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アルカナの戦慄  作者: 三古谷
第五章 『Natural enemy』
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『機密に秘密』

「……ストーカーってそれ、通報しなよ」


「それって、弟くん?達の中にも居るかもしれないってことじゃないの。」


「そんなわけにいかないよ。

 君は女の子なんだから、もっと自分を大切にするべきだ。」


「僕が付き添うよ。

 いつでも好きなときに呼び出してくれれば良い。

 用事があるときもあるかもしれないけど、なるべく出るからさ。」


「僕と君は互いに知らない人だろう?

 だからストーカーになるなんて有り得ない。

 僕は未だに君の名前も知らないしね」


「ああ、違う違うそう言うことじゃないんだ。

 つまり安心できるだろってこと

 君も知っての通り、僕はヘタレだから、

 当然、何かするなんて有り得ないしね」


「実を言うと、僕は最近引っ越してきたから、この辺の事よく知らないんだ。

 しかも海外から来たもんだから、助けてくれるような知人もいなくてさ…

 あのときもちょっと心細くなってメソメソ泣いてたんだ。

 だから一人でも知人が欲しいんだぁ。

 別に年下の女の子相手に何か求めるつもりはないよ。

 ただ、一人でも知り合いがいると……その、安心できるんだ。」


「だから、ね?

 お願い!」


「……………………まあ、連絡先だけでしたら」


「師匠?!」

「………どうしてこうなったんですの」


「俺が聞きたい。」


「師匠………」

気が付いたら樋口さんも護衛隊の一員になってしまっていた。

いや、本当に何で?


樋口さん口達者すぎでしょ……。

みるみるうちに口車に乗せられちゃって、……連絡先も渡しちゃったし。

いや、彼の言った通り、確かにほぼ初対面なんだからストーカーになるような恐れもない。

し、そして彼の言った通り、彼は紛れもないヘタレだ。

だから別に困るようなこともないのも確か。

「まあ、二度と連絡しなければ済む話かぁ……」


「楽観主義だなぁ…」

私はその永徳の言葉をスルーして、綾雅を家へ送り届けた。





『師匠。

 くれぐれも気をつけてください。

 アンタ、俺とじゃ比にならないレベルで危なっかしいんだから…』

と自らの弟子にまで言われてしまった。

さすがに綾雅ほどは危なっかしくないと思う。

確かに連絡先を教えたのは迂闊だったかもしれないけど…、樋口さんはなにもしないと思う。

何てったってヘタレだし。

ていうか、常識あるし。


「あれ、何も言わないんですのね」

別に求めてるわけではないけど、絶対小言のひとつは言われるだろうな…と思ってたから。

少し、意外だった。


「本気で呆れてるんだよ」

と、いつものようにスンとした顔で言った永徳に、陽灯は苦笑いした。

「冗談でしょ」


「冗談だ」

表情を一切変えぬまま、永徳は口だけを動かしていた。

多分永徳は、自分的には面白い冗談を言ったつもりでいる。

ワーオモシロイオモシロイ。


永徳は呆れては居るだろうけど、黙ってた理由はそっちじゃない。

「あの状況なら、俺もそうした。

 樋口ってやつが口達者すぎる。

 だからこそ怪しいが、一般人だった場合困るし

 まあ、アイツは人畜無害なんじゃないか」

樋口さんの評価まで聞いてないけどね。

何で永徳が認める風なの?


「じゃなくて、あの佐久間って……」

永徳の言葉に私は首をかしげた。

言ってることが解らないんじゃない。

多分、何者?とかそう言うことを聞きたいんだと思う。それは察せる。


そうじゃなくて、永徳がそんな歯切れの悪い言い方をしたのが気になった。

「…礼人の二学年上の人で、研修のとき同じクラスでしたよ」

あとリリィーカリスのスパイを一緒に探したり…とかね。

とは言え、ゴールドエンジェルの名前を出した佐久間さんは確かに怪しいまま。

けど、普通にいい人だと思うよ。


やっぱり佐久間さんは、ただのお人好しだと思う。

「そもそも、礼人さんは…

 俺が礼人さんの弟子なんて言ってないはずなんだ…。」

なんかボソッと言った永徳に、私は首をかしげた。

「あれは、礼人さんに何言うつもりなんだ」

訝しげに永徳は眉を潜めた。


けど、私はつい笑ってしまう。

「心配しなくても良いと思いますわ!

