『情報交換』
薄暗く、そしてどこまでも大きな空間。
四隅に行くにつれ、階段のように低くなっていく…まるでピラミッドのような部屋の、その中央には大きなテーブルとそれを囲む、数多の椅子があった。
そのテーブルの中央には小さな金の硬貨と、それを写し出す大きなモニターが。
「金のコイン…」
誰かが、そう呟いた。
このコインは愛本陽灯と澤田礼人を襲った悪魔が置いていったもの。
後日調査に言った隊員が回収したのだ。
今、ここにいるメンバー、そしてモニターを介して居るメンバーは全部で30人ほど。
これでも重役だけを緊急でかき集めたもので、かなり少ない。
重い空気のなか、始めに口を開いたのは、柊と枷を除いた、6つの重役家のひとつである弥扇家の当主、弥扇神夜だ。
「あら、純金ですね。
売ってお小遣いにでもしますか?」
神夜の言葉に、その空間はシーンと静まり返った。
本人は全く気にしていないようだが。
柊家の当主、柊志野は深く溜め息を吐いた。
「冗談はそのくらいに」
神夜はニコッと微笑むと、テーブルの中央にある硬貨を手に取った。
「これは…まあ、ペンタクルでしょうね。」
神夜は裏側も確認すると、それ以外は興味がないようにテーブルへ戻した。
「ペンタクル?」
志野の言葉に、神夜はまた笑みを浮かべて志野を見た。
「護符…
お守りのようなものです。」
今度は神夜の右斜め前に座る重役家のひとつ、力道家当主。
力道帆凪が口を開いた。
「お守り?
お金が…?」
「ちょっと違うわ。
確かに、金属は魔を避けやすいけど
自分を守護してくれるものまで避けてしまうから、硬貨は関係ない。
問題は純金であること。
何より、描かれている紋様」
神夜の右隣で、いつもは聞く耳を持たない6つの重役家のひとつ神氷家当主。
神氷懸憐も、興味を示したらしい。
「これに意味が?」
そして、今日この場に集まっている重役家はこの三つがすべてだ。
あと千里家当主、操辻咲空。
そして操辻家当主、操辻颯天が同じモニターから見ているが…、特に発言するつもりはないらしい。
他の人々も同じように、話は聞くが参加するつもりはない。
あまり関わりたくないのだろう。
音澤家当主、火砕愛雅に至ってはモニターを繋いですらいない。
これは単に忙しいからだろうが。
「うちのより一個少ないだけだよね」
帆凪の言う“うちの”とはアンゲルスのシンボルである、六芒星のことだ。
そして、この硬貨に描かれてる紋様は五芒星。
星の形をして居る。
「金は魔導においてもよく使われます。
金を産み出すための魔術とも言えなくもないですが…。
この紋様はペンタグラム。または桔梗紋。
この形は、護符の定番です。」
護符としてよく使われるものを、更に魔導的な金に当てた…ということだろう。
つまり、これに何か攻撃的効力があるわけではない。
「つまり…、本当にただのお守りってこと?
悪魔がお守りをおいていったの?」
悪魔に対して、あまり強い敵意を持たない帆凪でさえ、眉を潜めたのだ。
それが別のメンバーともなれば…。
言うまでもないだろう。
けれど、神夜は首を振った。
「まあ、本来ならそう言うことになりますが…
このペンタクルは、上下返すと邪を現す。
この世界における悪魔のこと。」
神夜の言葉に、懸憐がハッとした。
「…自らが現れたと言うことを宣言するため?
それほど高い知能を持っている?」
すると、神夜は満足気に笑い、モニターの硬貨を見上げた。
「そういうことでしょうね。
知能がある上、
余程、自分の力に自信があるようです。」
「……悪魔教の幹部。
というか教祖?」
更に続けた懸憐に、神夜は肩を竦めた。
「どちらにせよ、高い知能があることは間違いありません。
何か、目的があって動いているようですね」
志野は深く溜め息を吐いた。
「嫌な予感しかしませんね」
モニターの向こうにいるメンバーも、ほぼ全員同じことを思っただろう。
それだけ力も知能も持った悪魔が何かをしようとしている…。
すると、黙りを決め込むつもりだったであろうはずの、六大属性火の王。
火輪 煌が口を開いた。
「で…、何でこの悪魔は一般隊員を狙ったんだ?
確かにこの二名は幹部候補だが…。
んなことが悪魔に解るわけねぇし…、
そもそも幹部候補だからって、狙うか?ふつー
まあ、悪魔の時点で普通じゃねぇけどさ…
知能はあんだろ?」
と、煌が見つめたのは同じく属性王で、雷の王。
蕾凰 湊だ。
「いや、解らないよ?
