『ALL FOR ONE』
「…ふぅ……」
訓練室の個室から出て、私はぐーんと伸びをした。
「付き合ってくれてありがとうね。
えっと…陽灯さん?」
隣の個室から現れた女性に笑い掛けられ、私も釣られて笑った。
「はい!
こちらこそ、ありがとうございました!」
そう言ってから、私はペコリと頭を下げた。
十連続対戦をして貰った、この優しく可愛い女性は一瀬 佳純さん。
私と同じく今期から入ったそうだ。
結果は6対4で、私が6回勝てた。
佳純さんは狙撃部だから、位置さえ解れば殆ど勝てる。
一発で仕留められ手も足もでずに負けるか、位置を見つけて勝てるかのどちらかだ。
でも、何度も相手をしてくれたお陰で、狙撃する人がどんな場所を狙うか、ちょっと解った。
「ねぇ、陽灯ちゃんって…何だか慣れてる?」
………慣れてるとは?
「あ、戦闘ですか?
それともアンゲルスのことでしょうか?
…何にしても、恐らく私が研修生だったからですね。」
私がセカイ慣れてるのも、武器を少しだけ上手く扱えるのも、あと道が解るのも…。
全て、研修生の時に学んでいたからだと思う。
道が解るのはジゼルさんや、他の同じ寮の人に案内して貰ったからだけど。
立ち入り禁止のところとかも含め。
本来の戦闘なら、狙撃主の方が圧倒的に有利だから僅差でも少し疑問を抱くのかもしれない。
まあ、アンゲルスにおいては能力っていう反則技があるから、一概に狙撃主が有利とも言えないのだけれど。
「研修生……?
あれっ、もしかして幹部候補なの?!
キャー!上司じゃない!」
あー…、そう言う言い方も出来ますね。
一応、幹部になるために…つまりは正社員的な立ち位置になるために研修生になってたから。
「なれずにそのままクビになるかもしれませんし。
そもそも今は単なる新入生です。
上司でも何でもありませんわ。」
クビになったとしても、ここで働いたって言うだけで系列の企業で優遇して貰える。
ここで死ぬのか、そのまま生きるのか。
解りやすい。
「なら、色々教えてくれない?
私たち、ここのことあんまり解らなくて!
師匠?とか探してたの」
え、ええっ?
教える?!私が?!
いや、私たちってあと誰??
しかも師匠?!
「えっと、教えるのは出来る限りしますけど
師匠は戦術に置けるものなので、私は無理です。
あと、私たちって…?!」
おお、我ながら上手く纏められた。
アンゲルスのルールなどは互いに教え合うのが基本だ。
一応、紙上に纏められて全員に配られてはいるけど、それだけじゃ解りにく事も多い。
だからその書類も解らないことは誰かに聞くように。的な文で閉められてる。
そうする理由は解りにくいからと言うのもあるけど、その教える側の方の理解力を高めるためと、何より隊員同士の交流を深めるためだ。
交流を深める理由は色々ある。
団結力を高めて効率をあげるとか、裏切り者を出さないためとか。
何より、アニマは感情の量に比例するから。
だから思春期は一番増える。
多感な時期。
そのまんまだ。
故に思春期か、それ以下の年齢にアンゲルスに入ると一番良い。
感情としても、肉体の抵抗としても。
だからアンゲルスは子供が多い。
大人では、アニマの量は減る一方で、肉体もアニマへの抵抗を持っていないため、過剰に増えるとアニマに体が耐えられない。
故にマターを扱えず、カルディアとは呼べない。
『誰でも良いんだったら僕がやってるんだよ。』
帆凪様が以前、他人の言葉だよって笑いながら、言っていた。
今どうなのか解らないけど、正統者だけの時代は、特に大人達はやるせなかっただろうなぁと思う。
まあ、その大人である自分も、そう言う子供時代を送ったんだろうけど。
「同じ新入生の知り合いがもう一人居るの。
もっといっぱい居るけど、あんまりたくさん居たら大変だもんね。」
今は、数えきれないほどの子供達が居る。
たった数人の子供に世界の命運を握らせないため。
「そうですね。
私も知っていることばかりではないですから、
お互いに教え合いましょう。」
例え傷つけても、傷つけられても、失うことだけはないように…。
少し聞きなれた通信音に、私は顔をあげた。
「…すみません。
また今度でも良いでしょうか」
眉を下げた私の言葉に、佳純さんは察してくれたのか少し固く笑った。
「もちろん。
“また”ね。」
佳純さんの言葉に、私は深く頷いた。
空を仰いだけど、その視界は雲と煙、それと鉄骨に妨げられた。
お陰で眩しくはないけど、空が見えないのはちょっと切なかった。
「始めます」
すると咲來さんは目の色を変えた。
例えじゃなくて本当に。
マターを使ってるからだ。
紫の瞳が、真っ赤に変わっている。
「…あそこ……けど」
隊長である愛美さんに告げているであろう言葉が、そこで途切れた。
今、ここに居るのは私と咲來さん。
あと私たちの後ろの鉄骨の上に岩瀬さんが居るだけだ。
他のみんなはもう少し先に居る。
ここはいわば工業地帯で、そのなかでもここ最近使われなくなった場所。
「待ってください!
人質…?
拘束された人が別地点に一人います!」
情報部と暗殺部(エッカートさんと近川さんが居るところ)によれば、ここに悪魔教のアジトがあるらしい。
普通の宗教家なら警察が出るところだけど、悪魔教に限っては宝石を持っている。
微妙に違うけど悪魔と同じ分類になる。
何だけど………人質?
え、それアンゲルスが担当していいの??
