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アルカナの戦慄  作者: 三古谷
01章 「華散る神意」
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「昏逢―クレア―」

アヤメ。

そう呼ばれる私は…世界が、使い魔が、運命が…嫌い。


使い魔は王を愛し、もしくは王を憎む。

どちらにすれ使い魔という生き物は、王に対し強い執着を覚える。


『時期に俺も他の使い魔逹と同じように、あの人を愛するんだろう。』


その理由のひとつは王に選ばれるものに宿る…強い力。

逆説的に、強い力があるから王に選ばれたとも言えるのだけど…。

要は、そう言うものに引き寄せられるため。

使い魔に限らず、力とはそう言う作用があるものよ。


でも、それなら…、執着される王はどうかしら?

王は使い魔に執着する?


…もし、その王が代々続いてきた王家なら…それはもしかしたら、幼馴染みのような関係なのかもしれない。

もしくは、自分を殺そうとする天使として幽閉された存在か。

何れにしても、王が使い魔に対し、大きな執着を持つ可能性は比較的低い。


だってその王には、使い魔以外にも沢山の存在がある。

前王や家族、国の人々、他国の人々。

その数は、たった一人の使い魔と比べ、圧倒的に多い。

だから…必然的に使い魔以外に大切なものを見いだす可能性の方が高い。


けれど…けれど…、新王は違う。

それこそ

「私…アヤメの“様な”」

黄昏と真逆の、暁の空を見ながらアヤメは一人呟いた。


新王は必ず記憶を消される。

生まれてから、儀式を行うその瞬間までの記憶…全てを。

ゼロから始めるのよ。

自国や、他国に対して、何の悪意も持たないため。

この魔界に、不要な歴史を残さぬため。

文化のみを継承していくため…。


ふと響いたノックと共に、ハクが現れた

「アヤメ様…で良いんですかね。

 クリスタが朝飯を作ってくれましたが

 食べますか?」


新王は必然的に使い魔に執着する。

…だって、他に頼れる人が居ないんだもの。

雛鳥と同じ。

最初に見たその人を信じるの。


(さて、ここで唐突なクイズよ)


何故、何もかもの記憶を失ったはずの私が、

こんなにも多くの事を知っているのでしょうか?


ヒント、1

記憶を消すのは儀式のなかに含まれていて、それら全ては魔法。


ヒント、2

儀式のなかの記憶を消す魔法を使うと、希に魂も追い出される。


ヒント、3

王は如何なる知識も得られる。


ちょっと難しかったかしら?

それとも、ヒントなんて無くたって解っていたかしら。


私は“私”とは全くの別人。

全く違う人生を歩んで、その生涯を終えて、そしてまた新しい人生を始め“よう”としていた哀れな憤りと怒りの前王。

遠い遠い、…昔のね。


「折角用意して貰ったのなら食べるわ。」

アヤメはベッドから起き上がり、立ち上がった。

そしてドアの向こうに立っているハクの元まで行くと、クスッと笑い、ハクを見上げた。


「ハク?

