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アルカナの戦慄  作者: 三古谷
第五章 『Natural enemy』

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『アブストラクトゲーム』

「っていう会話をしたのを、永徳から聞きました。」

佐久間さんからストーカー対策なんでやめちゃったの?と聞かれ、私はそう返した。


永徳がアスターから聞いた話によると、その悪魔。

イケシジ・ノキアクと言う存在は、私を襲うのを取り合えずは止めてくれたらしい。

隙さえあれば…って感じだけど。

…本当、嫌な名前してるよね、イケシジノキアクなんて…。


正直、護衛されるっていうのは窮屈で仕方なかったから、それを聞いて私はすぐに護衛を止めてもらった。

もっと、怒られるかと思っていたのに、何故か神夜さんは一つの溜め息だけで許してくれた。

もしかしたら、私にストレスが溜まっていたことを察してくれたのかもしれない。


「無用心だなぁ…」

そう言いながら、佐久間さんは歩兵を前へ進めた。


あ、“と”になった。


今やっているのは、日本古来の将棋ショーギと言うやつだ。

マイナーなゲームだけど、佐久間さんと礼人から教えられたせいで覚えてしまった。


まあ、正しい打ち方とかは知らないけど…それは佐久間さんも同じらしい。


と、言うわけで私は守りから攻めに転じ、角行を進める。

歩兵が地味に邪魔なので、そこを取っていこうと思う。


「ところで、どうしてそのアスターという人は、君じゃなくて永徳くんに?」

佐久間さんの言葉に、私は思わず拳を握りしめた。


それはこっちが聞きたい!

っていうか、もちろん聞きました!

「私に会ったら殺されそうなんですって!

 全く失礼な!!」

殺すだなんて物騒なことしません!

ニ、三発力一杯殴るだけです!

その発言で四回に増えましたけれどね?!

って永徳に言ったら真剣な顔で、マジでやめろって言われた。

つくづく、永徳はアスターには甘い。どうかと思う。

永徳が甘いのって礼人とアスターくらいだよね。

私には言わずもがな辛いし。


「アスターって、愉快な人なんだねぇ…」

と、佐久間さんは、のほほんと言いながら

ぎゃっ!

飛車で私の角行を奪っていきよった!


ま、ま、まぁ…良いけどね。

佐久間さんから既に一つ角行を貰ってるし


私は首をかしげてジッ…と将棋盤を見つめる。

「愉快…っていうか胡散臭いんですよ…

 そもそも悪魔と交渉するなんて危ない…」

角行を貰ってると言ったけど、むしろ手打ちには角行しかない。


………とりあえず歩兵を歩兵で取る…。

あ、私のも“と”になった。


「でもまあ、知能があるのは解ってたから

 奇策ではあるけど結果的には良かったね」

まあ…それはそうですけど。

それよりも、私を囮にしてアンゲルスみんなで倒した方がずっと合理的だったと思う。

まあ、強さの底が見えないから、戦わなくて済むなら、その方がいいけど。


あ、せっかく成った“と”の前に香車置かれた。

…………“と”の後ろにさっき佐久間さんから取った歩兵を添える。

これで、“と”を取ったら、歩兵に香車が私に取られるという寸法


「で?

 澤田礼人はちょっとはまともになった?」

急に砕けた口調になった佐久間さんに、私は苦笑した。

多分、佐久間さんが私に本当に聞きたかったのはこれ。


やっぱり怒ってるみたいだね。

佐久間さんは心配性だなぁ。


まあ、まともになったかどうかと聞かれれば。

「むしろ悪化してますね」

私の護衛隊はすぐに解体されたのに、礼人はまだ私を守るき満々でいる。

永徳も、最近訓練にやけに気合いが入ってるって言ってた。


「全く。

 佐久間さんったら何を言ったんです?」

私の言葉に、佐久間さんは将棋盤を見つめたまま、顔を歪めた。


「んんー…。

 結論が悪かったのかなぁ……

 そういえば、大事なことを言ってなかった」

あらあら。

佐久間さんったら、樋口さんにも劣らぬ相当なヘタレですね。

「どうなっても知りませんよー。

 あれで礼人はモテますから」

本人は否定するけど、礼人はどう考えてもモテる。

顔も、贔屓目なしに見てイケメンだと思うし。

興味を持つとストーカー気質になるところは駄目だけど、それがなければ普通に紳士だ。

外面はいい。

それに、彼の本質も世話付きだからね。


返答がないことに疑問を覚え、ふと顔をあげると、佐久間さんはキョトーンとした顔をしていた。


思わず全力で眉を潜めると、佐久間さんはやっと理解したのか、私に劣らぬ勢いで眉を潜めた。

「ん?!

 何の話?!」

…まあ、それは置いといて。


「佐久間さんが、礼人に言ってなかったことって?」

と、私は非常に冷めた目で言ったことだろう。


「え……、そりゃ。

 アイツ、俺が怒ってる理由が君を守れなかったからだって言ったんだよ?

