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アルカナの戦慄  作者: 三古谷
00章 「望月の訣別」
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「ソロモンの鍵」

「この緊急時に糞遅かったな。

 アスター、この野郎。

 今、何時だと思ってる?!」

グルンと百日草ジニアは回転椅子に座ったまま、勢いよく蝦夷菊アスターへ振り返った。


思いっきり眉間を寄せられたアスターは、負けじとジニアを睨み返した。

「この緊急時だから遅かったんだろうが。

 ジニア糞野郎。

 只でさえ忙しいっつぅのにあっち行ったりこっち行ったり

 ほんと、カーヤ?って奴も時期を考えろよ!!!」

腹いせにすぐ側にある機器を殴ろうとして、寸前でアスターは止めた。


ジニアはそれをバッチリ見ていながら、スルーして言葉を続けた。

「時期が違ったってどーせ忙しい!

 師走じゃないだけありがたいと思え!」

師走。

つまりは12月のことだが今はまだ秋だ。

師走の語源は大雑把に言えば忙しいことらしいが。


「はぁぁあ??

 てめ、どっちの味方だ!」

アスターの言葉に、ジニアは只でさえ深かった眉間のシワを更に深くした。

「お前こそ火砕家を擁護しなきゃならん立場だろ!」


遂には立ち上がったジニアに、アスターは一歩踏み出した。

「立場なんか知らねぇよ!

