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白銀に踊る ~四人の聖女達は愛に貪欲に生きることにした~【第2部連載中】  作者: tamn
第2部 遠き日々を辿る 三章 結んで解いて
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06 忌まわしきもの

 レイメイの隊舎の外から、隊員達の騒がしい声が聞こえる。ついで、ジェイクの大きく張り上げた声が響き、すぐに静まり返った。

 何か問題が起きたのだろうかと、静はゆるり、とけだるげに頭を持ち上げる。とすぐに、ルイスがその目を覆った。


「お気になさらず。いつものです」

「……そう」


 つまり、誰かが馬鹿をやって、ジェイクがそれに注意をしたということだろう。

 静は小さく頷き、またルイスの腕の中でちょうどいい場所を探すのに少しだけ身じろいだ。


「もはや見慣れてきた」

「……何が」

「お前がルイスに抱えられる光景」


 その近く、ヴィンセントは呆れたように、ルイスの腕の中にいる静に向けて言い放った。

 静とて不本意ではある。しかし、この呪術の浄化というのは想像以上に力を使ってしまうのだ。さらに言うと、静は盾の力を苦手としている。おそらくは広範囲にわたるものだからだろうが、使うと眠くなる。

 そして今回、盾の力と浄化の力を合わせた結果、こうしてルイスの腕の中で大人しく丸まっていたのである。しかも今回は加えて発熱も出ているのもあり、体はいつもよりも重く、怠かった。ただ今回に限ってはどうしてか眠気はやってこなかった。


「あっそう」


 そしてそのヴィンセントと言えば、現在上半身裸になり、怪我を負った肩から腕を奈緒の治癒の力で直してもらっていた。

 ちなみに服は奈緒が脱がした。その遠慮の無さに、さすがのヴィンセントも少しだけ気圧されていた。


「何か言いたげだな」

「思ったより貧相だなって思った」

「誰に言っているんだ? 俺は大神官であって騎士ではないんだぞ? とはいえ、ユアンよりはマシだろ」


 そうかもしれない、と静はつい頷く。そして先ほどようやくレイメイに到着したユアンは、怪訝そうな顔を見せた。


「なんですかぁ? 盾にすらならない僕に戦えとぉ?」

「けど、ユアン。今、ウーロ持ってるよね」

「今は身体強化を使っているからですよぉ、伊織様。しかし、本当に食べたんですかぁ? 大きさ、鱗の色艶、何一つ変化は見当たりませんが……。ああ、以前の重さを記録するべきでしたねぇ」


 そもそもとして今日もレイメイにやってくる予定だったらしいユアンは、軽くルイスから話を聞いた後、根源を食らったウーロを撫でまわしながら隅々まで観察し始めていた。

 ウーロは助けてほしそうに伊織の膝の頭をのせているが、伊織は止めずにその頭を撫でている。

 ちょっとだけウーロがかわいそうに思えてしまった。


「あれ? まだ話始まってなかったの? っていうか、何で服着てないのよ」

「奈緒に脱がされたんだ。治療の為でな」

「ああ……」


 用事を終わらせた真咲とカルロス、そしてアリッサの三人が揃って隊舎の中へと入ってきて、そろって三人共、目を丸くした。だがヴィンセントから理由を聞き、納得したように真咲は頷いた。

