『人殺し!』
敵の一人。
ジェミニと対峙する友姫は、顔を伏せ何かを呟いていた。
苑に僅かに聞こえたのは
「悪魔を…信仰………」
突然顔を上げた友姫の目には、殺意が宿っていた。
『駄目だよ!
友姫ちゃん…、相手は』
通信越しに聞こえた苑の声に、友姫は余計に苛立った。
「煩い!!!」
友姫は一人そう叫び短剣と剣を構え、ジェミニへ走り出した。
ジェミニは友姫を恐れるどころか、少し冷めた目で見据え
「―水よ―」
宝石を銀の銃へ変え、友姫へ向けた。
苑はバルコニーのようになっている二階へ移動し
「―鉛よ、穿て!―」
ジェミニへ発砲した。
意図も容易く避けられてしまった…、が、友姫への発砲は阻止できた。
それを見た苑は続けざまに発砲し、何とか傷を負わせようとした。
が、
「はぁぁぁ!」
構わず突貫してきた友姫により、それは阻まれた。
友姫の攻撃も容易く避けられる。
苑は援護しようとしたが…、二人の距離が近すぎて手出しが出来なかった。
「どうしたら…」
明らかな実力差に苑は焦りを滲ませた。
すると、余裕顔のジェミニがふと口を開く。
「3つほど、良いことを教えて差し上げましょう。」
「はぁ?!
悪魔に教えられることなんて!!」
また斬りかかってきた友姫を、今度は避けることなく、銃で受け止めた。
「なっ…」
「因みにですが、私は悪魔ではありません。」
そう冷めた目で告げ友姫の剣を弾いた。
弾かれた友姫は恨めしそうに睨み付け、口を開いた。
「そんなの知っ―」
「まず一つ。」
言い掛けた友姫に被せて人指し指を立てた。
「聞けよ!」
その友姫の言葉も無視して、ジェミニは続ける。
「貴方。
考えなしの行動は控えた方が良い。
怒りや恨みを原動力に行動するのは大変結構ですが
それを理由に思考を放棄してしまっては、戦術も何もありません。
本当に恨むのなら、痛ましくも執拗に相手を殲滅できるよう、思考するのです。」
と、何故か後半は楽しそうに言った。
「……なんでアンタにそんなこと」
話を聞けるようになった友姫を見て、ジェミニは微笑んだ。
「無論、私もそうだったからです。」
ジェミニは真っ直ぐと苑の居る方へ歩き出した。
飽くまでゆっくりと。
そして歩きながら友姫にも見えるよう人指し指と中指を立て、二を現した。
「よっ、と」
ジェミニは苑の居る二階へ軽々と登った。
それを出迎えたのは、銃を構える苑だ。
「止まれ。」
ジェミニは素直に両手を上げ、微笑み…、そして友姫が聞こえない程度の音量。
そして少し低い声で口を開いた。
「あの様な考えなしの人との行動は、いつか貴方自身の身を滅ぼすでしょう。
私としては、一切の縁を切ることをお薦めします。」
ジェミニの目を見つめ、苑は眉を潜めた。
けれど考えるまでもないのか、すぐに回答を出した。
何時もからは想像も付かないような、低い声で。
「断る。」
そして、すぐにいつもの声音に戻り
「彼女は僕が守らなきゃいけない。
決まってるんだ。」
苑の確固たる言い方に、ジェミニは微笑みを浮かべ
「でしたら、私からこれ以上何か言うのは不躾と言うものですね。」
そうして、クルッと向きを変え、
今度は、友姫にも聞こえるような音量で口を開く
「そして3つ。
貴方方のリーダーは少なからず気付いているようですが
我々は既に悪魔教ではありません。」
微笑むジェミニに、銃こそ下ろさなかったが、とても引き金を引ける気はしなかった。
苑は少し思案してから、苑は慎重に口を開く。
「…どういうこと?」
まず一撃交えて見て、スコーピオと私のレイピアが違うことに気づいた。
というか、スコーピオのレイピアが多分一般的。
私のレイピア…細剣は文字通り細い剣。
細くて固いだけで、あとはただの剣。
けどスコーピオは、剣が柔らかい。
多分だけど、私以上に軽い。
めっちゃ戦いにくい。相手は突きで私は斬。
それに加え、サジタリアスとのコンビネーション。
まさに阿吽の呼吸だ。
「だったら…」
ということで、私もスコーピオと同じ戦術に切り替え…
突く!
が、さらりと華麗に避けられてしまう。
なるほどということで、私は更に追撃を続ける
「スコーピオ!」
その声と共に、男は私へ剣を振りかざした。
しかし、私の剣はスコーピオに向いていて防げない。
下がるか…、しかしそうしたら、また最初からやり直しになる。
…いや、避ける必要もない。
カァンッ
鉄が鉄を弾く鋭い音と共に、男の剣は弾かれた。
綾雅の剣だ。
綾雅と一瞬目を合わせ、私はそのまま追撃する。
私は思わず、笑みを浮かべてしまったと思う。
形状が同じで戦術もにせられると、ついつい剣の性質も同じかと思ってしまうもの…。
けど違う。
私は避けられた剣でそのまま、斬り付けた。
「くっ…!」
突きではない攻撃に反応が遅れ、私によって腹を斬れた。
そこからアニマが漏れだす…。
アニマが流れる量から、勝負あった…と思い、私はポシェットへ手を伸ばした。
「スコーピオ!!!!」
しかし、サジタリアスの声によってスコーピオの瞳に、再び輝きが点った。
それは狂気や執着にも似た、輝き。
型から外れたスコーピオは、地面へ片手を当て、伏せる体制に。
そしてもう片手にレイピア…いや、あれはさっきまでのものじゃない。
その剣を持つ手は背中にそえ…その姿はさながら蠍のよう。
この時間、ほんの数秒。
思わず剣でガードしたときには
「っ…」
スコーピオは私へ襲い掛かってきていた。
思った通り、その剣はとても固く…。
しかもスピードはさっきまでと比べ物にならない!