 そもそも…」


上から、手が大きく鳴る音が響いた。

「はいはいはいはい。

 いい加減になさいよ、二人とも。

 喧嘩何てらしくない…」

大人げない。とボソッと呟きながら螺旋階段から降りてきたのは秋桜コスモスだ。


その少ない言葉だけで、ジニアとアスターはケロッと戦うのを止めた。

「来るの遅ぇよ。

 オレらの友情に何となく亀裂が入るだろ?」

アスターはそう言って肩を竦めた。


意味不明な言動に、コスモスは目を細め…深く溜め息を吐いた。

「あんたらに壊れる友情があったなんて初耳ね」

山門芝地に付き合わされた…と、呆れ返ったコスモスに、アスターは何度も瞬きをして首をかしげた。


黙るアスターをコスモスとジニアが心配になってきた頃、アスターは突然パッと笑顔になって

「良いこと言うなお前!」

と、満面の笑みで言った。


いつも以上に訳の解らない言動に、コスモスは首をかしげた。

「…何処が?」


「そんなやわな友情じゃねぇってことだろ?」

ニカッと笑ったアスターに、コスモスとジニアが首をかしげた。


そしてコスモスはクスッと笑ってから、また呆れた顔をした。

「好きに解釈してなさいよ」


ジニアはこの上のない心地好さを感じ、穏やかな笑みを浮かべた。

「はいはい。

 親友様の為にもっかい説明してやるよ。」

そう、肩を竦めてコスモス達に話したことを、もう一度話始めた。




「はぁーん。

 つまり、なーんも解んねぇんだな。」

ジニアに説明を受けたアスターは、至極阿呆そうな顔で明後日の方を見つめた。

「そうなるな。」

解るのは、華綾がこの世界にいない。

ただそれだけ。


アスターは少し間を開けて、ゆっくり視線を落とした。

皇子おうじも黙ってないよな」


「…そうでしょうね。

 彼が知っているはずないから。」

コスモス達が言う皇子。

それは今現在としてコスモス達の居る組織…紫の庭が守るべき存在の一人。

元々紫の庭とは誰かを護るための組織の、頭脳派だけが集まった限定的な組織。

組織の中の組織。


アスターは張り詰めていた息をフッ…と吐いた。

「…はぁぁ

 嫌だなぁ。全面戦争か?」

アスターの想定では、もうどう足掻いてもその道しかなかった。

どこで分岐を間違えたのか…。

それとも初めから、これしかなかったのか…。


「十中八九、華綾様を連れ去ったのはフルール・ド・リスだろう。」

ジニアの言葉に、アスターとコスモスは頷いた。

この件に関しては、既に帰った他のメンバーも同じ結論に至っている。

彼女を奪ったのは、ほぼ間違いなく魔界の百合だ。

リリィーカリスの大本なのか、それともリリィーカリスが勝手に名前を冠しただけなのかは知らないが。

大差ない。

違いは、そのスケールがあまりに違うだけだ。


あれは、領地を持たぬだけでほぼ国だろう。

…いや、既に魔界のどこかで領地を持っている可能性さえある。


そんな不穏な組織が、最近此方の世界をうろついていたのだ。

目的は解らなかったが…、恐らくこれだったのだろう。

「で、綾雅サマ、並びに咲耶サマも輝泰サマも居残り…」

皇子と呼ぶその人の他に…いや、紫の庭にとってはそれ以上に、四兄弟は守らねばならぬ存在だった。

飽くまで推測にすぎないが…、恐らく優先順位はそちらの方が高い。

何よりも高いのは火砕愛雅だが…。


「華綾様を助けたいのは山々だけど…

 あの組織は単純にいけ好かないわ。」

コスモスの瞳は珍しく、明確な怒りが宿っていた。

端的に言って、フルール・ド・リスという組織は外道だ。

彼らがやる商売には見境がなく、その商品には当然のように

どこかの組織の情報や

個人の情報

そして、人そのものがある。


いわば奴隷売買だが…、それは明確な書類によって行われ、そこに嘘偽りはない。

奴隷狩りを行ったわけでも、わざと追い込んだわけでもなく。

それは売られて行くその人にとって、人生をかけた商売でもあった。

何らかの理由で、決して返せない金や恩に報いるための。


だが、それでも

「ああ。

 俺たちの剣には見合わない。」

そう、ジニアはアスターに微笑んだ。

如何なる理由があろうとも紫の庭…いいや、その更に上の上。

全ての主足るその人は、決してそれを望まない。


アスターはその笑みの意味がわからず曖昧に笑い

「んじゃ、華綾サマの手助けは出来ない。

 そーなると?

 華綾サマを引き抜きたいが…本人が望んでないなら、それも不味い。」

紫の庭にとって、守らねばならないのは肉体だけではなく、心もなのだ。

嫌がる相手をどうこうすることは出来ない。


すると、アスターはふかーい息を吐いて

「こりゃもう、オレ達の一方的な盟約も果たせそうにないぜ?

 さっさと鍵を見つけ…………」

言い掛けて、突然アスターはがくんと力無く項垂れた。


「ど…、どうしたアスター?!

 発作か何かか!?」

アスターの持病など、そんなものジニアは一度も聞いたことはない。

だが、アスターならば十分可能性がある…と、彼の肩を掴んで支えた。


アスターはそれに軽く首を振って、大丈夫だと制した。

「違う。問題ない。

 …ただ」


「ただ?

 本当に大丈夫?」

心配そうにこちらを見るコスモスに、アスターはいつも通りにニカッと笑う

「大丈夫だって!

 ただ、物凄く嫌な予感がした…だけだ……。」

アスターの言葉に、二人は眉を潜めた


「いや、外れてくれれば良い。

 とにかく、オレ達はオレ達の目的を果たす。

 その為に一刻も早く、“鍵”を見つけ出すぞ。」

世界の何処にあるのか全く解らないその鍵を…

“ある”と言うことが解っている限り、彼らはソロモンの鍵を探し続ける。


ソロモンの鍵。

それは比喩にすぎないが、遠からず。

世界の全ての叡智を手に入れるため。

彼らの、紫の庭の目的は、ただそれだった。

知りたいだけ。

知識を欲しているだけ。

その先に、何を望んでいるわけでもなく。

ただ、全てを知りたいのだ。

自分が、人々が、生物が、この世が生まれた意味を。訳を。…役目を。
















時は遡る


「そこ…退いてくれない?

 僕、今頗る機嫌が悪いんだ…」

僕らの行く手を阻もうとするdirty(汚物)

ああ、ヘドが出る。

今なら悪魔だろうが、天使だろうが、神だろうが。

今、目の前に居る人間だろうが、安易に殺せてしまいそう。


「咲耶様。輝耶様。

 どうか御同行願います。」

こんな子供に対してでさえ明らかな冷や汗をかいているのに、それでもなお僕らに立ち向かうのは…。


「咲耶、下がってて

 僕がる」

死ぬ覚悟があっての事なんだよね?

それ以外は認めない。


敵がリリィーカリスだか何だか知らないけど。

咲耶の泣き顔を見て良いのは、僕と同じくらいか、僕以上に強いやつだけだ。

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