『歪んだ二人』
「で、オレって訳か。」
まあ、そうなるよね。
ストーカー候補一番の澤田礼人がストーカーの護衛とはまた片腹痛い。
別に良いけどね。
スナイパーだから、若干心許ないけど、みかんさんは看護部だし、他の人も新人だったり、任務中だったりと、結局礼人しかいなかった。
「けどまさか、お前がそう言うものがないと寝れないとはなぁ?
ぬいぐるみでも抱えてんのか?お??」
なに嬉しそうにニヤニヤしてんのよ…。
「そんなわけないでしょ。
金平糖よ。」
まあ、ぬいぐるみでも良いんだけどね。
金平糖であることに意味なんてない。
あれよ、プラシーボ効果ってやつ。ただの思い込み。
「こ…?
ああ、Confeitoか」
礼人の言葉に、私はスッ…と眉を潜め、足を止めた。
不思議そうに首をかしげる礼人に対し、私は怒りに震えている。
「もう!何でみんな“こんふぇいと”って言うかな!
金平糖だよ、こんぺいとう!」
いつからそんな西洋チックにお菓子になったのよ!
極東のスイーツでしょ!
あ、お菓子でしょ!
「いや、元は西の国の菓子だろ?
流石にどこの国かまでは知らないが。」
え…あ、そうなの?
でもまあ、元を正せば全部一緒でしょ!
甘ければそれでよし!
「コンビニとかに売ってんのか?」
「普通は売ってないと思うんだけどね。
駄菓子屋と一体化してるコンビニがあるんだよ」
駄菓子屋さんの方には一力堂っていう名前がついてるらしい。
長細い店に、コンビニの名前とで看板が二つ付いてる。
「へぇ…、薬局と一個になってるみたいなもんか」
………そんなのもあるんだ。
へぇ……。
まあ、小さいカフェと一緒になってるのとかはよくあるよね!
「あ、オレも買うものあるからちょっと待っててくれるか?」
右側の駄菓子屋さんの方で金平糖をたくさん買うと、礼人がコンビニの方で物色していた。
何か諸々買うものがあるらしい。
「わかったー」
「あ、待て、外には出るなよ。
悪いけどちゃんと待っててくれ。」
はいはい。と私は適当に頷いて、駄菓子屋の方に帰った。
あれ?
礼人にストーカーの話何てしたこと有ったっけ。
有るわけ無いよね。容疑者なんだから。
あ、犯人だから知ってるのか(笑)
…ん?
犯人なら何で心配するんだろ?
!!!!
金平糖詰め放題?!!
ハッ…、ダメダメ!
無駄遣いなど愚行も過ぎる!
「ぅぅううう……」
目移りが過ぎる…!
ここに居てはお財布が寒くなってしまう!
店前にいれば大丈夫でしょ。
店員さんからも見えるだろうし。
大丈夫。
ジゼル達によって換装させられてるから。
服はともかく、髪は長くなってるから、礼人も気づいてると思うけど。
え、私、礼人にまで甘やかされるの?
うわー、と思いながら私は店の外へ出た。
その瞬間に、冷たい空気が流れ込む。
温度差に思わずブルッと震える。
「はぁーーー」
深く息を吐いてみると、白い息が出てきた。
水蒸気が冷やされて人に見えるレベルまでの水の粒に変わるんだっけ。
「あ、暖まるほどにバラバラになるからか。」
冷えるのはその逆ってこと?
だから暖かい空気は軽くなって高い方に上がるんだもんね。
…で、あってるのかな。
『もっと上に行くと寒くなる』
あー、宇宙とかってむちゃくちゃ寒いんだよね?
「…そっかぁ、温もりって大切だね」
寒さと寒さの間の一欠片の温もり。
それがないと、この地球上の多くの生物は活動できない。
彼は何かを諦めたような声で
『今更だな』
と、何も映さぬ瞳で私だけを見つめていた。
私も相手を見つめ、スッ…と腕を振り上げた。
降ろす仮定で私のアニマだけが収束し…形のない刀を相手へ振りかざした。
『そうは思わないか?』
無表情のまま、相手はその手を構えもしない。
刀にはやがて形が出来たけど…、それでもなお!
