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アルカナの戦慄  作者: 三古谷
第七章 『That person is sinner』
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『ΗΒ―エータ・ベータ― 憤怒の対』

とか格好付けては見ても、数日後はミハヤとは遠く離れた海の上。

どうあろうと、私はやっぱりアンゲルス隊員なのです。

ええ、職務を全うしましょうとも。


そうして私達は、いつもと違うアンゲルスへ足を踏み入れる。

「ようこそ諸君!

 早速で悪いが、我が国のアンゲルスを案内するよ。

 あー…、我が国はちょっと堅すぎたかな…?」

少し照れたように笑う男性。

その後ろには二人の姿が見える。

多分この三人が、私たちの案内とかをしてくれるんだろう。


「俺はアリス・瀬名 マイヤーズだ。

 よろしく。」

あ、アリスって有栖さんと同じ名前だ。


アリスさんは一番前に立っていたイーサンに握手を求め、イーサンはそれに笑顔で応じた。

「李・イーサンだヨ。

 よろしくネ」


「リー?

 ヴェロニカの友達と同じ名前だな!」

そう嬉しそうに笑う男性の視線の先には、二人のうち一人。

幼い女の子が。

「違う。

 李とリーは違う。

 リーは名前だし、その人のは苗字。」

女の子は少し不服そうな顔をして、身長ほどもある大きなクマのぬいぐるみの首をギリギリと絞めていた。

何故かクマが泡を吹いているように見える。


有栖さんもアリスさんも名前だから、こっちは性別が違うだけだなぁ。

「似てるな!」

動じないね、こっちのアリスさんも!


女の子はクマを抱いている手と逆の手でスカートの裾をあげ、優雅にお辞儀をする。

「アリス隊所属、ヴェロニカ・ペイリン中尉です。

 皆様を歓迎致します。」

ヴェロニカさんはにこりとも笑わず、柔らかそうな髪を揺らした。

緊張しているという様子でもないから、いつもこうなんだろう。


するとヴェロニカさんは横の男性へ視線を送った。

多分、自己紹介の催促だろう。

男性は解ったよ、と小さく言ってゴホンと咳をした。

「同じく、ヒース・マーティン少尉だ。」

そう無愛想に自己紹介してくれた。

前のアリスさんと、その部下であろう二人の温度差がすごい。

ついでに、成人越えているであろう男性二人と、ヴェロニカさんの身長差も凄い。


ところで少尉とか、中尉って何なんだろう。

いや、聞いたことくらいはある。

仮にも軍人だから…、A級と簡略化してはいるけど一応そういう細かいのもあるはずなのだ。

しかし覚えてない。


「少尉も中尉も、あと大尉も俺らでいうA級だ。

 A級三人の部隊でお出ましとは…、有り難いことだなぁ?」

そう礼人がボソッと私に教えてくれた。

ちょっと失礼ながらも、まさかこんな可愛らしい幼女が私と同じどころか、へたをすれば…。

いや、国という大きな所属が違うのだから、互いの地位を尊重し合う必要はないのだけれど……。

とはいえ同じアンゲルスだから微妙。


「畏まる必要はないよ。

 俺らは飽くまで君たちの安全を確保するため、選ばれただけだ。

 君達は知らないかもしれないが、俺らのトップと君らのトップはべらぼうに仲が良い。

 悪い要素がない。

 故の用意しうる限りの最高の対応を取る。それだけだ。」

アリスさんの言う通り。

うちのトップ ひいらぎ志野しのさんと、ここのトップ バーネット・ジリアンさんは仲が良いらしい。

バーネットさんが帆凪様のいう通りの人なら、私達に危害を加えることはない。


「あ、でも万が一君らが怪我でも、ましてや死んだら俺の首もどっか行くから、勝手な行動は慎んで欲しいなぁ~。」

そういうアリスさんの瞳に、何故か本能的な恐怖を感じる。

いや、その恐怖に実際に怯えることはないのだけど…。


「私達としては、ここに居るだけで任務は完遂なので…

 心配には及ばないかと思いますわ…?」

だからうちの子供たちにまで威圧を振り撒かないで…!


苦笑いを浮かべながら言うと、アリスさんはそれもそうかと笑った。

隠しても隠しきれない威圧…、多分それが本性。


“貴方が秘密を隠している限り、秘密はあなたの囚人である。

 しかし貴方が秘密を話せば、貴方が秘密の囚人となる”


