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アルカナの戦慄  作者: 三古谷
第一章 『gold angel』
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『嘘は決して口にしてはならない。しかし、真実の中にも口にしてはならないものがある』

執拗について来ようとした礼人だったけど、アンゲルス内で話すことと、帰りは自分が送らせることを条件にどっかに行った。

礼人は絶対自分のことを兄か父かと勘違いしてる。

…いや、悪いとは言ってないけどさ。


教室から廊下に出て、いつもなら右に曲がるところを佐久間さんは左に曲がって扉を開いた。

こちら側へは…というか、さっきのルート以外は通ったことがない。

ここは研修生や研究生、もしくは新入生説明会にのみ使われるフロア。


けれど、佐久間さんは慣れた様子だ。

そこから少し歩くと階段が見えた。

その階段を降りると、庭のような場所についた!

室内にこんな場所があるとは…変な感じだ。


「いくつかあるリフレッシュルームの一つだよ。

 でも、ここに来る人は少ないからね。」

佐久間さんの言う通り、ここは広い割にここには誰も居ない。

辺り一体は研究生や研究生育成のため、もしくは新入生のためのフロアだ。

ここから離れると、正規隊員の隊員室や、生活フロア。

もしくは、本当に立ち入り禁止の場所へいってしまうのだ。

本部の中の地図は当然のごとく配布されない。

触らぬ神に祟りなしの要領で、私は彷徨かないようにしてる。


まあ、そんなことはさておいて。

「それで、話って何ですの?」

私はいつも相手に対して優雅っぽい微笑みを浮かべるけど、今日はそれ以上の笑みだ。敵意ビンビン。


佐久間さんはそんな敵意を感じつつも、それを受け流して壁に持たれた。

「ははっ

 …まあ、世間話でもしようよ。」

横においでとされたが、私はそっぽを向いた。


「無駄な時間を過ごしたくないので…

 端的に用件だけをお願いしますわ。」

断固として、壁には持たれかけずに仁王立ちの姿勢を取った。

笑顔は張り付けたまんま。


「せっかちだなぁ…」

困ったような顔をしながらも、顔は面白いものを見るように笑っていた。

そういう態度が気に入らない。

何から何まで怪しすぎるんだってば。


すると、ふと雰囲気が変わった。

「じゃあ…、どこで金の天使を知ったんだい?」

冷ややかな視線で、懸憐さんとは全く違う…恐ろしい視線だった。

恐い…けれど、そんなものに気を使えるほど私は繊細でもない。

「それは、私こそ知りたいですわ。」

馬鹿正直に答えては帆凪様に何かしら危険が及ぶかもしれない。

少なくとも、そういう機密情報を持つ程度の隊員、ということなんだから。


「…ふ~ん………。」

すると、佐久間さんからの視線は消え、雰囲気も元に戻った。


その事に少し安心してか、私の笑顔がはがれた。

「まあ、こんな話し合いで聞けるとは思ってません。

 “おめでたいな”と言われてしまうでしょう」

私はエッカートさんが結子さんに言っていた言葉を繰り返した。

あの時のエッカートさんは結子さんの事を本当に、おめでたいやつ。と思っていた訳ではなかったが。

もし私がこんな話し合いで聞けると信じたら、本気で軽蔑されそうだ。


佐久間さんもそれを想像してかクスッと笑った。

「そうだね。

 だから、世間話でもしようと思ったんだけど」


「あ………ああ……。」

世間話からそう言う情報を抜き取っていくんだ…それは……、考えてなかった。


「君は…、何だか素直すぎないかい?」

その言葉に私は思わず目くじらを立てた。

「……それは………嫌味ですの」


「ううん。今のはただの感想。」

怒るでも驚くでもなく、佐久間さんは呆気からんとそう言った。


嘘でないことが明らかだったので、私は少し申し訳なく思って顔を伏せた。

「…そうですか。」


続く言葉が見当たらなくて、私は理由をつけようとした。

「………………私、嘘が嫌いなんです。」


「ほぉ?」

佐久間さんは少し興味深そうにした。

ニヤッとしたような顔じゃなくて、ただただ本当に、興味。

…佐久間さんも若干脇が甘いと思うよ。


「この世で、最も価値のあるものは事実だと思っています。

 絶対に揺るがない、確かな答え。

 嘘を吐くのは、きっとそれとは一番遠いことだと思うから。」

力も財も名誉も…また愛情や友情でさえも…永遠ではない。

少なくとも私は、それらのものに永遠を見たことがない。

薄情なやつだ。と思う人も居るかもしれないけど…考えても見て欲しい。


事実って素晴らしい。


決して私を裏切ることはない。

何故なら事実だから。

何をどうしたところで…揺らぐことはないから。

人によっては考えが違うんじゃないか?とか事実だって変わることもある。

という人。

それは私にとっては事実ではなく真実だ。

もちろん、それも一つの価値あるものではある…が。

私が求めるのは飽くまで、誰がどう見ても決して揺らぐことのない事実。


「…ふっ………耳が痛いなぁ?」

佐久間さんは苦笑いを浮かべた。


「あっ……

 私がってだけですわ…!

