94 特訓
「おっとぉ、俺らが最後かぁ?」
「電車乗り間違えちゃったのがマズかったですね。最近はビルの上走るのもニャビに止められてますし」
カラオケ店の一室に二人の男が現れた。
片方は扉の上枠に頭を擦りそうな程の大男。他方は長身瘦躯のどこか投げやりな印象を受ける青年。
彼らを迎えたのは六人の男女だった。
「ぼく達もつい十分前に着いたところだよ」
「と、言うより思ったより少ないですね。これで全員ですか?」
「連絡があったのはこれで全部だね。今は家族や友人から離れたくないって人も多いみたいだよ」
「ま、こんなご時世ですからね。全然気にしてない自分みたいなのもいますけど」
長身瘦躯の青年が肩を竦める。
彼──桜口兄太は受験失敗を機に家出し、そのまま一年以上放浪を続けていた。
ある時山中で巨漢の男、宗像と偶然出会ってからは彼とよく行動を共にしている。
「全員揃いましたしそろそろ始めましょう」
音頭を取った眼竜龍治は部屋の最奥に座る人物を見る。
「俺達の疑問に答えてくれる、ってことで良いんすよね?」
「ああ。全てとはいかないだろうが出来得る限り答えよう。時間はたっぷり取ってある」
鷹揚と頷いた加賀美未来にまず問いかけたのは推川だった。
「加賀美さん。君は三葛君──行方を晦ましているぼくの助手と面識があるね?」
「へぇ?」
加賀美は楽し気に唇を歪ませる。
「私が彼と同じ大学なことまで調べていたのか。やるじゃないか」
「調査していたことはニャビから聞いてなかったのかい?」
「私はあくまで運営の協力者。情報が逐一共有されているわけじゃあない。三葛君と違ってね」
「ならやっぱり」
「ああ、ダンジョンクエストを作ったのは彼だよ」
「「「!」」」
三葛一始はダンジョンが公になる少し前に姿を消していた。
連絡先などもまとめて消えていたことから自発的に居なくなったことは明らか。
故に推川達は三葛を運営の関係者と見ていたが、まさか開発者本人である可能性は低いと考えていた。
「何故彼はダンジョンクエストを作ったんだい!?」
「もちろん人類救済のためさ。私達プレイヤーを育て上げることでやがて来る高ランクダンジョンへの備えとしているんだ」
「それじゃあ次の質問だよ。スキルとは何だい? この力を三葛君は……もしかすると加賀美さんも一緒だったのかもしれないけど、どうやって手に入れたのかな?」
「スキルは魂の力、らしいよ。私も原理を理解している訳じゃないけどね。それと三葛君がどうやってあの力を手に入れたかは黙秘する。私の場合は君達と同じでダンジョンに入って目覚めた、とだけ言っておこう」
次に質問をしたのは眼竜だった。
「なら昔現れたプレイヤーキラーのことは知ってるっすか? アイツがどうやってスキルを手に入れたかとか、他に同じようなスキル持ちは居るのか、とか」
「……それについても黙秘だ。けれど君達が案ずるようなことは無いさ」
その後も質問が続けられ飲み物が空になった頃、加賀美は質問タイムを切り上げる。
「質問はここまでだ。今日の本題である訓練を始めようか」
「お、やっとかぁ」
宗像が大きく伸びをし獰猛に笑う。
「どこのダンジョンで闘るんだァ?」
「あぁ、スマホを取り出す必要はないよ。私が全員連れて行ってあげるからね」
パチン。加賀美が指を鳴らす。
部屋の中がカッと光ったかと思えば彼らは林の中に居た。疎らに生えた木々がどこまでも続いている。
「……ここは?」
「ダンジョンクエストでは非表示のダンジョンさ。ここなら好きに暴れられるからね。私の能力で転移させた」
「…………」
誰もが絶句する。
能力の規模と、発動するまで【魔力】の予兆に気付けなかったことに。
「ランク六ダンジョン対策の訓練プランは色々考えたがね、やはり実戦に勝る経験はないと思うんだ。だからこれからする訓練は一つ、戦闘で私にダメージを与えることだよ」
スタスタと他のプレイヤーから充分な距離を取り加賀美が言う。
「ランク六の力を体感させてくれる、ってことっすか」
「そうさ。君達もこれまでの経験からランク六の力を見積もってるだろうけれど、それが正しいかどうか確かめてみるといい」
「ハハハッ、そんなら存分に付き合ってもらうぜッ」
最初に仕掛けたのは宗像。
巨躯を尋常でない速度で躍動させ一気に肉迫し、
「フィジカルでは勝負にならないよ」
一瞬で彼の背後に回り込んだ加賀美に蹴り飛ばされた。
「軽いな。あの一瞬で私の蹴りに合わせて飛──」
「【ワイルドハント】!」
宗像が攻撃された隙を活かすべく、眼竜が暴風の弾幕を展開する。
けれど加賀美は片手を翳すだけ。
「【re:リフレクションリフレイン】」
加賀美の姿をすっぽり覆い隠す大きさの鏡面が発生し、そこに当たった嵐の弾丸が跳ね返った。
「なっ!?」
「これが私の先天スキルさ。あらゆるものを反射できる」
「であるならばこれはどうでしょう? 【カーソルカース】」
桜口が鏡に指を向ける。
ランク五に至った桜口の先天スキルは、呪詛の物質化を介さず対象を呪殺できるようになっていた。
その効力は如実に表れる。
加賀美へと向けた腕の筋肉が半ばから肥大し、骨が幾つも折れ曲がった。
「あ゛ぁ……?」
「体質でね。私は直接害を及ぼすタイプの効果は反射できるんだ。君が呪詛を取り込めるようにね」
「参りましたね」
ドクンドクンと桜口の全身に滅紫のラインが走り、変形していた腕も元に戻る。
彼は己が肉体の数割を呪詛に置き換えていた。呪詛を取り込み回復できるのもそのためだ。
「ですがその程度ではとても太刀打ちできませんね」
「当然だろう? 私はランク六だぞ。絶対的強者に対し、どうやって喰らい付いていくのか。これはそういう訓練だ」
こうして推川達の絶望的な特訓は始まった。