火花を散らしながら見えない黒い壁で私の剣を防いだ。
まさかストーカーが……、ホントに悪魔だったなんて!!!
弱虫泣き虫のせいで、その推測は完全に消えてた!
そんなの解るはずもないじゃない!
ああ、もう!
礼人が紛らわしいせいだよ!!(?)
反撃もせず、ただジッと見つめてくる悪魔に、私は狼狽えた
「お…思いませんし
何の話ですか…、温もりが今更?」
すると、悪魔はか細い笑みを浮かべた。
何故?
疑問が頭を埋め尽くした。
何故、この悪魔は人形なの?
何故、こんな強い悪魔が私を追うの?
何故、貴方は私に笑うの?
私が光の能力者だから?
なら、どうして、そんなに悲しそうな顔で笑うの……?
『ああ、今更だ。
俺も彼女も、お前でさえ
2度と温もりを抱くことなんてない。』
そう、悪魔は何故か断言した。
…それ以前に彼女って……。
いや、それもそうだけど、悪魔は、私の事を知って…?
もちろん私に悪魔の知り合いなんて居ない。
『お前に大切なものなど出来ない。
作るべきじゃない。
何一つ、守れなどしないのだから。』
大切な人が出来ない?
何も守れない?
私は深く深く、眉を潜めた。
理解できない…、だけじゃない。
何もかもを知ったような口で私を語られることに、腹が立っているのだ。
私は剣を握りしめ、男を睨み付けた。
「確かに、私はすべてを護れるほどの力はないかもしれません。
…けれど!
私にだって大切な人はいますし
温もりだって…、確かに知っています!」
綾雅も神夜さんも帆凪様も、昌にぃも礼人も、ジゼルも、有栖さんも、隊の人も寮の人も、きっともう会わない孤児院のみんなだって!
私にとっては大切な人で、そのみんなに、温もりを教えてもらったんだ!
すると悪魔は愉快そうに…それなのに、今にも泣き出しそうな声で笑った。
『人が、嫌いな癖に?』
「愛本!!!」
響いた声に、私は咄嗟に後ろへ下がった。
瞬間、悪魔へ弾丸が注がれる。
私はさらに間髪入れず、ヒビの入った黒い壁へ剣を振り下ろす。
「ダメだ!!!
ソイツは得体の知れない!!」
…!
礼人の叫びに、何故かアスターの言葉を思い出した。
この人が“得体の知れない強いやつ”
黒い壁は崩れた…が剣は悪魔に捕まれ、逆に引き寄せられた。
『邪魔だな』
剣を手放したときには既に手遅れ。
両腕を片手で捕まれてしまっていた。
「っ…」
この悪魔、怪力…。痛くもないのに、微動だに出来ない!
せめて剣を持っていれば…いや!違う!
私にだって、私にだって、礼人を守れる!
私は力一杯、噛み千切った
「いっ…!!」
自分の…舌を!
換装が解けるとき、例えば刀が刺さっていたりすると、生身に戻ったときの位置が少しずれるのだ。
それを利用して…!
って、痛覚は軽減されてるといえ…ちょっと痛いな!
「よし!」
光から解放された私は成功を噛み締めた。
両腕は自由になっている。
もうしばらくは換装は使えない…、けど、必要ない!
あとは礼人と逃げるのみだ。
全速力で逃げるため、私は礼人に視線を向けた。
『この意味が解るか?』
彼はジッ…と、冷たく、私を見つめていた。
「え………」
私が生身へ戻る、そのたった少しの誤差とも呼べる時間で…彼は、礼人の頭を掴み、捕らえていた。
苦しげな声が、彼の手の間から聞こえる。
「わ…か、んねぇよ。
なぁ……?愛本。」
そう広角を上げる礼人の瞳は、彼の手に阻まれて見えない。
気付けば、辺りは薄暗くなっていた。
少し前の私なら…。
神夜さんに色々教えてもらう前の私なら。
そんなものには何の注意も向けなかったかもしれない。
けれど…、グリモアールを読んでしまった今なら、彼の真意が解る。
「結界…ですわね。」
助けは来ないのだと。




