表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アルカナの戦慄  作者: 三古谷
00章 「望月の訣別」
PR
44/227

「私達の日常」

ゴォォォォォン……………………




ゴォォォォォン……………………




ある筈もない鐘が、等しく、消魂しく、鳴り渡った。

その華墨が何処まで届いたのかは解らない。

けれど、確かに…“誰か”へは届けられただろう。

それとも、届いてしまった…のか。

それは今に生きる誰に下せることでもない。


それでも…








ノイズが五月蝿い。

『別に華綾さんが悪い訳じゃないのよ?

 ただ…』

大人の女性が、私に合わせて身を屈めながら困り顔で言った。


その後ろから、今の私よりも小さい女の子が現れた。

『もっと愛想良く出来ないの?

 お母さんとお父さん見習ってさぁ…』


その二人を消し飛ばすように、私と同じ背丈の女の子が怒鳴った。

『私達のこと見下してんでしょ!

 ハッキリそう言いなさいよ!!』


誰でもない影が、蜃気楼のようにゆれた。

『華綾さんって…、綾雅くんと似てないよね

 それに愛雅さんと泰芽さんとも…』

ああ、ノイズが…ノイズが五月蝿い。

私は…私は闇だ、暗闇だ。

私以外の家族はみんな光なのに。

私だけが、あの家族でたった一人の暗闇。


それが現す答えは…。

愛しい姉弟のなか、私だけがその真実を知ってる。

理由を知ってる。

けど…、だからこそとも言える。


…私は。


「……や、か…や…」

まだ高い少年の声が、誰かを泡沫の夢から引き上げようとしていた。

誰かはそれを拒否するように眉を寄せ、体を丸めた。

ただ、この泡沫に浸っていたくて


「あ…、ば…!…めろ」

少年の焦ったような声に誰かは水面へ赤い瞳を向けた。

そして次の瞬間、若干の恐怖に顔を歪め…慌てて水面へ手を伸ばす。


「おっきろ~!!!!」

「きろー…」

覚醒した瞳に映った二つの人影に、彼女は慌てて身を捩った。


それとほぼ同時にボフンッとベッドが大きく揺れた。


寸前のところで回避出来たことで、少女と少年は安堵し…

「流石に死ねる。」

と眠っていた自分へダイブしようとしていた二人へ、背を向けながら呟き。

「自分の大きさを自覚しろ。」

そう続けた。


可愛らしい容姿に反し、少し低い声で話していたのは

火砕がさい 華綾かあや

この火砕家の長女だ。


「次からは気を付けるんだぞ。」

少年は少しだけ怖い顔で二人を注意したが、声音は甘い。

華綾と同じ…黒い髪と、華綾とは異なる青い瞳を持つ少年は

火砕がさい 綾雅りょうが

長男にして華綾の双子の弟だ。


「だって…

 お姉ちゃんが起きないから…」

兄の注意に、不満そうに眉を曲げたのは

火砕がさい 咲耶しょうか

愛雅と同じ金の髪と黒い瞳の彼女。

次女にして華綾と綾雅の妹だ。


「そのまま永遠に起きなくなるかもね。」

まだ舌っ足らずの口で平然と怖いことを言うのは

火砕がさい 輝泰あきや

咲耶と同じ金の髪と、綾雅よりも深い青の瞳を持つ彼。

次男にして、この家の末っ子だ。


「や…、やだぁぁあっ」

自分よりも五歳も下の弟の言葉に、咲耶は泣き出してしまった。


それに綾雅は少し困った顔をした。

咲耶が泣くと、無条件に輝泰も泣き出してしまうからだ。

そうすると咲耶の泣きもヒートアップし…無限の悪循環。


案の定、輝泰の瞳がうるうるしてきていた…。


綾雅は笑みを浮かべると、二人が本気で泣き出してしまう前に、咲耶を抱きあげた。

「じゃあ、もうしない。って約束しような?」

この会話も、既に何度目か解らないが。

それは口には出さず、綾雅は笑みを浮かべながら咲耶を見つめた。


すると、咲耶は涙を堪えながら何度も頷いた。


綾雅がチラリと後ろを振り替えると、涼しげな顔で華綾が輝泰を抱き上げていた。

何故か二人は、目と目で会話をしているらしい。

内容は殆ど綾雅と咲耶が可愛い件についてだが…それを本人達が知ることは永遠にないだろう。


「ママは?」

目と目の会話が終わったのか、華綾は綾雅を見て聞いた。


聞かれた綾雅は質問には答えずに微妙に目を細めた。

「お前澄ました顔してマザコンだよな」


「綾ちゃんはクールな顔してブラシスコン。」

綾雅の言葉だけで自分達の母親である

火砕がさい 愛雅えみや

愛雅が既に居ないのだと、華綾は察したようだ。

僅かに残念そうな…それ以上に哀しげな顔に綾雅は目を細めた…が

綾雅はその後に言われた華綾の言葉が若干気にさわった。


ブラシスコンというのは全く否定するつもりはない。

事実だ。

綾雅は華綾も咲耶も輝泰も愛している、大事だ、とドヤ顔で言う自信がある。

その辺は両親譲りだと思う。

けれどその前だ。

自分のどこをクール(冷めている)と思っているのだ…と。

もしや愛が伝わっていないのか…?