 そして真咲は静のほど近くの椅子へと腰かけた。


「静、ありがと。良い場所あったわ」

「良かった。他の子達は?」

「一緒にいるわよ、あっちで」


 隊舎の裏手。真咲達はそこに導いてくれた鳥の小さな墓を作っていた。真咲の穏やかな表情を見るに、良いものを作ったようだ。

 そうこうしているとヴィンセントの隣で祈りを捧げるように両手を組むように握り、瞼を閉じていた奈緒が手を下ろし、瞼を開いた。


「……一応、これで治ったと思うけど」

「ああ、問題ない。治癒の魔術とは比べものにならないな」


 ヴィンセントが戻ってきた時、簡単にだが傷はふさがっていた。ただ酷い痕が残っている状態だった。それが今や、傷痕なんて最初からなかったように綺麗になっていた。


「……まぁ、あまり人前では使わんほうが良いだろうな。これは」

「分かっているわよ」


 元から力を使いたがらない奈緒は、当たり前に頷いた。

 控えていたエドヴィンが無言でシャツを渡す。あれはノーマンの服らしい。サイズは問題ないようで、ヴィンセントはすぐに腕を通しつつ、ぐるりと見渡した。


「さて、状況の整理だ」


 被害の状態。怪我人の有無等々をヴィンセントはエドヴィンとルイスから報告を受け取る。

 そしてルイスは、静とシルドラが行っていた会話の内容を報告した。


「シルドラの話によれば、あれは呪術であり、呪術とは異なるものだそうです」

「だから静はそうなっているのか」

「……それは不明です。ですが、力を多く使った、と」


 静の状態をルイスが曖昧に答えた。しかし、そう答えるしかなかった。静自身も、毎回こんな状態になる理由を理屈で分かっているわけではなかったのだから。

 いつもならやってくる眠気もない。口を開くのすら億劫や静は、ただルイスとヴィンセントの会話に耳を傾ける。


「また、あれは誰しもが使えるものではない、とのことです」

「それは良い事を聞いた。相対したが本当にノーマンの言う通り、どうも認識阻害の何かしらを使っているな。おかげで人相を何一つ覚えていない」


 ヴィンセントはいつものように、何が面白いのか喉奥を鳴らすように笑った。


「まさしく、凡庸な男。マティアスの証言通りだ」


 しばらく続くヴィンセントの笑い声に、ルイスは小さく息をついた。


「話を戻しますが、あの力について。シルドラは忌まわしきもの、と言い表しました」

「呪術ではなく、か。ああ、だから呪術であり、呪術とは異なるもの、と。しかしまるで謎かけだな。静が得意ではないのか?」

「理故に、静様達は触れてならないもの、だそうです」

「また理か。では、どう対処しろと?」

「この世界の人間であれば触れられる。それが唯一の赦しである、とのことです」


 ヴィンセントはそれを聞いてすぐに、未だにウーロの身体を触り続けているユアンへと振り向いた。


「おい、ユアン。遠慮なく探求して良いそうだぞ」

「なんとも素晴らしいお言葉でしょうねぇ。しかも、赦しを得られているとは……」


 にんまり、とまるで何かを企んでいるかのようにユアンは目を細めて笑みを大きく深めた。


「意味分かんねぇ」

「大丈夫よ。あたしも分からないから」

「むしろ真咲様は分かんねぇままの方が良いってことだろ? 何も大丈夫じゃねぇよ」


 どうもこう言った話が苦手らしいカルロスは肩は大きく顔をしかめていたが、真咲が知ってはいけないことであることだとは理解してくれたらしい。


「しかし、呪術であって異なる。そして忌まわしきもの。何かしらの手がかりが残っていれば……だが」


 何はともあれ、見つけるにしても手がかりとなるものを見つけるのが先決であった。

 静達が関わっても良いものであれば、遠慮なく伊織の見る力は使えるだろうがそれは使えない。ルイスも多少なりとも見えるが、比べれば些細なもの。

 しかも、忌まわしきものと呼ばれる力は全て消え去った。だから何一つ残っていない、はず。