うん。

アリスさんがその本性を晒すことは多分ないので結果無害。

ただの好い人だ。

「上司からやることは言われてるんだ。

 施設の説明は出来ない所も多いし、面白くもないだろう。

 それより、もっと面白いものを見せ合おうじゃないか」

あ、うん。

撤回するよ。

この人、隠すつもりなんて最初からなかったわ。








画面の向こうで、天莉愛さんが最後の敵…というか纏めて五人の敵を濁流で打ち倒した。


「凄いな…」


思わず、といった風にヒースさんが感嘆の声をあげた。

仮想セカイにて、私、礼人、最後に天莉愛さん。

三人それぞれの戦いぶりを見て…、だ。

観戦者が三人とはいえ、天莉愛さんに見世物のようなことをさせるのは気が引けたが…本人がやりたいと言ってくれたので有難かった。


複雑ではあるけど、手放しで仲間を誉めてもらえるのは普通に嬉しい。


「能力は才能に左右されるのが難点なんだ。

 基本はGEMで戦うよ。」


「GEMかぁ。

 リミッターと似たようなものらしい。」

各国のアンゲルスは戦う相手も違えば、戦い方も異なる。

大きく言えば魔界vs磁界なのだが、こっちの世界に国があるように、あちらにも国や組織がある。


詳細なことは私も知らないのだけど、神夜さんがそんなことを言っていた。


「換装って便利そう…」


「むしろお前らがどうやって戦ってるのか不思議なんだがな」

と言うのは永徳だ。

不本意だけど、よく考えが合致する。


「俺らは基本、前へ出ないからな。

 防御は防御壁で行う。」


「隊長はガンガン出るけどな。」

ボソッとヒースが呟き、ヴェロニカさんがそれを嗜めるように脇腹を軽く突いた。

何だよ事実だろとじゃれ合う声が聞こえてくる。


この国のアンゲルス隊員達は、狙撃部ばかりと言うことだろうか。

確かにその方が安全ではあるけど…、それでは悪魔に対しては威力不足な気がする。

それとも、それほどまでに潤沢なマターか、カルディアがるのだろうか…。


「では、今度は俺らの番だ。

 悪いがまた移動しよう。

 実際に会った方が速い。」


アリスさんの言葉に、私は首をかしげた。

「移動…は、一向に構いませんが

 会うとは…?」

誰に?何に?なにゆえに?





「自慢じゃないが、うちのは超イケメンだ。

 見惚れて良いぞ。」

アリスさんは両手に嵌められた手袋のうち、左手の手袋を取って自分の腰へ手をかざした。

すると僅かに底から輝きが見え

「―アリス・瀬名 マイヤーズの名に置いて召喚す。

  ガレス―」


すると、アリスさんの前の地面から光が溢れた。

私達がその輝きから離れると、そこから…何か出てきた!

天馬ペガサス、ガレス。

 召喚に応じ参上した。』

ヒヒーンって絶対言いそうな白いフォルムから聞こえてきたのは、間違いなく、そういう言葉だった。


「悪魔!!!」

すぐに反応したのは友姫さんだった。が、私はそれを手で制した。


確かに、その異様さは悪魔そのもの。

馬が喋るなんて有り得ない。

ましてやあれは、声帯を使った声ではないし…。


でも、明らかにアリスさんが任意で呼び出したであろう、この状況。

そして今まで何度も悪魔に対峙してきた経験則から…、あの馬さんには悪魔特有の雰囲気がない。

いや、信じられない光景であるんだけど、あれは正しく生き物に思える。


「俺の相棒、魔獣まじゅう天馬ガレス。

 ガレス、前に話した他国のアンゲルス隊員だよ」

アリスさんはガレスを見上げ、その立派なたてがみを撫ながら親しげに語りかけた。

『ほぅ…、やけに子供が多いのだな。

 だが質は良さそうだ。お前より強いのも居るぞ。』

そう、からかうように答える…えと、ガレスさん?はアリスさんのことを信頼しているように見える。


いや、というか、悪魔でない魔界のものって……凄く理解が出来ない。

悪魔でないのはもう見て解る。

この生き物には理性も知性も感じる。


これは…凄く受け入れるのに時間が掛かりそうだ。

だって…そうなのだ。

よくよく見たからこそ、この状況だからこそ解ったが、普通の戦場でこんな些細な違いなど…。

いや、所詮雰囲気。

どこが実際どう違うのかは見ても解らない。


だから本当に悪魔じゃないと言えるのか。

言ってしまって良いのか。


何もかも知識のない私には判断できないし、正直そんな判断したくない。

「ほら、ヒースも。

 ヴェロニカは最後のトッテオキな!」

私達の驚き…戦慄とも言える衝撃をよそに、アリスさんはそう言った。


多分、アリスさん達の戦い方がこれなんだ。

異物を利用して異物を排除する。

ハンムラビ法典じゃないけど、そんな感じの。


ヒースさんは溜め息を吐きながら、右手の手袋を取り、それを首へかざす。

そしてまた光輝き

「―ヒース・マーティンの名に置いて召喚す。

  エル―」


ガレスさんの時と同じように、地が光…いや、さっきより大分範囲が小さい…

『召喚に応じてあげるわ。

 ヒース?』

真っ黒な、明確に見えるを靄をまとって現れたのは…両手のひらに乗りそうなほどに小さい、女性…?

靄が全く消えないものだから、その全貌がいつまでも見えない。

何となく影は見えるけど…


『あらぁ?』


それでも、なお、気配は感じた。

見られてる。

視られている。


見ている。此方を。

『あらあらあらあら!

 ねぇ、ヒース?ヒース?

 折角呼んでくれたのだけど帰って良いかしら』

するとヒースさんは元々無愛想な顔を歪め、自分の回りを飛び回る女性…エルさんを睨み付けた。


どうやらアリスさん達と違って、二人は仲が悪いらしい。

「何故だ。

 いつもは俺を殺す殺すと宣ってるくせに」

仲の良し悪し以前に、憎しみ合ってすら居るように見える。

普通に会話は成立してるみたいだけど。


『凄く…スゴく、スゴクスゴくスゴくスゴく

 愛しくて苦しくて憎くて。

 憎い…嫌な…嫌な匂い…

 本能的に殺したくなる。

 けど何より求めていたような……、ヒカリ?』

見えもしない緋い目と、確かに目が合った。

憎まれてるような、欲されているような、奪われるような目と。

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