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アルカナの戦慄  作者: 三古谷
第六章 『party!』
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『人の本分とは理想に辿り着くことではなく、理想を忘れないことである。』

「…どういうこと?」

眉を潜めた苑の言葉に、ジェミニは微笑んで口を開いた。

が、そこからは言葉ではなく溜め息が漏れ…

「先程不躾と言ったばかりですが…。

 考え直した方が良いのでは?」

ジェミニは、そう溜め息混じりに言った。


「はぁッ!」

その声と共に、一階から友姫が襲い掛かってきた。

GEMで身体能力が高められているにしても、異常なほどの跳躍力だ。

つい先程までは、もっと離れたところに居たのだから。


ジェミニはまた銃で友姫の剣を受け止め

「それほどまでに憎いですか…

 悪魔が!」

その言葉に、友姫は一層力を込めたのか、銃と剣の間から火花が散った。

「憎い!憎い憎い憎い!

 あんなのさえ居なければ…、友騎ともきは!!!」


すると、ジェミニはすっ…と友姫の攻撃を受け流した。

「っ?!」

驚いた顔をした友姫を、ジェミニは冷めた目で見つめた。


「私も、家族全員を殺されました。」


冷静で、穏やかな声音で、ジェミニはそう言った。

思わず…と言った風に友姫は攻撃を止めた。

「母も父も姉も弟も。

 あの赤い月の日。

 私だけが避難先に居て…、家族は逃げ遅れていたらしい。」

ジェミニの言うその日は、友姫や苑が生まれる前。

ちょうど、陽灯が生まれた日に起こった9月9日の血桜戦災だ。


友姫は、剣を握り直し

「だったら…、なんで!!」

と、力の限り切りかかった。


ジェミニはそれを避け、寂しげに笑った。

「私、思ったんですよ。

 何で私のことは助けたのに、皆の事は見捨てたんだ…って。

 家族だけじゃない。

 友人も、親戚も、皆そう。

 なんで…なんで……、私だけを助けたんだ…って。

 そう……、思ったんですよ」

虚ろな目をしたジェミニは、ゆっくりと…極自然に、自らの銃をこめかみへ押し付け…


そして、笑った。

「奴等は…悪魔教の奴等は言いました。

 役目を果たせば、私を皆の元へ連れていってくれる、と。

 悪魔が迎えに来てくれる、と」

ジェミニは銃のトリガーに手を当て…、そして何の躊躇いもなく、その引き金を…引いた。


途端にジェミニは光に包まれた…。

換装が解けようとして居るのだ。

「…馬鹿ですよね。

 私、つい先程まで…、死んだと伝えられていたアリエスが生きていたと知るまで。

 私は、あんな奴等の言葉を信じてたんです。」

生身に戻ったジェミニはそう微笑み、両手をあげた。

降伏の合図だ。


けれど友姫は一層に眉を潜めた。

「………解せない。

 だったら、何で他の奴等は戦ってるんだ!」


ジェミニは顔色を変えず、穏やかに口を開いた。

「さぁ?

 私達は違う人間ですから、解りかねます。

 憂さ晴らしなのか…。

 それとも、もっと違う…、明るい感情…。

 いえ、私には解りませんね。」


友姫は潜めていた眉を、少し、ほんの少しだけ悲しげに曲げた。

「………じゃあ、本当に…?」

その言葉に、ジェミニが答えることはなかった。


友姫と苑はそれぞれ武器を仕舞い、換装を解いた。

「……」

顔を伏せている友姫を見て、苑が手錠を取り出した。


「……では、両手失礼します。」

ジェミニは微笑んでゆっくりと片腕を差し出した。


「ですから、私は今でも英雄ヒーローを恨んでいます。」

どす暗いその声に驚いて顔をあげた時には、ジェミニが何処からか出した刀を苑目掛け振り下ろしていた。


「苑!!!」

友姫が悲痛な声を出した。

恐れた。

苑を失ってしまうのではないかと、本気で。


それと同時に、光の如き速さ。

そして輝きに…友姫は一瞬、神を見た。


しかしその幻想はすぐに消え、陽灯がその刀を防いだと認識する。

「っ…!!!」


陽灯が現れてなお、勝ち目がないのも解っているのに、それでもジェミニは食い下がる。

抱えきれないほどの憎しみを、溢れさせ。


正義の象徴としてひかりを睨み付け。


「はっ!」

陽灯がジェミニの刀を弾いた。

と、間髪入れず剣を手放し、両手を掴んで、あまりに素早い手つきで手錠をはめた。


一瞬、はめられたを理解するのも遅れたジェミニは、数秒後やっとその事実に気づいた。

「っ…!

 ぁぁぁっ!!!」

けれど気づいてなお、ジェミニはガチャガチャと手錠を鳴らして暴れる。

諦めきれないのか。何なのか。

友姫には理解できなかったが、少なくともその手に血が滲むまで。

それも気にならないほどの激しい感情を、ジェミニは持っていた。


だがやがて、ジェミニも悔しげに涙を溢す。

「私は…私達が…、あの日のみんなが!

 一体どんな悪事を犯したと言うんだ!!

