05 変わりゆく中で
レイメイの執務室。いつものように静は定位置であるソファに座り、傍らには読み途中の本が置いてあった。
「会ってきたよ」
そして伊織とヴィンセントが目の前のソファにそろって座っている。伊織の顔に、いつもの笑顔はない。むしろ険しいものだった。
「ミラベルさんと話は?」
「カップ投げられちゃったから出来なかった。あ、怪我はないよ。ヴィンセントが守ってくれたから」
「全く話にならんかった。静がいないと分かると出てけの一点張りだ。だからって会わせんがな」
伊織に続いてヴィンセントが呆れたように語った。
誰も何も言わないが、静はこれについては自分の落ち度であるとはっきりと自覚していた。
身分というものがない世界の生まれだから、というのは言い訳だと静は考えている。
このロトアロフという国で生きると決めた。そしてリーリアからは作法等々を教えてもらったわけだ。だというのにこの体たらくである。いつものように話せば良いという甘い認識が悪かった。相手は身分ある人だ。であれば、それ相応の接し方というのが必要だった。
とはいえ、と静はすぐにその考えに自分自身で疑問を抱く。
国王であるアウグストも、王太子であるランスロットともいつものように静はすでに接した。結果、何一つだって変わらない。
ということは接し方以外の問題があったということか。否、それでも、と静はつい思考をさらに深める。深めようとした、時だった。
外から大きな音が響き、隊舎が同時に揺れた。
「そこそこ響くな」
「何?!」
落ち着いた様子のヴィンセントは慌てる伊織の肩に触れ、落ち着かせる。控えていたクレアもまた目を丸くし、慌てて伊織の側に駆け寄った。
静はすぐにソファから立ち上がって窓に歩み寄り、外を見下ろした。
「ルイスだね」
ちょうど執務室の窓から見える訓練場。その中央にはルイスがおり、周囲の地面はそこから綺麗に地割れを起こしている。相手をしていたジェイクが片手で頭を抱えているのが見える。そしてルイスと言えばその場に片膝をついたまま、同じように頭を抱えていた。というより、おそらくあれは、体調が悪化して動けないだけなのかもしれない。
「ごめん。ちょっと話の途中なんだけど」
「構わん。ほら、戻るぞ」
「はぁい。あ、その前にシルドラどこ?」
静はすぐに執務室を後にしようとした時、伊織に呼び止められた。戻る前にシルドラを観察したいらしい。
素直に教えても良いものかと考えたが、どうせすぐに居場所はバレる。そう判断した静は素直に答えた。
「ロバートと一緒にいるよ」
「……ロバート?」
伊織は大きく首を傾げた。
そう言えば、伊織にはレイメイの新人を誰も紹介していなかったなと静は今更ながらに気づいた。
-*-*-*-*-*-*-*-*-*-
これで何度目か。隊舎前の訓練場の地面は大きく凹み、割れ、一部が隆起していた。
しかしこればかりは叱るに叱れないものなのだから、仕方が無いとしか静も周囲も言えなかった。
「戻るよ」
「いえ、後始末が」
「フィルがやってくれるよ」
これの原因であるルイスは何か言いたげに顔を曇らせるが、静は有無を言わせずに手を取る。ルイスは静の手を振り払うことはしなかったが、握り返そうとはせずにだらりと力が抜けたままだった。
静はわずかに眉を潜めつつ、片付けと整地の為に集まった隊員達の姿を見る。そしてその人物を見つけ、静は名前を呼んだ。
「ロバート」
「は、はい!」
集団の中にいた新しい隊員、ロバートが慌てて返事をしつつ静へと体を向けた。
「伊織がシルドラに会いたそうにしているから、逃さないでね」
「え、あ、承知しました! あ、まっ……!」
胸元に手を当て、ぴしりと姿勢を正し、まさしく騎士の姿勢を取ったロバートであったがすぐに姿勢は崩れ、慌てて自身の首筋に触れた。どうやらシルドラは小さな体をいかし、襟の裏側に身を隠していたらしい。
シルドラは伊織が苦手だ。伊織自身、シルドラに何かすると言うわけではないが、じっと見てくるのだ。居心地はすごく悪いし、苦手にもなるだろう。
「じゃ、後はよろしく」