ガードしてもその重さに耐えられず、私は押された。
「ッ!!!」
その隙を取られ、更に追撃される。
この状態で持ち直すのは不可能だと悟って、全力で後ろに下がる。
またあの…光の銃を。
いや、あの速さじゃ発動と発射が間に合わない。
さすがの私も焦った。
余裕ぶっこいてないでしっかり倒せば良かった、とかも後悔してる時間すらない!
何か…、何か、手立ては…。
速い、鋭い一撃を、何か。
…そっか。目には目を、刃には刃を!
「―雷よ、その力…我が身に写せ…!―」
懸命に避けながら唱えると、私自身が輝きに呑み込まれた。
まるで私自身が光その物であるかのように。
神夜さんの包み込むような光じゃない。
闇を滅してしまうような、穢れのない意思のない…光。
すると体が驚くほど軽くなった。
…ああ、どうやら成功したようだ。
私は、陽灯は本当に光そのものになったんだ。
驚くスコーピオが一歩踏み出したあとで、私も細剣を構えて一歩踏み出した。
彼女が私へ剣を降り下ろす前に…、いいえ。
いえいえ、まず彼女が私へたどり着く…そのずっと前。
スコーピオが一歩踏み出したその後には。
「“勝負”ありましたわね」
既に彼女の宝石を破壊していた。
「え………?」
綾雅を含めた、恐らく誰一人も私の姿は見えなかっただろう。
私も周り良く見えなかった。うん。
だって
「雷の落下速度ってご存じですの?」
言うまでもなく、それはさっきの私の原理と関係ありませんけどね?
軽く溜め息を吐いてから、私は綾雅とサジタリアスを見据え
「綾雅!」
と、声をかけた。
ハッ…と我に返ったらしい綾雅は、またサジタリアスとの戦闘に戻った。
恐らく、少しの間も開けずに、二人の勝負も終了する。
けど私は、まだ正しい人には還れない
既に二階に移動していたヴァルゴに、風護は一階から声をかけた。
「君の相手は僕だよ」
ニコッと、風護はまるで自己紹介をするときのように、至極穏やかに言った。
「…子供と言えど兵隊ってことか。」
ヴァルゴはそう溜め息を吐いた。
すると、その息が遠くへ霧散して行くのと共に、徐々にその姿が消えた。
それを見た風護は特に驚きもせず、むしろ感心したように笑った。
「なるほど!
道理で狙撃手の癖に堂々としていたわけだ。」
そう笑い、ヴァルゴが完全に消えたのを確認すると、風護は敵の居場所を探す…のではなく、何故か仲間達の戦況を確認した。
「ふむ…」
どの隊員も、自分の戦闘に集中している。
隊長である陽灯も、たまに苑や友姫を見ているが、風護のことは一切見ていない。
「初戦のせいだろうなぁ…
あんな勘の良い人に会うなんて」
熟僕は運がない。と、ひとつ溜め息を吐いてスッ…と前傾した。
すると、それとほぼ同時に、弾丸が風護を避けていった。
当たり前だが、実際には風護が弾丸を避けたのだ。
けれど、あまりに自然な動き。
そして、狙撃手の場所を特定していないはずのこの状況下では、少なくともヴァルゴにはそう見えた。
何故なら、風護は一度たりともヴァルゴの居る方向すら見ていない。
何度、何度、ヴァルゴが風護へ弾丸を放とうとも、すべてが尽く風護を避けていく…。
ヴァルゴはまるで、風でも打っているかのような気分になっていった。
実態のないものを倒そうとしているような。
これが子供だって?
さっきの自分を叱りたくなるほどだ。
あれは…今、目の前にいるのは、純粋無垢な正義に燃える子供なんかじゃない。
自分達では絶対に叶わないものだ。
もはや撃つのも嫌になってきた頃…
バンッ
「えっ…」
ヴァルゴは、思わず驚きの声を漏らした。
変わらず放った一発の弾丸が、風護の肩をかすったのだ。
「や…、やった……」
急所になど到底当たっていない。
こんなもので勝てるはずがない。
それでも、ヴァルゴは風護に掠り傷を与えられただけで嬉しかったのだ。
少しでも、少しでも、今までの自分の努力が認められた。
今まで自分が思ってきたすべてが否定されずに済んで…。
「あ…」
本当に、自分の実力なら。
違ったのだと気づいたときには、自分の影にもう一人の影が重なり、一人分の首は明後日の方向に消えていた。
「…そうか」




