『いと、えん』
「いと…」
青い糸が…、遠目に私達の横を通りすぎていった。
それ以外にも糸はたくさんあるけれど…、あれは赤い糸でもないし、真っ直ぐとした目的のある糸。
細いけど、鋭い、糸。
前に居る班長…澤田さんが、私の言葉に足を止めた。
「意図…?」
それにつられるように、横の一樹さんも足を止める。
私は糸の向かった方を指差した。
「ねぇ、あっちって…何がある?」
あれが“何”への“誰”の糸かまでは解らない。
一樹さんは首をかしげ、少しだけ思案してから口を開いた。
「あっちって言ったら…、陽灯ちゃ…
愛本分隊の居るところね!」
一樹さんの言葉に、澤田さんは特に疑う様子はなく
「そうなのか?」
「え、あ、はい。」
しっかり頷いた一樹さんに、澤田さんはそうなのか。と呟いた。
「…じゃあ、危ないよ。
敵が見つけたみたい」
糸の向かう先に愛本分隊が居る。
他に味方は居ないから、それはつまり敵が愛本分隊を見つけたわけだ。
「千里眼でもあるのか…?」
澤田さんの言葉に、私は首をかしげた。
「視力は最近落ちてきたよ
お母さんもお祖母ちゃんも、あんまり目も耳も良くないし。」
澤田さんは何度か瞬きをしてから、ゆっくり首を振った。
「いや、そう言うことじゃない。
…とにかく、連絡を入れておくか。」
「お前達がアンゲルスか!」
突然響いた声に、私は下げていた頭をハッとあげた。
正確に言うと声の正体に驚いたのではなく…、先程教えてもらった礼人の情報と見事に合致したからだ。
男性二人が、此方を見ている。
「やっばり子供じゃないか…」
そう、憎々しげに、男性は口を開いた。
今はその情報の入った理由は良い。
私は戦闘状態に入ろうとして、新たに通信が入ったことでそれをやめた。
そうして少し怯えたような顔をして、一歩下がった。
友姫さんと苑さんは少し驚いたような顔をした。
「ちょっ…、隊長さん?
何で下がるんだ?!」
友姫さんの言葉に、私は溜め息を吐きそうになった。
なんでイーサン、私だけに連絡したの…?
口で説明してしまっては元も子もないので、私は前を見据えながら、二人を手で下がらせる。
それを見た男達はニヤリと笑った。
「やはり子供だな。
さぁ、此方へおいで…、怖くないから」
いや、そう言われて行く子供がどの世界に居る。と思いながら、私は尚も下がった。
友姫さんと苑さんは不審に思ってるみたいだけど、私が促すと素直に下がってくれた。
綾雅と風護さんは何も言わずに下がっている。
さて…、そろそろかな。
「ちなみに、何のトラップなんですの?」
男達がその地点を踏んだことを確認してから、私は平然と口を開いた。
『爆破だネ!』
え………
イーサンの可愛らしい声と共に聞こえた全然可愛くない言葉。
それを理解した私は
「逃げよう!」
と、友姫さんと苑さんを全力で促した…
「「は…?」」
男達の阿呆そうな声と共に、ピーッという在り来たりな音共に…
パコ
というもっと阿呆な音が鳴り…、地面が開いた。
「落とし穴じゃん!」
イーサン、騙したな?!
『落とし穴って言うより、滑り台に近いかナ?
今頃二人ともぐるぐる流されてるヨ!』
そうなんだ…。
確かに落とし穴とはいえ、高さがあれば普通に死ぬからね。
「…さっき見下ろしてたのは、それか?」
友姫さんの言葉に私は頷いた。
男性達が来る直前、私はちょうど、イーサンからトラップがあるヨーと言われていた。
なので解除するついでに、逆に乗っ取って貰ったのだ。
「イーサン、嘘は良くないよ!
あと皆にも事前に言って欲しかったですわ」
私の言葉に、イーサンはあー忙しい忙しいヨ!と通信を切ってしまった…。
こんな茶番を三回ほど続け…、遂には誰も来なくなった。
「嵐の前の静けさ、ですね」
…怖いこと言わないでよ風護さん、もとい五十嵐さん。
「失礼します…」
今度はノックして入ってきた影子は、とても元気がない。
元気がないと言うのとも違うか、絶望に近い。
まあ、要するに、逃げ場がないのを悟ったんだろう。
「非常口もバレていたようで…
逃がしたものたちは、みな捕らわれてしまいました。」
だろうな。
と思ったが、俺はそれをおくびにも出さず、とても悲しそうな顔で
「そう、ですか……」
と呟いた。
初めから解っていたことだが、イーサンが彼方側に居る以上、最初から勝機はない。
俺が俺のまま戦えるのなら話は別だが、俺はイーサンを知らない。
それに、そんな大それた指示を出せる立場でもない。
っていうか、出す気もない。
俺はとても苦しげな、悩んでいるような顔をした。
それを見て、影子は意を決したような顔をした。
俺はそれを待ってたんだがな。
「12星座…8名が戦闘に出ます。
ですからタルシティ様…どうか。」
「そりゃ…、そうなるよね」
風護さんの溜め息混じりの言葉と共に、敵が現れた。
嵐来たぁ…。
やけに多いトラップや、何故か閉まっているシャッターをそれとなく避けながら歩いた私達。
誘導されているなぁ…という自覚がありながらも、その誘導のままに来たのには理由がある。
まず、誘導されても良い理由として。
どうせそのあと閉まっていたシャッターが開いて、敵が逃げ出そうとしても、そこは転移装置があるので無意味。
仮に後ろに回られても、ばらまいたトラップがあるのでこれも無意味。
何より私達が素直に誘導されたのは、敵が私たちを誘導したがる理由は一つだからだ。
「初めまして、ごきげんよう。
とでも言うべきですか?