もちろん静には知ったことではないので言うだけ言い、ルイスと共に訓練場を後にした。
男達の声が訓練場に響く。男達はフィルの指示に従い、隆起した場所を崩してならす。そうしてフィルはゴズに頼み、まるで何も起きていないかのように綺麗に仕上げていく。
新しくレイメイに入隊した男達、四人も当然駆り出され同じように作業をしていた。
その様子を見ていたジェイクに、ヘクターがおもむろに声をかけてきた。
「なんかさ、威力増しているよな?」
「今回は俺が悪いって言えば悪いっていうかさぁ。魔力まとわせてみたらどうだって言ったわけよ。そしたらこうなった」
「馬鹿じゃね?」
その馬鹿はどういう意味の馬鹿なのか。というか、誰に対してのものなのか。
ジェイクはそれが一体誰に対してのものなのか、ヘクターに問おうとしたが近づくその人物に気づき、問うのを止めた。
「なかなかに扱いが難しいようだな」
「ヴィンセント様さぁ、普通に来すぎじゃないです?」
「仕事はある程度終わらせている。それにあれを放置して良いのか?」
大神官としての仕事はきっちりとこなしているらしい。大神官の仕事がどんなものなのかと一瞬ジェイクは気になりかけたが、きっと頭が痛くなるものだろうと断定した。ジェイクはそれ以上のことを考えるのを止め、ヴィンセントが指す先を見る。
そこには邪魔にならない場所に座り、膝にウーロが入っている籠を覗き込む伊織がいた。ウーロを眺めているのかと思ったが、手をつっこみ、笑顔で手を引き抜く。そこにはかわいそうに、シルドラが捕まっていた。
「……伊織様、本当に蛇も蜥蜴も好きだよなぁ……」
「オレ、ちょっと分かんねぇ」
「俺も分からん」
ヘクターに続き、まさかのだいたい伊織のそばにいるはずのヴィンセントも同じく答えた。
ヴィンセントが分からないなら、せいぜい分かるのはもっと側にいる侍女のクレアか、それこそ静達だけだろう。虫だったら少し分かるのだが、とジェイクは思ったが、美しい白い蝶のヴィラと他の虫を比べるのはどうかと思い、考えるのを止めた。
「おやぁ、これはこれは、ずいぶんと派手にやりましたねぇ」
ゆったりと、粘りつくような独特の言い方。これが誰か、なんて考えるまでもなく一人しかいなかった。
「我らが隊長殿はどちらに?」
「さっき静様に連れてかれた。下まで揺れたのか、ユアン」
この隊舎の地下に新たに作った開発室から上がってきたユアンがわざとらしく肩をすくませる。その時、真新しい夜明け色のローブが大きく揺れた。
「ええ。おかげで大事な資材が棚から落ちてしまいましてねぇ。文句を言いに来たんですけども」
「おい。まさか、あいつ一人にしてねぇだろうな?」
「奈緒様の他、ヨカゼ達が見張っているんで問題ありませんよぉ?」
にんまり、とユアンは笑みを深めた。
他の新入隊員と共に、ユアンもまた正式にレイメイに入隊した。まとっている服は、ジェイク達の騎士服とは異なり、色や刺繍は同じでも上に来ているものはローブである。なんとも動きにくそうな衣服であるが、騎士ではないユアンにとってはちょうど良いものらしい。
そして新たに入隊した六人の内の一人、名前をクルトという元詐欺師がユアンの下についているわけだが、これがずいぶんと厄介な男だった。
「何だ。何かあったのか?」
「あー……実は昨日なんですけどね?」
「昨日というと、あいつらが来た初日か。どんな面白いことがあったんだ?」
笑みを深めるヴィンセントを見て、なるほどだからルイスはヴィンセントに報告をあげなかったのかとジェイクは理解した。
「ユアンにつけたクルトなんですがね? サボり癖がある他に、リーリアに色をかけようとしやがりまして」
「良く無事だったな」
「その無事だったっていう意味が分からないんですけど」
「お前と良い仲だろう?」
ヴィンセントは当たり前のように言う。だからつい、ジェイクは聞き逃しそうになり、一瞬遅れてピシリ、と綺麗に固まった。
「えっ……、なっ、どっ……」
「見れば分かる。で?」
何故、どうして。
