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アルカナの戦慄  作者: 三古谷
第七章 『That person is sinner』
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《 エナク―ENAK―》

この世の9割は、概ね理解してる。


不可思議な力

世界の生まれた始まり

神と言う存在のこと


概ね、察しは付いている。

だから俺にとっては今目の前にある、このテスト用紙というものが…酷く下らなく思えてしょうがない。


(…そーもそーも?)

何故この世に既に出ている解答を、もう一度沿って解かねばならんのか?

ゲームしたい。寝たい。あ、腹へった。ゲームしたい。…帰りたい。


「……はぁ」

何と言うことのない、“空”。


我ながら可愛くない中坊だなぁ…とは思う。

この考え事態が可愛くないのだが…。

しかし驚いたことに、俺のこう言った言動を両親は屁とも思わない。


いわく


『『愛の力』』


いや、うるせぇよ?!


人の思考って奴は、忌まわしいことに1割に入るのだ。

と言うか察しはついててもビビる。

不完全さにもパターンがあると言うのなら解けるのかもしれんが…。

残念なことに、この世のありとあらゆる不完全は、あまりにも完全で、俺には到底解けん。

…言っとくが謎々ではないぞ。


だからまあ、結果的には将来どう生きようか…と、将来に胸を膨らませる、そこらの学生と同じわけだ。


きっと10割理解しても、俺は虚無には辿り着けないからな。

「はい。

 後ろの人から前に集めてください。」


義務感たっぷりの教師の声に俺も義務感たっぷりにテスト用紙を前へ渡す。

静寂のなか紙の擦れる音だけが聞こえ、担任の碓氷がテスト用紙を集めきると

「おつかれ」

と、一声


その瞬間に謎の歓声をあげる、“そこらの学生”ども。

の、一人。

前の席の“男”が俺の席に腕とアゴを乗せる。

「ねぇ秀路スロくん、解けたぁ?

 一番最後の」

やめろ、無駄に良い顔で上目使いせんでくれ……。

優真ゆうま…あ、そう一条いちじょう 優真ゆうまだ。

あまりに無駄に顔が良い。声が良い。しかも優しい。その上、優しい。悪いの頭だけ。


そんなお前のためならいくらでも教えてやろう。

「ルート10だ」

いや、別に誰であっても教えるんだがな?


そして右から現れた賢ちゃん。確か水上みなかみ 賢治郎けんじろう

「碓氷先生、なんか本気出しすぎじゃない?」

一応テスト範囲だから、何とも言えんな。

だが、難問なのは間違いない…、俺も途中式は無茶苦茶だったろうし。


「オレ、ヤマカン全部外れた死んだ、ウケる」

と、ケラケラ笑いながら俺の頭にひじ乗せてきやがった深耶しんや

………えっと、確か、佐藤だったか。

いや、絶対ちげぇな。


「え~、何それウケ…

 え…、何それヤバくない…?」

オレも正直ヤバイと思うぞ。


何がヤバイって

「お前てめぇ、この俺がわざわざ時間割いて作ってやったヤマカン

 ガン無視したな?」

俺に乗せたひじを掴んで笑みを浮かべた。

「眠すぎてそっから、やまはった」


「だったら全部外れたりせんだろうが!」


秀路スロのやま、気持ち悪いくらい全部合ってたもんね。」

えっ、賢ちゃん、気持ち悪いって何だよ。


この俺が珍しく熟考して、お前らのために考えたヤマだぞ!

10分くらいで。

いや、俺にしてはマジで熟考したほ…、もやめとこ。


「ホントに大丈夫?

 深ちゃんピンポイントの丸暗記しかしないから…」

おうおう、優真が恐ろしく心配そうな顔をしてるぞ、深耶。

そういえばお前ら従兄弟だっけ。

あ、普通に一条いちじょう 深耶しんやか。あ、しっくり来た。


「いいよ碓氷と放課後ランデブーするから」

それこそウケるんだが。


いや、こいつらと駄弁ってる場合ではなかった。

「てか俺帰るわ

 深耶は勝手に死んどけ」


「うるせぇ勝手に生きる。」


「またね、スーちゃん」


「またね、スーちゃん!」

やめて賢ちゃん、むやみに優真の真似しないで!




「ただいまー」

言いながら家を帰宅すると、足音が聞こえてくる。

小さな足音だ。

「おっかえりぃ!」

抱き着いてくる文栄ムニョンを俺はそのまま抱き上げる。

「良い子にしてたか、ムニョン。」


「子供扱いしないでよ!スロ!」

そうやってほっぺを膨らませるところが子供っぽいんだ。

つか、子供だし。

「たった七歳差だよ!」


「あと4年で一回りだな。」

とか喋りながらリビングへ向かい、流れるように冷蔵庫を覗きこむ。

ムニョンが輝いた眼をしたので、とりあえずおばちゃんが置いてったであろうリンゴジュースを与える。

ご満悦そうだ。


このウルトラ可愛いチビは、俺の兄弟ではない。

近所の家の子供だ。

今日は俺の両親も留守で、ムニョンの父さんも出張で、母さんも妊娠のための入院中。

故に、ムニョンの世話を頼まれてる。


「あのね、スロ。

 ムニョン大きくなったら、スロのお嫁さんになるの!」


「ハハッ、俺、嬉しいわぁ~」

松尾都まつおと 文栄むにょん。はっちゃい。


多喜本たきもと 秀路すろ。じゅうごちゃい。


「よっしゃ、ハンバーグでも作るかぁ…」

もう俺、お前のお父さんで良いよ…、可愛いし。


うん。それで良い。

娘の将来の旦那に散々嫌味を垂れ流して、息子の嫁さんと一緒に料理をするんだぁ…。

そして俺はペットのポチ(猫)と老後を過ごす。


…過ごす…………?


