番(つがい)の誓い
さて、遂にやり遂げたぁっ!俺の破滅のそもそもの元凶・ラモルタ聖国が滅亡した。これで原作小説のとおりスザナが聖剣の生贄になることも、ハスキが俺を裏切って俺がスザナに討たれる心配もない。そもそも俺は王位にはつかなかった。
更に計画通りハスキとスザナは俺にべた惚れである!ふふふ、溺愛ルートに見事に乗せてみせた。そして俺からの溺愛ルートに乗せた以上、貴様らは一生降ろさないぞ!ふははははっ!
―――と、言うわけで、スオウの即位記念パーティーが迫っているわけだが。
「ハスキ」
いつもの通り、かわいくハート型クッションを抱きかかえながらベッドの上で待っているハスキの隣に腰掛ける。
「即位記念パーティーでは、俺たち王弟の婚姻も発表される。スザナ本人は結婚する気はないし、その予定も今のところはない」
スオウからの希望を聞いておいてと言われてその話題を振ったら、“俺は一生お兄さまについていきます”とのことだった。スオウは特に急ぎの政略結婚もないし、暫くはそのままでいいと言っていたが何故か呆れ顔だった。そこだけは解せぬ。―――だが。
「ハスキ。お前は俺と正式に婚姻の契りを結ぶことになる」
「―――っ!」
それを聞いたハスキは、頬を真っ赤に染めて口元を隠すようにハート型クッションをさらにぎゅむっと抱きしめる。なにこれ。俺もその上からまとめて抱きしめていい流れか?これは。
「嫌ならば言え。今ならば考えてやらんこともない」
半ば賭けではある。今更嫌だと言われたら、狂ってしまいそうだ。原作小説の中の俺のようにな。いや、狂ってなどいないか。元々壊れている。気にすることもないのだろうが。
「わ、わたしは」
ハスキの雪のように白い手が、俺のゆったりとしたシャツの袂を掴む。
「イザナさまが、いぃ。それ以外じゃ、や」
ぐはぁっ!
自分で聞いておいてなんだし、俺が本当に望んでいた答えなのだろうが。―――ヤバい。そろそろ本気で理性が抑えきれなくなりそうだ。
「な、何故だ。最初は会話もしなかった」
会話をしようと、いや溺愛ルートを歩もうとする前はただ1週間に1度会って、座って茶菓子をつまむ程度だったはずだ。
上手く溺愛ルートに乗せた結果とすれば別に不思議なことではないが、俺のナカでそれだけが唯一引っかかっていたことのように思えた。
「―――しっぽが」
「しっぽ?」
しっぽの話題を振られ、思わずしっぽをもぞもぞと動かせば。ハスキの視線がしっぽの動きを追っていることに気が付く。
「しっぽが、ぴょこぴょこしていて、かわいかった、から」
そうだったか?特に気にしたことはなかったが。
「それだけで?」
「―――ほんと、は。やさしいかたなんだと、おもぃました。イザナさまは怒ったり、叩いたり、しないから。言い回しも、かわいい」
いや、“かわいい”は初めて言われたぞ。高プライドイザナは普通、周囲には嫌われる性格だと思っていたが。
「しっぽ、ぴょこぴょこしてた、―――から」
結局しっぽに行きつくのか。
「そんなにこのしっぽが好きなのか?」
自らのしっぽをハスキの前に掲げれば、そのまんまるい双眸がしっぽをじっと捉えている。
「触れたいか?」
「よいの、ですか?」
「ハスキならば別に、いい」
特に触られて嫌だと感じることはない、―――と思う。
そう告げれば、ハスキがぱああぁっと顔を輝かせる。俺が与えたハート型クッションを脇に置き、そして俺のしっぽを丁寧に抱き上げて胸元で抱きしめる。
ぐおぉっ!?な、何だこれはっ!しっぽぉ―――!しっぽの先がぁ―――っ!まるで喜んでいるようにぴょこぴょこ動く!やめろしっぽ!喜ぶんじゃない!
「かわいい、です」
そう言って笑顔を俺に向けてくるハスキ。
「後悔は、ないんだな。俺の番になるのは」
「つがい」
「魔物は、―――とりわけ竜の魔物はそう呼ぶ。生涯の唯一の伴侶を」
「―――っ!はい、イザナさまの番、に、なります」
そう、はにかみながら答えるハスキがかわいすぎる!気が付けばハスキを抱きしめ、ベッドの上に押し倒していた。
「―――っ、い、イザナ、さま」
「―――少し、こうしていたい」
愛おしすぎて、放せない。少し、とは言ったものの、もしかしたら少しではすまないかもしれない。―――けれど。
「愛している、ハスキ」
そんな言葉が自然と口を滑り出る。
「わ、私も、です。あい、してます、イザナさま」
「―――っ!」
そんなハスキの言葉が、己の中に流れる竜の血に染み渡っていく。
「俺は竜の魔物の血を引くから、執念深くて嫉妬深くいぞ」
「わたしも、かも」
「ハスキも?」
「イザナさまと、ずっと一緒にいたい、から。―――違った?」
ハスキのは随分とかわいい嫉妬だな。
「いや、違わない」
ハスキがこの腕の中にいることに、ほっと安堵しながら。こんなに安堵しながら眠りにつくのはいつぶりだろうと思いつつ、俺は愛おし気にその腕の中に抱き続けた。