ひどく動揺するジェイクに、ヴィンセントは不可思議なものでも見るかのように眉を潜め、本当に当たり前のように続きを促してきた。
ジェイクはヘクターとユアンの生暖かい視線を受けつつ、どうにか動揺を押さえこもうと数度、深呼吸を繰り返し、どうにか落ち着きを取り戻した。
「……リオンとジルが近くにいたんで、とくに何も」
「そうかそうか、吊るす時は呼べ。見学したい」
「もっとマシな見学したらどうですか」
「この中にいると暇で仕方がないんだ」
大神官という立場でありながら、ヴィンセントはとんでも無いことを所望してきた。ジェイクは今は側にいないエドヴィンの苦労が垣間見れ、つい無言で頭を抱えてしまった。
その間に、ユアンがヴィンセントに近寄った。
「たまには外に出られてはいかがですかぁ? というか、今まで出られたことがあるんですぅ?」
「遠慮なく聞くんだな」
「ただの好奇心ですよぉ」
にんまりと、何か裏がありそうな笑顔を浮かべるユアンだが、ヘクターが何も言わないということは本当に言葉の通りということだった。だが、それにしたって大神官相手に平気で聞く内容ではないと、さすがのジェイクでも分かることだ。
だが、ヴィンセントはその問に、機嫌を悪くすることなく平然と答えたのだ。
「無いな。せいぜい冬至の儀式の時に外に出るくらいだ」
「ランスロット殿下はよく深紅の騎士に扮して出ているようですがぁ?」
「あれと比べるな」
ヴィンセントは不愉快そうに顔をしかめ、ふいに琥珀の瞳が空を仰いだ。
「外か」
ぽつり、とヴィンセントは呟いた。
まるで、今まさに気づいたような、そんな音のようだとジェイクは聞き取った。
琥珀はどこを見つめているのか。この空にいる我らが神を見つめているのか。突き抜ける青を見つめていた琥珀が瞬き、ゆるり、と下へ降ろされた。
「どうした、伊織」
「ううん。何のお話しているのかなって。後、ウーロが魔力欲しいって」
ヴィンセントは駆け寄ってきた伊織が抱えている籠を見つめ、ああ、と声を漏らす。そして拳を握り、すぐに魔石を作り出した。魔石に気づいたらしいウーロが籠の中から頭を出し、大きな口を開けた。
手慣れた様子でヴィンセントがウーロに魔石を与えている横から、ユアンが籠の中にいるウーロを覗き込んだ。
「そう言えば、これは魔力を食らうのですよねぇ。ルイスのは食べないんですかぁ?」
「食べてるけど、なんかあんまり好きじゃないみたい」
「おや、好みがあるのですねぇ」
ふむ、とユアンは顎に手を当てて数度頷く。そしてまた伊織へと問いかけた。
「浄化の方はどうなっているんですかぁ?」
「毎朝ちょっとずつ。ウーロがたくさん溜め込んでいるからほとんど変わらないけど」
「確かに、そのようですねぇ」
黒い蛇の姿のウーロ。その正体は一向に誰も分からない、異世界からやってきた何か。
分かるのは黒い蛇の姿をしていて、呪術といったものを食べること。そして大量に食べすぎて、毎日静に浄化をしてもらっているが全く変化がないこと。そしてこの見た目で何故か相当に重たいことぐらいだった。
全てが見える伊織の瞳でさえも正体が見えないのだから、ジェイクはやはり蛇なのは確かじゃないかと勝手に想像していた。
ふと、ヴィンセントはそういえば、とウーロに魔石を次々に与えながら思い出したようにジェイクを指した。
「ところで伊織。こいつとリーリアが良い仲だっていうのは見ているから知っているだろう?」
「え、うん。知ってるけど、どうしたの?」
伊織は当然、驚くことなく頷いた。ただ、伊織の侍女であるクレアは両手で口元を多い、目をまん丸に見開いて驚いていた。
その様子を見て、ちゃんと隠せていたのだとジェイクは小さく安堵した。だが、この後すぐに周囲に広がってしまうのだなと、ジェイクは思わず遠くへ視線を向けてしまった。
「なあなあ、ジェイク。いつから? なあ、いつからなんだよ」
「そうですよぉ。距離がずいぶんと他と違って近いと思ってはいたんですけど、まさか本当にそうだったとはねぇ?」
ヘクター、ユアンが両脇からジェイクへ尋問を始めようとしてきた。ジェイクはあまりにも邪魔でうるさい二人に対し、少々奴上がり気味に声を張り上げた。