 馬鹿にもほどがあるよね。

 あっ、もちろん君のことだって心配してるよ?」

突然挟まれた私への気遣いに、私は適当にハイハイと頷いた。

佐久間さんは微妙な顔をしたけど、そのまま続けてもらう。


「君のことは心配以上に信用してるんだ。

 実際に君はちゃんと…無傷ではないけど、もう治ったんだろ?」


「ええ。

 次の日には殆ど。

 今じゃ見る影もないですね。」

と、言いながら両手をひらひらと振った。


やっばりあの包帯は大袈裟だったんだよ。

みかんさんは驚いた顔をしていたけど、多分混乱して誤診したんじゃないかなぁ。


「俺が怒ったのは……

 解るよね?!

 こっちが死ぬほど心配したのに、

 『愛本を危険に晒した』『オレの力不足のせいだ』だって!?

 そんなことは聞いてないんだよ!!

 俺の立場はどうなるって言うんだ!

 君だって腹が立つだろう?!

 アイツはほんと…」

あらぁ…佐久間さんがご乱心だわ。

いつもの穏やかキャラはお休み中でしょうかね。

嬉しいですけど、外面放っておいて良いんですの?


「…まあ、私は腹は立ちませんわ。

 感謝してるだけです。」

そもそも私が…っていうのは、口には出さない。

言っても仕方がないことだからね。


佐久間さんに寄り添って考えれば…

佐久間さんと同じ立場なら、私も腹が立つと思う。

自分自身を守ろうとしない礼人に。

礼人を守れなかった自分わたしに。

「大切な人が、自身を蔑ろにしていることに

 腹を立ててるんですのね」


「そう!それだよ!

 君は流石だなぁ……」

感心してるとこ申し訳ないですけど、佐久間さん何気に凄いこと言ってますよ。

佐久間さんも大概ド天然ですわね。


やれやれ全く。

大人なんだからもっとちゃんとして欲しいものですわ

「あ、詰んだね」

えっ?!


「………」

あ…本当だ。もう逃げ場がない。


「…参りました」

ちゃんとしてない大人に負けたぁぁぁああ






「あー、それで僕に挑んできたんだね…」

目の前の男性の前で、顔を伏せながら頷いた私の頬には、輝く涙が………。


悔しくなったので買い物ついでに、将棋なんて知らなそうな樋口さんに勝負を挑んでみたのだ。

そしたらルール知っててビックリ。

っていうか、佐久間さん以上に上手い気が……

「う、うーん……、僕の家はそういう所でさ。

 小さい頃からやって来てるんだ。

 将棋も囲碁も花札も…」

イゴ?ハナフダ?

花の札…?

カルタみたいなものですか……?


「もちろんチェスとかもやるけどね。

 将棋の方が多いかなぁ…」

ふむ。なるほど。

解らないけど。

どうやら私の敗けは初めから決まっていたらしい。


ここまで行くと悔しくもないなぁ…。

何をどうすれば勝ってたのか全く解らない。

「まずは定跡を覚えるといいよ。」

そう言いながら、樋口さんは詰み終わった将棋を最初の配置に戻した。


「最初は飛車を動かせるように、前の歩を動かすといいねぇ」


「そしたら角行を守って、相手の角行前の歩を飛車で取って―」

樋口さんがスルスルと動かしていくと、最終的に相手の角行と飛車の前から歩が居なくなって動きやすくなっていた。


なるほど…、ここからまた進めていくんだ…。


「もちろん定跡は絶対じゃないけどね。

 覚えておいて損はないよ。」

…何か凄いなぁ。

私の知らないことをスルスルと進めちゃって…。

ヘタレ何て言ってごめんね。

樋口さんには樋口さんの特技や得意分野があったんだね


「ん?

 どうかした?」

きょとんとした顔で、可愛らしい笑みを向ける樋口さんに、私は笑みを返した。

「ううん。

 何でもない。」













薄暗い、誰も居ない空間で一人、彼は泣いていた。

「ごめん…、ごめんよ。

 必ず、必ず、彼女達を殺して見せるから…。

 今は…、どうかゆるしてくれ…」

彼に襲いかかる黒い影は、責め立てるようにそこに居続ける。

殺したくない。

傷付けたくない。

けれど、それを口に出すことを、影は絶対に許さない。


彼の名は池榻いけしじ ノキアク。

もはや生きることも死ぬことも許されぬその身は、影の望む通りに動くしかない。

「いつか必ず、君を救うから」

その救いで救われるものなど、誰も居ないとしても。

自分が死んでまで生きていて欲しいと願った、彼女達を殺すことになっても。

それしか、君が救われる道はないのだから。


黒い影に責め立てられながらも、彼は男との盟約を果たすため、その瞳を今少しだけ、閉じるのだった。




彼女、愛本陽灯からの報告に、上層部の極々一部の人間だけが、戦慄を覚えていた






natural enemy―天敵―






杖  主な組織…フルール・ド・リス

ACE   「華綾かあや

Page  「」

Knight「」

Queen 「」

King  「」


聖杯 主な組織…アンゲルス

ACE   『綾雅りょうが

Page  『』

Knight『』

Queen 『』

King  『』


剣  主な組織…紫の庭

ACE   〈フール〉

Page  〈百日草ジニア

Knight〈キク

Queen 〈秋桜コスモス

King  〈〉


金貨 主な組織…教団

ACE   《ルキフェル》

Page  《》

Knight《》

Queen 《》

King  《池榻いけしじ ノキアク》

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