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アルカナの戦慄  作者: 三古谷
第四章 『Broken mirror』
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『逢えたなら』

sliding( ノ;_ _)ノ

「いつまでアレを放っておくつもりだ」

王座に座る相手を背後から見下ろし、彼は呟くように言った。


机に並べられた大量の紙から筆を止め、男は首をかしげた。

「え?あれって?」

幼い言い方の男に、彼は深くため息を吐いた。


“あれ”と敢えて言葉を濁したのは、彼の指しているものが複数あり。

そして、男にとってその複数の物のなかで、何が一番心に残っているのかを知りたかったからだ。


しかし男は答えなかった。

やはり男には隙がない…と、彼はまた深くため息を吐いた。

「教会のことだ。」

だから彼は自分の中で一番残っている物を、男に伝えた。


「ああ…、それね……。」

男の反応から、教会に対してはそれほどの興味がないことがわかった。


…いや、違うな。


「お前は何に対しても興味がないんだったな。」

僅かな怒りを込めて、彼は敢えてそれを言葉に出した。


「博愛は、無関心でもあるってことかな」

男の言葉に、彼は肯定を込めて黙った。


「それは違うよ、池榻いけしじノキアク。

 博愛は無関心じゃない。

 そう感じるなら、僕は博愛じゃないんだろう。」


「じゃあ無関心なのかよ。」


「…そんなことはないよ。」

男は、か細く微笑んで、ノキアクの頬へ手を伸ばした。


「けれど、君のように人を強く思えるのを羨ましく思うよ。

 俺にはそんな人は……」

ルキフェルはノキアクの頬から手を離した。


いない。

そう言い掛けてルキフェルは言葉を継ぐんだのだ。


そうして深く息を吐いて、吸い込んだ。

「…最近、百合が変なんだ。

 フルール・ド・リスね。」

フルール・ド・リス。

ノキアクとルキフェルの居る魔界に、古くから存在する…国家のような宗教のようなものだ。


大昔、存在していた国が滅び。

その国民や、同じ思想を持った人々が商売を始め、土地も持たずに国を自称したり、存在しない王を神と奉ったり。

そういう組織だ。

その商売の利益は各国が得ているので、誰も大きくは文句を言わない。

そして、フルール・ド・リスも傲らず。

しかし、強かに続けている。


「あれ嫌いだ。」

素直なノキアクの言葉に、ルキフェルは苦笑いをした。

「まあ僕も嫌いだけどね。」


二人がフルール・ド・リスを嫌う理由は同じだ。

その商売のなかには、当然のように人身売買も含まれており、そうして売られた人の体の何処かには、百合の紋章が刻み込まれる。

永遠に消えない紋章が。


もっとも、今では多くの国で人身売買は禁止されている。

まあ、それでも裏では行われているが。


「そうじゃなくてさ。

 頻繁に世界を行き来してるみたいなんだよねぇ…」

ルキフェルの言う世界とは、魔界と磁界のことだ。


「あんたが言うか?」

ノキアクの言葉に、ルキフェルは思いっきり顔をそらした。

魔界では、魔界から磁界へ渡るための魔法、世界の破壊やゲートの生成は禁忌とされている。

だが、ルキフェルは日々、私用にその禁忌を犯している。

しかも痕跡を消して。

確信犯だ。


故にその禁忌を禁忌とはされない王達に、ルキフェルは追われている。

「僕は悪用してないから!」


「してなきゃ良いのかよ。」


「…ごめん」

と謝り、シュンとした。


「で?

 そうやって行き来してるのは教会より悪いのか?」

ノキアクの言葉に、ルキフェルは眉を潜めた。


「現時点では違うけど…、どうだろう。

 何が目的なのか解らない。

 とにかく、教会は聖堂が何とかするだろう…

 むしろ、もうしてるんじゃないかな?

 だから手は出さないよ。利用価値があるかもしれないし。

 …ただ、フルール・ド・リスは……」

利用価値もない。

それどころか害になるかもしれないということか。


「お前の害になるのなら、俺が行こう。

 俺には何の役目もない。」

ノキアクの言葉に、ルキフェルは大きく目を見開いた。

「……良いのかい?