「うっせぇな!」
一先ず、ジェイクはどうやってリーリアに謝らなければならないか、と黙ったと同時に急いで考えてみることにしたのだった。
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静は隣にいるルイスの頬に触れる。翠玉の瞳の中の荒れていた光が穏やかな波のようになったのを見て、うん、と静は小さく頷いた。
「落ち着いた?」
「……申し訳ありません」
「はいはい。それじゃ、つけて」
謝罪を口にするルイスの言葉を聞き流し、静は何もつけていない右手を差し出した。
ルイスは静の右手に手を添え、その薬指に外していた指輪を付けた。
途端、なんだか不思議と軽くなった体に、静は体内に溜まっていた魔力がルイスへとまた移ったのだと知った。
静はルイスの様子を見る。ルイスは対し、苦し気に口元を歪め、額を軽く押さえていた。
「調整が出来れば良いんだけど」
「……そしたら、ほとんど俺に渡さなくなるのでは?」
「……ねぇ?」
鋭い視線を向けてくるルイスに、静は笑って誤魔化す。そして逃げるように話題を逸らした。
「魔力とか、魔術についてよく分からないけど。魔力過多? って、どういう感じなの?」
「今更ながらに聞くんですね」
「ほら、いろいろとあったから聞くに聞けなかったっていうか」
呆れるルイスは気だるげに小さく息をつく。それと同時、静の腰に手を回して引いてくるが膝に乗せてこないので放置した。
「常に体は怠いです。正直、異物感が拭えません」
「痛みは?」
「せいぜいこの頭痛です」
「そっかぁ……。薬を使っていた時とはまた違う感じ?」
「……忘れてください」
「やだよ」
以前の話だが、ルイスは回復薬を多用しすぎて頭痛の他、魔術が一時的に使えなくなるという状況になった。しかも愛娘達からの加護を受けている右目にも支障が出るほどだったと静は聞いている。
呆れてしまうような出来事だった。しかし、それの発端となる原因は静だった。だから責めはしないし、忘れることもない。
ルイスが静を一等大事だと思ってくれているように、静もまたルイスを一等大事に思っているから。
「ごめんね」
「謝罪は不要です。ただ、想像していたよりも魔力量が多いので、どう扱うべきかと……」
おもわず静から溢れ出た謝罪の言葉に、ルイスはすぐさまに否定しながら強く抱き寄せた。静はただそれを受け入れ、自らルイスに寄りかかった。
「……実際、どの程度使えるのかは試したいところではあるのですが……」
「ここでやったら大変なことになるよね?」
「そうですね。おそらくこの隊舎も無事では済まないかと」
「止めよう」
話しながら、ルイスは静の頬に触れる。黒革の手套に包まれた手は、そのまま静の首元に移動する。そして迷わず、静の首を飾るレースリボンに触れた。
「ルイス」
「何でしょうか」
いつも察しの良いはずのルイスは、静が言わんとしていることを何一つ分からないようにとぼけながら、レースリボンの端を少しだけ引いた。
だが、その手はすぐに離され、ルイスは静を抱き寄せたまま顔を上げた。
「何の用だ、ジル」
「すっげぇ嫌そうな顔するんじゃねぇよ、師匠」
気配で分かったのだろう。閉められた扉が開けられ、呆れた様子のジルが中に入ってきた。それと同時、白い塊が我先にと静の元へと駆け寄った。
静はすぐにいつものようにその白い塊、赤いリボンを付けたアラレを膝の上に乗せ、両手でわしゃりと撫でた。
「アラレだけ来たの?」
「こいつ、すっかり静様を寝床だと思ってやがりますよ」
「それは困るなぁ」
静はそう言いながらも頬を緩め、ねぇ、とアラレへ微笑みかけた。アラレは答えるように大きく白い尾を揺らした。
「新しい奴らについての報告です。隊長」
「聞かせろ」
ジルは手に持っていた書類をルイスの机に置いた後、姿勢を正し向き直った。ルイスもまたそのジルを前にし、静を抱き寄せていた手を離し、レイメイの隊長としてジルへと顔を向けた。