ジェミニと申します」
「俺はサジタリアス。
さっさと引いてくれると助かるんだが?」
現れたのは男女の四人組。
恐らく、このアジトの戦闘員。
何処にも出口のないこの空間から、彼らが脱出する方法はひとつ。
私達を倒し人質にすること。
だから敵は自然と戦いやすい、広い空間に誘導すると思った。
トラップが効かないことはもう解ってるからね。
案の定、この空間は広い。
いち早く離脱してもらったスナイパーである苑さんの力も使えそうだ。
「やはりアンゲルスは、子供ばかりを使うのね。」
子供って…、まあ事実だけどさ。
って言うか、うちの分隊には綾雅が居るから…、負けるって言う方が難しい。
でもそれがバレて、うちの方に総攻撃されても困るからね。
綾雅のは奥の手って、予め言ってある。
「スコーピオは心優しいね?
僕はヴァルゴ。
僕も君達が引いてくれるのを望むよ。」
…なるほど。
12星座を模しているのね。
此所に居るのは四人だから…あと八人は居るのかしら?
『此方イーサン。
礼人君達の方にも敵が現れたヨ、四人だネ』
ってことは、あと四人…奇襲してくる可能性も否めない。
………いや、そういえば
思い当たり、私はイーサンと通信を繋げたまま、声をあらげた
「以前、アリエスという方にお会いしましたが…?
お仲間でしょうか」
イーサンにそれを伝えたかっただけ。
…何だけど、一人大袈裟に反応する人がいた。
さっき、自分のことをサジタリアスって言ってた男性だ。
「お前が…アイツを殺ったのか。」
サジタリアスは、鋭く私を睨んできた。
やった…?
何だか字が違う気がする。
サジタリアスはどうやらアリエスを知っているみたいね。
「戦ったのは私ですが」
そう言うと、サジタリアスはカッとなったような顔をした。
が、すぐに横のスコーピオという人に冷静になるように諭されていた…。
「勘違いしないで欲しいのですが、言うまでもなく殺して何ていません。
それ以前に傷一つ付けてません。
捕まえた後も笑ってましたよ、愉しそうに…」
と、私は見たまんまの情報を述べた。
思い出したら若干げっそりしてしまった。
あのアリエスは単純に戦闘が好きなだけの、戦闘狂だったんだろうなぁ。
…アンゲルスに入れば良いのに。
すると、サジタリアスは驚いた顔をしたあと
「はっ……ハハハハッ!!!
なるほどな!なるほどな!!
そりゃそうだ!そりゃそうだよ!」
何が可笑しいのか、サジタリウスは狂ったように笑っていた。
そして、はぁ…と溜め息を吐いてからニィと広角をあげた。
と、イーサンから通信が入った。
『礼人くんから。
ライブラリー?って言うのを倒したことがあるって』
………ライブラリー?
なぜ急に英語?っていうか12星座関係な…
「イーサン。
それ多分、ライブラです。」
天秤座の。
思わず小声で突っ込んでしまったわ。
となると、あと敵は二人だけ。
礼人の方の正座が解らない以上、何とも言えないけど…残ってるのがもし獅子座と蟹座なら、強敵なのかも…?
「Ladies & gentleman」
サジタリウスはそう高らかに叫んだ。
「boys & girls!
眼前に見えます我らが最後の敵は、世にも不思議な死人を生かした天使達!
さぁ、お前ら。
心臓はち切れるまで、最後までこの戯曲を踊ろうぜ!!!!」
無邪気な笑顔でそう叫んだサジタリウスの声と共に、敵は私達の方へ来た。
言っている意味も、それを言った理由も解らないけど…
とにもかくにも、割り振りを考えなきゃ。
綾雅と風護さんは一人にしても大丈夫として、友姫さんと苑さんは一人にさせるのは危険ね。
ここは分かりやすく、一緒に居てもらおう。
「僕はヴァルゴって人が良いです。」
風護さんが言うのなら、それが最適なのでしょう。
ヴァルゴさんは狙撃手みたいだし、苑さんが単独で戦えない以上、それでお願いしたい。
というわけで私は頷いた。
「此方陽灯。
友姫さん、苑さん、ジェミニという方をお願いします。」
今此所には居ない苑さんのことを考え、私は通信で二人に伝えた。
恐らく苑さん、明石家さんの開発した何かを使って姿を隠してる。
何かはさっぱり解らない。
でも任せる。
「と言うわけで綾雅。
一緒に戦って貰えますか?」
サジタリアスとスコーピオと言う二人はなるべく引き剥がしたいのが本音だけど…、少なくともスコーピオはそんな隙を与えてはくれないだろう。
「当然」
そう笑った綾雅を確認し、私はスコーピオの方へ走り出した。
サジタリアスは双剣で、スコーピオは私と同じレイピア。
綾雅は剣。
全員が殆ど同じなら…、師弟のコンビネーションを試すときね!