 きっと、佐久間さんは怒ってるだけです」


「怒ってる?」

ええ。

見るからに怒っていましたとも。

「私もそうでしょうけど。

 多分、それ以上に礼人を心配してるでしょう。」


驚いた顔をした永徳に、私は微笑んだ。

「今の礼人は守ること強くなること正しくあることばかりに必死で、自分を守るつもりが微塵もない。

 私も、佐久間さんがキツイお灸を据えてくれることを、強く願ってます。」

私達を傷つけないため守ること

敵を倒すため強くなること

弟子の見本となるため正しくあること


礼人は、自分自身を守ることを考えてない。

私ですら考えてることなのに。

多分今は自責の念でいっぱいいっぱいになってる。

あの称賛は紛れもない事実だって言うのに…。


全く。

綾雅と言い、うちの男連中は人間未満ばっかりね。


「そうか。

 外から見ると、礼人さんはそんな風に見えるのか。」

私の言葉を受け、永徳は思案するように目を閉じた。

「失望した?」

と、私はニンマリと笑って永徳を見つめた。


「んなわけねぇだろ」

永徳は、まるで礼人みたいな胡散臭い笑みを浮かべた。













暗い暗い使われなくなった工業地帯の一角、以前、愛本と有栖が再会した場所でもある。

その場所にアスターは一人……いや、一人ではない。

佇むアスターの影に、彼は重なって居た。

「…とりあえず名を名乗れ。

 知る必要大有りなんだよ、悪魔野郎。」

アスターはその悪魔を鋭く睨み付けた。


すると、以前は名乗りもしなかった悪魔がフッと溜め息を吐いて、口を開いた。

『………池榻いけしじ ノキアク。』

陽灯達を襲った悪魔は、そう自分を名乗った。


「池榻ノキアクぅ……?

 何だそれ。」

そんな名字はおろか、名前も聞いたことがない。


だがアスターは考えても仕方ない。と、すぐに頭を振った。

「まあ、悪魔が名乗る名前か。

 …じゃあノキアク、愛本を襲うな。」

アスターのその強い言葉に、ノキアクは何度か瞬きをした。

それがまるで驚いている反応のようで、アスターは余計にイラついた。


けれどノキアクは、それに対して困ったように眉を下げた

『俺は彼女を殺さなくてはいけない』


まるで何の罪も持たない、子供のような言い方をするノキアクに、アスターは目を見開いて、怒りを露にした。

「だぁから、それを止めろってんだよ!!!」

アスターがそう叫んで感情のままに足を降り下ろすと、コンクリートの床は砕けてしまった。


しかしノキアクの態度にあまり変化はなく。

それどころか、まるで哀しそうな顔をする。

『………何故?』


「何故…だぁ?!」

また怒りのままに動こうとしたアスター。

ノキアクは、それを制するように言葉を続けた。

『何故。

 殺してはいけない理由でもあるのか?

 どうしても。

 何を置いても、どれだけの犠牲を払っても、どんな痛みに苛まれても。

 それでも、どうしても生きたい理由が…

 生きたいと思える理由が…

 彼女には……、君には、あるのか?』

突然…陽灯ではなく、自分に対して投げられた言葉に、アスターは眉を潜めた。


「……何で悪魔なんざにんなこと…」


またノキアクは間髪をいれずに口を開く。

『俺には、どうしても悪魔にならなければならない理由があった。

 全てを無くした俺にも、まだ…。

 まだ、愛すべきものがあったから…。

 だから俺は、如何なる代償を払っても、悪魔になって良かった。

 それが誰にも望まれなくても。

 悪魔になったことに対しては微塵の後悔もない。』

アスターはただ眉を潜めることしか出来なかった。

悪魔に…、成った?

どういう意味か皆目理解できない。

そもそも、本当なら悪魔に耳を貸す必要などない。

なのに、…なのに、どうしても引き寄せられる。


ノキアクの言葉には、過去がある。


『だがお前はどうだ。

 お前は、如何なる代償を払ってでも、

 強く、強く生きたいと思える理由があるのか?

 例え…お前以外の全てを、……愛本陽灯を犠牲にしたとしても。』


「は…………?」

ノキアクにジッ…と見つめられ、アスターは言葉を無くした。


悪魔の世迷い言だ。

さすが悪魔。

人を騙す嘘が上手い。


上手い……嘘


………………


「……それは」

どういう意味だ。と、言い終わる前にまたノキアクは口を開く。


『パンドラの箱と言うやつだ。』

ノキアクのその言葉に、アスターは今度こそ項垂れた。


何一つ解らない。

ノキアクの言うことの何一つだって解りはしない。


だが、それなのに、本当かもしれないと…アスターは思ってしまったのだ。

何故かどうしてか。

悪魔のその言葉から事実を見いだせてしまった。


「…………」

それでもアスターは、その目を見開いていた。


ゆっくりと首をもたげ、アスターは再び、ノキアクを見据える。

「ある。」

そう、確信を持って、アスターは言った。


今度はノキアクが、ただアスターの言葉を聞く番だった。

「他人がどうしたよ。愛本がどうした。

 オレはオレの為に生きてんだ!!!!

 愛本が何されようが、ジニアや、コスモスやタンポポ。

 オレの仲間の誰が襲われたって関係ねぇ!!!」

紫の庭の仲間たち。

アスターをアスターたらしめる全てが襲われようとも


そんなものは、何の関係もない。

何故なら、

「全部引っ括めてオレが守ってやる!!

 他人のせいにして自分を蹴るかよ!!!

 オレはオレの為に、全部守って、全部笑って生きてくんだ!!!!」

だから―――!


そう、続けてノキアクへ拳を握ったアスターは、ノキアクの顔を見て、その拳を緩めた。

『………そうか。

 それなら…、愛本陽灯にもそう言うものが有るのかもしれない。

 生まれるのかもしれない。

 …彼女には欠片も生まれなかった“それ”が』

そう儚げに笑った池榻ノキアクは、月の彼方へ消え去った。

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