95 VS加賀美未来
加賀美と【ランク五】のアルカナ持ちの戦闘はダンジョン内で行われている。
戦闘前にモンスターを排除していない。よって戦闘音を聞きつけたモンスター達が寄って来るのだが、彼らが意識を向けられることはなかった。
「ラァッ!」
「【チャージランページ】!」
「【re:リフレクションリフレイン】」
左右から突撃した宗像とおっとりとした顔立ちの長身の女性、茶嶋が元来た道へ跳ね返される。
速度を丸々反射されたため容易くは止まれない。進路上の木を折り、モンスターをミンチに変えて<空歩>でブレーキを掛ける。
「【ワイルドハント】──捩じれ弾雨」
空を【魔力】が覆う。そこから降り注ぐのは竜巻の弾丸だ。
掠るだけでもランク五モンスターの身体を抉り取れる威力のそれが、一度に百以上。
しかも不規則に弾道が捻じ曲がるため弾道予測は困難。
「私の鏡は球状にも出来るんだ」
しかし小型竜巻の群れはドーム状の鏡面に触れた途端、四方八方に散らばってしまう。
多くは空へ向かったがいくつかが仲間達へ当たりかけたことに眼竜が顔をしかめた。
もっとも、アルカナ持ち達は皆防ぐなり躱すなりしており被害を被ったのは通りすがりのモンスターだけだったが。
「すんませんっ」
「今はそれより相手に集中です。【カーソルカース】──厭離穢土」
桜口が地面に手で触れる。
莫大な呪素が注入され大地が黒ずむ。草木は萎れ、土からは水分や栄養が抜け落ちていく。
大地を呪素で侵し接地する存在を蝕む『厭離穢土』。
広範囲を無差別に攻撃するこの技によってモンスター達は大勢死ぬが、この技の影響を受けるのは精々がランク四まで。
この戦場に居るプレイヤー達には直接の害はない。
が、敢えて使った以上意図がある。
「呪素支配、呪い針」
「おっと、それは私にも効くな」
地面から湧き出た滅紫の呪素が針となって加賀美を襲った。
物質化した呪素は加賀美の反射体質の対象外であるため、加賀美は跳んで躱す。呪素の針は穢土のどこからでも生やせるため加賀美は<空歩>で宙に留まる。
この時から戦場は空中へと移った。
縦横無尽に飛び回りながら攻撃を仕掛けていく。
取り分け積極的だったのは兎田颯斗だ。
【エスケープスコープ】による回避行動の予見と短距離転移を駆使し、休む暇を与えない。
だが──、
「空中ならと思ったがやっぱ当たらないか」
兎田の声に落胆はない。【エスケープスコープ】で加賀美の堅牢さは分かっていた。
すぐに飛び退き間髪入れず不可視の刃が加賀美を襲う。
「アトロポスの糸刃」
「そこかな」
空気の糸は鏡に跳ね返された。
【コキュートスの邪眼】……もとい【エアコンディショナー】は隠密性に優れているが、物理的破壊力を持たせればそれだけ【魔力】の気配も濃くなる。加賀美相手に隠し通すのは不可能だった。
しかし──、
「──それは陽動だ、ニヴルヘイムの氷室」
「おぉ、と?」
【エアコンディショナー】の効果は空気の支配。
温度を変えることも可能であり、ランク五になったことでその効力は一瞬にして零下百度を突破するまでに成長している。
突如として極寒に晒された加賀美の肌には霜が降りていた。肉体ではなく空気に作用するこのスキルは反射のしようがない。
その隙を逃さじと戻って来た近接組が一斉に突撃しようとする。
「ふむ。少し肌寒いな」
空気中の水分が結晶化し始めたことで白み始めたその場所で加賀美は指を鳴らす。
瞬間、攻勢に出かけていた近接組は怖気を感じ飛び退いた。
「再現、炎獄ラクダの噴火」
地上に一枚の大鏡が出現していたことに、彼らは遅れて気付く。
そこから噴き上がるのは灼熱の溶岩。天を貫く赤い柱が【エアコンディショナー】の影響を取り去った。
「私の先天スキルの効果でね、一度反射したものは何度でも出せるんだ」
「……何だと?」
「ランク五ボスとの戦闘経験は豊富だから手札の質にも量にも自信がある。再現、裁きの光雨」
今度は天空に巨大な鏡が現れた。
そこから降るのは無数の光刃。防御の必要に駆られプレイヤー達の攻撃の手が緩む。
その間に加賀美は戦闘中ずっと後方で観察に徹していた人物に近づいた。
「ときに推川、君は参戦しないのか?」
「生憎スキルも戦闘技術も君達に並べるレベルじゃないからねっ」
「<通心>で指示を出しておいてよく言う、よっ」
「<魔盾>……っ」
光の雨の終わりを狙って放たれた回し蹴りが推川を吹き飛ばした。
<通心>は精神的なリンクを用いて声を出さず会話するスキル。これにより要所要所で加賀美は指示を送っていたのだが、それでは緊迫感に欠けると加賀美は判断した。
「ここからは私からも攻撃を仕掛けていく。殺すつもりはないが腕の一本や二本は覚悟してもらう、死ぬ気で追い縋ってくれよ」
そうして加賀美とアルカナ保有者の訓練は本番に差し掛かったのだった。
それから訓練は一時間ほど続いた。
時間にしてみれば短いがランク六と五の戦いである以上、攻防の濃度は常人の比ではない。
アルカナ所有者達は幾度となく【魔力】切れに陥ったが、その度に加賀美が【魔力】回復薬の複製品を提供して戦線に復帰させた。
『どうだった? アルカナのメンバーは』
「まずまずだな。私には遠く及ばないが戦いの中で目に見えて成長していたよ。これならランク六ダンジョンでも最終フロアまで着いてこれるだろうさ」
『それは良かった。情勢が安定してきたら参加者も増えると思う。迷惑を掛けるよ』
「いや、これは私の訓練でもあるんだ。<護身結界>を切っていたからね、何度かヒヤッとさせられた。ランク六ボスを見据えるなら彼らとの戦いはちょうどいい」
スマホ越しに三葛にそう言った。本心だった。
加賀美は他者を気遣うことはあっても自身を偽ることは基本的にしない。
『ランク六ダンジョンと言えばなんだけど、少し悪いニュースだよ』
そんな彼女に三葛は少し声のトーンを落として言った。
『僕の〔司統概念〕が不自然な空白を検知した。あのランク六ダンジョンには虚ろの王の眷属が居る』




