『惜しい、外れ!』
延々と語られる言葉を、私は黙って聞いていた。
手には、罪人のための重苦しい手錠が嵌められて居る。
左前には柊 志野。
右前には枷 隆一。
この二人はアンゲルスの最高幹部だ。
本来、私のような一般隊員が会うような人物じゃない。
私はただ、前を見据えていた。
「判決、有罪!」
その判決が下されてなお、見つめている。
二人の間、その上段に飾られる、黄金の杯を。
ここに…あったのか。
…………………いや。
いやいやいやいやいや!
可笑しい!可笑しいって!
自慢じゃないけど信号無視もしたことないような子だよ?!
何で私が罪人なのさ!
待って、待って、落ち着け。落ち着いて私…。
思い出すのよ。
何がどうしてこうなったのか……。
順を…順を追って最初から…………。
「うん!天晴れ!さすが神夜小隊諸君!」
小隊室に入って開口一番これだ。
同じ研修組の秀 エッカートさん。
最近来る頻度多いよ?
「あ………?」
配り終わった自分の手元にある6枚のトランプを握りしめ、礼人はエッカートさんを睨んだ。
エッカートさん。
これは本気の勝負なんだ!
後にして欲しいよ!
「ええええぇぇ
何この凄い温度差…。
いや、ある意味高い。」
「エッカート、お前ちょっと黙ってろ。
今、3戦目が始まろうとしてんだ。」
トランプを握り、テーブルを囲む10人の勝負人。
その表情は真剣そのもの。
特に、礼人、イーサン、私。
現在不在の瀧さんを覗くリーダー組はガチだ。
何故なら、箱アイス代を払うのが誰か…、というのも、この賭けに含まれているのだから…。
更に、隊員達は如何に奇数などで余ったお菓子を貰えるか。
というか何より、負けず嫌いの戦いが熾烈を極めている。
その最初のゴングを鳴らすのは…風護さんと心結さんと、友姫さんと天莉愛さんに続く…
3つ目の運命の輪!
赤コーナー、我が永遠の宿敵!
岩瀬ぇぇえ永徳ぅぅぅる
対すは
青コーナー、我が最高の愛弟子!
火砕ぃぃい綾雅ぁぁあ
「じゃんけんぽん」
「ぽん」
一瞬の間…
「「おい」」
同時に礼人と私で永徳にチョップをかました。
そんなあからさまな後出しある?!
「永徳!正々堂々勝負して!
これは…遊びじゃないんだから!!」
その通り!
その通りだよ、天莉愛ちゃん!
2回戦のじゃんけんで友姫さんに負けてから、本気だよね!私には解るよ!
うん。
勝った時、友姫さんが小さくガッツポーズしてて、それも可愛かったけどね!
「良いから…!
速くして貰えますか…」
こ…、心結ちゃ、いえ、心結さん…?
何か青い炎が目に…。
赤い炎より温度の高い青い炎が…。
「まあまあ、ゲームなんだし
そんなにムキにならなくても」
風護さん…、風護さん…?
それは地雷ではないでしょうか?
地雷は踏み抜いて道を安全にしていくタイプですか?
案の定、心結さんが黙って人殺しのような目で睨み付けてますよ!!
幼女がして良い目じゃないですよ!!
すると苑くんが、やんわりと微笑んで、場を動かしてくれた。
「綾雅くん、永徳さん。
最初はグーじゃんけん」
「「ぽん」」
こうしてやっとこさ、ゲームの順番が決まった。
「小隊室でババ抜き…
ってか、ちょっと人数少なくない?
瀧は?」
エッカートさんの言葉に、自分のトランプの整理をしていたイーサンが答えた。
「瀧くんは工学部の方で、
神夜さんは当然の如く居ない。
伊菜褒ちゃんとアルくんは習い事ダヨ。」
「うん。
むしろ何で休みにこれだけの人数が集まってるの?」
「色々用事があって来た人も居るけど…、要は暇なんだヨ
お前もネ」
「俺は暇じゃないし!」
「ハイハイハイ」
「雑が過ぎる!!」
理不尽さに悲しむエッカートを尻目に、イーサンは淡々とゲームを進めていき、何故か1抜けを果たした。
結果だけを話そう。
うん。
何故か…、何故かそう!
最終的に私と礼人の一騎討ち…即ち、どちらがアイス代を払うのかと言う、血で血を洗うような争いが…。
ふっ…
「ふっふっふっ…
勝ったぁぁぁあ!」
なんとなんとビックリ!
私が勝ててしまったのだ!!!
うん!
何で勝ったのか解んないけど、勝ったからもうそれで良いや!!
「はいはい、アイスな。
よし、お前ら好きに食いたいもん言え。
この優しー兄ちゃんが買ってきてくれるってよ!」
「ハーゲンゲッツ!」
「ハーゲンゲッツ!」
えっ!えっ?!