 ………磁界、だよ…?」


そう言うルキフェルから、ノキアクは顔をそらした。

「良いも何も、俺はあいつを殺さなきゃいけない。

 そもそも逢える確率なんて低いだろう。」


ルキフェルはより一層、眉を潜めた。

「…行くだけで、辛いだろう……。

 聖堂の近くは…」


「俺は辛くない。

 あいつも、もう死んでるかもしれない。」

とっくの昔に。

そう言葉を終えると、ノキアクは扉へ向かって歩き出した。

「ノキアク。

 ちゃんと帰ってきてね。」


「そーいうのフラグって言うんだぜ」


「プ、プラグ…?」

ずれた言葉を言うルキフェルに、ノキアクはひらひらと手を振りながら扉から去った。














「すべての人に対して一様に親切な者は

 大抵はまた、すべての人に対して一様に不親切である。」

初めて身にするセミロングの髪と

右耳だけに着けた太陽と月のイヤリングが風に揺れた。


「なんだそれ。

 戒めか?」

傍らにはスナイパー銃を構えていて、私と同じくらいの身長の“仲間”が。

変わった姿に、特に何の反応もないのも彼らしい。


私の本来の肉体と同じ、ショートヘアーを持っているというアスター。

永徳によればアスターの容姿は私と全く同じらしい。

ラウンジで永徳にそれを聞いたことで、私は納得がいった。

永徳が私に何も話さなかったのも、私がアスターのことや施設のことを何も覚えていないのも。

思い出せないのが何故かは解らないけど、アスターが知っていて、思い出させる気がないことだけは間違いない。


「戒めかぁ…

 うーん、そうだね。

 もうちょっとラフな感じだけど。」


多分、アスターと私は互いに、2度と関わるつもりはなかったんだと思う。

だから恐らくだけど、私だけじゃなく、アスターもしっかりとは覚えてない。

私ほどではなくても。

ただ、漠然とした事実だけか残ってるだけ。


それでもアスターがここへ来たのは、『得たいの知れない強い奴が来る』から。

「ふーん。

 そんなやつ居るか?」

え…?

ああ、誰に対しても一様に親切な人?


「居るか居ないかって言うより

 そう言う面もあるよってことじゃないかな。

 アスターみたいな。」

アスターはいつも格好よくて、私のためを思って行動してくれる。

今回も結局そう言うことだったんだけど。

私には不親切だったね。

その『強い奴』が何だか知らないけど、私だってそんなに弱くない。

いつの時代の話してるの??

アスターが勝てる程度なら、アンゲルスに居れば安全だし!


不親切だったね!(二回目)


すると、永徳はムッとした顔をして

「別にアスターは悪くないだろ」

その言葉を聞いた私はもっとムッとした顔をしただろう。

この永徳ときたら…。

私達は腹を割って話し合ったことで、何となく仲良くなった。

…というのに、私よりもアスターの肩を持つのだ。

それも嫌がらせでも何でもなく、単純に私よりもアスターが好きっていう。


喧嘩を売っているのだろうか。


…………まさかと思うけど、私よりアスターが強いからじゃないだろうね?


恐らくだけど、永徳が私を嫌ってるのは、学校のテストと、あとアンゲルスの試験の順位に負けたからだと思う。

中学までは、テストの順位を気にしてなかったから知らなかったけど、高校からは気にするようになったから。

私が1位で永徳が2位!


アンゲルス隊員だから問答無用で優遇して貰ってるけど、万が一隊員で居られなくなったら、頭が良いっていう理由で優遇して貰えるように。

主に金銭面ね。


でも永徳は単純に一番になりたいだけでしょ?

勉強くらい見逃してよ。


「不親切だって言うのよ。

 普通に危ないから気を付けて!って言えばよくない?

 ほんと回りくどいとこ変わらない」

基本的に胡散臭いのよね。

嘘はあんまり吐かないけど、本当のことは殆ど言わない。

そういう所も好きなんだけどさ。

「回りくどいのに関しては

 お前だけには言われたくないだろう。」


「えええ?!

 どこがっ……」

…ああ、心当たりが。

話し方ですね、間違いなく。

あーーー、なるほど、もうひとつ合点が行った。

私がお嬢様言葉?を使い始めたのは中学生くらいの頃。

てことは永徳も居たんだよね。

孤児だから品がないだったか、汚いだったか、忘れたけど。

そんなようなことを言われて…。

イラッとしたから使い始めた。

私にしてみればお嬢様は、礼儀と自己防衛の二つの意味がある。


永徳はそれを苛めてきた人達と、同レベルと思われたと思ったのかもね。

それは大きな勘違いだよ。

礼人にも使ってたんだから。

……いや、礼人には自己防衛の意味の方が強かったか。胡散臭かったから。


「もう使わなくて良いのかよ。」

永徳の言葉に、私から自然と笑みが溢れた。

いつの間にか、お嬢様言葉を使わない相手が随分と増えてしまった。

礼人や神夜さん。

あ、隊の皆さんもお嬢様言葉じゃないか。

あと寮の人も、ジゼルに至ってはため口で。


振り返ってみると、意外と多いんだね…

けれど、振り替えるにはまだ早いと思うから

「由々しき事態“ですわ”!」


陽灯と永徳は、アスターと永徳が話した、礼人と永徳が話したビルの上で、何よりも輝く太陽に照らされていた。








Broken mirror―砕けた鏡―

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