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アルカナの戦慄  作者: 三古谷
第七章 『That person is sinner』
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『大っ嫌いだ、多分ずっと』

「それじゃあ、そろそろ移動しようか

 アリス、他の場所を案内する必要はないよ。

 さぁ行こうか。」

バーネットさんの声に急かされ、戸惑った様子のアリスさん達と共に、私達はアンゲルス奧深くへ…行く途中で、私は気づいてしまう。


これ…地下に向かうパターンじゃ……?


そして自分でも忘れかけていた設定まで思い出してしまう。

いや、忘れてても不思議はないのだ。

だって礼人とのあれ以来、地下らしい地下へ行ったこと…、いや、あるわ。うん。全然あるわ。

え?え?何で今まで平気だったの私。

任務だから?行きなれた場所だから?


それなら平気だ!うん!

何故ならこれも任務だから!!!


「……うんと、ごめんね

 だからと言って行くのを止めようかとも言ってあげられない…」

お気遣いなく!!!

いや、ホント、バーネットさんったら一体何を言ってらっしゃるんですか?ハハハ

今まで平気だったんです。はい。

それが今うっかり思い出したからって急に怖くなるなんて、そんな事あるはず……。


「あ、ムリだ。」

地下へ向かう階段の途中、ついに私は足を止めてしまった。

いや、ムリムリムリムリムリムリムリ!絶対無理!

むしろなんで今まで平気だった私!!?!


「師匠?

 ムリって何が…?」

つぶらな瞳で私を見つめるにさえ何故か罪悪感を覚える。

いや、でも、だけど、無理だから。ほんと………うぅん…。


前みたいに礼人手を握ってもらう?

否、綾雅の居る前でそんなこと出来ますかいな。


むしろ綾雅に握ってもらう?

否、部下二人の前でそんなこと出来ますかいな


じゃあその部下…?

否、総合的に考えて断じて否。


いっそ私だけ休憩してはダメだろうか。

私一人くらい抜けてもバーネットさん居るし大丈夫じゃないだろうか。

むしろ私が行った方が足手まとい。うん。そうだな。間違いない。


「そうは言ってあげられない。

 むしろ君が来てくれなきゃ意味がないんだから。」

その言葉に驚いて、私はバーネットさんを見つめた。

表情は険しく、何か決心のようなものが見える。

そういえばさっきもそう言っていた。

私が行かなければ意味がない…?


私が分隊長だから?

