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アルカナの戦慄  作者: 三古谷
第四章 『Broken mirror』
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『スター!』

「で…?」

あの後、私と晶にぃはアンゲルスの個室に居た。

会議とかに使われる部屋だ。


ここのフロアの入り口にあるモニターで、使われる予定を確認して空きがあれば、誰でも使用できる。

仮眠室とかも同じ。

数が多いから、空きがないってことはまずない。

だから隊員同士が私用で使ったりする。

同じ班の人や、小隊の人と使う隊員室は有るけど、そこじゃ、違う隊の人とあそ…話せないから!


まあ、今回は真面目な話。

「私と同じ班の人が、アスターと会ったらしいの。」

私の言葉を最後に、晶にぃも、私も喋らなくなった。

私自身も、あんまり何を喋ったら良いか解らない。

会ったから…、どうと言うわけではないし。

私とアスターは仲が良かったはずだけど、それも覚えてない。


まして、晶にぃがアスターをどう思ってるかなんて

「礼人か。

 その同じ班の奴って」


私は首を振った。

「ううん

 別の人、同級生の子」

喧嘩したとか仲が悪いとかは悪口になっちゃうかもしれないから、要らないと思う。

同級生なのは事実だし。

「何て言ったかは教えて貰ってない。

 けど多分、アンゲルスを辞めろ…みたいな事だと思う。

 アスターとの約束破ったから。」


「………そうか。」

正直なところ、聞きたいことは沢山有るんだ。

…けど、何から聞いたら良いのか。

多分、それは晶にぃも同じだと思う。


ホントはアスターの正体が何か…なんて、そんなのは関係ない。

問題なのはアスターの目的…恐らく、私をアンゲルスから辞めさせようとしていること。

それに対して私がどうするのか。


問題は、私の中にあるんだ。


辞めさせられる道理なんてない。

けど、辞めない理由は?

私がアンゲルスに居る理由は何なのか。

給料のためだけなら、他だって構わない。

小さなたくさんの理由を並べ立てても、言い訳にしかならない。


「…アスターはね、友達っていうか

 なんか、憧れの対象みたいな感じなの。」


「ああ…、知ってる。」

うん。

晶にぃにも先生にも、アスターやみんなのことは、小さい頃に何度も話したと思う。


私達は何らかの病気を患っていて、それを治すための施設に居た。

そして私が、もしかしたらアスターもかな?

病気が治ったから施設から出て。

それっきり。

たった、それだけ。


だけど、それでも、今でもアスターのことは確かに好きだし

…尊敬もしてる。

あんな風に強くなれたらって、今でも思うんだ。


でも違うの。

だからって服従してる訳じゃない。

貴方に従う道理も、貴方が、人を従わせるような弱い人間になることもない。

何か理由があるんだと思う。

あの時のままの、貴方なら。


でも話してはくれないんでしょう?

だから直接、私の元へは来なかったんだもの。

それなら…


「陽灯、お前はなんでアンゲルスに入ったんだ?」

なんで…、そりゃ、もちろん。

「給料のため…だよ。」

晶にぃと同じ、だよね?


「給料なら、此処じゃなくたって良いだろ

 ホントの自衛隊でも、そもそも命を懸ける必要もない。

 院長先生とか若井先生とか………なら、絶対思う。」

…そんなの、晶にぃだって一緒じゃん。


けど確かに、給料のためなら別の場所だっていい。

最前線に出る、普通部である必要はもっとない。

もっと裏方の、佐久間さんのような会計部とか、ーさんみたいな通信部とか。

方法はいくらでもあった。

なのに、普通部を希望したのは…


「何か、きっかけがあったのか…?」

うん、それだね。

流石晶にぃ。

よく解ってるよ。


「帆凪様に…みんなに、憧れたからだよ!

 誰かを助けたい

 誰かに必要とされたい

 誰かを護りたい

 カッコいい、ヒーローになりたかったから!」

嗚呼!

なんて陳腐な答えだろう!

でも結局はそれだ!私がアンゲルスに入ったのは!


もちろん大前提としては、やっぱり給料だけど。

アンゲルスに入ったのも、居たいと思うのも。

ヒーローになりたいからだ。

帆凪様に、正統者レジティーマに、能力者カルディアに、隊員に


アスターに、憧れたから。


だから私は此処に居たいの。


夜空に輝く星のような、貴方みたいに…!




















