『そう、定めた日。』
『人が、嫌いな癖に?』
そう泣いた彼は、きっと微笑み、祝い、そして恨み、嘆き、絶望するのだろう。
哀れな子よ。
せめていつか…静かに眠れる日を、私は祈ろう。
誰でもない彼へ、誰でもない私より。愛を込めて。
漏れ無く監視兼介護?されている友姫さんに外出する旨を伝えたところ
「外出するぅ?!
駄目に決まってるでしょ?!!」
「友姫ちゃんそんな頭ごなしに…」
という感じだ。
何だか最近慣れてきてしまって、いっそ心地好ささえ感じる。
二人の会話をBGMにぐっすり眠れそうだ。
特に…、昨日の夜あんなこ…こ……こく……、れ、連絡をもらったから!
「陽灯さん…?
やっぱりまだ熱があるんじゃないですか?
外出は避けた方が……」
苑くんの言葉に私は慌てて首を振った。
最近会話中にも苑ちゃんと呼びそうになったので、これからは心のなかでも苑くんと呼ぶことにした。
苑さんはさすがに違和感があるので。でもいつかは、そう呼ぼう。
「申し訳ないけど、もう約束を取り付けてしまったの。
この時間を過ぎたら、もう海外に行ってしまうから
今のうちに会って蹴りを付けたいんですの!」
恥ずかしいのも、なんか、どぎまぎ?やきもき?
とにかく変な気持ちになるのも、耐え!られ!ない!
即決即断。速攻解決!
「けど…!」
友姫さんが何やら言おうとすると、苑くんがそれを制した
「ではまず熱を測って、異常がなければ。
どうせ僕らに貴方を拘束する権限はありませんから
暗くなるまでには帰ってきてくださいね!」
「ちょっと苑!
何勝手に…!!!」
「お願い友姫さん。」
「っ……。」
私のお願い攻撃に押し黙ってくれた友姫さんと、微笑む苑さんに感謝しながら私は寮を出た。
少し寒い秋空のもと、私は公園のブランコに揺られる。
軋む音が、もうムリ…重い…と言ってる気がするけど、お前ならもっと行ける!頑張れ!と励ましながら、揺られる。
僅かに聞こえた足音に、私はブランコにブレーキを駆け、その音の方へ向いた。
「…ごめん!
待たせてしまったね、寒くなかった?
昨日の今日でこれじゃあ…格好が付かないな…」
そう謝りながら駆けて来たミハヤさんは、本当に申し訳なさそうな顔をして、ブランコに座る私の両手を包んだ。
その温度差で、私は思わず笑ってしまった。
思ったより冷たかった自分の手も、暖かいミハヤさんの手も、可笑しくて、何だか心地好く思えて。
「何で笑うのさ」
彼もまた気恥ずかしそうに笑っている。
何でと言いつつ、多分解ってる。
自分の手が思ったより暖かく、その息が思ったより切れていることに。
ミハヤさんは私の手を包んだまま、口を開いた。
「君は好きって何なのかって聞いたけど、
僕はライクとラブは根本的に違うものだと思う。
愛するって言うのは、その人と添い遂げたい…って、
好きなところも、そうじゃないところも含めて、ずっと…側に居たいって。
そう思うのが愛するって事じゃないかな。」
そう、ミハヤさんはしっかりと私の目を見て言ってくれた。
私がとりとめもなく言った言葉に、真摯に答えた。
だから私も、つい、またとりとめもない事を聞いてしまう。
「どうして、私を」
「どうして…、か」
ミハヤさんは少し頭をかしげ、また考えて私の目を見た
「君が…、僕の涙を拭ってくれたから。
それだけ。
ただそれさえあれば、僕は君を生涯愛すると、誓える」
ミハヤさんは確固たる、覚悟のようなものが宿った目で言った。
私はそんなことでは側に居たいと思わないけど…。
ミハヤさんは、あのとき、余程心細かったのだろうか。
けど、あれ以来二度と泣いたことない…って訳じゃなくて、ミハヤさんは元からよく泣く人だ。
映画を見ても泣くし、動物に怯えて泣くし、子供が泣いてるの見ても泣く。
それを悪いものだと思ったことは一度もない。
でも、よく泣くんだから、それを拭ってくれる人だって沢山居ただろうと思う。
なのに、何でミハヤさんは、敢えて私だったんだろう?
