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アルカナの戦慄  作者: 三古谷
第七章 『That person is sinner』
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『慣れ』

「ってかそういえば誰?」

天莉愛さんの言葉に、全員の視線がエッカートさんへ集まった。

「情報・通信科、情報部

 倖架ゆきか小隊、エッカート分隊、すぐる

 秀 エッカートだけど、すっげぇ今さら。」


少し間をあけ、高いアイスを堪能していたのに思わず腰をあげた。

「えっ、紹介してなか…

 してないわ。」

そう言えば一回もしてなかった。


「逆になんでお前ら受け入れてたんだ?」

礼人の言葉にそれもそうだと頷いた。


天莉愛さんはカップから持ち上げたスープを口に頬張り、嬉しそうに笑ってから、口を開いた。

「だって知らない人よく居るしー」

と言ってから、また一口嬉しそうに食べた。


………うん。

言われてみれば、ちょいちょい人は出入りしてる。

エッカートさんとか晶にぃとか佳純さんとか桜庭さ、いや、これエッカート分隊のメンバー…と言うか、倖架小隊の人来すぎじゃない?

正統者レジティーマの倖架さん本人も、下手したら神夜さんより来てるし…。

てか神夜さん本当に小隊室来ないな…。


すると、突然小隊室のドアが開き、また来客者が来た。

「秀おっそーい!

 何して…ってアイスおいしそー!」

噂をすれば何とやら、倖架さん…それに雷乃ねねなさん…と、確か斉賀 遊戯さんだ。

3人は全員、倖架小隊の一員だ。


そして、ねねなさんはアンゲルスにとって特異点と言って相違ない人物。

それでいて正統者でも…能力者カルディアですらない。

だからこその特異点とも言えるのだけど…。

帆凪様曰く、“何故か怖い人”だ。


「エッカートさっさと伝言を伝えて帰るわよ

 晶も佳純も待たせてるから」

ねねなさんはそう言うと、私を見つけて目を細めて笑った。


「あらら、陽灯ちゃん。

 ひ・さ・し・ぶりだね~?」

手を軽く振りながら此方へ来るねねなさんに、私は反射的に笑みを返した。

「はい。

 お久し振りです、…ねねなさん。」

アンゲルスとは関係なく、帆凪様と一緒に行った枷さんの家で会ったり。

あとは帆凪様のお家にお邪魔したときに、帆凪様の親友で、ねねなさんの妹である、すずなさんのお迎えに来た時などに時折り会う。

最近はどちらも行っていないから、自動的にねねなさんとも久しぶりになる。


「元気してた?

 残念だよ、陽灯ちゃんもアンゲルスに入ったんだね」


「あ、そうなんです

 去年から…って、残念って…」

私は苦笑いを浮かべて、ねねなさんの顔を見た…けど、変わらず笑顔のまま。冗談を言っている顔ではなかった。

何で残念なのか聞きたい気もするけど、聞いてはいけない気もする。

笑顔だけど、笑顔なんだけど…、何だろう…凄く、不気味だ。

不気味…、とも違う。

多分、この人は、“私達が”嫌いなんだと思う。

それなのに、それを前に笑顔でいるから…凄く怖い。


帆凪様はそれに気づかないけど、それでも本能的に恐怖を覚えてたんだろう。


「えと、それで伝言って…」

と思わず目を反らして倖架さんの方を見ると、何故か斉賀さんと綾雅が睨み合っていた。

いや、むしろ綾雅が睨み付けて、それを斉賀さんが楽しそうに見ていた。

年代的に同じなのに綾雅が凄く年下に見えてしまう。


ああ…、でも珍しいな。

綾雅があんな風に人に敵意を送るなんて。


何となくほほえましい光景に少し落ち着くと、エッカートさんが口を開いてくれた。

「あ…、そうそうそう!

 ゴホン!」

と、あからさまに咳払いをして、エッカートさんは全員の視線を集めた。


「みんな!

 前回の悪魔教の任務ではよくやってくれた!

 あれにより幹部達からは君達に能力があると見初められた!

 具体的に言ってしまうと給料がアップする。

 だがしかし、仕事が出来るものには自ずと面倒な仕事が回ってくるもの!

 俺もそう!」

通称、Sクラスの人々…っていうか私達の学年の研修生ですね。

佐久間さんも隈育ててたし。

そのSクラスが、一応私も含めて四人も居るんだから、まあ、仕事が回ってくるのは仕方がないと思う。


「んで、ここからが本題だ。

 君達は近々…と上は言ってるが上の近々は本当に近々だ。

 もう直ぐだと思ってくれ。

 直ぐ、海外本部のアンゲルスに行くことになる!」

………えっ。

ええええっ?!

海外?!海外って言いました?!

グローバルな時代とはいえ私には一生縁のない話だと思ってました…。

それも、アンゲルスに行くなんて…。

国によってはピリピリしてるって言うし…、うん。何で?