天莉愛さん、綾雅?!
そんな一瞬の迷いもなく某、高そうなアイスを!
「私はパルモ」
と、心結さん。
そこまで高くない、良心的な美味しいアイスだ。
良かった。
一個いくらにしても10倍だからね。
「僕はスーパなカップで」
と、風護さん。
続々と言っていく流れなんだね。
メモしておくね。
「私はチョコマナカジャーンボぉ♪」
と、歌ったのは友姫さん。
何気にこぶし効いてるね。結構好きだよ
「あ、じゃあ、私はアイスの果実でよろしくネ!」
と、イーサン。
ところで箱アイスの予定だったのでは?
「…じゃあ、プノで」
と、永徳。
ちょっとなんのアイスか解らないな。
礼人の財布は持つのだろうか…、あれ、エッカートさんだっけ。
「あ…、じゃ、じゃあ…雪んこだいふくを…お願いします」
と、最後に奥ゆかしく言うのは苑くん。
ちょっと嬉しそうでこっちまで嬉しくなるよ。
「俺が買うことに何の疑問もないの君たち?!」
うん。そうですよね、エッカートさん。
「語弊があったな。荷物持ちだ。
お前のもついでに買ってやるから。」
「えええ…、妙に羽振りが良い…」
若干怯えた顔をしたエッカートさんに、礼人は心外とばかりに目を細めた。
「10人も11人も変わるかよ…」
「んじゃ、お言葉に甘えて
そう!」
切り替え早いね、エッカートさん。
私は皆のアイスを纏めたメモを持ちながら、立ち上がる礼人の方に行った。
「じゃあ、私も一緒に行こうか」
重さどのくらいか解らないけど。
すると礼人はメモだけ受け取って、軽く首を振った
「良い良い。
それよりお前は何にするんだよ」
礼人の言葉に、私は少し目を泳がせてから、すぐに決めた。
「じゃあ、皆大好きガルガルくんで」
私がそういうと、礼人はちょっと笑って私の頭を軽く叩いて、エッカートと共に部屋を出て行った。
「師匠、俺の高いアイス食べます?」
気が付いたら横に居た、強かで、私に優しい弟子の頭を撫で、ありがとうと言っておいた。
割りと本気で礼人の財布が心配だ。
もしかして、そんなに使う宛がないのだろうか。
………いや、大学生なんだし、色々大変そうなものだけど。
って、あれ。
エッカートさん何しに来たんだろう。
多分前回の悪魔教の事だろうけど…、それだけのために来ないよね?
…まっ、礼人が聞くか!
「綾雅と天莉愛はホント素直だなぁ…
いや、嫌がらせも入ってんのか。」
そのぶつぶつ呟きながら、オレは愛本から受けとりはしたメモを見ないまま、俺は言われたアイスをカゴに詰めていった。
ホント今更だが、アイツの字って初めて見た。
もっと見る機会が有っても良さ気だが、何だかんだ、無かったなぁ。
書道を習ってたわけでもないだろうに、普通に綺麗で…、何と言うか、読みやすい字だ。
微妙に角がまるっこくて、どっちかと言うと小さい字で、キチンと並んでる。
だからどうって訳もないが…、オレの汚い字とは、全然違う字だ。
「あれ、そのたっかいアイス、3つも買うの?」
注文されたアイスに加え、12個目のアイスを入れた。
「………お前めざといな。嫌われるぞ。」
別にオレがどんなアイス食ったって自由だろ。
「…はぁん、なるほどね
はいはいバカップルバカップル
頭ポンポンなんてしちゃってさー?」
エッカートの言葉に、さすがのオレも反射的に眉を潜めた。
「お前、凄い勘違いしてないか?」
エッカートはただ肩を竦めるだけで答えはしなかった。
一体オレは、お前の目にどんな人間に映ってるんだ…。
どっちにしても寒気がする。
いや、寒気は言い過ぎだ。
仮に感じるとしても、それはオレじゃなくて、愛本が感じることだ。
オレは男で、愛本は女。
ああ、正真正銘それは間違いない。
だから、オレ達がバカップルとやらになっても、別に不思議はない。
だが冷静に考えれば、俯瞰してみれば、愛本から見れば、それは多分…ないだろう。
愛本からすればオレは恋愛とは無関係な存在で
オレから見ても、愛本は恋とは異次元の存在だ。
恋…などと言う、如何にも純粋で儚くて、独りよがりとは無縁そうなものとは。
…ま!
とか言いつつ
コイツから告られたら断れねぇけどな!
「えっ
え…、え???」
今は、ガリガリとアイスを食べるオレに高いアイス渡される。
そんなお前を見てるのが、一番楽しい。
無論、その周りの奴等と一緒に居るのも。
今はまだ、それに甘えていたいんだ。




