97 シーカー活動初日
「まさか受かるなんて……」
顔写真の載ったシーカー免許を見つめて溜息を吐く。
私の先天スキルには攻撃性がない。だから受かるのは難しいんじゃないかと思っていたのだけれど、何とかなってしまった。
誤算の要因は分かっている。私の想像よりも後天スキルの性能が髙かったから。もしくは先天スキルの平均的な性能が低かったからと言い換えてもいい。
私の【ネクターパラソル】には攻撃力はないけど防御には使える。それだけでアタリな方だ。
訓練中に他の受験者と協力することもあったけど、彼らの中には『爪を光らせるスキル』とか『体臭を消せるスキル』みたいな戦闘に使えないスキル持ちも多かった。
「そういうスキルこそ後々チートスキルになるんだ!」と『眼鏡が曇らなくなるスキル』の青年が力説していたけど、少なくともランク一の私達には無縁の話。
それに引き換え後天スキルは優秀だ。
<魔刃>も<魔弾>もそれ単品で容易くモンスターを倒せる威力がある。
一応、私が体を鍛えていたからというのもあったとは思うけど、それについては誤差だろう。
なぜならば……。
「ぜえ、はあっ……ふう、ごめんごめん、待たせたね」
息を切らせながらやって来たのは父さん。
体力測定の全ての項目で私以下だった父さんが私より早く訓練課程を終えていたのだから恐らく身体能力は重要ではない。
「予定通りだし別にいいけど……混んでたの?」
「電車を乗り間違えてしまってね……いやはや面目ない」
父さんはこの辺りの土地勘がない。
こんな時代だ。家族が離れ離れなのは心配だと引っ越して来たばかりだからだ。
一緒にシーカー活動するためって理由もあるとは思うけど。
「それじゃ行くわよ」
黒い亀裂──ゲートへと視線を向けた。
河川敷の土手に存在しているゲートの周囲には簡易的な囲いやロッカー、監視カメラが設置されている。
如何にも急拵えといった風なそれに近づきスキャナーにスマホを翳す。ピロリンと電子音が鳴った。
このアプリは『シーカーマップ』。国内ダンジョンの位置の確認と進入届の提出が行なえる。
シーカーと言えどダンジョンに出入りする際は報告が要るのだ。
そうして仕切りの内側に入り背中のバックパックを下ろす。
中身は支給品の縦長な盾。ダンジョン産の素材で出来ていて軽いのに鉄のように丈夫らしい。
それからバックパックを背負い直す。
これで私の準備は完了だ。
防具は元から着て来ている。仕切りの内側でなら武器の所持も許可されるけど、私は身軽さ重視で持っていない。
【魔力】が必要ないってアドバンテージはあるけど、大抵の武器は<魔刃>に敵わないから。
父さんの方も同じような装備のため準備はもう終わっている。
私は改めて黒いゲートに向き直る。
講習で耳にタコができるほど聞かされた。この亀裂の大きさや枝分かれの密度は、ダンジョンの規模とモンスターの強さ、フラッドまでの猶予時間の指標になる。
『シーカーマップ』に記された情報と相違ないか確認しなくてはならない。
それから一度深呼吸しダンジョンゲートに触れる。
「う……」
最初の印象は「暑い」だった。
冬まっただ中の日本から黒い罅を一つ隔てた先にあったのは、砂漠。
ダンジョン特有の灰色の空で日射は無いけど気温は真夏以上。呼吸をするだけで体力が削られる。
「ふぅー、これはキツイ。スキルを使いたくなってくるなぁ、この服、通気性悪いし」
父さんが汗を浮かべながらそう言った。
私達の身に纏う防具もまたシーカーになった際に支給された物だ。
何とかという部隊で使われているのとほぼ同等の物だそうで防御力は確かである。
モンスターはどんな攻撃をして来るかもどこから襲い掛かって来るかも分からない。警戒は念入りにと口酸っぱく言われた。
なので私達は話ながらも周囲を見渡していたし、おかげでソレにもすぐに気付けた。
「モンスターね。三時の方角から一体、空を飛んでいるわ」
砂丘を越えて向かって来たのは、人と鳥を融合させたようなモンスター。
骨格は人に近いけれど顔は長い嘴が生えていてカワセミのよう。腕は羽になっていてそれをバサバサ動かして飛んでいる。
「ハーピー種、だったかな?」
「たしかそうね。一体だけだしまずは私がやってみるわ」
「そうだね。危なそうならすぐに言ってくれ。私も全力で助ける」
頷いた私は、砂場という不安定な足場に慣らすように一歩一歩足を前に進めていく。
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名前 三笠 百結
特殊状態 なし
能力値
魔力保有量 17/17
腕力値 1
防力値 1
脚力値 1
免疫値 1
先天スキル ネクターパラソル Rank1.35
後天スキル 自動治癒 Rank1
魔刃 Rank1
スキルポイント 15
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みっちり鍛えられたから、スキルを使った戦闘の基本のキくらいは分かっている。
盾を前面に構え、左足を半歩下げる。
視線は相手から決して逸らさず、不審な動きがあれば──来た!
「ルィアアアアッ!」
「っ!」
ハーピーの鳴き声と同時に砂の塊が放たれた。モンスターの魔術だ。
私は盾で受け止める。砂なだけあって威力は大したことなかった。
恐らく狙いは混乱させて隙を作ることだったのだろう。
ハーピーは飛ぶ勢いそのままに突撃して来る。
つまり、ここが使い時!
「【ネクターパラソル】!」
「ピィアっ!?」
ハーピーの進路上に花蜜の傘を展開した。
そこに勢いよく突っ込んだハーピーは大きく減速する。
花蜜の傘は<魔盾>よりも脆いけど、その代わり壊されてもしばらくは残留する。
その粘度も相まって、相手にぶつければ妨害として一役買う。
特に鳥系のモンスターには効果覿面。
少しの重量変化で飛行の難易度は激変するのだから。
「<魔刃>!」
すかさず【魔力】の刃を作り、振り抜いた。
後天スキルは優秀だ。剣術を知らない私でも適当に横に振るだけでモンスターを一刀両断できてしまう。
砂漠を赤く濡らしたハーピーは、やがてドロップアイテムへと変わった。
「ハァ……教官が居なくても大丈夫ね」
訓練では実際にモンスター戦もしたけど、その時はすぐ助けに入れるよう教官がスタンバイしていた。
見守り無しでも──父さんも居るけど立場は同じ新米シーカーだ──訓練通り動けたことに拳を握り締める。
「! 百結! 七時方向からハーピーの群れがいる!」
「!?」
見れば十体以上のハーピーが一丸となって飛んでいた。
ちょうどそのとき群れの先頭と目が合い、ガッチリとロックオンされてしまう。
「これは一人じゃ無理ね」
「ああ、私が減らそう」
「お願いね父さん」
奇襲に備えて父さんの近くで盾を構えながら、群れの動向を窺う。
数で蹂躙するつもりなのか。群れは愚直に向かって来ていた。
先程のハーピーは距離が二十メートルを切った辺りで砂を飛ばす魔術を使っていた。
群れのハーピーも同程度の能力らしく、飛ぶ以外のアクションを起こさないまま五十メートルのラインを切り、
「【ホワイトアウト】」
白い暴風に群れが丸ごと包まれた。




