『想い人』
『阿形 遼二』
形式的な無機質な声で、誰かの名前が呼ばれていった。
新入式とは違って、編入式は厳かに行われている。
何処かのお偉いさんやマスコミもいない。
身内だけのものだ。
「ホントの実力者は世に見せないって腹。
まあ、今回は成功してないみたいだけど」
壇上に向かってザマァと嘲笑ってから、私をみて微笑んだ。
……?
あ、そうだね。
私の世代の人たちは普通に新入式に出てた。
言うなれば、私以外のみんなはそれぞれの分野でのS級のようなものらしい。
頭よかったり、実力があったり。
一緒に過ごしてた時は気づかなかったけど、
「皆さん凄かったですわ。
それぞれ何かに秀でていて…」
あとで聞いたことだけど、エナさんのような特技持ちは他にも数人居たらしい。
私くらいだ。
特に、なにも秀でた能力がないのは。
あのメンバーのなかで、何故私が首席になれたのか。
その理由は、薄々解っている。
それは、みんなが思いっきり手を抜いたからでも。
帆凪様の慈悲があったわけでも。
私に光の因子があるからでもない。
ただ、“相手の求める答えを出す”
その事が昔から簡単に出来るから、良い点が取れた。
それだけだ。
相手がいる前提のこと。
戦場では何の役にも立たない。
だから私は、首席だからと言って、あのクラスの誰かより優れている…何て事は絶対にないのだ。
「貴方は、きっといい上司になる。
トップにはなって欲しくないが…
貴方なら、多分、何処までも行ける」
ジゼルさんの呟くような言葉に、私は首をかしげた。
私が上司…?
確かに研修生を卒業しているんだから幹部候補ではあるけど…。
正直、とても想像つかない。
ましてや良い上司だなんて……。
『美須々 秋一』
また一人、子供の名前が呼ばれた。
今呼ばれた美須々さん…という見知らぬ少年は、綾雅と殆ど歳も変わらない。
「お前の部下になら、なってやっても良いよ。
陽灯は、万人にとって優しいから。」
ジゼルさんは、何故だか悲しそうに言った。
多分、心配されているんだろうな…っていうのは解った。
でもそれは私が失敗しそうとか、そういう心配ではなくて…。
その先は解らなかった。
解ろうと思わなかったのかもしれない。
「先なんて、誰にも解りませんわ」
今は、目の前にいる弟子のことだけで手を一杯にしていたいから。
『火砕 綾雅』
私の、私だけの弟子。
私には彼を守る責任がある。
体も、心も。
そして人として正しい行動を見せなきゃいけない。
彼が彼で居る以上、この二つは共存できるものじゃない。
綾雅を守ろうと必死になれば、なるほどに…、それは人として正しい行動ではなくなる。
それは…私のもっとも忌むべき行動でもある。
……。
私はスッ…と固く閉じられた綾雅を見つめた。
此方に気がついた綾雅は、ふわりと表情を和らげ、此方に微笑み掛けた。
「私は、良い上司にはなれないでしょう。」
綾雅に笑みを返しながら、冷たく溢したその言葉はジゼルに届いた。
だが、その真意まで届くことは、きっとなかった。
一夜明けた次の日、私はいつも通り神夜さんの家へ勉強しに行くことになっていた…が、生憎寮の人は皆出掛けている。
隊長方から一人になっちゃいけない的なこと言われてたからなぁ…。
とりあえず時間に余裕はあるので、休憩室にたむろして、誰か来ないか待つことにした。
「やぁ!
陽灯ちゃん、誰か待っているのかい!」
あまりにハキハキした声に、私は振り返った。
本当に、腹式呼吸を常に使っているのかとツッコミたくなるほどだ。
礼人と同じ班で、私たちと同じ分隊の
小河 大陽さんだ。
それと……見知らぬ人が…二人。
一人は小河さんと同い年くらいな男の人、もう一人は…私と同い年くらいの男の子。
「ああ、初めましてかな?
