『君はmonster』
その瞳と指を世話しなく動かし、私は数分でビルの監視カメラをジャックし…、そしてすぐにその標的を確認した。
瀧クンに微笑みかけ、付いてきて貰うよう促した。
ガヤガヤと少し騒がしいロビーへ、私は足を踏み入れる。
人通りの多いここで、宗教団体が戦闘を開始するのは不可能。
何故なら、市民からの反感を買えば、壊滅は必死。
何より、悪魔教の教えに反する。
私は、人の通行の邪魔にならないように、少し出口から避け、目の前から歩いてくる男女をただ見つめた。
見えないけど多分背後では、瀧クンが驚いた顔をしている。
「…」
言葉を何も紡がず、男は女を私達へ引き渡した。
それは悪魔教全体のゲームオーバーを現していた。
私は女に見えないよう手錠が掛けられているのを確認し、受け取った。
「お願いネ」
と、手筈通り瀧クンに女を渡し、すぐに連れて行って貰った。
すれ違い様見た女は、なお驚いた顔のままだった。
どうやら、本当に男を信用して居たらしい。
「悪い男。
女の子を騙すなんて」
そう、私は男を冷たく睨み付けた。
男の本当の名前は、秀司・イアハート。
何と言うこともない。
ただの元カレ。
ただ違うのは、当時は彼も学生だったが、今は社会人というところ。
「冷たい男だって?
そんなところも好きなくせに」
「黙れ、怪物。
そう言うところが大嫌いって言ってるんだ」
だから、元。
長話したくもない私は、軽く溜め息を吐いて場を仕切り直した。
如何なる理由があろうとも、お前が悪人であることに変わりはない。
だが、今ここでこの怪物を捕まえようとすれば、怪物…秀司は抵抗し、騒ぎになるだろう。
そして、そこまでして秀司を捕まえても、どうせすぐに釈放される。
だから私は、ただ通告する。
「警察の出る幕は、もう無い」
彼は社会人が故に職についている。
その職が、警察の公安。
国民を守るためのアンゲルスとも。
神皇を守るための鴉とも、違う。
国を守るための公安だ。公の安全を守るための。
市民を守るアンゲルスや警察とは違う。
「そう言うのは口で教えて欲しかったんだけど。」
男の言葉に、私は舌打ちした。
っていうか警察の癖に独断行動してるのが悪い。
「お前が此所に居るなんて、アンゲルスは知らない。
だから連携不足だって子供にも言われるんだ。」
陽灯ちゃんが、よくそんな文句を言っていた。
もっと話し合えばいいんですよ!って。
私もそう思う。
先を見据えることさえ出来れば、それが最良であることは間違いない。
大なり小なり、すべての争いは愚かしい。
もし娯楽が為にそれをやっているのなら、外道だが理解はできる。
本気で正しいと思ってやってるのなら、ただの愚者だ。
「ハハッ…。
痛いとこつくなぁ
って言うか口調戻ってるよ」
「五月蝿い」
そんな話しはしてない。
話を勝手にそらすな。
「また怖いって言われちゃうよ~?」
……………
「五月蝿いんだヨ!
何で彼氏でもないお前に、とやかく言われなくちゃならいんダヨ!
私は赦さないからネ!」
大体、この口調になったのは、お前が私の調べてた古語に全然違う言語をめちゃくちゃに混ぜたせいだヨ!
お陰で変な言葉か、強い口調しか喋れなくなったんだ!
「んー?
俺は別れ話はしてないよ~だ。」
論点が違うんダヨ!
余裕の笑みを浮かべる秀司を、私は睨み付けた。
「時効だ!時効!」
何にも連絡してこなかった癖に!
私も連絡する気なかったけど!
「そう言うことなら、俺も遠慮しないから
全部終わったら結婚しようね~?」
どういうことだヨ!
遠慮しまくれヨ!
「ふん!
そんなの絶対ごめんだネ!」
雑に断らせていただく!
結婚なんてしない!
もしするとしたら、陽灯ちゃんみたいな可愛いことする!