 眠気はないのに怠いせいか、静はいつもよりも回らない頭で思考を巡らせる。


「どうしたの? ウーロ」


 重苦しい空気が満ちるのもあってか、伊織の明るい声がよく聞こえた。

 見れば、ようやくユアンの手から逃れたウーロは長い身体を大きくしならせ、次いでぱかりと大きく口を開く。そして、そこからどうしてか赤い石がころりと転がり落ちた。


「え? 石?」

「おやぁ? これはなかなかに面白いですねぇ」


 伊織は目を丸くし驚いている横で、ユアンは躊躇なく赤い石を拾い上げた。

 静はどうにか思考を巡らせながら、変わらずに服の中に潜んでいるシルドラに呼びかけた。


「……シルドラぁ」

『なんだ』

「あれ、根源?」

『そうだ』


 どうやら忌まわしきものは、あの赤い石から生み出されたもののようだった。

 掌につつみ込められるほどの小さな赤い石がまさかの根源だとは、誰しもが予想していなかった。


「……おかしいですねぇ」


 何とも小さな手がかりだった。

 けどもユアンはその赤い石をしげしげと見つめながら、思考を回しているのか僅かに身体を横に傾けた。


「こちらは魔鉱石ですよぉ。異国の」

「異国の? 魔鉱石って全部同じじゃないの?」

「ああ、そうですねぇ。伊織様達はご存じなくても不思議ではありませんし」


 この国にあるのだから、異国にだって存在していてもおかしいことではない。だが、石を見ただけでそれをいとも簡単に見抜くことに静は疑問を抱いた。

 伊織もまた同じような疑問を抱いたようで、大きく首を傾げる。それを見て、ユアンはゆっくりと説明をしてくれた。


「このロトアロフの魔鉱石は、金や銀、銅。後は鉄といった鉱石になりましてぇ。ですから、こういった鉱石はそもそもとして我が国は出土しないのですよぉ」

「そうなの……?」

「はい。そして、魔鉱石の取り扱いは非常に厳しいのですよぉ」


 ユアンは赤い石を外から入り込む光にかざし、眺めながら続けた。


「ただの宝石や鉱石であれば容易に手に入りますが、魔鉱石は国の要ですからねぇ。もし、違法に手に入れてしまえば即座に牢へと入れられるでしょう。何せ、我が国は魔鉱石の鉱山があるがゆえに、幾たびも隣国から攻め入られて、戦火に巻き込まれた歴史がございますのでぇ」


 しかし、この国は何事もなく、静達は異国からの脅威というものがないまま過ごしてきていた。もし、今も異国からの脅威に晒されているのであれば、このように座ってじっくりと呪術やらの話なんて出来るはずがない。さらに言えば、特に見目が異国と相違ないルイスだってこの場にいないかもしれない。

 その歴史はあった。しかし今は、現状のこの出来事を除けばとても平穏な国だった。

 北の鉄壁。

 この国がそう呼ばれる所以は、そこにあるのだろう。


「まぁ、それが良いんですよぉ、今は。問題は、魔鉱石が使われたという事実。そして、呪術との関係でしょうかぁ」


 ユアンはヴィンセントへと目を向け、赤い石を差し出すが当然届くはずがない。間にエドヴィンが入り、赤い石はヴィンセントの手の中へと転がった。

 ヴィンセントもまた、ユアンと同じようにしげしげと眺めつつ、口を開いた。


「呪術とは、何かしらの媒介を必要となる。その媒介となるのは、相手の長年使われてきた物や血や髪といったが使われる。ここまでは良いか?」

「うん」

「そしてその呪術を解呪するには、媒介となるものを破壊する必要がある。正直見つからなくても、呪術返しという面倒な手法も編み出されているわけだが……」


 伊織が理解していることを確認しながらヴィンセントは続け、不愉快そうに顔をしかめた。


「今回、使われた呪術に関して言えば、その媒介が異なる。いや、使われているのかすらも怪しいほどだ。あの薄気味悪い人形もしかり、薬に仕込まれたものもしかり。後はノーマンや、俺に直接向けられた呪術も同様だ」

