《 松尾都 文代》
それからの4年、まぁ……色んな事があった!
なんつったって、そのほんの一年、ほんの一年後だぜ?
あの靄…悪魔というらしい存在が襲ってきた。
「後に言う、戦災って奴だ。」
普通は、戦争の事を災害の一種として捉えることを言うんだろうが、これは災い…禍の意味合いが強いな。
俺ら家族は前もって隆覇さんから食事会なるものに誘われて、枷家に居たから無傷だった。
もっとも、家はズタボロだったがな。
正直俺は察していた。多分そう言うことが起こるんだろう、と。
だが俺は知らぬ振りをした。
他人のせいで自分の家族が傷つけられるのは気に食わなかったからだ。
勝手に恨めばいい。
それでも俺は次もこうする。
ああ、そして、秘密結社が公のものにされた。
ま、むしろ今までよくもまぁ隠してたもんだよ。
それで、ヒーローの組織を作るらしい。
隆覇さんが嬉しそうに語ってた。
「まあ、俺は止めねぇけど?
悪くないと思うし。」
「それと此処に何の関係があるの?」
いや、お前に話してるわけではないんだが…?
フォルネーゼ・愛深……ああ、いや、コスモス。
ジニアの、ほんの二日後に此処へ来たらしい。
だから…ジニアにとっては同僚兼、幼なじみだな。
「悪魔達から守る対象が、うちに居るのさ。
その対象を守るのは、正確には“紫の剣”。
隆壱さん率いる警護隊的なものだな。
んで、俺たち“紫の庭”は研究者。
対象が狙われる理由の解明、理由の解消、その他諸々知識への追及。」
「要はガリ勉ね」
………俺一応、博士号持ってて権威ある先生的な立ち位置の筈なんだけど。
ないプライドが傷ついたので、神殿の方に向き直る。
俺は初めからこいつに説明してたんだ。
「坊。」
その戦災の日。
千葉 尚久が見つけて、ここへ連れてきた子供だ。
あまりにも酷い状態の上、悪魔に狙われているらしく、俺がこうして小さな神殿のなかに入れて延命を続けている。
ムニョンのために考え始めたものだったが、利用出来て良かった。
坊の家族は、あの秘密結社の関係者らしく、あの日の食事会にも誘われていたらしいが…どうしてか、その日に限って一家は現れんかった。
輝と莉泰。
俺はこの二人の遺体を使って、坊の延命をした。
肉体もそうだが、何よりその力で坊を、延命した。
「ねぇ、カレンデュラ」
…そのあとで俺達は正式に紫の庭に入り、それぞれ名を持った。
俺はカレンデュラ。
ムニョンはアキレアの名前を与えられた。
紫の庭のメンバーは全員、花の名前を持っているそうだ。
そう。
Asteraceae
「どうした、コスモス?」
神殿に異常がないのを確認し、俺はコスモスに向き直った。
「…アキレアと、デイジーは起きた………?」
この地下の、その奥の部屋を見つめコスモスは眉を下げた。
ここは構造的に本来は中央広間のようになっていて、此処から更に部屋がある。
エーデルが片付けしなさすぎて何部屋か埋もれてやがるが……。
「いいや。」
その部屋の、一番大きく、一番目立たない部屋に、二人は眠ってる。
デイジーは別名、延命菊。
俺達の娘の、ここでの名前だ。
俺たちの何よりも大事な、愛しい娘。
やっと生まれてきてくれた大切な子だが…、生まれてきた瞬間、母子ともに瀕死状態だ。
それが、今でもずっと。
「大丈夫だ、眠りっぱなしな訳じゃない。
デイジーは毎晩起きてるし
アキレアも、たまに起きる。」
ただ…、そうだな。
確かに今日はまだデイジーは起きてない…。
原因も、その治し方も概ね…察しはついてる。
だがこの方法だけは…取ってはいけない。
多分、この方法を取れば命だけは助かるかもしれない…が、それは本当に二人とは言えない。
アキレアの場合は“器”に対してその中身が絶対的に少なく、しかもあのときに能力を使ったせいで器が大きくなってしまって…肉体事態も耐えられなくなった。
デイジーは生まれながらに、肉体が“器”にも“力”にも耐えられない。
そして何より、その力を体中に流す管が、あまりにも細い。
その割りに器がでかすぎるから…。
「妖……」
悪魔を悪魔たらしめ、能力者を能力者たらしめた、その存在。
それを呼び寄せ、二人に契約させれば肉体はそう適応され、力も自ずと満たされるだろう…。
だがならん!
