわいいな、と思ってしまったのは気のせいだと思いたい。

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