『カッコいい、ヒーローになりたかったから!』

アンゲルスの敷地内、そのうちのビルを上っていく途中で永徳はふと足を止め、笑みを浮かべた。

数時間前か…、そのくらいに聞いた言葉だったが、あまりに衝撃的なせいか、ずっと耳から離れない。


「チープだな。」

と、馬鹿にするような言い方をしていても、変わらず永徳は笑っていた。


あれは、自分と同じ高校生とは思えないほど、あまりに子供っぽい発言だった。


だが、だからこそ、それこそが陽灯の本心に違いないのだ。

幼稚かろうが、チープであろうが、そこに確かな理由があるのなら。

永徳は、容易に陽灯を…仲間として信用出来た。


最後の階段に足をかけ、既にない扉の向こうを見つめた。

「あんたでしょ、アスター。」

もう殆ど落ちた太陽に影が出来ていた。

真っ直ぐと永徳に向かってくる、眩しすぎて痛い光を、誰かの姿が防いでいる。

おかげで、綺麗としか思わない。


陽灯のショートヘアーが風になびいて舞い上がり、彼女…いや、彼の顔がよく見えた。

「……何でオレだって解った?」


「解りますよ。

 普通に。」

友達や家族になら、双子でも見分けられるのと同じ理由だ。

顔が同じでも。

別に顔だけが本人を現すものではないから。


「まあ、だからって口じゃ上手く言えませんけどね」

性格とか雰囲気って言うのは、曖昧で人に説明するのは難しい。

本当は曖昧な訳ではなく、細かすぎて解らないだけだが。


「あとなんで敬語?」

声に表情を乗せぬまま、逆行で見えないがジッと自分を見つめ続けるアスターに、永徳はやっぱり笑った。


「気分が良いのと、あんたが年上っぽいのが解ったんで。

 別に敬ってる訳じゃないですよ。」

永徳の言葉に、アスターは声を出して笑った。

二人を照らしていた太陽は、いつの間にか沈み、永徳からもアスターの顔が見えた。


「アイツに理由があるんなら、あんたにだってあるんでしょ?

 別にその理由は興味ねぇけど。」

永徳は自分以外に意思があることを解っていなかった。

もちろん、意思があるのは当たり前のことだから、知っていた。

が、人間は当然ながら人の心は読めない。

自分以外の誰一人でさえも、何一つでさえ本当にこの世に有ることを証明できないのと同じように、本当にあるのかは解らない。


けれど人には言葉がある。

自分には決して持ち得ない考えを、聞くことができる。

知ることができる。

永徳は陽灯の理由を聞くことで、それを痛感したのだ。


自分が悩むのと同じように、人も悩み、苦しむのだと。

この世界には自分以外にも人が居るのだと。

自分は、独りではないと。

「愛本はめねぇよ、アンゲルスを。

 理由を見つけたみたいですから。

 ヒーローになりたいんですって。」


永徳の予想に反し、アスターは至極驚いた顔を見せた。

「……そりゃぁ…、大層な夢だな…。」

アスターの言葉は、永徳や陽灯とは真逆だった。


そうして、アスターは深く溜め息を吐いた。

「アイツに死なれると、オレが困るんだよ。

 だからオレが守るけど…、正直こっちも忙しくて限度があるし…

 オレもそこまで強くねぇし…。

 第一、心を守るとかオレには絶対無理だ。」

…過保護だな。と永徳は口に出しそうになったのを何とか堪えた。

アスターが、神妙な面持ちで話していたからだ。


「正直、うざってぇ…。し、めんどくせぇ…。

 だからいっそ、そばに置いとこうと思った。

 どうせ抵抗して見せるだろうから、

 無理矢理にでも連れてこうと思った。

 オレが本気出せば、アイツは手も足も出ない。」

雲行きの怪しくなってきたアスターの言葉に、永徳は自分のGEMへ意識を向けた…


だが、それに手を伸ばすことはなかった。

「と、思ってたのはオレだけみたいだ。」

何処と無く、アスターの顔が寂しそうだった。


ついに、太陽は完全に姿を消し、風が強くなってきた。

そして太陽の代わりに、月灯りが、ゆっくりと二人を照らし始める。

「とりあえずは引く。

 お前の事も、それなりに信用してるしな。」


今度は永徳が驚く番だった。

「あんたが?」


「オレっていうか…ま、オレ“も”?」

アスターの言葉に、永徳はやはり驚いたまま何度も目を瞬かせた。


永徳の反応を見て、アスターはフッと笑った。

「あーあ、何でバレたんだろうなぁ。

 …でも!

 お前の言う通り、オレにもオレで理由がある。

 もし、オレの邪魔したら…相手がお前でも、愛本陽灯でも、

 オレは容赦しねぇ。」


「解ってますよ。」

永徳が頷くと、アスターはそっか!と笑い、永徳の居るドアの方へ歩き出した。


そしてすれ違い様、アスターは声を低くして、永徳にだけ聞こえる音量で呟いた。

「気を付けろ。

 得体の知れない強い奴が来る。」

永徳は驚いて振り返った…。

だが、そこにアスターの姿はもうなかった。


空では、一番星へ、雲が襲いかかろうとしていた。

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