俺の友人で、神夜小隊、雷乃分隊、ねねな班の
笠原 心助。
同じく内山 D アルバートくん。
そう言えば、アルバートくんと陽灯ちゃんって同い年だね!」
内山さんは私を見て、ハッとしたような顔をしてから、少し深くお辞儀をした。
礼儀正しい人みたい。
ジゼルが言ってた、他にもいる同級生って内山さんのことかな。
「愛本陽灯です。」
というか、神夜小隊のなかには分隊が二つあったんだ。
そういえば、そんなこと言ってたかな…。
全然一緒にならないから気づかなかった。
「すみません。
小河さん、笠原さん。僕はこれで…」
申し訳なさそうに内山さんが言うと、小河さんにパッと笑みを浮かべ
「ああ。
用事があるのかい?
引き留めてごめんよ!」
そう見送ると、内山さんは私にもまた深くお辞儀をしながら去っていった。
そして内山さんが居なくなると…
「チッ」
…………………はい?!!
自己紹介しただけなのに、何故か舌打ちされてしまった。
「てめぇ、勝手に名前教えてんじゃねぇよ
おめぇも名乗るな。」
「えぇ…」
理不尽な人だなぁー…
「良いじゃないか。
同じ小隊だろ?
それに同じ組織の一員だ!」
小河さんは変わらずニコニコと笑って、笠原さんの肩をバシバシ叩いた。
「お前のそういうとこホント嫌い…」
「ハハッ!
好きの間違いだろう?」
小河さんも堂々としてるなぁ…。
笠原さん一人ならただの不良なのに、横に小河さんがいるだけでツンデレに見える。
小河さんマジック。
「あ!
もしかして、これから出掛けるのかい?
俺たちも出掛けるところだったんだ。
一緒に行こう!」
そう笑ってくれた小河さんに、私は甘えてしまうことにした。
笠原さんも若干不満そうな顔をしたけど、何も言わないでくれた。
二人とも好い人なんだなぁ、と安心した。
妹が可愛いという話を延々と…何故か双方から聞かされて、ゲッソリしたのはきっと気のせいだ。
大きな民家に消えていく小さな背中を見つめながら、心助は口を開いた。
「出掛ける予定なんてないんだが。」
「でも言わないでくれたろう?」
また眩しく笑う大陽に、心助は目をそらした。
「心結だったらと、ちょっと思ってやっただけだ。」
「そうだね。
俺も、もし陽愛だったら……赦せないな。」
幼い少女に襲いかかろうとする黒い影に、兄二人は殺意を露にしていた。
小河さんと、笠原さんに送ってもらい、私は神夜さんの家についていた。
「陽灯、修行は今日で最後で良いわ」
神夜さんの冷静な言葉。
いつだって私の師匠は突拍子もないことを言う。
それに私は毎回毎回驚かされるばかり。
だが、今回は特別に…あんまりにも驚いて口をあんぐり開けてしまった。
すると神夜さんはクスッと笑って首を振った。
「ああ、違うわよ?
もう何も教えない。というわけではないわ。
ただ、修行は終わり」
カリキュラムは修了した…ってことかな…?
良かった。
綾雅を弟子にしてアンゲルスに入れてしまったから、私は破門かと思った。
神夜さんなら良いそうで怖い。
「じゃあ…、最後の修行は…?」
神夜さんは微笑むと、背後にあったフロシキを持ってきた。
…何か多いし重そう。
「寮でも本棚くらいはあるでしょう?
時間制限はないから毎日少しずつ習得しなさい。
解らないことがあったら聞きに来て」
フロシキを開けて、中を見てみるとそこには十数冊ほどの…題名のない厚い本があった。
チラッと神夜さんを見ると、微笑んで頷いてくれた。
それを見て一冊目の本を手にとって読んでみると…
「これ…!」