今回の幹部候補はかなり優秀だ。
Sクラスと呼んでも、差し支えはないと思う。」
湊の言う通り、今回の幹部候補はこの10年のなかで史上類を見ないほど優秀だ。
このレベルが一人二人…というのは確かにあったが、一クラス全てが…というのは、恐らく今回が初めてだ。
「とはいえ、一般隊員相手に、
いつまでも警護を続けるわけにもいかないでしょう。」
神夜の冷静な言葉に、煌は深く眉を潜めた。
煌は手に持っていた資料を手に持ち、
「あ?一般隊員に死ねってんのか?
こいつは高校生だろ!
デカイほうでも大学生だ!
そんな奴等を、これ以上危険な目に遭わせられるかよ!」
そう資料を鳴らしながら、煌は怒鳴った。
神夜は煌の言葉に、心底驚いたという風に目を見開いた。
すると、それを見た湊がクスッと笑い
「そういうとこ変わりませんねぇ…。」
と、呟いてからニコッと笑った。
「それは神夜さんが一番思ってると思いますよ。
だって自分の隊の隊員ですから。
恐らく、お二人の方が不自由に思ってるんじゃないでしょうか?」
「え、そうなのか?」
言われた神夜はバツが悪そうに、フイッと顔を背けた。
それに代わり、声をあげたのは懸憐だ。
「そうね。
私の教え子でもあるわ。」
と、真顔で…しかし僅かな怒りを込めて、懸憐は言った。
『全力で護衛したい気持ちの方が大きいけれど
それは二人の為にならないわ。』
そう、モニターの向こうの咲空が口を開いた。
彼女の能力は千里眼。
更にそのなかには予知能力もある。
だから咲空は不用意に不安を煽らないために、あまり口は開かない。
そんな彼女が会議のなかで口を開いたのだ。
『護衛は仲間内同士だけで。
そして、それも本人がもういいと言ったら止めなければならないわ。』
そう瞳を閉じながら、言葉を慎重に選びながら咲空は言った。
神夜は俯きながら、深い溜め息を吐いた。
「………そう。
つまり、この段階では悪魔はまだ倒せない。
もしくは、倒してはいけないのね。」
本人…この場では陽灯と礼人がもういいと言うまで。
それは、周りからはもういいと判断ができない状況にあると言うこと。
悪魔が倒される前に、二人はもういいと言う。
それ以降、咲空は一言も発しなかった。
神夜はそれを肯定と取ったのだろう。
「…なら、私の全身全霊を持ってして、
あの子に私の力のすべてをあげるだけよ。」
神夜の漆黒の瞳は姿なき敵を睨み付け、自らの弟子を、守ろうとしていた。
「あれ?
また会ったね……、弟くん?」
何故嬉しそうな顔をする、元ストーカー1号弱虫泣き虫。
私は面倒くさいので、とりあえず曖昧に微笑もう…と思ったら
何を思ったか綾雅が私の前にたち、あまつさえ喚装しようとした…?!
「綾雅!」
さすがに喚装は止めれたけど…
ってか、永徳も見てないで止めてよ?!
「………何かあったんだね」
そりゃバレるよね。
だって私の弟くらいの年齢の子が、こんだけ殺意を振り撒いてるんだもん。
「つか、お前こそ誰?」
黙り決め込むつもりかと思ったら、永徳が口開いた。
「人に名前を聞くときは自分から名乗るべきだと思うけど…
まあ、絆創膏の恩もあるからね。」
む。
珍しく意見が合うね、ストーカー1号。略してゴウ。
って、絆創膏の恩って私じゃん。
私の顔を立ててくれたの?
良い奴じゃん、ゴウ。
すると、ゴウは永徳へ手を差し出して微笑んだ。
「僕は樋口 水速。
よろしくね」
と、差し出された永徳は、失礼にも差し出された手と、ゴウの顔を何度か見てから、手を握った。
「岩瀬永徳。
あんまりよろしくつもりはない…って、こいつが言ってる。」
こいつと指されたのは綾雅だ。
自分の意見を人に投げるとは!何と愚かな!
綾雅はそんな子じゃありません!
ストーカー気質な礼人ともちゃんと仲良くしてくれようとしたもの!
「自分の意見を人に向けるのはどうかと思うよ。
まあ、そんなことはどうでも良いんだけど。」
どうでもいい……まあ、それもそうか。
永徳が失礼なんて今更だもん。
「それより、君、本当に何があったの。」
あ、私のことでしたか。
何があったの…とゴウ…もとい樋口さんに聞かれましても。
何と言うか。
……めっちゃ答えづらい。
関係ないけど、私があだ名付けた途端にみんな名乗るよね。
今まであだ名を使えた事ってあっただろうか…。多分ないね。
このあだ名はまたお蔵入りか……。




