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アルカナの戦慄  作者: 三古谷
第七章 『That person is sinner』
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《 松尾都 文緒》


「―~~~♪

  ~~~~~~~~~~~♪―」


ムニョンの歌のような、その“音”に空気が震え、

「っ…」

その震えが全身を焦がしていく。

こればっかりは理解してても無意味だ。

腹の奥がどうしようもなく熱くなる。掻き回されるような痛いほどの熱。

脳が焼ききれそうになる。


これが、ムニョンの“音”


この惑星ではなく、世界そのものと言う概念に干渉するような…。

普通の歌とは異次元のものだ。

これは…あの不可思議な力と似たような“力”

だがそれ以上に、解りやすくヤバイ…。


これのせいで悪魔に襲われたんだ。

俺がこれの価値に気づけなかったせいで、優真と深耶の親戚も死んだ。


「ムニョン…、もういい…」

俺がムニョンを制すると、ムニョンはふ…と息と力を抜いて歌うのを止めた。


これ以上やると…、この震えが世界に届く。

あと俺の身が持たん。


「…ビン、ゴ。

 枷家の地下に…、居るわ。」


「ほう?

 地下か。本当に秘密結社みたいだな。」

そう俺達はニタリと笑い、枷家の門を叩く。


流石に不法侵入はできんからな!

ついでに枷家はヤのつく自由業だ。マジ怖ぇ。


ガラッと出てきたのは顔に右上から斜めに傷のある、強面のおっさんだった。

こわい…

「…子供?

 ああ、からさおさんの客か?」

間違ってないので適当に頷く。必死に!


「あ?突っ立ってないで入れ」

気が付いたらおっさん…、と何故かムニョンは既に中に居た。


ムニョン…いつの間に俺の前に…?




「ああ、入っていいよ。

 今度は何の…」

言いながら顔をあげたその男は、みるみるうちに眉を潜め、鋭い目になっていった。


「これは僕のミスかな。

 門番にくらい情報を共有していれば良かった。」

ぶつぶつ…と、優しい口調ではあるものの…完全に強面で余計に恐ろしい男は、俺達に笑みを浮かべる。

だからこわいっつの。


「君たち、ここは子供の遊び場じゃないんだよ?」

いや、ムニョンはともかく、俺ってそんなに童顔か…?


だが相手にされんことは解りきってたから、俺はカバンから取り出した書類を男の前に置く。

いや、名前もわかっている。

からさお 隆覇りゅうは、この家の主だ。

そして見て察したが、この人は秘密結社の少なくともナンバー3には入るような人だ。


隆覇は、笑みを潜め、その書類に眼を通した。

ムニョンとは違って一瞬でその意味を理解したらしい。


余計なものも入っているが、恐らく、そういう不可思議な力持った秘密結社の関係者一覧だ。

「ほう…?」


「何なら、そこに神も入れとこうか?

 それとも」


「結構。」

その声を俺はとりあえずの承諾と取って、ムニョンと共に腰を下ろした。

にしても怖ぇ…。


恐らく、我らが神皇しんのう陛下も協力しているんだろう。

だったら俺がこの秘密結社に害を成すことはない。

陛下のことは普通に好きだし。

神の威光なんて欠片も感じないが…、あの方が人に優しいのは知ってる。


「それ、全部俺一人で集めた。

 どうだ?

 殺さんで利用する方が有用じゃないか?」

こんだけの財があれば俺を殺すくらい造作もない。

と思ってるのかもしれんが、それは普通の男なら、だろう。


残念ながら俺はガチもんの天才。

そう簡単に殺されるような下手は打たんし、打ったら、それ相応の報復が来るくらいの用意もある。

「それで、何の用だい?」

隆覇は驚く様子もなく、ただ肩を竦めるだけだった。


俺が若干、不満そうな顔をすると隆覇は笑い

「残念。

 上には上が居るものだよ」

………マジか。

「言っておくけど、僕じゃないよ?

 もう居ないから」

それは死んだってことか?

…ふぅん。

会ってみたかったな。どんな年寄りか知らんが。


「俺は、こいつの家族を探しに来たんだ。

 9才の子供が、居るだろう。」

聞くまでもない。

ここの、その地下に居るのはもう解りきっているんだ。

それを俺達に隠す理由も、もうないはずだ。

「…子供?

 悪いが人違いじゃないか…、うちには子供の居候なんて居ない。」


「は…?」


ここに居ない?

いや、居ない筈はない。

そうだろ?

お前が確信したんだ、それなら…


内心焦っていると、突然襖が開かれた。

「…隆壱か。

 今は取り込み中だ。戻れ。」

隆覇はその、隆壱という男を一切見ることなく、結構冷たい口調で言った。


しかし、その隆壱という男は至極穏やかな笑みを浮かべる。

「いいや戻らない。

 どうやら、その二人は俺の客だ。」


「…隆壱、お前。

 俺に黙って何をしている。」

部屋の中が急に吹雪いてきた。

「親父にお聞かせする程の事ではないよ。」

うん。雷かな?

「聞いてるのは俺だぞ…」


「どうでも良いから、今直ぐ会わせて。」

いや、風林火山だったか。


「…すまん。

 お姉さんが生きてたんだな。直ぐ連れていこう。」

ムニョンが立ち上がり、隆壱のあとを付いていこうとするので、俺も慌てて立ち上がった。

「あ、話聞いてくれてありがとうございました。」

隆覇さんに門前払いされてたら、こうはなってないからな。

とりあえず頭を下げ、二人を追いかけた。


「まったく……」










「エーデル!