と懸念したのだ。


全くもって的はずれな懸念だが。

「じゃあ今日の朝御飯作ったの誰?」


華綾の言葉に綾雅はニカッと笑い、

「もちろん俺!」

と、自信満々に言った。


けれどその言葉に綾雅以外の全員が表情を固くした。

…が、今が朝なのを思い出して頬を緩めた。


「よし食べよう!!!!」

咲耶が嬉しそうに拳を突き上げたのを合図に、四人姉弟は華綾の部屋を出た。






「…ん、おはよう。

 華綾、綾雅、咲耶、輝泰」

ソファーに座りながら眼鏡をかけ、何かの記事を見ていたのは父親である

火砕がさい 泰芽たいが

泰芽は四人が席に座るのを確認すると、自分は長方形の机の幅が小さい方に座った。

その向かいは、本来であれば母親が座るところだ。


「はい、手を合わせて―」

「ちょっと待った!」

綾雅が全員へ手を合わせてください…と言うのを止めたのは泰芽だ。


父の奇行はいつものことだが、今日は理由があるようなので四人は手を止めた。

どうやら父は時間を気にしているようだが…


キョトンとしている姉弟のなかで、華綾と綾雅はなるほど、と心の中で呟いた。


「やっふぉい

 ただいまー!!!!」

玄関からよく通る声が響いてきた。

姿を見なくとも、その声だけで全員は誰か解っていた。


「「ママ!」」

咲耶と輝泰が声を重ねると、机に何度か足をぶつけながら、玄関の方へ駆けていった。


ゆっくりと楽しげに響く足音と声に耳を傾けながら、三人は相手が現れるのを待って

「「「おかえり」」」

「「おかえり!」」


「ただいま!」

代えがたい幸せを抱き締めた。






「うぇっ…、あ、朝御飯ね…大丈夫ね…」

綾雅が朝御飯を作ったと聞いて、愛雅ははは若干顔をこわばらせた。


「何なんだよ皆して。

 俺の手料理は栄養満点だ。

 父さんだって言ってたぞ!」

綾雅の言葉に、泰芽ちちは全肯定の意を深い頷きに込めた。


愛雅ははが着替え終わるのを待って、家族みんなでテーブルを囲んでいた。

正しい理由は聞いていなかったが、予め泰芽ちちから聞いていたため朝食は五人分ある。


「う…、うーん……」

と、愛雅ははは苦笑いを浮かべた。


「端的に言って、綾雅とパパの食べ物は

 朝食とおやつとお茶以外は全て不味い。」

華綾の竹を割ったような言葉…、というか素直すぎる事実に、下の二人も小さく…けれどしっかりと頷いた。


「おやつは美味しいんだけどね…」

「夜は姉さん(華綾)が作ってくれるから良いけど」


愛してやまない我が子と、姉弟の容赦ない言葉に、男二人は微妙に落ち込んだ。

「でも栄養は大事だろ?!

 な!父さん!」


「そ、そうだよな!

 そうだとも、我が子よ!!!」

二人の謎の団結力が高まってしまったことで、愛雅ははは苦笑いを消して口を開いた


「皆さん。

 手を合わせてください。」


「「「「「合わせました」」」」」


「頂きます」


「「「「「いただきます」」」」」

華綾は謎の真っ黒の血のウインナーを見つめ、朝食も不味かったかもしれないと思い直した。








朝食を終え、一段落した火砕一家はせっかく家族全員が集まったのだから、何処かへ出掛けようか?という話になったが。

「反対」

「咲耶もはんたーい」

「咲耶が反対なら僕も反対」

「皆が反対なら俺も反対。」

と、姉弟全員がインドア気まぐれ&ブラシスコンスキルを発動してしまったので、やはり家で寛ぐことになった。

やはりというのは、咲耶が行きたいと言わない限りは必ずこうなるからだ。

かくいう愛雅ははもアウトドア派というわけでもない。

その上、愛雅は言わずもがな、泰芽も有名人だ。

正体がバレれば騒ぎになること必死だろう。


そして、この一家でそういう騒ぎが本当に平気なのは咲耶と泰芽ちちだけだ。


あとは全員平気な振りは出来ても、ストレスが溜まる。


故に、愛雅ははがまた出てしまうその日まで、火砕家は家で寛ぐ。


火砕家の人々は、みんなで何気なく過ごすこの時間が、何よりも大切で

何よりも好きだった。

温かく、緩やかに、確かに進んでいく時間が。


長い秒針が少し早く動き、それに応えるように短い秒針も少しずつ動く。

そうして時間が流れるうちに、時はある地点を指しては僅かに揺れた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