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アルカナの戦慄  作者: 三古谷
00章 「望月の訣別」
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「笑わせるな」

ぎょっとしたと言うのは、こう言うときのことを言うんだろう。

何とも形容しがたい、ぎょっとした気持ち。


「遅かったな。」

薄暗い玄関で仁王立ちする親父を見た俺の気持ち。

いくら親父っつっても若干の恐怖を抱くぞ。

そんなことをしてる親父の神経も疑う。


「…ちゃんと連絡しただろ」

ってか、いつもはこのくらいの時間に帰ってきても何にも言わねぇし。


俺は親父に背を向けて靴を脱いだ。

「早く帰ってこいとも言わなかったか。」

軽く屈んで靴を揃え、俺は親父を睨み付けた。

「縛られたくないのは俺も同じだ。」

案の定、痛いところを突かれたようで、親父はたじろいだ。


俺はそれを見て親父をすり抜けた

「これからは神夜おばちゃん家によるから。」


「綾雅!」

俺は縛り付けられて、安全な家のなかに閉じ込められなんて絶対に嫌だ。

そこでのうのうと暮らして大切なものを失うくらいなら…。
























ガッ…という靴とガードレールが擦れる音ともに、ただでさえ細い歩道が、男の足で閉ざされた。

「困るんだよねぇ…

 勝手なことされると」

見おろしてくる男を、俺は容赦なく睨み付ける。


一瞬敵かと思ったが、男はこの前、俺を不憫な奴と言った男だった。

アンゲルスのやつだな。

それでも睨むことに変わりはないが…、傷つけてはいけないことは解った。

「何の話だ」

特段急いでもいないので、俺はガードレールに少しも凭れ、話を聞く体制になった。

物理的にも精神的にも座りにくいガードレール側に凭れたのは、なるべく男と離れたかったから。

この辺は車が多くはない。少しの間なら構わないだろう。


「昨日。

 俺達を故意に巻いたでしょ。

 困るんだよねぇ。

 お前、守られてる立場なんだから考えなよ」


チッ…


俺は相手に聞こえるように舌打ちした。


事実と異なることを、さも事実のように語られる。

非常に不愉快だ。

「この俺が?

 誰に守られてるって?」

アンゲルスに?

愛本さんの居る隊に?

「まさかとは思うが…、お前に?」


ジッと見つめると、男は少し眉を潜ませた。

「そうでしょ?