過ごしているはずが時は流れ……


松尾都まつおと 秀路すろ…?

 多喜本たきもと 文栄むにょん…?」

どうした、ムニョン。何をぶつぶつと……?


「ムニョン、将来

 スロをお嫁さんにもらうの!」

あー、そう。

お父さんなんだか嬉しいわぁ…、いつまで言ってくれるのかねぇ。

でも、逆じゃね?


「スロ、結婚を前提にお付き合いしてください!」

わぁお、中学生になってもそんなこと言ってくれるの?

うんうんおっけーありがとう。


「ねぇスロくん。

 子供の名前どうしようか?」

ムニョンちゃんってば来年高校生なのに、まぁだそんなこと言ってて………。


……………ん?




何処と無く恐ろしい気配に気づいたら捕まっていたのだが。

だが、それさえもただの幸せだったのだと、どうしようもなく気づかされる。


7年後。

そのほんの3日で俺達のすべては変わった。

「…何だあれ」

大学から自宅へ帰る途中、空を仰いだ俺は眼を見開いた。


忘れもしない、5月3日。

まだ昨日のように思い出せる、黄昏の頃…俺はその靄を見た。


何だと言いながら、この世の9割と言いながら、俺はその靄さえ何なのか概ね察していた。

そう。

それを消し去った不可思議な力のことも。

あれが、あれらが、世界の生まれた始まり…それそのものだ。

そして俺が永遠に理解できない感情の結果でもあった。


「くそっ」

察しがついた俺は、走って。

行くべき場所へ行くため、帰る場所へ行くため。


着いた…はずの俺は、呆然とした。

そこにはすでに、俺の行くべき場所は無かった。

あるのは瓦礫、それと血だけ。


「えっ…?」

後ろから聞こえた声に、俺はほんの一瞬安堵した。

そして振り向いた次の瞬間には血の気が引いた。


俺の後ろに文英ムニョンが無傷で居た。

恐らく学校帰りだったのだろう。


そして、その更に背後に黒い靄が居たのだ。

俺はまた察した。

ああ、この靄は文英ムニョン達家族を狙っていたのだと。


俺は咄嗟に文英ムニョンの手を引いて自分の家へ走った。

「やだ!ねぇスロくん待って!

 ふみちゃんが…、文緒ふみおが…まだ見つかってない!!

 パパが…ママが……」


「恨むなら、俺を恨め。」






それからムニョンは、殆ど笑わなくなった。

数ヵ月経って、少し笑ったかと思うと…いや、それもほんの少し広角をあげただけなんだが。

そうすると、音もなく涙をこぼす。

俺はそんなムニョンと、父さんと母さんと側に居た。ただ一緒に暮らした。ただ一緒に飯を食った。


あの日の事件で、優真と深耶の親戚も、何人か死んだと聞いた。

俺は察した。


察したままに3年が経ち、ムニョンは静かに笑うことも、静かに泣くことも減った。

声をあげて笑い、俺を殴りながら泣くようになった…ムニョンが高三の3月頃。


『生きてるわ。死んでない。』

俺が博士課程二年目を控えた頃だった。


ふとムニョンがそんなことを言った三ヶ月後。

俺は自分の引き出しから、資料を引っ張り出し、ムニョンへ手渡した。


「…何これ」

言いながら、ムニョンはそれに眼を通している…が、見ても解らんらしい。

俺はムニョンの向かいに座り、その眼を見返した。

「文緒が居るだろう家のリストだ。」


「え…」

驚いた顔をするムニョンから、俺は少し眼をそらし

「君が嘘を吐かんことくらい知ってる。」

そういう、人を傷つける嘘を吐かないことを。

俺のアイス食べてないとか、無意味な嘘は吐くけど。


「嬉しいけど

 …でも、どうやって」

どうやってって言われても…諸々考えて?

途中式を言うのは、ただひたすらに時間が掛かるので、勘弁して欲しい。

「見た通り、全部集めただけで絞り切ってない。

 柊、樹、神氷、枷、弥扇のどれかだとは思うが」


ムニョンが訝しげな顔をしてくる。

ムニョンは俺のこと普通に疑うよな。

この天才様々の頭脳を普通に疑うんだ。

「ま、秘密組織にだって経済力は必要だろう?」

そうじゃなきゃ秘密裏に誰かの生を隠蔽したり、何かの存在そのものを抹消できたりはしない。


現代このよは所詮、金さ。悲しいかな?いいや、解りやすい。

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