「……」
いや、いくらミハヤさんに聞いてもミハヤさんから私の答えは出てこない。
私は息を吸い込み、ゆっくり、考えながら口を開いた。
「ミハヤさん、正直私は、一生を添い遂げるとか、永遠とか考えたこともないです。
ミハヤさんに対してではなく、誰に対しても。何に対しても。
こんな世界で、私は何時死んでも可笑しくありませんから。」
私の机の引き出し…その奥深くには手紙が置いてある。
それは、アンゲルスの正規隊員全員に義務付けられる、遺書。
私達は、特にA級以上の隊員は死ぬ覚悟があるとされてる。
いつ死んでも可笑しくない。
ここ数年間、誰も死んでいないとしても、明日自分達が死なない保証なんてない。
だから
「私は永遠を誓えません。
私が誓えるとすれば、それは誰かのために死ぬことだけ。」
そうあれかしと、私が望んできたから。
正義の名の元に帆凪様が私を助けてくれたときから、誰もが私に良くしてきてくれたから、だから
だから“私”は
「それでも僕は、君に生きていて欲しい。
君と生きて一緒に居たい。
君の生き方を否定するつもりなんてないけど、それでも僕は君と、一緒に居たい。
君のその生き方も、好ましく思うし、尊重したい。
でも、君に死んで欲しくないと思う。
人のために死ぬより、それより、人の死を踏み越えてでも…っ、生きていて欲しい…、そんな風に時々…思ってしまう…!」
また。
また、ミハヤさんは涙を溢していた。
本当に良く泣く人だ。
凄く、感情が…感性が豊かで、優しい人だ。
だから私は迷う。
死んで欲しくないと言われて戸惑う。
生き方を肯定してくれて嬉しく思う。
これ以上彼を悲しませたくないと考える。
「私はまだ貴方の嫌いなところを見つけてないから解らないけど
少なくとも友達としては好きだよ。
だからこそ私は、これから貴方を悲しませてしまうかもしれない私と貴方を一緒に居させたいとは…」
その先の言葉があまりに苦くて、正しくて、私は唇を噛んだ。
ミハヤさんの泣き虫は、もしかしたら伝染るのかもしれない。
だけど、こんなにも恵まれてる私が泣くなんて、可笑しくて、情けなくて、私は必死に唇を噛む。
情けない姿は、ミハヤさんには見られたくない。
永徳にも見られたくないと思うけど、それはムカつくからだから、ちょっと違う。
ミハヤさんの前で泣いたりしたら心配されてしまうし、何より私が嫌だ。
カッコ悪い姿を見られるのは嫌だ。
だから私は涙なんて流さず、ちゃんと言わなきゃいけない。
ミハヤさんをこれ以上悲しませる前に
前に
前に!
「おもわ」
「例え君が死ぬとして、本当に、本当に、それが…どうしても…、嫌だけど、どうしても避けられないのなら、
それなら、君が…何処かへ行ってしまう、その時まで…、側に居たい。
その権利を僕に与えて欲しい。」
私は涙を溢してしまった。
溢すまいと耐えた涙を、こうもあっさりと。
…ミハヤさんが言うことにも共感するけれど、私はこうとも思う。
愛とは情熱だ。
周りが、正しいことが見えなくなることだ。
目の前のことを、目の前の人を盲目に信じて愛して、正しいことを見失うことだと思う。
それでもそうしたいと思うのだから、恋は病とは本当に良く言ったものだ。
私はもうミハヤさんのことが好きなんだろう。愛してるんだろう。
だから正しいことが解っていながら、その手を取った。
ミハヤさんが私に、正しさを無くさせた。
彼と生きたいと願う自分が生まれた。
それを好ましく思う自分が生まれた。
永久の平和を祈る自分が生まれた。
これで良いのだと思う。
彼のために生きたいなんて、彼と共に生きたいなんて、そんな、少し恥ずかしいことを恥ずかしげもなく思う自分が居たって良いのだと思う。
それさえも彼は愛してくれるのだろうから。
だから私は生きて、いつかその生を終えるまで、彼の事を想っていこう。
それで良い。
私、愛本陽灯の人生は、それでこそ、良いと…、
定めてしまった日。
定められた日。
定められてしまった日。
定めることができた日。
定めた、日。