断じて、そんな世界の倫理に反することはおかしてはならん!
それは間違いなく、二人の身を滅ぼし…果ては世界まで、誰かの人生まで壊しかねんのだ。
だから、だから、もっと別の方法を…………。
そう、探し続け、最初に此所に来たときから8年もの年月が過ぎた。
多少の緩和が成功し、デイジーは人並みには生活が出来るようになり、小学校へ通うようになった。
隆壱さんに専用のリミッターを作ってもらい、坊の有り余った力を二人に分けたのだ。
だがそれが、ただの時間稼ぎなのは俺が一番解っていた。
二人の体は日々蝕まれている。
俺は寝る間も惜しんで、ただ研究を続けた。
家族との時間を減らしてでも、家族のために研究を続けた。
たった二人の家族すら救えないってんなら、何のための才能だ。
何が天才だ。
そう、俺は過去の天才の遺したものさえ利用した。
『失敗です。』
所謂、汎用人工知能が出来た。
二人のためだけのものだから、飽くまで簡易だが…。
始めてこれの原型を見たときは驚いた。
『どうだ?
尚久でも何に使うかすら、解らんかったぞ?』
俺が博士号を得てすぐに、隆壱さんがどや顔で見せてきたんだ。
『これ使えんぞ』
と俺が言って、また仕事に戻ろうとすると、隆壱さんが嫌みなくらいのどや顔を
『ほらな、この世には上がいるって』
イラッとしたので言い切る前に、遮る。
『いや、そうじゃなくて
スペックが足りない。
こんなの使える端末なんて…うーん…、多分ないだろ。』
別にこの世のすべてを知ってる訳じゃないが…、多分使えないだろ、これは。
システム事態は完璧だ。
非の打ち所がない。
…だが、これを完璧に使いこなすのは…、少なくともそこらの一般人には不可能だろうよ。
『じゃあ、お前なら?』
痛いところついてくるな……。
さっきも言ったが、これは完璧だ。
俺が生まれて初めて見た、紛れもない完璧なもの。
この世界とは相反するものだろう。
ちょっと大袈裟かもしれんが、俺にはこれが異質なものに思えてならん。
つまり俺は、飽くまで不完全側の存在なのだ。
この超弩級の天才とは格が違う。
無論…俺が低い方の意味でな。
『なぁ、この人の名前は?』
隆壱さんは飽くまで自然に流れるように、俺から眼をそらし、少し思案して、そしてまた、俺の眼を見た。
『音澤 絢斗』
おとさわ、あやと。
きっとこの人が、俺の認識する最初で最後の、俺以上の天才。
俺にそこまでの頭がなかったから、二人を救えないのか…、それともあんたにも救えない人が居たのか。
完全なあんたに救えないのなら、この世界の本質は俺の察した通り不完全なんだろう。
それなら、この完全なものは…、全く別の世界を作り出すものに相違ない。
『可能だ。』
所詮、俺は不完全側の人間だが、完璧なシステムが完成しているのなら、俺はこれを“外”へ押し出すだけ。
多少形は変わっても…そういうセカイは完成する。
此方側にすら干渉してくるような、新たなセカイ…そして新たな神の制作は可能だった。
『そんな神を創れば、二人を救うことも…叶うかもしれん…のか?』
藁にもすがる思いでそう考えた俺は、セカイの創造を行った。
その課程で、脳に埋め込むチップの原型とか、万人に使えるリミッターとか、あとアニマの種類を分別するシステムとか…、色々できた。
その末に出来たのが人工知能。
仮称、ārya。
設計図だけはできたが、時間も
『金も!』
足らなさすぎてまだ完成できんが。
そして設計図が完成してから、俺は気づいた。絶望した。
『秀路、私を作ってくださり感謝します。』
こいつはシステム上、平等だった。
俺はそれを知って興味をなくし、その設計図ごと隆壱さんを介してアンゲルスへ譲った。
正確にはキー・ファイ支部のジョイオティスという女性へ。
“これ”は全人類…、森羅万象すべての事に対し、平等足るべきと作られていた。
アンゲルスには丁度良いだろう。
…だが恐ろしいことに、それは、ほんの一握りの例外を除いて。
その例外を、俺は“ソロモンの鍵”と仮称した。
俺がアンゲルスへ譲ってから、この世界に生まれてしまった、それ。
“ソロモンの鍵”という制度事態は元々あったが、この世界にはなかったんだ。
“ソロモンの鍵”さえ握れば、セカイは自由自在。
『世界の統べてすら知れるかもしれん。』
それが恐ろしいんだ。