 どうして、どうして私だけを…。」

その頭を地面に打ち付け、悔しげに噛み締めるように、何度も打ち付けた。

なぜ、なぜ、と。


やがて顔をあげ、今度は陽灯を睨み付けた。

「…おまえだよ」


ジェミニの目の前には今確実に正義の化身があった。


「正義面したお前が憎い!!!

 悔しい…っ、悔しい!!

 お前は善人なんかじゃない!!!

 正義と名付けた力を奮って、自己満足してるだけだ!

 此処に居る私達は、誰一人救われちゃ…、いない……!!!」

涙をボロボロと流しながら、それでも決して陽灯から視線を放さず。

その血走った目で一心に、陽灯のことを忌まわしげに睨み続けた。


友姫は不安に思って陽灯を睨み付けるけど、彼女は驚くほど何時もと変わらなかった。

聞いていないのかとすら疑ったけれど、ジェミニの眼をしっかりと見つめ返している。


「…ええ、その通りです。」

そう言いながら、陽灯はジェミニの前にかしずいた。


友姫にはそれがまるで許しを乞うように見えた…。

けれど、その表情には陰りがなく、やはり何か神聖な、気高いものに思えた。

「私達は力を持って悪魔を消しているだけ。

 こんなもの自己満足にもなりません。

 それでも、誰かがしなくてはならないから私達がするのです。」

確固たる眼で強く、けるど暖かみのある声で陽灯は言う。


と、一瞬、陽灯のイヤリングが揺れ、陽灯の表情に陰りが見えた。

いいえ、違いますね。そう小さく呟いた陽灯は、少し悲しげに笑う。

「本当に仰る通りです。

 誰をも守れる、正義のヒーローに“なりたい”から

 結局、何一つ救えないとしても、私はそうありたい。

 理想を持ち続けて居たいのです。」

そう、陽灯はそっと瞳を閉じた。

その瞼には誰が映っているのか…、それが解るのは彼女だけ。


陽灯はそっと瞳にジェミニを映して、少しだけ哀しげに。

そして穏やかに微笑んだ。

「貴方の理想は、何でしょうか?」

その理想もジェミニにしか解らない。








スコーピオへ手錠を掛け、そしてサジタリアスへの手錠も掛け終わり、私は深く溜め息を吐いた。

ジェミニを見下ろしていた苑ちゃんが此方に視線を写し、

「さ…さっきの何ですか?!」


『さっきの何ダヨ!』

どうやら見ていたらしいイーサンに同時に聞かれ、私は苦笑いした。


隣で驚愕する綾雅の頭を撫でながら、私は口を開いた。

「私の肉体の性質そのものを一時的に変化させたんです。

 でも本当に一時的で…、しかもジェムの性質は変えられないので、換装体にはダメージがいってしまうと言う…。」

まさに諸刃の剣。

でも実際にこういうことが出来るんだと解って良かった。

流石にダメージを受けるとは思ってなかったけど…。

次からは生身の状態でやろうかな?

でも戦場で生身になんてとても成れないし…、速度を押さえるか、それとも変化させる部分を考えるか…。

改善しなきゃね。


『確かに結構損傷してるネ…。

 もうトラップは張ってあるし、敵も一通り倒したと思うから、みんな合流しようか。』

そう言われた通信は小隊全員に伝えられ、すぐ眼前に愛本分隊と澤田分隊の現在地の乗った地図が現れた。


「…ごめんなさいイーサン」

私が小声でイーサンに言うと、個別で通信が繋がった。

『いいんダヨ!

 どうせそのつもりだったし…。

 それにちゃんと伝えないと、礼人クンに怒られちゃうからネ!』


「あはは。

 怒りはしないと思いますよ

 むしろ、クッ…気付けなかったオレが悪い…!みたいな」

と、礼人の物真似をして見ると、ブフォッ…と豪快に吹き出す声が聞こえ

『似てる似てる』

とめちゃくちゃ笑われた。

…多分、似てないんだね。




合流すると、直ぐ様青い顔をした礼人が走ってきた。

「愛本…!お前怪我したって!

 って、してないのかよ」

してないよ。

でも変わり身早すぎじゃない?


『損傷したって言ったヨ』


「……紛らわしい…。」

と、礼人は深く溜め息を吐いた。

早とちりしたって言うのもあると思うよ。

イーサンがそうさせたんだけど。


まあ、それは置いといて。

「イーサン。

 十二星座だから、あと二人居ますよね…?」

多分だけど、太陽の獅子と、月の蟹が…。

その人たちって強いんじゃ…?

私、流れで2回も光の能力使っちゃったから、正直役に立つかどうか…。


『うん。

 目星は付いてるから大丈夫ダヨ!

 帰り道に残党が居るだろうけど、自由に撤退してネ。

 地図送るヨ~』

目星が付いてる……?

だとしても私達帰って良いの…?


まあ…、イーサンがそう言うのなら良いか…。


あ、地図が見えた。

「…」

チラッと礼人に見られた。


どうやら、判断は私に委ねられたらしい。

イーサンがそう言うのなら大丈夫だろうし…、無理して損傷した私がここに居ても足手まといになる。

みんなもそれなりに疲れたろうし…、特に苑さんと友姫さんは…。

「では撤退しましょう。

 敵が居たら、無理をしない程度で出口へ送ります。」

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