「因にだが、君達の行ってる間には海外から此方のアンゲルスに隊員が来る。

 言わば交換留学のようなものだから…

 気負わず、旅行だと思ってくれて構わない。」

なるほど。

そのピリピリしているものを、国際的な問題にしないためでも有ると言うことですか。

ついでに技術とか貰えれば良いなぁくらいの感じですね。

流石に、この時代だから大丈夫だろうけど…、確かに下手な隊員は遅れない。

一歩間違えば悪魔と対峙するよりも危険だ。


まあ、みんなは気負わずに楽しんだ方が良いだろう。


「学生達に関して、と言うか殆ど学生だな…、やっぱ幹部頭おかし…

 あ、後ろにその幹部居たわ。

 んで、学生に関してはアンゲルスから自動的に学校は休みになるよう手配されるので問題はない。

 留学中のお金も支給されるのでこれまた問題はない。」

至れり尽くせりと言うやつですね。

任務だから当然と言えば当然ですけど。


すると倖架さんから

「詳細はリーダー達にゆーけど…何人か居ないみたいだね。

 まっ、今居る人だけで良いか…っと、流石に隊員放置はヤバイか。

 いや此処ホンっト子供多いな!

 誰だよ、これ海外行かせよーとか言ったやつ!」

貴女方ではないのでしょうか…と言いたくなるけど、倖架さんはあんまり会議とかには出ないんだよね。確か。


後ろで何やら子供じゃないと言う男女の幼い声が聞こえるけど、実際問題この子達を放置するのは大変不安だ。

敢えて二回言う。

大変不安だ。


風護さんが居てくれるから大丈夫と見せかけて、風護さんは見て見ぬふりをするタイプの人だ。

結果、苑さんしか頼みの綱がいない。

そうなると苑さんの胃に穴が開いてしまう。


「………あ、私が仕切る感じ?

 何で都合よくセツナとか来ないわけ?

 あーもー、めんどくさい!」

ああ…、仕切り役なんてやったことのない倖架さんがキレなさった。

あの愛雅さんと同じ世代の正統者で、さらに水の王で、かなり強い人なんだけど…威厳が欠片もないと言うか…凄く親しみやすい人だよね。


「遊戯!

 何かも~、あきらとかべにとか呼んできて!

 そしたら佳純かすみとか心助しんすけも来るから!

 はい、もー陽灯来て、話すから」

と、倖架さんは心底面倒くさそうに言って、さっさと部屋を出ていった。

斉賀さんも軽く溜め息をついてから、走って部屋を出ていった。

ちょっと心配になって振り返ったけど、礼人とイーサンは残ってくれるみたいだ。


私は倖架さんに苦笑いをする綾雅につられ、そんな表情になりながら倖架さんの後を追った。







小隊室から離れると、私の前を歩きながら倖架さんは口を開いた。

「久し振り…じゃないね、私とは。

 帆凪ハンナ達とはちゃんと会ってる?」

方向的に、恐らく倖架さんの隊長室に向かうつもりなのだろう。

周りには誰もいない。


「帆凪様とはちょくちょく会いますが…

 颯天さんや繋パパとはあまりですね」


「えー、珍しい。

 颯天ハヤテとか寂しがるとめんどくさいから会ってあげな。

 あ、でも泰芽からはこの前話聞いたよ。

 咲空からも。」

何となく落ち着く、身内話に私はホッ…と笑みを浮かべた。

実を言うと倖架さんは今並べられた正統者達のよりも強い…、もしかしたら序列3位なのではと言われる人物だ。

もしかしたら…というのは帆凪様と比べてどうか解らないから。


身内話に花を咲かせながら歩くと、私達はすぐに隊長室に着いた。

中に入ると、倖架さんは適当にジュースなどを用意しながら、ふと口を開く。

「仮にも隊長だし…、こんなこと言うのあれなんだろうけど

 ねねなって苦手なんだよね。

 私のこと…、ていうか私達のこと嫌いなんだってー…。

 面と向かって言うんだもん……。

 ホント………、参っちゃうよ。私も年を取ったんだね。」

そう、座る私にオレンジジュースを出してくれた倖架さんの顔は、本当に少しだけ参っているようだった。

倖架さんらしくない。

普段なら、そんな嫌い何て言う言葉なんて笑って吹き飛ばしてしまうのに…。

けれど倖架さんの言う通り、それも年月を積み重ねた結果なのかもしれない。


きっと、あの行動も私を早くねねなさんから離したかったんだろう。

「ねねなさんが、正統者やその関係者を嫌う理由。

 最近、何となく解った気がします。

 悪魔教の人の話を聞いて…」

悪魔教の…あの、ジェミニが言ってた言葉。


『正義面したお前達が憎い!!!』


あの人とねねなさんは、全く違う道を選んだけど…、根底は似てると思う。

悪魔に誰かを奪われ

自分は能力者に助けられ

能力者に誰かを助けて貰えなかった。


そう言う見方。

誰でも一度は考える可能性。

そう言う考え。


「……難しいなぁ」


そう、ソファーに凭れた倖架さんは何かを考えているようで、考えたくないと思考を放棄する、過去の少女のままだった。

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