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アルカナの戦慄  作者: 三古谷
第四章 『Broken mirror』
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『友達以上』

気付けば何故か二人は笑っていたけど、私に見られていることに気づいたジニアさんがキリッとした顔に戻った。

「言っておくが、俺達に話すことはない。

 帰るぞ、有栖ありす

ジニアさんは結子さんのことを、有栖と自然に呼び、そして当然のように彼女へ手を差し出した。


一方有栖さんは少し眉間にシワを寄せて、ジニアさんに何かを訴えかけるように見つめている。

「…」


「…帰ろう。

 お前が急に居なくなったって、みんな心配してる。

 俺達も、お前の大将も。家族も。仲間も。」

ジニアさんは、そう…至極穏やかに口にした。


すると、結子さんは何度か目を瞬かせ…そして笑みを浮かべてジニアさんの手を取った。

ジニアさんに引き寄せられ、立ち上がった結子さんには…有栖さんには…もうたくさんの人が側に居る。

たくさんの世界がある。

私の知る結子さんとは全く別の…。


「解ったか。」

そうジニアさんは私を見つめた。

少し睨むように…けれど祈るように。

何も真実は伝えるな。

苦しいだけの、哀しいだけの過去など伝えてくれるな、と。

…私のことなんて力ずくにでも黙らせてしまえばいいのに。

彼は何故か、そうはしない。


「……」

私は…、私は。

…結子さんの過去は、その過去のすべてが苦しいだけでも、哀しいだけな訳じゃない!

過去の大切な人の記憶も、悪と呼ばれる組織にも少なからず仲間は居たのに…。

仲間と思っても良い…そう思える記憶だって…。

何物にも代えられないほど大切な記憶だって、確かにあった。

あったんだ!!!


私に解る筈もないのに、何故かそう、叫びたくなった。


けれど…それを堪え…

静かに瞳を閉じた。

黙認する…と、言うことだ。

私に結子さんの苦しみなんて解るはずもない。

私は結子さんではないのだから。


ジニアさんは察してくれたようで、二人の歩き出す音が聞こえた。


有栖さんは真実を知らずとも、今を生きて、今居る大切な人の元へ帰ろうとして居る。

…それだけで十分だ。

十二分じゃないか。

少なくとも、私は有栖さんのあの嬉しそうな笑顔を疑わない。


「っ…」

結子さんは…もう死んでしまった。

彼女に罪はない。

罪があるとすれば、それは時代。

彼女に罪はないけれど、世界にとって不要とされてしまった。

要らないものとされた。


彼女は…私と会話し、笑い、殺し合った彼女は、何処へ行ったのだろう。

願うなら、私に救われたと言う彼女の真意を…聞きたかった。


「アイモト ヒカリ…」

有栖さんが部屋を出る直前に呟いた名は、彼女にとって開けることもない、見知らぬ“全ての贈り物の箱”だった。

















それから3日も経たぬ後に、佳純さんと交わした“また”は果たされた。

もしあそこにジニアさんが居なければ…

タラレバを考えたところで仕方がないけれど、改めて自分の無力さを知った。

一人じゃ…死んでいた。


岩瀬さんが言ってたのは…そう言うことも含まれてたのかな…。


…とか浸ってたのに。

「晶にぃ!?!!」


「陽灯か!?!!」


「あれ、知り合いだった?」


「いや、知り合いっていうか。」

見事に四人全員テンションバラバラ。

佳純さんが連れてきた“知り合い”になんか礼人がくっついてるなと思ったら


晶にぃじゃん!!!!!

「いや、何で居るの?!?!!

 晶にぃ!!!」

全然、すこっしも聞いてないんだけど?!

そもそもまだ学生でしょ?!

大学生になったから、お金が足りなくなった訳ですか?!

笑わせるな!

勉学に勤しめ!

「こっちの台詞だ。

 何でお前がここに居る。

 お前まだ高校生だろうが!」


いや

「晶にぃに言われたくないよ!!!

 いの一番に出てった癖に!!!

 っていうか手紙くらい書こうよ!!

 私住所も知らないんだけど?!」

だから全然連絡取れなかったんじゃん!

「手紙は出してただろ?

 二…三回……」


いやそれ1年に一回じゃん!

そもそも

「年賀状は手紙とは言いません!!!」

しかもコメントも何にも書いてない!

現金だけ寄越すとか生々しすぎるから!


「……すみません。」

ふぅ…、解ればよろしい!


「で、二人はどういう関係?」

と、微笑みを浮かべているのは佳純さんだ。


「んん?

 いや、違うぞ。」

何故か突然否定し出した晶にぃに、佳純さんは首をかしげた。

「何が?」

うん、何が?

あと何で礼人は吹き出してるの?


「くっ…

 ほら、話したことあったろ。

 俺の家族だ。」

晶にぃの紹介に、私は目を見開いた。

めっちゃ、驚いたからだ。

晶にぃが私を家族だと思ってるのは知ってるけど…。


「ああ、妹さんかぁ」

晶にぃと佳純さんを交互に見て、私はニンマリと笑った。

晶にぃに、何だよと小声で言われながら、足をちょっと蹴られた。

でも、ニヤニヤが止まらない。


晶にぃが、ちゃんと私を紹介したのだ。

普段ならフラフラと誤魔化して、私の事も孤児院の事を隠すのに。

でも、佳純さんには話した。

あと礼人に対しても何だよね。


二人は、晶にぃにとって大切な人ってことだ。

うん!良いことだね!