 みんなが正直になったら…大変でしょう?

 私の好きな言葉のなかで、

 “事実の中にも言ってはいけない事がある”

 っていうのも有りましたわ!!」

昔読んだ本にそう言うセリフか何かを見たことがある。


「例えば?」

…えっと、確か………


「人を傷つけたり…………、秩序を乱すことだそうです。」

例え、それが事実で…正しいことであったとしても。


「………そうだね。」

佐久間さんは、何故だか悲しそうな顔をした。

今の時点では何も解らないけど、佐久間さんには、佐久間さんの秩序ルールがあるはずだ。

それが何であっても…多分、佐久間さんにとってはそう。

だから、その秩序を護るために佐久間さんが嘘を吐くのは、決して間違ったことじゃない。

…それでも私は、きっと正そうとするけれど。


「難しいものですわね。」

私は佐久間さんに微笑んだ。


すると佐久間さんはスッと私を見つめ、首辺りに手を当てた。

…ちょっと冷たい。

冷え性かな?

「君は、そんな事実を知っているのかい?」


思わぬ質問に、私は何度か瞬きした。

「いいえ?」

口から突いてでた。

けど、そんな事実、私は何も持ってない。

もしかしたら私は私でないかもしれないのに。

…ああ、でも、そんなことを考えてる時点で、私が居ることだけは間違いないんだっけ。

世界が本当にあるのかも

今目の前にいる佐久間さんが本当に居るのかも

何も解らなくても、私が何かを考える限り、間違いなく私は存在してる。


「そうか。」

佐久間さんは安心したように微笑んで、手を離した。

…?………??

よく解らないけど…良かったね??


「それじゃあ…またね、陽灯ちゃん

 今度は世間話をしよう」


Σ(´□`;)


そうだった!

まだ疑いは全然晴れてないんだったぁっ…!!

上手く躱された感が…!


あ、でも次があるのか…良かった!

「はい!」

私はその事に安堵して満面の笑みを浮かべた。

黒なのか白なのか、まるで解らなかったけど…とりあえず彼の頭は悪くないってことだけは解った。

それならキチンと相手をすれば、愚かなことをすることがないってこと。

相手にするのは難しいけど、安心ではある。

誰かを傷つけて騒ぎを起こすようなことは決してしないと思う。


もっとも…その秩序にもよるから、完全に安心することはできないけれど。


それでも私が少しは安心して笑顔で帰ろうとすると、礼人が門の前にいた。

「え…、お前マジか?お父さん泣いちゃうよ?」

誰がお父さんだと心のなかで突っ込んだ。


「変な勘違いはお止めになって?

 それに、生憎私には父も母も居りませんので」

そもそも、そう言う話ではないんだけどね。

礼人バカだねー


…!!!!


礼人の驚いた顔を見て、私は血の気が引いた。

あ………完全に油断していた………。

どうしよう………、礼人に孤児だとバラしてしまった。


「あ…愛本!!!!

 そうか、愛本だ、お前!!!」

礼人は大声でそう言った。


今までも、孤児だとバレた途端に態度が変えられることは何度もあった。

良くも、悪くも…だ。

どうして孤児=可哀想になってしまうのか。

私は…、自分のことを、兄弟達みんなの事を可哀想だと…、自分の運命を憂いたことなんて、一度もない。なのに。


「神崎の妹だよな!」


んっ………?


聞き慣れた単語に私は目を見開いた。


「……あきらにい?」

それから私は大きく何度も瞬きをした。

4回もすれば、いつの間にか目に溜まっていた涙はすっかり乾いた。


「あ、そうやって呼んでるのな。

 なんだよ、お前ますます妹みたいじゃん!」

と言うのが速いか、頭をまたしてもワッシャワッシャと撫でられた。

前回より心無しか豪快だ。


………というか、やっぱり妹だと思ってたんだ。

私的には兄というよりは口煩い父親かな!

…ふふっ。


「あ、オレ、神崎と同級生なんだ。

 そこそこ仲良いよ」

親友とか言わないのが現実味あるね。

そういえば昌にいってもう高校三年生なんだ。

ああ、てことは礼人も高三……そして私は、……中三。気にしたら敗けだ。


神崎カンザキ アキラ

両親の所在がハッキリしてるため、名字も名前も元々あった。

けど昌にいの両親は事故で亡くなったらしい。

そして2年ほど前に『俺、優秀だから』と真顔で言って孤児院を出ていった。

実際問題 優秀だったので、只今、寮生活中らしい。

偶に寄付してくれる。現金。


私は無意識のうちにそっと微笑んでいた。

「クラスが同じなんですの?」


私がそう聞くと、礼人はよくぞ聞いてくれた!とばかりにニヤッと笑った。

「いや?

 会ったのはお前と同じ算段だ。」

その時の昌にいの迷惑そうな表情とか、そのあとの二人の様子が何となく想像できて、私は思わず笑ってしまった。

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