 お前んとこのジニアに客だ!」

螺旋階段から身を乗り出して、隆壱が下へ声をかけた。

何というか、簡素なんだか中二病なんだか解らん地下だな…。

もしかして研究所か?


「えっ、おっ、お客さん?!

 ど、ど、どうしよう。

 どーしよう隆壱!ティーパックのお茶しかないよ!」


「知るか!」

慌てた声に隆壱さんが嬉しそうに笑い出す。


「なんでジニアもお客さん来るって行ってくれなかったの?!

 あ、輝のとこの引き出も…いやこれ何年前の…?

 待って自分の保管能力が恐ろしい…」

下から…、もてなされる側としては恐ろしい声が聞こえてくる…。


ん?輝ってもしかして深耶方の親戚の…いや、そんなわけないか。


と、別の子供の声も聞こえてくる。

「整理整頓が出来ないだけだろ。

 そもそも俺は客なんて…」


「あ、待て、それはヤバイぞ、ムニョン!!」

いくらなんでもこっから飛び降りるのは怪我す…

「これ頼んだわ」

止めようとした手に荷物を持たされ咄嗟に受け取ってしまう。

「あ、うん。

 いや――あっ!!」

ほらぁぁぁあ、案の定、飛び降りるぅぅぅう


どう考えても間に合わないので、とりあえず悠々自適に俺は降りる。

「ムニョン…、お前なぁ……」

地下に着いた俺は、幼い子供に抱き着くムニョンに眼を細めた。


多分、途中、手すりを掴んだりとか何とかして、普通に自力で何とかしたんだろう。


ムニョンの抱き締める子供を見てから、俺は軽く周囲を見回して

「…やっぱりか」

と一息吐いて、察した。


「ムニョン、文緒。」

言いながら俺は二人の頭にそっと手を添え、ゆっくりと撫でた。


二人は一瞬も待たずに泣き出した。

嬉し泣きもあるが………、ほとんど悲しい、哀しいのだ。


俺はチラリと、エーテルという男を見つめた

「文代は…居ないんだな。」

男は一瞬混乱した顔をしてから、ハッとしたような顔をして、きゅっと唇を噛んで首を振った。


「そうか。」

二人は家族を一度に失った。

無口で若干抜けてて…誰より家族のことを大切に思ってる父親も

口煩くて俺にすら世話焼きで勝ち気で強い、でも愛情深い母親も


口が強くて俺以上の戦闘能力を持ってて俺のおやつを頻繁に奪う…よく笑って、よく泣く、ムニョンにとっての妹、文緒にとっての双子の姉も。


「ふみちゃ…」


「ふみよ…」











「ジニアは、松尾都まつおと 文緒ふみおって名前だったのか。」

隆壱はそう言いながら、眼を真っ赤にしている文緒を抱き上げた。

「うん…」

と頷くと、文緒は隆壱に抱き付き、ぐりぐりと顔を押し付けた。


「ああ、存分に泣けば良い。

 俺も姉貴が死んだって聞いたときは引くほど泣いた!」


笑いながら言われた文緒は少しだけ顔をあげた。

「隆壱が…、泣く…?

 何それウケる…」

うん。

泣きながらヤの若頭に何言ってんだ、文緒よ。


隆壱はまた嬉しそうに笑って文緒の頭を撫でた。

「泣いたら食って寝てまた泣いて、家族を大切にすれば良い。

 なぁ?

 あのおっさん見てみろ、家族を大切にすることに全振りしてる。」

言われて文緒が見たのは…あ、あの何年も前の引き出物を取ってる…、エーデルさん?


「うん。

 あのおっさん、この3年、彼女居ない。」


「え、そうなの

 うわぁ…」

やめて差し上げろ!!?!

彼女居なくて何が悪い!何が悪い?!

「なんで突然の流れ弾?!

 ちーがーいーまーす!

 俺だって友達います~??!」


「それも全部組織内じゃん」


「少数精鋭なの!

 俺は幸せだからほっといて!!」

ほんと、ほっといてあげて!!


「ふふっ」

ムニョンがちょっと笑い声をあげた。


と、

「ムニョン!」

思ったら、倒れたので抱き止めた。

ムニョンの全身から力が抜けてる。安心…したのかもな。


だとしたら、やっとかよ…ずっと強張ってたらしい。

人の事を察する能力はないんだな。糞か俺は。

「…いや、可笑しいぞ」

ムニョンの体温が低いような


ああ、察した。


むしろ…、本当に、今さら出てきたのかよ…。

「お姉ちゃん…?」

文緒に気が付いて、俺は笑みを浮かべた。


「ちょっと探し疲れちまったみたいだ。

 あ、そうだ。

 ムニョンはうちに住んでるんだが、お前はどうする?」

文緒は困ったような、戸惑った顔をして、ムニョンとエーデルさんの顔を交互に見つめ、俺の事を見た。


どうやら困っているらしい。

俺にも、エーデルさんにも気を使っている。


思わず少し笑みがこぼれる。

「なぁ、聞いてなかったが

 お前の名前は何だ?」

お前が、この3年、自分の名前と信じてきた名前は?

「…千葉ちば 寿幸ひさち!ここではジニア!

 でも俺には家族が居るんだ!

 ムニョンも、尚久も、ついでにスロも多分家族!」


「おう。最後、曖昧だな。」

俺は気を失ったムニョンをおぶって…、寿幸を見つめた。

「ならまた遊びに来るよ。」


思えば、この頃が一番平穏だったんだろう

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