帰還
―――リューナ王国
「さて。先ぶれは送っているはずだが、どうしているか」
俺は念のため宮の中を確認してみる。
宮の中ではハスキがそわそわしながら行ったり来たりしていた。なにこれかわいすぎるっ!
「すぐに転移するぞ、ナユタ」
「御意」
旧ラモルタ聖国から引き揚げ撤収した俺と部下たちは、ひとまずスオウに報告をした後解散となった。俺とナユタも早速宮に転移した。
「―――っ!」
早速そわそわしながらリビングを行き来していたハスキが俺の帰還にハッと顔を向け、とたとたと駆け寄ってくる。ぐはっ。ヤバい。この時点からヤバすぎるほどにかわいいのは、何故だっ!
―――そして。
ぎゅむっ
何とハスキが俺に抱き着いてきた、だと!?そして顔をひょいっと上に向け。
「お、お帰りなしゃいっ!」
あ、噛んだ。
「ひゃ、ぅっ!忘れてくださいっ!!」
そして噛んだことが恥ずかしかったのか、俺の胸元に顔をうずめてしまう。
「―――無理だな」
「ふぇっ」
ハスキがふるふるしながら俺を見上げる。頬が真っ赤に染まっている。そんな表情もなかなかよいものだな。
「こんなかわいすぎる出迎えをされて、忘れられるわけがない」
俺はハスキの頭を撫で、そしてそのままするりと掌をハスキの頬に移動させる。
「い、イザナさま」
「そんなに俺がいなくてさみしかったのか?ハスキ」
「それは、その」
ハスキが再び俺の胸元に顔をうずめる。―――そして。
「はぃ」
小さくそう答えた。こ、これ以上はこの俺の理性がぁっ!
「まぁ、いい。少し休憩したい。シャルル、茶を」
「畏まりました」
そんなかわいいハスキを堪能している後ろで見守っていたシャルルはひとこと答えると早速厨房へ向かう。
「さ、おいで。ハスキ。俺の隣に座るといい」
「は、はぃ」
ハスキの手を引いて、席に座らせる。さて、ハスキを左側に座らせれば右側にスザナが自然と座って来てたことは別にいいが。もれなくゼフラとアセナも正面に座ってきた。ナユタが招くとツキとハルもとてとてと駆け寄って来て席に着く。
「もう帰ってきたのだから、元の宮に帰っていいぞ」
と、姉どもに伝えたのだが。
「改修がまだ終わっていないので、引き続きここに住むわ」
「私も護衛だからな。あと弟妹達が不貞行為をしないよう、見張らねば」
いや、見張らんでいいっ!まぁ、改修工事はそこまで早く終わるとは思っていなかったが。
「いっくんだけハスキちゃんを独占なんてずるいわ」
「そうだそうだ。あとスザナとツキくんとハルくんもかわいい。特にツキくんのわふわふしっぽは最高だぞ」
くぅぅっ!アセナめ!あのわふわふしっぽを俺のいぬ間に堪能するとは!
「み、宮に変わりはなかったか」
シャルルは俺たちにお茶を出してくれ、そしてナユタと一緒に一歩後ろに控えた。
「ネズミが潜り込もうとしてたけど、叩きのめしたわよ」
と、ゼフラ。
「ふむ。共に叩きのめしたお前の部下たちもなかなかだったな。見事な手腕だったので手合わせを頼んだのだが、断られた。何とかならんのか」
と、アセナ。
「ゼフラ姉には感謝するが、アセナのは却下だ」
「何故だ」
「夢中になりすぎて周りの器物損壊が激しい。誰が直すと思っていやがる」
「ぬおぉっ」
アセナがテーブルに突っ伏した。そう言えば、この間訓練場がすごいことになったんだったな。スオウはその惨状の跡を見て爆笑していたが。
「それで、ネズミは旧聖国に返したのか?」
「あぁ。今頃更地となった祖国に呆然となっているでしょう」
「カヤ兄もそこまではしないぞ?」
「そうなのか?」
聖国を攻め滅ぼしたカヤ兄は魔物の国の王太子。つまりはゼフラの兄である。
「あと、結婚すると言っていた」
「あのカヤ兄さまがか?一体相手は誰なのかしら」
「―――勇者。何か気に入ったからもらい受けると。まぁ、こちらも手に余っていたからちょうどいい。さすがに魔物の国の脅威になる可能性のある勇者がこの国や他の人間の国で堂々と暮らせるはずがないからな」
「ならば魔物の国しかない、と言うことね。カヤ兄さまが気に入ったのは幸運だったわね」
「まぁな。幸い、勇者は誰も殺していない」
その召喚のために犠牲になった命はあるが、彼女のせいではない。召喚を行った聖国に責任がある。彼女は元の世界から強制的に連れて来られた一種の被害者だからな。だからと言って特別扱いはしないが、もしも彼女がこの世界で生きていくならば、おのずと道は決まっていた。
影として生きるか、魔物の国で生きるか。幸いカヤ兄が気に入ったことで彼女は居場所を手に入れた。よくあるお花畑女ではないから、彼女なら魔物の国でも受け入れられそうだしな。
「あの、イザナさま」
「どうした、ハスキ」
俺の袖をくいくいとひっぱるハスキ。さらに上目遣い!ポーカーフェイスを保つのが難しくなってくるぅっ!
「“カヤさま”とは、どなたですか?」
「ゼフラの兄だ」
「魔物の国の王太子だから、これからも会うことになるわね」
と、ゼフラも続く。
「ひゃぅっ!」
「そんなに緊張することはない。髪の短いゼフラだと思っておけばいい」
「ゼフラお姉さま?」
「そんなに似ていないと思うけど」
と、ゼフラは自分の胸を見ながら言う。いや、そこはそうだろうよ!性別が違うんだから!
「しかし無事聖国が滅亡したから、スオウ兄さまは即位記念パーティーをやっと開く気になったそうだ」
そうアセナが告げる。
「あぁ、やっとか」
そう言う話は既に出ており、国民もお祝いムードではあったのだが。俺の今回の仕事のこともあったし、あまり早く動き過ぎると聖国がしゃしゃり出てくるからと保留にしていたのだ。
「ハスキ。ハスキには俺からドレスと宝飾品を贈る」
「わ、私はそのっ。そう言う、場は」
「問題ない。ハスキは俺の側にいればいい」
「イザナさまっ!」
ハスキが顔を赤らめている。今日我慢できなくなったら、どうしよう。
「ラブラブねぇ。あなたも竜ね」
そう、呆れたようにゼフラが呟く。
「ゼフラ姉はどうなんだ?」
「そうね。まんざらでもないわ」
政略結婚のはずだが、ゼフラは案外スオウを気に入っているようだった。しかしハスキは何のことなのかときょとんとして見ていた。そんなところも愛くるしいがな。




