98 オールドルーキー
先天スキルの多くは戦闘向きではない。けれどもちろんそうでないものも存在する。
父、三笠白雄の【ホワイトアウト】が一例だ。
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〇先天スキル
【ホワイトアウト】 Lank1.51
効果:視認した地点に吹雪を発生させる。
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重い【魔力】消費と引き換えにその威力・範囲共にハイレベル。
少なくとも私が知る限りでは最大の攻撃性能を持っている。
そんな攻撃を真面に受けたハーピー達は、当然戦闘を行なえる状態にない。
「「「ぴ、ィィ……」」」
急激に冷却されたハーピー達は飛行を維持できなくなり、砂漠の上に落ちていた。
鳥は温度の変化に弱い。人型なハーピーも強い方ではないようだ。
落下の衝撃もあってか、どの個体も立ち上がれずにいる。
「ごめんな」
そこへ駈け寄った父さんは、武器のスレッジハンマーを振り上げた。
他の装備は私と同一だけど、先天スキルで【魔力】を大量に使うから白兵戦用の武器を持っている。
一体、また一体と柄の長い金槌で頭をかち割っていき、やがてハーピーは全滅した。
我が父ながら僅か一分足らずで群れを壊滅させる実力には感嘆する。
「何度見ても不思議ね、死体が小石に変わるなんて」
「そうだね。なんだか自分達もやられたらこうなるんじゃないかって不安になって来るよ」
話しながら【魔力】が詰まっているという魔石を回収する。
様々な利用法が研究されている最中でありランク一の魔石でもそこそこの値段で買い取ってくれる。
まあ買取価格の中には討伐報酬も含まれているのだと思うけど。
シーカー設立の主目的はモンスターの駆除。討伐数の算出には、どんなモンスターでも大抵ドロップする魔石が適している。
研究資材も手に入って文字通り一石二鳥だ。
「レアドロップは嘴三つね。何に使うのかしらね」
「武器……とかかな? 何にせよあまり高くはなさそうだね」
「同感」
そう答えつつ私はその場でぐるりと一周し、スマホでパノラマ写真を撮影した。
きちんと取れているのを確認しつつ父さんに訊く。
「それで次はどうするのかしら? 私は一度あそこに上って周囲を見ようと思ってるけど」
このフロアでの目標はゲートの捜索。しかしダンジョンの一フロアの広さは有名テーマパークくらいと言われている。
そんな広大な敷地を虱潰しに歩いて探すのは骨なので高所から見渡すなどの方法が推奨されていた。
「うーん、いや、あそこは止しておこう。二つ右隣の丘がちょうどいい低さじゃないかな」
「このくらいの高さ大したことないわよ」
「普通の丘ならそうかもしれないけどあれは砂丘じゃないか。砂地の歩き難さはもう分かってるだろう? あと昔、鳥取砂丘を登ったときは滅茶苦茶疲れたからね」
「……そんなことあったかしら?」
「覚えてないかな。ほら、まだあの…………いや、まだ小さかった頃のことだから忘れてても無理はないか」
「……?」
「とにかく、あの低い方の砂丘に登ろう。私の足腰のためにもね」
おどけたようにそう言って父さんは歩き出した。
仕方がないので私も後ろを付いていく。
父さんは<索敵>を持っている。
ランク一だと効果範囲は短いけど、例えば砂の中に敵が潜んでいる場合にはいち早く気付けるのだ。
「……確かに、これは辛いわね」
「だ、だろう?」
父さんが息を切らしながら言った。
それには答えず足を前に出す。ざくりと砂に沈み込む。まだ砂丘の中腹だ。
土と違って不安定な砂は体重を掛けた途端に滑り落ちていく。
まるで頂上までの距離が倍化したような感覚だった。
バッグから水筒を取り出し喉を潤す。
気温のせいもあるだろう。水で薄めたスポーツドリンクがやけに美味しく感じられた。
「ふぅ、やっと頂上ね」
「き……キツかったぁ……」
「あまり休んでる暇はないわよ」
見晴らしがいいということは即ち敵からも見つかりやすいということ。
特にハーピーは空を飛ぶのだから頂上に居たら一発でバレる。
早くゲートを探そう。
「ゲートは……見当たらないわね」
双眼鏡で念入りに探るけれど黒い亀裂は見当たらない。
ここはハズレだったらしい。とはいえ収穫もある。
「今居る地点はダンジョンの端寄りだったみたいね」
ダンジョンは四方を灰色のベールに覆われている。
よって、そのベールの位置を確認できればダンジョン外周の形が分かる。
それは今後の探索の足掛かりとして充分だ。
パノラマ写真も撮ったので地形の把握もカンペキである。
「父さん、入口ゲートのあった場所の右側を抜けつつダンジョン中央付近を探索したいのだけどそれでいいかしら」
「う、うん……私も賛成だよ……でもその前に」
父さんが指差した方角を見ればハゲタカに似た顔のハーピー二体が接近して来るところだった。
「二体だけに【ホワイトアウト】は勿体ないわね。ここは白兵戦で倒すわ。取りあえず少し下に移動しましょう」
「ああ、やろう」
そうしてハゲタカハーピーを返り討ちにし、それからもモンスターの襲撃を撃退しつつ探索を続けた。
そして襲撃の回数が十に届きそうな頃、私達はついにゲートを発見したのだった。
「案外入口の近くにあったんだね。初めにこっちへ来ておけばよかったよ」
「そうね。それよりゲートが見つかったのだしそろそろ」
「ああ」
「「引き返そう」」
声が重なった。
シーカー講習で特に厳しく言われたのが無理をしないということだった。
疲れたら引き返す。
【魔力】が六割近くになったら引き返す。
異変を見つけたら引き返す。
ひたすらに引き際を誤るなと教わった。
欲を掻いてはいけない。ダンジョン攻略とは、細かい進捗を積み重ねて長期的に行なうものだと言われている。
「入口ゲートは……あの砂丘の辺りね」
これまでに取って来たパノラマ写真のおかげでゲートの場所は把握できている。
私達は迷いなく帰路に就く。
その後もイレギュラーに見舞われることはなく、私達のシーカーデビューは恙なく終了したのだった。