良かったね、晶にぃ。


ふふっ…、ニヤニヤが止まらない!


すると、ポンッと頭に手を置かれた。

「連絡を取らなくて悪かった。

 お前は、調子はどうだ?」


「改まっちゃってどうしたの?」

謝罪ならさっき聞いたよ。

そんなに気に病むほどのことじゃないよ?


ジッ…と言葉を待っても、晶にぃはそれ以上、何も言わない。

何も言わずに私の言葉を待ってる。

何だか、ちゃんと言わなきゃいけない気がした。

「…あのね、聞きたいことがあるの。」

聞かなきゃいけないと思うの。


晶にぃはギュッと目を閉じてから、ゆっくりと目を開けた。

「………答えられる限りは答える。

 後でな。」

晶にぃの言葉に、私は頷いた。

やっぱり、可笑しいんだ。

私と…アスターの間には、何かがあるんだ。

そして、晶にぃも何かを知ってる。


「なになに?

 大事な話してるの?」

佳純さんの凄く軽い言い方に、私は思わず笑ってしまった。


晶にぃも同じように笑みを溢し

「ああ。

 あとは個人的に話す。

 お前もな!」

と、晶にぃが睨んだのは礼人だ。

結果論ではあるけど、礼人が晶にぃに話してればこんなに驚くこともなかった。

本当に結果論だから、それは良いんだけどね。

でも、友達だから、きっと思うところがあるんじゃないかな。


当の礼人は笑って

「後でな!

 それより案内だっけ?

 早く行こう!」














「ざっとこんなところか」

本部内の大まかな施設は説明し終わった。

本部はめちゃくちゃ広いけど、普段私たちが使うところはそこまで多くない。

大体部に寄って別れてたり、あとは避難所や研修生が使うところとか、私達には関係のない場所とか。


「あ、オレらは行ったことないけど、支部もあるな。

 支部も悪くないよなぁ…」

本部とは違ってかなり人数は少ないが、その分、支部によって個性が強い。

正統者レジティーマだけの所や、その逆。

または、マターを一切使わないところまで。


「ここからだと、近いのは火元ひのもと支部と土方ひじかた支部、水島みずしま支部、いぬい支部ですかね」

この四つの支部はアンゲルスから均等に4方向に別れてる。

そこから柊家の結界があるとかないとか。


あと支部には、その支部の司令官がいる。

所謂、支部長。

基本的に支部は、その支部長の名前で呼ばれる。

まだ代が代わっていないから確かなことは言えないけど。

たぶん、初代支部長の名字が使われ続けるのだと思う。

まあ、その都度変わる可能性もあるけど。


「ふーん

 それって、部隊とかどうなってるんだ?」


晶にぃの疑問に、礼人が口を開いた。

「本部とは違ってかなり少数にはなるが、普通の分隊だ。

 基本的に戦闘に出るのは分隊レベルだからな。

 支部ひとつに、二つの分隊。くらいじゃないか?」

礼人の言葉に、私は頷いた。

本来、分隊の最低人数は8人で、班2つ以上だけど。

支部場合はそれが一部免除…てか、事実上全部免除。

確か、一つの分隊に3人くらいしか居ない。

少数精鋭と言うやつだ。


すると、礼人はまた口を開いた。

「そう言えば、お前はどこの所属なんだ。」

それは確かにちょっと気になる。


私は礼人に続いて口を開いた。

「私は神夜かぐや小隊藤木ふじき分隊愛美あゆみ班です」

正しい言い方が何なのか解らないけど、まあ、これで伝わるでしょう。

「同じく、奈々未班」

あ、省略したな!


「俺は…えっと」

「私たち一緒で、倖架ゆきか小隊エッカート(Eckert)分隊すぐる班」

倖架って……、あの倖架さんだよね!

清水しみず 倖架ゆきか

帆凪様と同世代の、水の正統者レジティーマだ。

会ったことは数えるほどしかないけど、話はたくさん聞く。


あれを壊したとか、またやらかしたとか、尻拭いをしたとか。

…うん。そういう人。

でもでも、すごく強いんだって!

属性王っていう、世界でも百人は居ない稀少な人物!

だから少なくとも世界で百番目には、日本で6番目には強い人!

あっ、異端ゼノは抜いてね。


私の日本での脳内ランキングに依ると、属性王の中じゃ一番だね。

異端含めても、五、六位くらいじゃないかな…?


まあ、要するにめちゃくちゃ強い。


…………………あはん?

「秀班?エッカート分隊…?」

何だかすごーーーく聞き覚えのある名前だけど。


「いやいやそんなわけないよね?

 だって私の知る、秀エッカートは私と同期だよ」

うん。

そんなはずがない。

新入生になってすぐに分隊とか、いくらなんでもあり得ないから。

「いや、あいつはそもそも隊員だったんだろ」


「あ」

そうだった。

その話のあとが衝撃的すぎて忘れてた。

そういえば、エッカートさん…と、近川さんは、それぞれ情報部と暗殺部に元々所属してたんだっけ。

侵入者が入ったから、調査だか偵察だかに来てたんだよね。


元々どの程度の階級だったのか知らないけど、一応任務は完遂したんだから、それ相応の報酬があって当然だ。

なら、それ相応の役職に就くだろう。

それが分隊長…。

うん。

分かるよ。

大いに分かるとも。


「でも、何となく納得いかない。」

「それに関しては同意見だ。」

見掛けたら、文句言っとこう。

そう、私たちは胸に誓った。

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