「きこえなーい。」
耳に手を当て、あーあーとか言いながら去っていった秀司に、私は呆れて少し笑った。
「…まあ、でも。」
もしも本当に、全部が大団円で終わって。
その先に、穏やかで静かな日常があるんなら…、きっと私はそんなの直ぐに飽きちゃうだろうから…。
お前みたいな奴が側に居たら、退屈しないのかもしれない。
「…もっとも」
とっくに連絡先変わってるけどネ!
「私は単純に覚えるのが得意なだけ…よ!」
今のは高飛車にはならんだろ…と、礼人は苦笑した。
そう言う、態と偉ぶって見せる所に関しては伊菜褒と陽灯は似ている。
もっとも、伊菜褒の場合は正真正銘のお嬢様。
そして陽灯の方が言葉遣いに関して慣れているが。
「……1度見ただけで覚えられるのか?」
礼人は何かを探るように伊菜褒を見つめ、見つめられた伊菜褒は首をかしげてから、おずおずと遠慮がちに頷いた。
「見たことと、聞いたことは忘れたことないよ?」
伊菜褒のキョトンとした顔を見て、礼人は溜め息混じりに呟いた。
「特殊能力か……」
麻薬人間であった内匠エナが持っていたようなものと同じ。
能力ではない、特殊な力。
正式には特殊能力と言い、簡易に特技とも呼ばれるものだ。
「うちのクラスだけじゃないのかよ…」
礼人がげんなりしたのは、その特技の保持者が多すぎるせいだ。
礼人達の居た、Sクラスの者達はよくよく調べてみたら殆どの者が特技保持者だった。
例えばイーサンや瀧もそうだ。
能力のように調べる装置がないため、本人達も細かいことは解っていないらしいが……。
しかしこうなると、特技と言うものは人間誰でも持ってそうに思えてくる。
どこからが得意で、どこからが特技なのか。
とても曖昧だ。
…とはいえ、心結のような場合は全く異質だ。
「私は、人が執着するものと、
人が注意を向けたものへの糸が見える。
一瞬の感情なら青、長い感情なら赤。
中途半端なのは紫。」
確かに能力ではないが…、異端になら入っていても良さそうなものだ。
六属性の能力のどれにも当て嵌まらないが…。
それこそ千里 咲空や咲來の千里眼と類似してるように思えるような…、思えないような?
どこからが特技で、どこからが能力なのか。
これまた曖昧だ。
まあ、そう言うのは技術科の研究部。
多喜本アカシアの居る所の仕事だろう。
そう言えば、多喜本アカシアと明石家瀧は最近どうなってるんだろうか…。
…いや、それはどうでもいいか。と首を振り、礼人は心結に見つめた。
「ってことは、オレのも見えるのか?」
まあ自分の執着するものなんて、特にないだろうなぁ…。と、思いながら。
しかし予想に反して心結は頷き
「でもそれを言うのはマナー違反だよ。
青なら別に言うけど。」
だが、居たところで特に驚くこともなかった。
そしてそれとは別のところで、なるほどな…。と礼人は納得した。
心結は敵が陽灯達へ一瞬注意を向けたことで生じた、青い糸を見つけたから教えてくれたのだ。
だが
「もし、糸が赤かったら…?」
もしも敵が…、例えば陽灯に執着していて。
それが向かってきたとして。
心結が、その赤い糸を見つけたら…?
「…極力教えたくない」
例えアンゲルスにとっての敵であっても、執着という感情がある以上、その敵も何かを考え、行動する生き物だ。
…いや、心結はそこまで考えているわけではないのだろう。
単に、今までの経験則上、言わない方が良いと言うだけだ。
「……そうか。」
すると、礼人は心結へかがんで肩を掴んで、瞳を合わせた。
「心結。
次からは、例え誰に聞かれても
青い糸しか見えない、と言いなさい。
見えても見えない物だと通すんだ。
通せば、それが真実になる。」
礼人の子供に言い聞かせるような言葉に、心結はゆっくり頷いた。
多分大事なことなんだろうなぁ…。と心の何処かで思いながら、その瞳で礼人から紡がれる紫と赤の糸を見つめていた。




