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アルカナの戦慄  作者: 三古谷
第六章 『party!』
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『偽りの夢』

「オェッ…ウッ……ゲェェエ………っはぁ……」


吐ききったのか、アスターは苦し気に息を荒げながら、何とか顔をあげた。

その鏡に映る顔は青く、今にも倒れそうだ。


百日草ジニアは無言でアスターにタオルを差し出し、アスターもそれを無言で受け取り、無造作に自分の顔を拭く。

「吐いたのなんていつぶりだ?」


「お前は吐いてないだろ。」

ジニアの突っ込みに、アスターはうがいをしながら、そうだった!と笑った。

「でも最近は本当に何ともなかったんだがな。

 どうもオレ達は、そういう運命にあるらしい。」


ジッ…と自分の顔を見つめるアスターに、ジニアは眉を潜めた。

そして、たしなめるように口を開く。

「お前は結構前だと思ってるのか知らんが。

 “あれ”からまだ5年しか経ってない」


「馬鹿。

 2031年になったんだから、6年だろ。」


「馬鹿はお前だ。

 今は四月で、“あれ”は2024年の12月25日に起こったんだ。

 …あ、6年か。」


「あ、オレ理論だと7年だわ」

風など吹かないはずの地下室に、冷たい風が吹いた。


「……突っ込みが居ないと俺たち成立しないな」


「コスモース!!」

だが、その悲痛な叫びが秋桜コスモスに届くとはない。


「……で、お前の予感が的中したんだっけ」

コロッと態度が変わったジニアに、アスターは首をかしげた。

「あ?

 ああ、そうそう。」


そして、先程の叫びとは比べ物にならないほど悲痛な溜め息を吐いた。

「そうなんだよ………。

 綾雅サマサマが愛本の弟子になっちまった!

 しかも、なついてるんだとよ!」

そう苛立たしげに、アスターはタオルを洗濯機へ放り投げた。

もちろんタオルなので、さすがのアスターでも勢いはつかなかったが。


自分達、紫の庭が守るべき相手…。

つまり攻撃されるような相手の一人である、火砕綾雅。


「そもそもミオウギってやつが師匠になるとこからヤバイと思ってたんだ!

 ホント、アイツは…忠告してもしても危ない方に……。

 まあ?

 ミオウギの件は、アイツの交友関係上しょーがねーし。

 オレも別に力道さんに恨みはないから、無下には出来ないんだが…。」

アスターの発言に、ジニアはいつもながら吹き出してしまった。


そしてまた、いつもながらにアスターに目を細められる。

「お前が人に対して

 さん付けしてるのに、どうしても慣れないんだ」

と笑いながら適当に謝った。


「それが礼儀ってもんだろ?

 オレ達のオリジナルの命の恩人だからな。

 逆に思ってる奴も居るけどよ…」

アスターの言葉に、ジニアは一瞬で苦し気な顔になった。

その顔に、アスターは言わなければ良かった…と、少し後悔した。


話題を変えようと、アスターは大袈裟に声をあげる。

「あーっと!

 えっと、あー、そうだ!

 あの悪魔!アイツマジやべぇよな!」

アスターの言う悪魔とは、陽灯を襲った池榻ノキアクのことだ。

ノキアクと交渉したことは、既に事後報告してあるが、ジニアに話したことはなかった。


「悪魔?

 ああ……、彼のことか」

ジニアの言い方に違和感を覚えたアスターは眉を潜めた。

「彼?

 まあ、確かに男だろうが…」

確かにあの悪魔を彼女と呼ぶやつが居たら、ビビるし引く。

とアスターは冗談を吐いて笑った。


しかしその反応はかんばしくなく…。

「…いや、ああ。」

ジニアはいつも座るイスに座り、アスターを見上げる。


今度はジニアが話をそらす番だった。

「他のやつらは、今どうしてる。」

そんなジニアにアスターはあからさまに不機嫌になり、ジニアに背を向けて歩きだした。

そらした話のチョイスも悪かったのだ。


「…随分と大人しくなった。

 いつもながら“マスター”とか、保護者役の奴らが監視してる。

 そろそろ本当に、オレがオリジナルになるのかもな。」

スッ…と振り返り見たアスターの目に映ったジニアは、何とも言えない苦しそうな顔をしている。


しかし、アスターは口を止めずに、螺旋階段の手すりに手を掛けた。

「どうする?

 お前は“オレ”の敵か、味方か」

ジッ…と獲物を狩るような目で自分を見つめるアスターと、ジニアは目を合わせた。


「…………今、俺にそれを聞くのか…

 お前達は」

「オレ達は」

ジニアの言葉に、アスターは声を張り上げた。


そして目を見開いて前だけを見つめながら、一つ。

また一つと螺旋階段を昇っていく。

「元はオリジナルが生き返るまでの、時間稼ぎ。

 代用品でしか、なかった」

一瞬だけ、足を止めたアスターは、何故かとても穏やかな顔をしていた。


その一瞬が去れば、アスターはまた目を見開いて歩き出す。

「だが、そのオリジナルには、生き返る好調なんてまるでない!