 貴方はここのご飯を食べたことあるの?」

アヤメの質問に、ハクは首をかしげた。

「いや…

 ありませんけど…それが?」


「昼晩が楽しみね」

アヤメは満足気に笑いハクを通りすぎて部屋を出た。

そして足を止め

「あ、そうそう。

 それから、貴方はもう敬語を使わなくて良いわ。

 その半端な敬語、聞いててイライラするから」

そう全く苛ついて居なさそうな良い笑顔でハクに行ってから、何故か上機嫌に階段を降りていった。

鼻唄まで聴こえそうな、昨日とはまるで違うアヤメの様子に、ハクは呆気に取られ…やかで地獄にまで届きそうな溜め息を吐いた。


「本当…何なんだ、あの方は…」


そう呟いてから、アヤメのあとを歩いていった。

その表情はアヤメと同じで明るかったと言う。














「…考えたのだけど、私のことはクレアと呼んで。

 お願い?」

彼女の言葉に全員が手を止め彼女の顔を凝視した。

一方見られている側の彼女はそれを一切気にすることなく、朝食を食べ進めていた。


クリスタは彼女を見つめ、悲しそうな顔をした

「昨日も…リアムが言ったけれど

 私たちに合わせる必要は…」

ない。

そう言い掛けてクリスタは口を閉じた。


彼女が笑みを浮かべていたからだ。

…昨日とは全く違う、清々しいような笑みを。

「だからよ。

 私は始めから“アヤメちゃん”じゃない。

 真綾さんの孫でも、愛雅さんの娘でもない。

 肉体は、違うけれど。」

彼女の淡々とした言葉に、全員は戦慄を覚えた。


これが、初めての秘密だった。


唯一シアにとってはだけは、アヤメの中身が誰であっても関係のないことだった。

彼女が愛したのはアヤメではないから。

だがリアムやクリスタ…そしてハクは違う。

誰もがアヤメという存在に一定の執着を示している。


そして、今、誰より戦慄を覚えていたのがハクだ。

とりあえず彼女の中身が誰であっても良い。

だが、何故それを今、この場…、アヤメを愛しているであろう人々の村で言ってしまったのか…。


案の定、リアムが眉を潜め口を開いた。

「それなら、本当のアヤメちゃんは何処へ?

 というか…いつから

 何故」


カチャン…と大袈裟に音を鳴らして彼女はフォークを置いた。

一人食べ終わった皿の前で、彼女は不愉快そうに肘をおいて手を組み、そこへ顎を置いた。

「愚問ね。

 こんな小さな肉体を新王になどさせるからよ。

 聞かずとも解るでしょうに。」

その言葉で彼女はリアムの質問のうちの二つ、いつから?と何故?を答えた。

いつから?

それは始めらだ。

アヤメを王にした、あの儀式の時から。

何故?

それは記憶を奪おうとしたからだ。

華綾はそれを拒否し、小さな肉体はそれに耐えきれず、魂を切り離したのだろう。


「そして、こういう場合

 魂は大抵にして霧散する

 入れ物なくして魂は力を保っていられない…」

彼女はふと何かに弾かれたように顔をあげ

「大抵は……、ね。」

窓の外を見つめていた。


「それなら…、君には君の帰るべき所が有るのではないのかい?」

リアムの言葉に彼女は笑みを浮かべた。

「当然、在るわ。

 けれど御生憎様?

 今と私が生きてた時代が合致してる可能性は限り無く低いし

 アヤメちゃんに、こんな立場を押し付ける訳にも

 まして望んでいる…の……なら…。」

彼女は少し思案するように瞳を伏せてから、優雅そうにティーカップを持ち上げ、紅を飲んだ。


「それが、私の一番嫌いで

 私が一番信用している“運命”というもの…。」

彼女は悲しげに長い睫毛を伏せた。

世界を憂いているように。


すると、突然声が響いた。

「なーるほどね。

 世界にとって華綾の肉体と力は必要。

 だが、その思想や目的は全く持って不要…もしくは邪魔だった。

 ってこと?」

彼女が先程見つめていた窓から、その人物は現れた。


「貴方一体…、何百年生きているのかしら?

 マリク=グオワン・アイラ。」

彼女…クレアが見つめた人物、その人。

この帝国、その国々のひとつ怠惰が国の現王。

マリク=グオワン・アイラ。

その姿はクレアの記憶していた時代の姿とは全く異なり、髪は地面につくほど長く、その顔と四肢はシワが多くなっていた。

以前、森を駆け回っていた軽やかで愛らしい幼子の面影は一切ない。

むしろ…今は自分の方が、幼い子供なのだと彼女は理解した。


「………驚いた。私の名を…何故?」


クレアはふふっ…と愉快げに笑った

「愛らしい頭は変わらないのね?

 私よ、アイラ。

 憤りと怒りの王…、クレア・カーディナル=ランド・キング」

その名には、アイラもリアムもクリスタも覚えがあった。


「知っているのか…?」

三人の反応に、ハクは驚いた顔をしながら聞いた。


クリスタはクレアを見つめたまま、少し興奮した様子だった。

「知っているもなにも…!」

この世界が如何に歴史という概念に疎いとは言え、憤怒が国の民に知らぬものなどいない。


帝国の国々のひとつ憤怒が国の前の前の王。

「憤怒が国を、もっとも栄えさせた賢王。

 その時代の我が国は、太陽の沈まぬ国と呼ばれ、肩を並べられる国は一つもなかったんだ。」


七つの国に戦乱を巻き起こした虚飾が国。

それを倒さんとし、見事成し遂げた王だ。

如何なる国も、クレアの国には遠く及ばなかった。

国土も、財も、力も。

彼女の一強であった。


彼女の死後、突如二人の王が生まれ、国内で反乱が起こり、その末に傲慢が国が出来、憤怒が国は国土と財と力の半分以上を奪われたのは…また別の話だが…。


「その人物が…、何故、アヤメの肉体に……」

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