「ノーマンを追いかけてきたっていうライリーですが、ちゃんと静様のお言葉通り、リーリア立会の元、謝罪をしました。ただ、ノーマンが全く分かっていないので、正直意味があったのか分かりません」
「……頭が良いはずなのに、なんでそういうのは分からないんだ」
「知りません。で、クルトなんですけど。さっき来る途中に奈緒様から説教を受けていました」
「何をしたんだ」
「片付けが雑だったらしいです」
それは怒られる、と静は横で聞きながら頷いた。
「後の四人ですが、一人は漆黒の騎士だったのものあってか、すぐにレイメイに馴染めています。フィルはもちろんですけど、ヘクターともうまくやれそうです。隊長の同僚だと聞きましたが」
「同僚というより先輩にあたる。漆黒の中では派手な動き方をするせいか、あまり任務には出られずに書類仕事ばかりだった」
隠密、諜報を主としている漆黒には合わない人だったらしい。
名前はなんだったか、と静は思い出そうとしたがその前にアラレがにゃあ、と鳴いたので後にすることにした。
「残りの三人。元は深紅の騎士ってことなんで、レイメイのやり方にだいぶ戸惑っているようです」
「だろうな」
「……あのライリーもそうですけど、その三人。どこの小隊にいれる予定ですか。それに……」
「シルドラに選ばれたロバートの扱いについて、だろう?」
「はい」
それは今朝のことだった。
いつものようにシルドラと共に朝を迎えたわけだが、急にフーリュがやってきたかと思うと、シルドラを遠慮なく掴んで飛んで行ってしまったのだ。
一体どこに連れて行ったのかと思えば、何故かロバートへ。ヨカゼいわく、シルドラが気に入ったらしい。残念ながら選ばれてしまったロバートは責任をもってシルドラと共にいることをルイスから直々に命じられた、というわけだ。
「ヘクターにつける。何かあってもヘクターなら対処出来るだろ」
「了解です。他二人は」
「ジェイクだ。どうせ、一人はジェイクの気に入りだから問題ないだろう」
「そうですね」
残り二人の内一人は足技を使っていた、謹慎を受けていた騎士だ。なかなかに個性的な戦い方だったのもあってか、とくにジェイクは気に入っているらしい。
もう一人は騎士らしい所作を見せるが、聞けば特技は賭け事らしい。今回、入隊が決まったことによりなかなか良いものが手に入ったとか。常識の範囲内に留めてほしいと静は心から願った。
「ライリーは……正直、適正的にノーマンにつけたいとは考えている」
「問題ないと思いますが、念のためにノーマンから話を聞きます。もし、是と答えた場合、ライリーにはなんとお伝えしますか」
「実力を示すこと。以上だ」
「了解です」
隊長補佐として、一通りの報告を終えたジルは途端に姿勢を崩して大きく息をついた。
「そんじゃあ師匠、戻るけど。頼むから場所選んでくれよ」
「分かっている」
ルイスもまたレイメイの隊長としての姿勢を崩し、分かっていると言いながらもまた静の腰に手を回した。ジルは顔をしかめた後、騎士らしく胸元に一度手をあてて執務室を後にした。
もうすっかりと隊長補佐としてやるべきことをこなしているジルの大きくなった姿に静は感心した。
「もう子ども扱いは出来ないねぇ」
「それなら俺に対しても子ども扱いしないでいただけませんか」
「そうかなぁ? ねぇ、アラレ、そう思う?」
少しばかり不貞腐れるように言うルイスには答えず、静はアラレを呼んだ。名前を呼ばれたアラレは一度だけ静を見上げたが、すぐに瞼を閉じ、そのまま寝入るように顔を伏せた。
可愛らしい丸い後頭部を指先で突きつつ、静はちょっとしたお願いをすることにした。
「ねぇ、ルイス。お茶、お願いしても良い?」
「……もちろんです、静様」
「ちゃんと自分のも用意してね」
「承知しています」
話を逸らされたことが分かったらしいルイスは、眉間のしわを深く刻んだ。
素直な反応に静は小さく肩を揺らす。その反応がどうも気に入らなかったのか、ルイスはさらに静を強く抱き寄せ、唇に噛みついてきた。
ほら、子供だ。
静は仕方が無いなぁ、と思いながらその頭をわしゃり、と一つ撫でた。