それなら礼人も…。


否。


いや。…いや、本当に手遅れだったんだ。

バーネットさんは解ってる。


私が、光の能力者だって…解ってる。

解って、その上で私の力を利用しようとしてる…んだろう。


思わず少し身構えた…、と同時に綾雅が私とバーネットさんの間に入ってくれる。

事情も何も知らないはずなのに。

「何だかよく知らねぇが、いくらおじさんでも師匠に手ぇ出したら未来永劫許さない。

 母さんにだって脚色つけて言い付けるぞ。」

少し怒った顔で言った綾雅の言葉に、バーネットは顔をひきつらせた。

「それは…凄く困るなぁ……」

親しむような、慈しむような視線を綾雅へ注ぐバーネットさんは、綾雅の言う通り“おじさん”にしか見えない。

綾雅のお母さんである愛雅さんは世界各国を飛び回ってるから、…その繋がりなんだろう。


…でも、それで揺らぐようなら、バーネットさんも初めからトップなんてやってない。

「これは僕個人よりもずっと優先されるべき事だ。

 志野しのは甘いからな。積極的にやろうとしないんだろ。

 隆一りゅういち…は、何を考えてるか全く解らないけど…。」


「まあ、行けば解るよ。

 きっと君も協力したくなる。

 君みたいな子なら、特にね。」

そう言って進み出したバーネットさんの表情は険しく固く。

怖いけれど、それ以上に苦悩しているように見えた。


…仮に


ここで本気で抵抗したとすれば…勝てるように思える。

相手は3人とバーネットさん。

けれど肝心のヴェロニカさんのドラゴンはこんな所にはきっと来られない。

数では圧倒的に勝ってるし、綾雅も天莉愛さんも居る。

バーネットさんの戦い方は解らないけど…、でも逃げるだけなら。


………………けど。

「はぁ。」

けど、私個人のために、そこまでする利益は誰にもない。

私達の国にも。今の時代に国家間で争うなんて。

皆にも。もしかしたら怪我をするかも知れないのに。

私にも。自分がどうなろうがそこまで。

仮に私が死んだところで、何かに利用されたところで、私一人の力で変わることなんて、微々たること。

だったら、事を荒立てず大人しくしたがった方が良い。


うん。そうしよう。


「……嫌だな。

 そんな風に言われるのは」

そうハッキリと言ったバーネットさんは頑丈そうな扉の前に立ち、それが開くのを見つめていた。


「バーネットさん。」

声を書けたのは礼人だった。

「この隊員のたった一人に傷一つ付けた時点で、互いの国、引いては世界がどうなるかは、分かってるよな。」

脅しにも聞こえる言葉にバーネットさんは頷いた。

「無論。

 君にも彼女にも血なんて流させないよ。」


「心までは、救えないけれど」

そう振り向き微笑んだバーネットさんのその背後は…薄暗かった。

段々と目が慣れてきて、それが部屋であることが解る。

恐ろしく広いこと。

ガラス張りの空間がいくつもあること。

そのガラス張りの空間の中に、人影や獣の姿があること。


すぐに理解した。

悪魔を捕まえているのだと。

殺すことも倒すこともせずに、あの可哀想なもの達を捕らえて、逃がしもせずに居るんだと。


「ねぇ…、ねぇ、陽灯ちゃん。

 お願いだ。

 君にお願いだ。

 君のその力に懇願する。

 彼らを、彼らのうちの一人で良い。

 …救ってくれは、しないだろうか?」

聞きたくはなかった言葉を聞いた気がした。


それが故に、私は笑みを浮かべる。

この場に似つかわしくないと思う程の嫌みな笑みを。

けれど無邪気な笑みを。

だって誰であってもそう言われては、私はこうとしか思わないから。

もちろん(―――――)

微々たる私が、あの可哀想なもの達を救えると万に一つでも言うんなら、その可能性に手を伸ばさない理由はないだろう。


「師匠!」

「愛本!」

当然のごとく、綾雅と礼人からたしなめられた。


その上、イーサンと瀧さんからも。

「陽灯ちゃん。

 ここは僕らの国から9000㎞も離れた土地だ。」

「今は任務中で、部下だってたくさんいるんだヨ?

 そんな…」


「そこまで離れた国のアンゲルストップの言葉を無下にする方が事を荒立てるでしょう?

 それに、私の部下はそこまで子供ではないです。

 私が居なくとも家に帰るくらいは容易です。」

だから…、そう続けようとした私の体が吃驚するくらい揺れた。

揺れたって言うか揺らされたって言うか…、気が付けば永徳に胸ぐらを捕まれていたのだ。


強制的に怒りに震える永徳の顔を見せつけられる。

「愛本。

 お前な…。お前な。」

どうしてなのか、永徳までもが耐えるような顔をした。

何だか、……どうしてなのか、悲しくなった。


けれど永徳はそれを怒りと叫びで振り切って、私に思いをぶつけてくれた。

身勝手な思いをぶつけた。

「ちょっとリーダーになったからって…

 調子に乗ってんだろ?!!

 お前に特別な力なんぞ有るわけ無ぇ!!!そうだろ?!!

 テメェの面倒も見れねぇやつが、他人の面倒まで見ようとしてんじゃねぇよ!!!」


うん。そうだね。

そうだね。

だけどね、だからこそ、……人のために死にたいって思っちゃうんだよ。

そうずっとずっと昔に決めてたんだよ。

皆に会って、ミハヤさんと出会ってちょっと気ががれただけ。

本当は…


「一人で覚悟決めたつもりになってんじゃねぇ!

 それは、このおっさんの覚悟とは全然違う。

 ただの放棄だ!」

放棄…。

確かに、そうかもしれない。

「だから俺はお前が嫌いなんだよ!大っ嫌いだ!!

 お前の体がお前だけのものなんて思ってんじゃねぇぞ!!!!

 お前のそんな軽率な行動のせいで、一体誰が…」

言い掛けて止めた永徳の息は酷く切れてる。

そりゃあ、そうだ。

あれだけ捲し立てて…。こめかみに血管も見える。

よっぽど私のことが嫌いなんだろう…何て。

言ったら、また怒られるんだろうなぁ。


永徳が、みんなが求めてることは解る。

私に危険なことをさせたくない。

でもそれはバーネットさんも同じだ。

私に危険なことさせるつもりなんて、最初からない。


私の胸ぐらを掴む永徳の手を片手で掴んで、私はその眼をジッと見つめた。

「それでも。

 何処まで行っても私は私。私だけのものですわ。

 これが私なのです。

 悔しかったら、私より偉くなって私を従わせてみては?

 それまで私は好きに自分を“放棄”しますから。」

そう睨み付けて永徳を黙らせた。


永徳は酷く憤った眼をしているから、私はそうやって言った。


でも。

自分で言っておいて思わず、永徳の目に映る私は、息を吐いて笑っていた。


その勢いのまま、私はもう片手で、永徳のこめかみをデコピンをする。

永徳が心底驚いた阿呆な顔をするものだから、また笑ってしまう。

「ね。私もう怖くないんだ。」

そう、子供がイタズラを教えるみたいに言った。


もう怖くない。

さっきまであんなに怖かったはずの地下が、礼人に会うまではずっと怖かったはずの地下が。暗闇が。閉鎖された空間が。

どうしてか、怖くなくなる瞬間ができた。


どうしてか、今もその瞬間だった。

「私は…リーダーなんて気質じゃないから。

 ずっと頼りないから。

 だから部下に、皆に、心配させちゃうけど。

 でも皆が、永徳が、

 こんな風に心配してくれてるんだって…そう思うと」

永徳の掴む手が少し緩んで、私を放した。

「なーんにも怖くなくなっちゃうの。

 ごめんね!」

どこかで、皆は私を最後まで見棄てないでくれるって信じてる、願ってる、思い込んでるんだ。

だって皆なら本当にそうしてくれそうだから。

私はこんなにも無謀だ。


そう。だから、私は私を嫌いと言う永徳にも、誰にも、嫌みなくらい笑ってしまう。

笑ってやる。

笑えている。


何が良いか何て解らないけど、私は、これはこれでいっかと思うんだ。


だから私は今、…獣の悪魔の前に居る。

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