「え、待って。ヴィンセント、使われたの?」


 伊織がつい、驚きの声をあげる。が、その報告を当然のことながら今初めて聞いたルイスは、無言で顔をしかめる。

 ヴィンセントはわざとらしく肩をすくませ、なんてことなく頷いた。


「ああ。まさかあれほど動けるとは思わなかったがな」

「それじゃ、浄化とか」

「安心しろ。解呪はした。と言うか、力技で取り除いたと言った方が良いかもしれんが」

「そうなの……?」

「そうだ。体内にある呪術を血を通して体外に排出する。魔石を作る要領に近いが、難点なのは体外に出すためにどこかを斬って血を流す必要があるんだが」


 何かよく分からないが、静は勝手に陣やら、特別な魔術なりを使ってノーマンの呪術を解呪したものだとばかりに想像していた。

 もちろんだが静は聞いてはいない。何かのついでの時に聞こうとは思っていたが、まさかの痛みを伴う方法だとは全く想像していなかった。


「発案は僕なんですがねぇ……。他の方法をまだ見つけられないんですよぉ、残念ながら」

「だが、それでも対処できたのだから素晴らしい功績だ。それに、静が浄化をせずにこちらに任せてくれたおかげとも言えるな」


 思わず、静は顔を歪めた。

 確かに浄化が出来る自分がいなくても対処ができるようにと解析をさせたのは静だが、こうも面と向かって言われるほどのことでもないと思っていた。


「おい、俺が褒めてんだぞ。何故、そんな顔をしているんだ」

「別に?」


 そしてヴィンセントのこの上から目線の良いようだ。

 別にいつものことであるため不愉快さはないが、なんとなく、とくにヴィンセントから褒められることには素直に受け取れなかった。

 静の反応のどこが面白いものがあったのかは不明だが、ヴィンセントは小さく肩を揺らし、ユアンに視線を向けた。


「ああ、そうだ。それで、ユアンに聞くんだが」

「何でしょう?」

「人間の体に、魔鉱石を埋め込んだらどうなる?」


 何気なく発したヴィンセントの言葉によってか、まるで凍り付いたかのように静寂が満ちた。誰もがぴしりと固まり、ヴィンセントを凝視している。

 問われたユアンはたっぷりの時間をかけ、小さく体を傾け、長い銀の髪が肩から滑り落ちていった。


「……よくもまぁ、そのような恐ろしいことを思いつきますねぇ」

「思いついてはいない。見たままを聞いただけだ」

「は?」


 魔の抜けた声をこぼすユアンをそのままに、ヴィンセントはちょうど胸の中央付近に人差し指を指した。


「ちょうどこのあたりだったか。ここに、青い魔鉱石が見えた」

「……何か、そう。首飾りとして?」

「いや。埋め込まれていた」


 どこに。体に。

 

「……それは……、なんと恐ろしい……」


 ユアンは恐怖からなのか、口元を引きつらせながらも器用に肩を揺らしながら笑みをこぼした。


「ふふふっ……どういう原理化は不明ですがぁ、魔鉱石を使い、あの呪術……いえ。忌まわしきものを作り出した、と考えるのが筋でしょうねぇ。しかも誰しもが使えない……。それこそ、魔鉱石を埋め込んでいるからこそ使えると……」


 そこからぶつぶつとユアンは一人、思考を回しながら呟き続ける。

 魔術や魔鉱石、そして呪術についての知識のない静には一切分からない言葉がいくつも耳に届く。とはいえ、ユアンが独り言のように言っていた言葉に、なんとなくだがようやく合点が言った。


「……ああ、うん。そっかぁ……」

「静様?」

「いや、うん。なんかぁ……すごくこう、力を使うなぁと思って……後はねぇ」


 そもそも、静の知る呪術とは性質が異なる。だから今までとの力の使い方が異なるのも仕方がないことだろう。とはいえ、何がどう違うのかは未だに不明であるのだが。

 そしてもう一つ。

 ぐらぐら、ふつふつと湧き上がる熱。とても身に覚えのある症状に、静はようやく見当をつけた。


「なんかぁ、それ、体の中にたまってる感じがするというかぁ……。たぶん、魔力……なのかなぁって……」


 以前、ユフィアータの力がずっと弱まった時、静はひどい熱に悩まされた。

 静を守る力が弱まったのだ。その結果、異世界の人間である静にとって、毒でもあるこの世界の魔力のせいで体を蝕まれてしまったのだ。

 まさしく、今はその状態と同じものだった。

 しかし今は、あの時と違ってユフィアータの力は弱まっていない。それはつまり、静を守る力までも使ってしまうほどに浄化の力を使ってしまった、ということだろう。


「ルイス。僕が作ったあの魔具、どこにあるんですかぁ?」

「静様の部屋にある」


 静がゆらゆらとする意識の中で、ゆっくりと思考を回す中、ユアンとルイスの会話が耳に届いた。

 それからすぐに静は自分の体持ち上げられるのを感じた。


「静様、部屋に戻りますよ」

「はぁい」


 呆れるルイスの声が聞こえる。

 静はいつものように気の抜けた様な返事をすると、呆れた様に息をつかれた。静はそのいつものルイスの反応が返ってきたことを知り、へらり、と笑った。

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