「…はい、その他は情報通りです。」
すると、今度は私のGEMが鳴った。
『陽灯ちゃん、申し訳ないけど一人で行って貰える。
咲來はそこで指示飛ばさなきゃいけないから。』
通信部の居ない、もしくは必要のないとも言えるこの班の、ある意味の司令塔は咲來さんだ。
能力によって色んなものが視えるから。
実際にそこから考えて指示を出すのは愛美さんや奈々未さんだけど。
それを考えるのには情報が必要だから。
一人っていうのに若干の不安はあるけど、班長が言うなら。
「了解しました。」
私は咲來に教えてもらった地点に向かった。
けど…どうしてこんなところに市民が…?
「ケホッ」
工場の倉庫の様なところに入ると、そこらに溜まった埃が、空間に舞い上がっていて私の喉に入り込んだ。
所々に蜘蛛の巣があったから、私はなるべくそこを避けて咲來さんの言う地点へ向かう。
位置を教えて貰っているとき
罠の可能性もあると言われたから、一応鞘を握っておく。
こういう時に未来は視えないのかな…。
まあ、そこまで万能な訳ないよね。
少し歩くと、錆びた扉の前までついた。
鉄作りのせいもあってか、開けようとする前から開けずらいのが目に見えてわかる。
私は誇りまみれの空間で、気持ちだけ深呼吸をして落ち着かせ。
音が鳴らないようにゆっくりと鞘から剣を抜き…
ガンッ!!!!
ドアを蹴破り、すぐさま剣を構えた…、が特に何もない。
いや
「居ました!
捕まってる人!」
丸い鉄柱ごと体を縛られている女の人がいた。
ほんとに人質みたいだ。
…の割りには妙に落ち着いてるな……。
驚いてるようではあるけど、助けて!とかはないんだね。
って言うか埃多いな!!
「ア…アンゲルスのものです
お怪我はありませんか…」
咳をしないように話そうとするけど、息を吸おうとするとすぐ…ケホッ
「後ろ!!!!」
女の人の叫び声に目を見開いた―と同時に、私は前へ前転し、後ろへ振り返った。
カァンッ!!!
あの声…いやいや、それより先に目の前の敵だ。
地面へ鋭い音を鳴らしたその剣の持ち主は…まあ、十中十九、悪魔教。
…まって、その後ろにまだ二人くらい居ない?
あ、そうか。
だから埃が舞い上がってたんだ…。
そうだよね。
そりゃ人質、一人な訳がない。
にしたって…3人は多いでしょう。
「因みに、誘拐と監禁、不法侵入、GEMの無断所持、使用などの罪に問われますが
お分かりになっているのでしょうか。」
まあ、解ってなくても罪は罪なんだけど。
「人の法などで、我らの高貴なる行いは裁けませんわ…」
いや、裁けるから。
順序可笑しいよね?
そう本気で思うなら、まず政治家になって法律改正してからしようか。
言ってもしょうがないか。
「そうですか。
では、私が高貴と言えばこれからの行いも許されますね」
私はそう微笑んで、敵がこの部屋に入る前に斬りかかった。
流石に3体1は無謀だ。
それなら、ドアと壁を利用して一対一×3をやった方が、まだ勝機はある。
時間稼ぎも出来るし。
隙さえあれば、部屋の窓を割って礼人に応援してもらいたい。
…いや、アジトの方で手一杯かな…?!
それよりも女の人のロープを先に斬れば…!
「余所見とは、ずいぶん余裕ですねぇっ!」
垂直に降り下ろされた剣を、私は剣を横向きにして両手で受けた。
「くっ…」
この人…怪力だ……!
ただの怪力じゃない。
これは…帆凪様と同じ力業…?!
こんなの受けきれない…でも下がれば的が三人に増えてしまう…。
なら、それなら―
「―力よ、我が声に応じ、槍となれ!!!―」
右耳のイヤリングから溢れた光が、槍のようになって敵へ目掛け放たれた。
その光の槍は敵の左肩を傷つけ、そこから多くのアニマが漏れ出した。
この三人の敵のなかで一番強いのは、恐らく彼女。
「形勢逆転です。」
力業なら触れられなければいい。
特にこの狭い空間だ。
いきなり間合いを詰められることもない。
「ふふっ…」
不気味に笑った敵に、私は顔をしかめた。
「何が―」
違う!!!!
あとの二人はどこに…?!!!
「「チェックメイト」」
二人の声が重なった。
私が最後に放った光は、敵の元へは向かわず
ただ人質の女の人を逃がすために向かった。
「後ろ!!!!」
私がそう叫んだと同時に、アンゲルスから来たと言う女の子は戦闘に入った。
女の子が相手をして居るあの女は、戦闘狂だ。
多分まともに相手をしちゃいけない。
でも女の子はどうやら一人しか居ない。
この時点で私は、女の子の勝機がかなり薄いと感じた。
けど女の子はそこまで弱くはなかった。
扉を利用して、一対一でしか戦わないようにする。とかちゃんと考えている。
もしかしたら、勝てるかもしれないと思った―その時
「っ…!!!!」
いつの間にかこちら側に来ていた男二人。
そのうちの一人に口を塞がれた。
見れば、視界の端にもうひとつの扉が見えた。
何て陰湿なやつ…!
音もなく女の子へ忍び寄るもう一人の男に、無性に殺意を抱いた。
私に…私に力さえあれば、二度と彼女に近づこうなんて思いもつかなくなるのほど、何度も何度も切り裂いてやるのに…!!!!
しかし、私が触れるまでもなく、その男は倒れ、私の口を塞いでいた男も倒れた。
女の子の力のお陰で縄は解かれたけど…、驚きのあまりしばらく動けずに居た。