 現にあのときだって」

男の言葉に、俺は深く溜め息をついた。


「てっきり気付いてるもんだと思ったが…

 別に俺は、お前達に助けられちゃ居ない。

 相手を殺すだけで良いなら、あの時の俺にだってできたさ。」

俺と男の行動に大差はない。

違いは…そうだな。

アンゲルスは法に許可されていて、俺はされていないだけ。


結果的には同じ。

相手を力でねじ伏せることによって降伏させたのだ。

「…まさか。

 一般人にそんな事ができるはずが」

ああ。

こいつらは正統者レジティーマのことは知らないんだったか。

とは言え、母さんと父さんはバレてるんだから察しは付くだろうに。

能力事態が遺伝じゃないとしても、そういう環境にいるんだ。


あぁ…、口で言うのも面倒だな。

「―水よ―」

俺が、たった一言唱えただけで、世界の大気はすぐに応える。

人には見えない揺らめく大気は水となり俺の元に、俺の役に立とうとする。


―何故なら、それ相応の命が、心が、魂が俺にあるから。


「っ?!」

少し余裕を与えてやったことで、男はギリギリで反応し、襲いかかる水流を避けた…が、水は俺の元だけで生成される訳じゃない。


当然ながら男の背後にも既に水流はある…。

この時点で既にチェックメイトだ。


「それじゃ、あまりに詰まらないか…。

 ―水よ、懐かしき龍となれ―」

これは倖架おば…倖架姉ちゃんの言葉だが、この力にそこまでの価値はない。

言うなればミニミニだな。


「はっ

 固いってことは斬れるってことだろ…?!!」

嘲笑うようにしながら水龍に斬りかかった男は、すぐに目を見開いた。


確かに、形を…固さを持つということは、それだけ斬れるということだ。


「とはいえ、水の性質は変わらない。」

砕かれた水は消え去るわけもなく。

空中で水溜まりのように停止した。


また龍へ変えられる前に…と、尚も斬り続ける男に、俺は呆れ果てて溜め息を吐いた。

トウシロウも良いところだ。


斬れないと解ったのなら撤退するべき…、なぜなら

「敵は前だけでも、そして後ろだけでもない」


「あ"…?!」

その隙を突かれて、首を獲られるからだ。


「―水籠―」

前後左右に水。

およそプールひとつ分の量に男は気づかず、ついに水は男の上下に到達し…


男は今、籠の中。

こうなってしまえば…あとはジリジリと籠を小さくすれば、圧死か溺死。

全くもって詰まらないな。

こんな奴等に、この世界は守られているのか?

まあ…、そんなことを言うのは可哀想と言うものか。

俺達はどうやら桁違いに強いらしいからな。


さて、今回は敵でも殺すことはできない。するつもりもない。

俺の力を示しただけ…すぐに解放しよう

「…?!!」

水を解除しようとした俺は、思わず目を見開いた。

男にではなない。


…ああ、そうか。

今日はてっきり居ないのだと思ってしまった。


あの時、男を吹っ飛ばしていた女が…俺の水の籠をチリジリに切り裂いたのだ。

男の攻撃とは室も量もまるで違う…。


水は斬っても意味がない。

俺はまるでそんな風に言ったが、あれは男の攻撃では…という意味。


一般的な水の能力レジでは一度攻撃すれば、ただの水に還る。

それ何故か?

水のなかに潜む、能力者カルディアのマターが霧散するからだ。


俺の場合、水の中のマターの濃度が高いから、数回斬ったくらいでは消えない。

「…だか、消えた。」

俺はフッと笑みを浮かべ、女性を見据えた。

そうか。

世界はこいつらが護っているのか。


俺は男の服にしみた水を回収して、また大気に返した。

結果的に男の水は乾いたが、男のためにやったのではない。

世界への感謝と礼儀だ。

使ったのだから、綺麗にして返さないとな。


さて…

「流石だな。

 貴方が分隊長か?」


「ええ、そうです。

 我が隊員の非礼…どうかお許しを」

俺に向かって手に胸を当て、頭を下げた女性に、俺は眉を潜めた。

まあ、慣れっこだが。

「そういうのは良い。

 これでお前達は俺達に関われなくなるだろう。」

むしろ、俺にとっては好都合。


…もしかしたら殺されると思ったのか?

そんな無駄なことはしない。

最初に言わなかったか?

…ああ、口には出してなかったか。


俺は軽く溜め息をついて

「あまり畏まらないでくれ。

 そう言うのは好きじゃない。」

そう口癖のように言った。


すると女性はスッ笑みを浮かべ、コロッと態度を変えた。

「いつ殺されてしまうかとヒヤヒヤしたわ。」


「本当に殺すつもりなら初手でやっている

 そこまで性格は悪くない。」

そこまで恨んでいない相手を、じわじわ殺すような趣味はない。


すると、女性は男の手を引っ張り、立ち上がらせた。

女性になにか言われ、男は溜め息をついた。

斉賀さいが 遊戯ゆうぎでーす。

 さーせんした。

 能力者カルディアってまじヤバイんだな!」

話している最中に、遊戯という男はすぐに元気になった。

コイツ、懲りないな。

まあ…トラウマとかにならなくてラッキーだったな。


「私は藤木分隊隊長、藤木ななみ。

 今回の件は報告しておきますね」

まだ敬語が混在するのは引っ掛かったが、まあ別に良い。


俺達は夜の一族。

恐らく、世界最強であろう一族。


世界を滅ぼすことはあろうと、世界の一部に滅ぼされることはない。

もしもそんなことが有るとすれば、それは、同じように夜空に輝く恒星のような人物。

華綾がそんなやつに襲われたのなら…俺はそれ以上に強くならねばならない。

なって、華綾を向かいに行く。


…その為にはまず、愛本さんの弟子にしてもらうんだ。

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