 それどころか…ホントに死んだんだろとも言われてる。」

ニヤリと厭らしく笑ったアスターに、ジニアは思わず立ち上がる。

「アスター…!!!!」


アスターの言葉を咎めたのではない。

アスターが今から起こそうとする行動を止めようとした…が、当然アスターはやめることなどなく。


螺旋階段の頂上で、手すりを軽く飛び越えて腰を下ろす。

片手だけで体を支えている状態だ。

手を離せば、もうアスターは…

「見てみろよ。

 オレや愛本の方がよっぽどオリジナルだ。

 よっぽど完成に近い。

 誰も偽物なんて疑わねぇ!

 “まるで”全うな人間そのものだ。」

そう笑うと、アスターは手を離し、螺旋階段からジニアの元へおちた。


ジニアは若干青ざめながら、何とかアスターを受け止めた。

支えきれず尻餅はついたものの。

「っ……。

 でも、あの子にだって想う人は」

ジニアの腕のなかで、アスターは至極苛立ったように笑った。

「その悪魔のことだろ?

 大方、オリジナルの執念か怨霊かが、悪魔を唆してんだろ」


「唆してなんか!」

ジニアの怒鳴り声に、アスターは逃げるようにジニアの腕から逃れた。

「唆してる

 し、オリジナルならそれくらい容易だろ。

 それくらいの事が出来るからこそ、オレ達はこうして此所に居るんだ。

 悪魔もお前らも、

 オリジナルの力と言う魅力に、唆されてんだよ…」

そう、アスターは溜め息混じりに言って、空の神殿を眺めた。


「違う!!!!!!」

突然怒鳴ったジニアに、アスターは驚いてジニアを見つめた。

「あの子はきっと…」


自分があいつと言う、ジニアがあの子という、“その人”を庇い続けるジニアに、アスターは詰め寄った。

「きっと?なんだよ。

 オレや愛本と違ってあいつに望みはない。執念だけの亡霊だ。

 先なんてありゃしない。

 だってあいつが望んでないんだから!」

そして胸ぐらを掴み、母親が子供に言い聞かせるように。

正しいことを、常識を教えるように、ゆっくりハッキリと、アスターはジニアに言った。

「良いか。

 あいつは愚者だ。ゼロだ。

 何もない。何も持とうとしない。

 ただの脱け殻。

 オレ達は、お前らは、世間は、“アイツ”のこと」




『要らない。』




「ッッッッ!!!!」

ベッドから起き上がった私は、バクバクと耳で五月蝿く鳴る心臓を両手で抑えようとしていた。

目の前にはベッドを仕切る、無地のカーテン。


左を見れば少し大きな窓があるが、そこから朝日は漏れない。

まだ日が昇っていないからだろう。

太陽も、月も、星すらも、何も見えない。いつもの景色。


けれど今日は背中や額から、汗が流れている。


何とか息を整えようと深く、深く、深呼吸をしながら、私はさっきまでの夢の記憶をたどった。

「………」

けれど、何も思い出せない。


酷く、ひどく、嫌な夢を見ていた。

なのに。

それは解るのに…一体、何の夢を見ていたのか………。


思い出せるのは、私を囲むたくさんの人の影…

「!!!!」


止めよう。

もう止めよう。

思い出したくなんてない。

思い出したって、きっと、何一つだって良いことがない。

良いことなんて…。


「アルバ…ト…負かしたぁ……!」

一瞬ビクッと震えた…が、脅えることはなかった。

隣で眠るジゼルさんの声に、私は息を吐いて笑みを溢していた。


過去に囚われるなんて、それほど馬鹿馬鹿しいことはない。

忘れられるままで居られるなら、これで良い。

私は、今此所にいる。


っていうかアルバ…トって、内山さんのことですか?









「やぁ、陽灯ちゃん。」


「おはようございます、明石家さん。」

分隊室には、既に明石家さん、イーサン、礼人。

神夜小隊の班長の面々が揃っていた。


今日は、班長達だけの作戦会議。

あまり悠長なことはしていられないので、時間は学校へ行く前の早朝。

何処から情報が漏れていたのか解らない以上、また情報が漏洩する危険がある。

だから今日の放課後にも…、と言いたいが、元々シフトが入っていなかったので、それは現実的ではない。

決行は、明後日の土曜。

それまでに準備を万端に整える。


あまりにも日常と非日常を混在させては、新入生達は混乱してしまうかもしれないが…、まあ、そんなものは今更だろう。

みんな、見て見ぬふりをしているだけ。


世界は、案外殺伐としてる。


「じゃあ、始めるヨ。

 暗号文の会話から出てきたものや、取った発信源によれば、彼らのアジトはここ。」

イーサンがモニターに映し出される地図を指差した。

青盛あおさか町の…ビルかい?」


「随分と堂々としてんな。」

裏路地にあると言うわけでもない、普通に誰もが通るような一般道だ。


「ビル全部が持ち物みたいだネ。

 …多分だけど、本部は地下にあるんじゃないかナ。」

急に悪の組織みたいになったね…。

表は普通のビルで、裏では地下でこそこそやってるみたいな?


すると、ジッ…と難しそうな顔で地図とにらめっこしていたイーサンが、突然ニヤァっと笑った。


何か悪いこと思い付いちゃったんだねぇ…。

「お前の考え付くことなんて、手に取るように解るんだヨ!」

そう笑ったイーサンは、本物の悪の組織の比にならないほど、悪い顔をしていた。

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